第54話 うちにしか説明することができないもの。
これが妖精のスキルであることは、言うまでもないだろう。だが、攻撃ばかりを想定していたコーザにとって、その防壁は十分に意表を衝くものであった。
対応が遅れる。
反射的に銃弾を放つが、その内容はすでに決まっていた。
火の弾だ。
(しまっ――)
今こそ、火炎放射の出番ではないか。
急いでルーチカに話しかけようとするが、その頃にはすでに、背後から敵の手が迫っていた。
「クソッ!」
方向を転換。
防壁の対処はあきらめ、別の道を行く。
つまり、それはムッチョーダの策略に対し、自ら進んで引っかかりにいく、ということにほかならない。
もはや手遅れだったのだ。
足を動かしつづけた先に見つけたものは、黄色と黒との縞模様だけだった。
禁止区画。
同色に発光する一帯は、ちょうどセーフティと対になるものだ。モンスターにしか侵入を許していない以上、人間であるコーザは、当然にエリアから拒絶されることとなる。
その光を目にしたとき、コーザは己が敗北したことを悟った。
前へと懸命に進んで来た足が、ゆっくりとスピードを落とし、やがては力なく止まってしまう。コーザは袋小路に追い詰められていたのだ。
そうして、観念したようにコーザがたたずんでいれば、芝居がかった身振りで親玉が登場した。
ムッチョーダである。
紫紺の短髪。その頭部には、片側にだけ耳元で切れ込みが入っている。鷹揚な足取りで、コーザへと近づいたムッチョーダが、仰々しいほどにわかりやすく両手を広げた。
「ひどいじゃないか、コーザ。不佞から逃げるなんて……傷ついちゃうぜ」
こうなってしまえば、コーザに選択の余地はない。この茶番につきあうことで、延命できると言うのであれば、喜んで興じよう。
「すまなかった。抗争中だったのを、すっかり忘れていたんだ」
だが、それを快く思わない者もまた、当然ながらギルド側にもいる。すかさず、グララムースが声をあげていた。
「ざけてんじゃねえぞ、コーザぁ! テメエ……さては、おれっちたちのことを探っていたんだろう。未踏破領域に向かったっつう話も、出まかせじゃねえのか! どうなんだ、おい!?」
「……やめろ、グララムース。事前の調べで、コーザが本当にコーラリネットを脱出したか、という話に関しては、とうの昔に決着がついている」
「関係ねえっすよ、ムッチョーダさん。……結果的に、禁止区画も見られちまった。壁かそうでないかの判断ができる、氷結側のウビリャーミ対策が、これでぱあだ。殺るしかないっすわ」
居丈高な物言いのまま、グララムースがコーザへと蟹股で近寄る。それを手で制したムッチョーダは、呆れたようにため息をついていた。
「レベル五のコーザにまで、こんな仕掛けを使わなきゃならねえ時点で、土台無理さね。グララムース……お前、もう少し早めにとどめを刺せなかったのか?」
「すいやせん……氷結の野郎には、さんざん世話になっていたんで。どうしてもコーザを殺っちまいたくて、夢中になっていました」
「……まあ、いい。この点は、もう少しほかのものを考えよう。だが……そうだな。どうする、コーザ? 不佞はお前を殺しても別にかまわんが、コーザが外に行って帰って来たのも、また事実だ」
不敵な笑みを浮かべ、再びムッチョーダが身振りを激しくしていく。それが、コーザに役者としての台詞を求めての、ふるまいであることは、言うまでもなかった。
「何が……言いたい?」
「情報だ。セーフティの外がどうなっているのか、その話を詳しく聞かせろ。それがお前を解放するにあたっての対価だ。安いものだろう?」
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