第5話 第三のスキル
いまいち状況が飲みこめず、呆けたように立ち止まったコーザであったが、それもほんの一瞬だ。すぐに正気に戻ると、襲って来る巡回車の攻撃を避けるため、倒れこむようにして横へと転がった。
(……何が起こった? 技が外れだったのか? いや……そんなことはありえねえ。今まで一度もなかったってのに、ここに来て急にスカを引くなんて思えねえ)
そうだとすれば、考えられることには限りがある。おのずと見えて来る答えに対し、コーザは、非難の声をあげずにはいられなかった。
「クソが! 今のが新技だってのか!」
恨むように元いた場所を見ていれば、空の薬莢が一つ、地面に落ちていることに気がつくではないか。
(薬莢だと……?)
ありえない。
拳銃によるスキルは完全なる超常現象だ。そこには、現実の薬莢が介在する余地なぞない。そうであるならば、あの薬莢は、先ほどの空砲に関係があると、そう考えるのが自然だろう。
『ようやく気がつきやがったか、相棒。――ったく、遅いぜ!』
「このクソ銃は、いちいち手間をかけさせなきゃ、気が済まねえのか! ちくしょう」
とにもかくにも、拾いあげてみなくてははじまらない。相手の攻撃をかわしながら薬莢の確認。平時であれば、難なくこなせることも、命がけの戦闘中ということもあって、中々に大変だ。おまけに、巡回車のほうも学習しはじめたのか、段々と回頭のスピードが増して来ている。
滑りこむようにして、頭から着地。
立ちあがると同時に、左手で地面の薬莢を回収する。そのまま巡回車から目を離さずに、手触りのみで確認すれば、弾頭がないではないか。そもそも、よく考えてみれば、コーザたちの持つ拳銃には、マガジンと呼べるものがない。いったい、どうやって弾を装填すればよいというのか。
思わず、視線がさがる。
冷や汗とともに、コーザは手元の拳銃を凝視した。
その隙をつかないような相手のことを、モンスターとは言うまい。巡回車による容赦のないタックルは、コーザを後方へと大きく弾き飛ばした。
「――かはっ!」
受け身も取れず、無様にも地面に転がる。立ち位置的に、コーザの真後ろが壁ではなく、通路だったことは不幸中の幸いだろう。おかげで、巡回車の追撃までにはまだ、いくらかの時間がある。かろうじて、薬莢は離さなかった。いまだ手の中にある。
それを祈るようにして、唯一の空洞――すなわち、銃口へと近づけてみれば、はたしてそれは、吸いこまれるように消えていくではないか。
「バカやろうが……二度手間かよ」
ぼやくようにつぶやきながら、引き金に指をかける。猛スピードで自分へと迫って来る、凶暴な白い駒に狙いを定めると、やおらコーザはトリガーを引いた。
パン。
小気味よい発砲音が辺りにこだました。
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