第21話 ギルド
言うまでもなく、ダンジョンを統べる存在がいるとすれば、名実ともにモンスターであろう。無論、Cランクなどの低級なものは、人間に狩りとられるケースも多いが、それでも全体でみれば、ダンジョンを支配しているのが、モンスターであることに異論はない。
「未踏破領域なんていう大層な名前が、いったいどこの範囲を示しているのか。そんなものは俺の範疇を超えるので、正確なところは知らんぞ。だが、一般人が先に進みにくくなる辺りからが、よく言われている部分だろう。つまり、ここだ。俺たちのいる地点から、未踏破領域がはじまる。……正確にはもう少し先からで、そこまでなら、一部の玄人が場所を案内できる」
遠まわしな言い方だが、つまり、情報屋はコーザに、子供なぞは共に連れて行かず、置いていけと言いたいのだろう。コーザ一人ならばともかく、不慣れな人間を抱えたまま、先へ進むのは難しいと、そう暗に伝えているのだ。情報屋はコーザの事情を知らないので、そう考えるのも無理はない。
「言いたいことはわかるが、今はこいつがうちの案内人なんだ。非力だが、置き去りにするなんていう選択肢はないね」
「そうかい……。また面倒なことをしているんだな。そういうことなら、もう何も言わん。それで話のつづきだが、腕の立つ一部の人間は、未踏破領域に集まって生活している」
「腕の立つ人間……。コーザさんのような方ですね」
ニシーシは、その純粋な心からあいづちを打ったのだろう。しかし、コーザとしてはいささか決まりが悪かった。未踏破領域で暮らせるほどの連中は、みな自分よりも、遥かに強大な力を持つ者ばかりだからだ。コーザに言わせれば、そいつらの頭はおかしいと、そういうことになる。
「そうだ、コーザもまあ強い。本人は否定するだろうが、そんなものは所詮慣れの問題にすぎん。残念だが、できないやつはいつまでもそのままだ。才能の壁は必ずある。それで……そういった猛者が集まって作るグループを、ギルドと呼んでいる。どうしてそんなものを結成しているのかは、人によって違うから、どうしても知りたいなら自分で聞くしかない。セーフティの周辺よりも稼げるからか、あるいは単純に人との接触を控えたいのか……。大体はそんなところだろう。セーフティに比べれば、ギルドのほうが、どう考えても少人数の集団だからな。コーザの言う氷結は、その親玉だ。この辺りをまとめている、言うなればボスにあたる人物だが、おおむね今は、当時よりも北西に移動した感じだろう」
「記憶があいまいだが……それだと、ワープゲートから離れた形になるのか?」
「そうなるな」
「一応、氷結たちはあのワープゲートを、一つの縄張りにしていたはずだろう? なぜ、急に場所を変えた?」
「モンスターの動向いかんによって、位置を移すのは基本だろうさ。本人の野望とか、そういうたぐいの話なら、俺も把握はしていない。お前と同じで、このダンジョンに、心から嫌気がさしているんだろうさ。そのくせ、お前のように、出口を探そうとまではしていない。そこまでの気概を持ちあわせていないのか、もしくは、そんなものは見つからないと、高をくくっているのかもな。ひょっとしたら、存外、お前がうらやましいのかもしれんぞ?」
「おいおい……どうしてそういう話になる?」
「氷結と違って、お前さんは、素直に出口を探しにいけるからだよ。『必死に見つけようとしましたが、ありませんでした』じゃ、心が壊れちまうだろう? だからこそ、自分はまだ、出口を探しにいっていないだけなんだと、そういう言い訳を残したまま、こうして暇つぶしに、終始しているんじゃないのか?」
「それも勘か?」
「いいや、もっと役に立たない何かだよ」
情報屋の返事に、コーザは呆れるしかなかったが、それ以外の部分については、ジョークを言えるほどには芳しくなかった。期待が大きく外れたからである。
(うちもワープゲートの位置を、正確に知っているわけじゃない。氷結たちがその近くにいるなら、ギルドの位置を探すことで、間接的にワープゲートの場所も、推測できただろうが……これではそれも難しい。さすがに、氷結たちならば把握しているんだろうが……。ワープゲートを使うためには、ギルドに頼むことになるのか……。参ったな。頼んだら、代わりに何か無茶な注文をされそうだ)
あまり気乗りしないが、ほかに方法もあるまい。コーザは礼を言って貨幣を払うと、ついでにもう一つ質問をするのだった。
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