第4話 新技はまさかのスカらしい。
先ほど、食事中に拳銃が光ったので、これで弾数のストックは三になった。まだ、石拾いのような大物とは出会いたくない。あくまでも、前回は運がよかっただけだ。たとえ、収穫が少なくなったとしても、確実に倒せる相手を狙いところだ。
それに運がよければ、まだモンスターに回収されていない物資を、道中で拾うことだってあるだろう。もちろん、それは少量であり、とても生活の基盤となりうる多寡ではない。あくまでも、おまけみたいな扱いだが、コーザとしては十分だった。塵も積もれば山となる。それは確実に、出口までの道につながっているはずだ。
(倒しやすいモンスターなら……Cランクのどれかだな。警備員とかか?)
モンスターたちは、脅威の度合いによって区分されている。比較的安全に対処できるのがCであり、運がよければ倒せるというのがBだ。例えば、石拾いはBにあたる機械である。
獲物を見つけるべく探索をつづければ、通せんぼをするかのようにして、コーザの前に突っ立っているモンスターが、一体いるではないか。紛うことなき、警備員だ。全身が緑色のため、ダンジョンの基調とかぶり、遠目からでは判断しにくいのが欠点だが、自分から襲って来ることは極端に少ない。その見た目も、小型のゴーレムと言っても支障ないだろう。相手の動きは緩慢なので、適切な距離を取って戦いさえすれば、こちらの被害は少なくて済む。
「行くぜ、相棒」
『おうよ』
頭部に狙いを定め、ゆっくりと引き金を引けば、火の弾がそのとおりに命中した。バラバラと、その体が壊れていく。
一発で倒せるとは運がよい。警備員は装甲が厚いので、中々に壊れないのだが、今日は全体的についていると見える。ほくほく顔で近づいていけば、なんということだろう。大量の物資が散らかっているではないか。
「マジかよ……。警備員がこんなに溜めこむことなんて、あるんだな。初めて見たぜ」
それは明らかに不自然な事態だ。ゆえに、コーザは異常さに気がつくべきだった。悠長に、拾いあげている場合ではなかったのである。
一つ一つの収穫物を眺めるように、丁寧に袋へといれていく。その中には例の純石もあった。おかしなほどに硬く、叩きつけてみても傷ひとつつかない鉱物だ。まるでダンジョンと一緒。こんなものを、地表の人間は、いったい何に使おうというのか。全く理解できない。これだけふざけた硬さなのだ、加工すること自体が、そもそも不可能なのではあるまいか?
だが、それでも売れることだけは確かだった。ならば、その用途を、自分が気にしていても仕方がなかろう。金に換わること以外、ダンジョンで暮らすコーザにとっては、些細な問題にすぎないのだから。
そうやって楽しげに、コーザが物資を拾いあげていると、突如としてそこへ、別のモンスターが現れたのである。
白い駒のようなフォルム。間違いなく、巡回車であった。
決して強くはないが、見かけた人間をどこまでも追跡して来る。残りの弾数に余裕がないコーザとしては、真っ先に気がついて逃げたいところであった。
「クソっ! 気づくのが遅れた」
この場に長居しすぎたのである。
(巡回車のキャパシティーは多くない。警備員が大量の物資を持っていたのは、巡回車から一時的に引き取ったからか!)
状況は整理できたが、有効な手立ては思いつかない。ひとまず、相手の足を動かなくして、その間に逃げるというのが賢明か。
勢いよく近づいて来る駒にめがけて、コーザは銃口を構えた。
『最近やってねえしな……そろそろいっちょ、火炎放射でもおみまいしとこうかね! 近づいて放てよ、相棒』
「頼むから、火炎放射は止してくれよ」
結果は言うまでもなかった。無念にも近場を燃やしただけである。巡回車とは程遠い距離だ。
「バカじゃねえのか! こんなときにだれが火を噴けっつうんだ」
『バカはてめえだ! あんなもん、俺様の火炎放射で瞬殺だろうが!』
貴重な一発を無駄にした。これで、絶対に次弾で倒さねばならなくなった。だが、ここでは場所が悪い。もっと、接近戦を行える場所に、移動しなくてはならないだろう。
コーザは闇雲に黒緑色の世界を走った。
ただでさえ、目印になるようなものが少ない魔境なのだ。全力で走れば、すぐに現在地なぞわからなくなる。それでも長年の経験は、ちゃんと体に叩きこまれていたようで、自覚的にでこそなかったものの、小さな立方体の中へと逃げこむことに、からくも成功した。
すばやく反転すると、臨戦態勢で身構える。コーザは巡回車を、ここで迎え撃つつもりでいるのだ。
『――ったく、何が気にいらねえのか、わっかんねえな。……しょうがねえや、相棒。とっておきを見せてやるよ』
いくら追跡がおはこの巡回車といえども、無制限に近寄って来るわけではない。あくまでも、それは、決められた範囲内においてのみの話である。
ゆえに、ひょっとすると相手の活動範囲を脱し、うまく撒けたのではないかという、そんな淡い期待をコーザは一瞬抱いたが、無論、そんなに都合よく話は進まない。
「――だと思っていたぜ」
姿を見せた巡回車の突進をかわし、相手が方向を転換させようとしている間に、すばやく接近する。そのまま、無表情に銃口を突きつけた。
この距離なら、間違っても命中する。大丈夫だ。
そんな安心からか、コーザの口元には微笑が浮かんでいた。
かちゃり。
トリガーを弾く。
「――ッ!」
だが、そこから銃弾が発射されることはなかった。
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