第61話 予想外の標的
コーザは慌てて弱々しく抗弁する。
「待ってくれ……ムッチョーダには借りがある。できれば争いたくない」
だが、それは氷結の目を、細めさせる働きしかしなかった。
「……ほう。それは今この場で、あたいの機嫌を損ねることよりも、大事なものなのかい?」
そう切り返されては何も言えない。仕方なく、口を閉じる。
黙考。
(ワープゲートは反対の方向にもあるが、使用の許可をムッチョーダに頼んだところで、おそらくは同じ結果だろう)
すなわち、使用したいのであれば、自分と氷結との抗争に参加せよ――と、そうなるのが落ちだ。
なれば、行き先のわかっていない渦を潜るぶんだけ、ムッチョーダに手を貸すほうが損である。
「わかった……引き受けよう」
消沈したようにコーザが応えれば、一方の氷結は満足げにほほ笑んでいた。
「じゃあ早速、ムッチョーダ側のマップについて、詳しい話を聞こうじゃないか。お前は通って来たんだろうから、何かしら伝えられる内容はあるんだろう?」
「ああ、そうだな」
(先方の口ぶりからして、禁止区画のことならば、氷結たちも知らないはずだ)
戦うことになった以上、コーザとしても、そこに手心を加えられるような余裕はない。卑怯となじられようとも、得た情報は遠慮せずに使わせてもらう。
「――という具合だ。ムッチョーダたちはウビリャーミ対策だと、そう話していたぞ」
自分は氷結のギルドに詳しくない。名前の人物に心当たりはなかったが、氷結の視線から、だれを指しているのかはすぐに理解できた。
(入れ墨のギルメン……)
以前にコーザを、ワープゲートにまで案内しているのだから、ウビリャーミが、戦闘に長けた人物であることは疑いない。お守りの必要な者が、渦への案内役に選ばれるわけがないからだ。しかして、ウビリャーミは攻撃だけではなく、補佐のスキルまで有していることになる。なるほど、才能に恵まれているではないか。
思わず、火の弾ばかりのルーチカと、その素質を比べてしまったコーザは、小さく舌を巻いていた。
「そんなヘマをするのは、グララムースくらいだな?」
入れ墨の指摘にコーザがうなずけば、一同は納得したように、しきりに氷結へと目配せをしていた。
「決まりだな。コーザ、お前には三人の補佐をつけてやる。あたいからのクエストは、その手でミージヒトを討ち取ることだよ」
「なっ!」
ミージヒトと言えば、ムッチョーダの右腕にあたるほどの人物だ。レベルも十を超える怪物で、相当に強い。いくら仲間を貸してくれるとはいえ、それを自分に任せるのは、あまりに無謀と呼ぶよりほかにない。
「次に使うワープゲートの代金も、そこには含まれているからねぇ。少し重めの任務になってはいるが……嫌とは言わせないよ」
「クソ……」
唯一、自分に勝ち目があるとすれば、それは新技の存在だ。ルーチカのスキルは四種類のうち、まだ二つしか知れ渡っていない。この点をうまく応用できれば、どうにかなるかもしれない。
(特に、蛇の舌を初見で判断することは、まず不可能だ。これを最後まで隠し通せれば、うちにもやりようがあるはずだ)
こんな形で会いたくはなかったと、胸の内で強く思いながら、コーザはミージヒトの姿を頭に思い浮かべた。
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次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ
 




