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8千pv【全104話】フェアリィ・ブレット ~妖精迷宮の銃弾~  作者: 御咲花 すゆ花
第3章 ギルドまたはムッチョーダ 抗争の果て
58/105

第58話 再度、氷結のギルドに来たぜ。

「おい、阿子丸! 待つんだ……」


 ギルメンのかけた言葉なぞ、耳に入ってさえ来なかった。

 ノーグリィは自分の親だ。

 そんな相手を見捨てることなんて、できるはずもない。

 乱雑に散らかった物資を踏みぬき、無数の亡骸を飛び越え、氷結はひたらすにギルドの本部を目指した。

 銃の使い方はノーグリィに教わったのだ。

 戦う術はすべて彼から学んだ。そんなノーグリィが負けるはずがない。そこに行けさえすれば、必ずノーグリィたちがいると信じていた。


「バカ野郎、来るんじゃねえ!」


 それが自分へと向けられた、極限の台詞であることを理解したとき、氷結の目には、片腕を失ったノーグリィだけが映っていた。

 深紅。

 むせ返るほどの血なまぐささが、辺りを慈しむように包みこんでいる。

 いったい、この場で何人の成員が命を落としたのか、まるで見当もつかなかった。


「阿子丸を連れて逃――」


 言葉はつづかなかった。

 食われたのだ、棺の恰好をしたモンスターに。

 そんな機械を今まで、氷結は見たことも聞いたこともなかった。

 囲い屋(ミミック)

 飛ばし屋(ジャンパー)と同じSの階級に属する、最悪のモンスターである。


「うっ」


 いきなり体が勝手に後退をはじめたのは、だれかが氷結を羽交い絞めにして、引っぱったからだった。


「頼むから言うことを聞いてくれ。修理霊(ドミネーター)を殺すのに、相当な数の人間が犠牲になった。もう俺たちには、囲い屋(あいつ)を倒す力なんか残ってねえ……許してくれ」


 そんなこと、自分には関係のないことだ。

 激情のままに氷結はトリガーを引く。

 だが、そこから弾は発射されない。


「なんで……」


 もう一度、引き金に指をかける。

 しかし、やはりスキルは放たれない。


「なんで……どうしてよ!」


 狂ったように何度も力強くトリガーを握るが、先に根をあげたのは己の手のほうであった。指の先が裂け、血が噴きだしていたのである。


「アイシー! なんで、使ってくれないの! アイシー、アイシーってば! やめて! あたいはノーグリィを……ねえ、アイシー!」


 その声は決して届かない。


『すまない。……もう手遅れなんだ。こいつを倒した経験のある、フレデージアという妖精によれば、囲い屋(ミミック)は倒されると同時に、その中身もろとも世界に回収される。もう……どうやっても、ノーグリィを助けることはできないんだ。食われた時点で詰んでいるんだよ。許してくれ。僕はへたに攻撃して、君を巻きこむわけにはいかないんだ』


 聞こえるはずのない弁明。

 わかることなぞあってはならないと言うのに、氷結にはアイシーの気持ちが、確かに伝わっていた。スキルを発動しない。たったそれだけのことで、氷結は相棒の心情を理解したのである。

 ゆえに、応えるように叫ぶ。


「そんなの、やってみなくちゃわからないじゃない! ノーグリィはあたいの大切な――」


 その瞬間、氷結はすべてを悟っていた。

 妖精は所詮他人である。自分のことしか眼中にはない。

 それは、よき隣人なぞという生易しい言葉で、説明されるようなものではなくて、否定しがたいエゴの塊だ。ダンジョンから抜け出せない地縛霊が、どうして人を思うことがあろうか。


「そうか……あたいに死なれると困るのか……。お前たちにはいくらでも、隣人の選択肢があるというのに。あたいからは、替えのきかない人を奪っていくのだな……」


 アイシーにとって、今の相棒が唯一の、心を通わせられる存在であるというならば、自分はそれをことごとく否定してやろう。


「……あたいはもう妖精(お前)たちを信じない」


 光を失った瞳が、鬼の形相で囲い屋(ミミック)を睨みつける。そうして引きずられる恰好のままに、氷結の体からは力が抜けていった。その目は一度、妖精の瞳をつかみかけたのであったが、ついに二度と宿すことはなかった。

 それからしばらくの間、氷結たちはセーフティをねぐらとしていた。ギルドが壊滅状態にまで、追いこまれてしまったのだから、これは仕方のないことだったであろう。

 その場所にて、氷結はコーザと知りあう。

 妖精のことを全く信じていないコーザに――である。

 即座に、狂おしいほどの嫉妬が氷結を支配した。


「それはダメだ……コーザ」


 妖精を信じないだなんてあってはならない。

 その悟りはもっと苦しんだ先に得るものだ。


「お前のような者が……初めから持っていていいものじゃない。お前はもっと苦しまなきゃいけないんだ」


 自分のように。







「氷さん、大丈夫ですかい?」


 配下の言葉に、氷結はゆっくりと目を開ける。瞼を閉じるだけのつもりだったが、どうやら自分は、そのまま軽く眠ってしまったらしい。


「ああ……。少し、昔のことを思い出していただけだ」

「そう……ですかい。コーザがまた来ましたぜ。いつの間にか、帰っていたみたいです」

「……ほう、そうか。本当に会いたかったぜ、コーザ。まだまだ苦しみ足りないだろう?」


 言って、氷結は顔に醜悪な笑みを浮かべた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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