第23話 立ち位置
コーザが口を開こうとすると、今まで静観していたチャールティンが、急に割って入って来た。
「この人は嘘をついていますの。それもとても大きなものを。それとわからないように、こちらもごまかすといいですわ」
だが、コーザはそれを無視した。交換所の一件で、チャールティンが、手段を選ばない妖精であることを、十分に理解していたからである。
しかし、それはチャールティンも同様だったようで、つづけてコーザが聞き捨てられないような、不穏な言い回しをするのだった。
「もちろん、わたくしにとってはニシーシが一番ですの。……でも、今回は不本意ながら、あなたのためでもあるから、言っているんですわ。いいから、早くおし」
そこまで言われては、コーザといえども内容が気になってしまう。だが、当然ながら、この場でチャールティンに、詰問するわけにもいかない。そうだとすると、情報屋に嘘をつかなければならない、ということになるのだが、その選択は今までの仲を考えると、コーザとしてはやりにくかった。
ゆえに、コーザは仕方なく、当たらずとも遠からずという、中途半端な回答をしたのである。
「こいつは驚きなんだがな、うちの新技はスカなんだ」
「……? スカとな」
「ああ。銃を撃ったように見せかけられるが、実際には弾が飛んでいねえ。スキルが発動したように見え、その実、空砲なんだ。そうして、二回目に本当の弾が出る」
言わずもがな、実際には薬莢の再装填が、次弾を撃発するトリガーとなる。空砲という説明も、的外れでこそないものの、正確な表現ではない。
「……。ふむ。そうだとすると、モンスター相手には役立たんな。手間が増えるだけだ。だが、狙って出せるならば、対人戦を視野にいれられるだろう。もう残りのストックはないと見せかけて――という具合だな」
「目押しじゃないんだ。うちらにスキルを選ぶなんざ、無理に決まっているだろう」
「だよな」
「できるに決まってんだろ。俺様が発動させるんだから」
思いもよらぬ発言に、今度こそ、コーザはルーチカを殴りそうになったが、ニシーシがそれとなく庇ったため、どうにか堪えることができた。無論、実際には腕を振りまわしたところで、ルーチカにはあたらないため、その場合には、コーザが変な人に見えるだけである。
思えば、ニシーシとチャールティンとは、純石の形を変えているのだった。それに照らせば、狙ったスキルを発動できたとしても、おかしくはない。とりあえずモンスターを壊せばよいという、自分たちとは違い、イトロミカールは先方の都合をも、加味しなければならないからだ。なお、念のためにつけ加えれば、たとえ生産系であっても、やはりスキルの使用には銃が必要である。
(妖精の瞳における最大の恩恵は、目押しか。今までは、うるさい隣人が増えただけだと思っていたが、これはどうだ? 相当なアドバンテージだぞ)
大勢の人間が、ランダムでしかスキルを発動できない中、自分だけが任意で技を使えるのだ。これほどの利点はないと言える。
無論、コーザとて、ルーチカとコミュニケーションを、取れるようになったことは、素直にうれしい。こんな地下の世界に一人でいては、連日の孤独感から、どうにかなってしまいかねなかったからである。
コーザの話に満足したのか、情報屋は荷物を整理すると、おもむろに立ちあがった。
「もう行くのか?」
「ああ、世話になったよ。コーザ、達者でな」
「おう」
自分たちとは反対のほうへと、足早に進んでいく情報屋を横目に、コーザはチャールティンへと向きなおる。そうして、あきらめたようなため息とともに、コーザはゆっくりと尋ねるのだった。
「……それで、何がどうしたって?」
チャールティンは静かに話をはじめた。
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