第50話 クソ……こんなところで、体力の限界かよ。
不敵に笑ったコーザが、相棒をちらりと見やる。
「新技はどんなものか、大体は予想できているんだろう?」
当然だと言わんばかりに、ルーチカは肩をすくめてみせた。
「命中率のいい火の弾だな」
それを聞いたコーザは、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「うちらはホント、火の弾に縁があるんだな」
莢の炎しかりということである。
だが、どういう技であるのかを把握したい点は、依然として変わらない。ゆえに、コーザは拳銃に手をかけた。
ところが、それを敏感に察したのか、コーザよりも先に、擬雪崩が攻撃をしかけて来たのである。
蠕動。
気色の悪い口元が大きくすぼむ。
そうして一度、顔が中へと引っこむと、今度は体内のものを吐きだすようにして、急速に膨らんだ。
腫れた口が開かれ、勢いよく靄が噴射される。
(やばい……!)
倒れるように、コーザがうつぶせになった直後、その靄が爆発した。
ダーン。
爆風が髪を薙ぎ、すさまじい勢いで頭上を駆けぬけていく。
白い煙が辺り一帯を覆った。
(先手を取られるとは、まずったな)
さらなる攻撃の余裕は与えたくない。
おまけに、敵の姿も見えない。
だが、新技はあたりやすいとの話だった。
「……」
そもそも、妖精の拳銃はすこぶる精度がよい。ミスらなければ、ちゃんと狙ったところに的中する。それなのに、より命中しやすいとはどういうことなのか。おそらくは、弾道に補正がかかるに違いない。ならば、闇雲に放ってもあたる見込みがある。
ゆえに、コーザは寝転がった体制のまま、トリガーを引いた。
ぱん。
銃口から弾が飛びだす。
一瞬のうちに見えなくなったそれは、ヒットしたことが伝わる鈍い音を立てた。
まもなく、煙が薄れたので様子を確認しにいけば、銃弾は芋虫の横っ腹を、食い破るように命中していた。
側面からあたっていたのである。さしずめ、蛇の舌とでも呼ぶべきか。
「……なるほどな。対象の横を通過しそうになった時点で、軌道が強制的に変わるのか。こりゃ、『あたりやすい』の域を軽く超えているな」
その割には、ずいぶんと威力が高いようにも見えた。
いくら、コーザが相当の場数を踏んで来たとはいえ、擬雪崩はBランクのモンスターだ。一撃で瀕死にすることは、火力の問題でできない。それなのに、もう芋虫は動けないでいる。これでは通常弾の存在意義を、見失いそうになってしまうが、おそらくはレベルがあがったことで、全体的にパワーが上昇したのだろう。
いまだ動こうと試みる擬雪崩に対し、コーザはとどめの一撃を食らわせると、ナップザックから水筒を取りだした。
飲むのではない。
芋虫が溜めこんでいた物資に、上からかけるのである。
それは火穂晶と言い、水と反応して燃える鉱物だ。あいにくと粉末状なので、回収することは難しい。無論、それも妖精のスキルを使えば、容易に行えるものであったが、当然ながらルーチカにそのような技はない。ゆえに、不慮の事故に備え、こうして後始末をするのである。
「火穂晶のほかには、特に目新しいものはねえな」
一応は軽く探ったあとで、コーザは水をこぼした。
直後、連鎖的な反応がはじまる。燃え盛る炎を横目に、コーザは今一度歩きだした。
だが――。
立てつづけに起こった、奇怪な出来事による興奮も、そう長くは保たれない。コーザはその意思に反し、ついに倒れた。
体が限界を迎えたのである。
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