第26話 なんだかんだ言っても、いい四人組じゃねえか。
純石をつかんだニシーシの手にめがけ、チャールティンが軽やかに舞いおりる。
「おやめなさいな、ニシーシ」
「でも――」
「コーザがわたくしたちのことを、考えて行動しているのは承知していますわ。ですが、最初の頃を思い出してごらんなさい。ニシーシがわたくしのスキルを話した際、コーザは、大変に驚いていたじゃありませんの? かなりの人数を抱えている、コーラリネットというセーフティで、長年過ごして来ただろうコーザが、今まで生産系のスキルを、知らなかったということですわ。そんな中、急に加工後の純石を持っていったら、相手に『どうやって作ったのか?』という、不信感を持たれるだけですの。おまけに……コーザは二番出口とかいう場所で、貨幣の全部を食料に換えていましたの。このことは、未踏破領域には、交換所がないという結論を導きますわ。そうでないなら、逐次に買ったほうが荷物になりませんもの。このうえでなお、コーザは未踏破領域での、交換を考えているのですから、予想は大体つきますの。あてはギルドなのでしょう? ギルドについては、先ほど抗争がなんだと、物騒な話が出たばかりなのです。余計なもめごとを自分から起こさなくても、よいのじゃありませんこと?」
薄々は、コーザとしても思っていたことである。加工後の純石を氷結に見せた場合、ひょっとすると、見返りとして求められる対価は、チャールティンのスキルになるのではないか。場所を教えてほしければ――いや、もっと言えば、氷結はワープゲートを根城にしていたのだ。こちらが自力で通れないようにしたうえで、ワープゲートを使うのであれば、その代わりとしてニシーシに対し、チャールティンのスキルを使用するようにと、無慈悲にも命じることだろう。そうした場合には、ギルドが抱えている純石になるのだ。きっと、量もすさまじいことだろう。馬鹿正直に、そんなものにつきあっていたら、持参の食料なぞ、どれだけあっても足りなくなる。
無論、時間が許すのであれば、その間だけは氷結のギルドに属し、食いぶちを稼ぎながら生活をするというのも、悪いわけではない。だが、それは情報屋の話が許さない。
(……いずれは、ムッチョーダとの抗争が、はじまっちまうんじゃないかという話だ。もたもたしていて、そんなものにまきこまれるのはご免だ)
「……。咎められるとでも言いたいのか?」
「ワープゲートの場所を快く教えてくれる、親切で素敵な人物であれば違いますと、みなまで言わせたいんですの? わかっていて尋ね返すのは、底意地が悪いと、そう言うんですわ。もしも本気で言っているのだとしたら、あれだけ氷結は危険だと、懸命に話していたお友達のことが、少し不憫に思えて来ますの。だって、肝心のコーザが、全然聞く耳を持っていないんですもの」
「ニシーシ……。お前、よくこんなやつが相棒で疲れないな」
「……ほかの人には……あまりこんな、つっけんどんじゃないんですけどね」
「そりゃあ、入念な準備が必要なほどの、大層なところに踏み入ろうとしている者が、探し人の名前を、間違っても失念するはずないですものね」
コーザはこれまでに、未踏破領域へ入るにあたって、さんざんの準備をして来た。だというのに、肝心な目的――捜索する対象の名前を、忘れているのはおかしいと、そのようにチャールティンは指摘しているのだ。端的に言えば、チャールティンは、コーザがついた嘘を見抜いていたのである。
(……はあ、ばれていたのか。一番最初に、ペルミテースの名前について、ニシーシを試したのが、相当にご立腹ってわけね。うちを疑っていたのも、自分で蒔いた種だったか……)
コーザの味方をする気がなくなったのか、相棒のルーチカは、ニシーシの肩に乗りながら、自慢の長い髪を揺らしているばかりだ。そんなルーチカを、コーザは恨めしそうに見ながら、おもむろに立ちあがる。
「ああ、もう! うちが悪かったよ。これでいいんだろう! ……行くぞ。先は長いんだ」
「何を言っているんですの? そんなに深くで氷結たちが生活していたら、交換所に行くのが、大変になるだけじゃありませんの。ギルドの位置は、言うほどに遠くないのでしょう?」
「チャールティン! そこは素直に、形式的な表現で受け取っておこうよ……」
「お前ら、面白えな。俺様も混ぜろよ」
「楽しくねえよ、バカたれが」
「なんだと! 相棒、もういっぺん言ってみろ!」
未踏破領域の一角をにぎやかにしながら、四人組は奥へ奥へと進んでいく。待ち受けるのはイトロミカール、その道にほかならない。
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