第15話 チャールティン
言葉を選ぶように、口を開いたり、閉じたりと、無駄なことをくり返していたニシーシだったが、やがては意を決したように話をつづけた。
「僕もチャールティンが例外だと断じるまでは、全く気がつきませんでした。僕たちイトロミカールは、別の住人たちと交易をしているんです」
「……? だれだってそうだろう。地上の世界と交流をせずに、うちらは暮らせねえよ」
「そうではありません。コーザさんみたく、自分の足で歩いて交換所へと向かう、そういうことを僕らはしていません。別のセーフティから、食料を買い取っているんです。……イトロミカールは、素材の加工を生業とする場所なんです。現に、僕のチャールティンは、純石を好きなようにいじくることができます」
信じられない話を前に、今度こそコーザは絶句した。まさか、そんなふうに生活している人々が、この世界にいるなんて、考えもしなかったからである。
(生きるのに、命がけの戦闘をしていないってこと……なのか? たしかに、どうやってクソ硬え純石を、戦争の道具なんかに変えているのか、疑問だったが……なるほどな。妖精のスキルだったってのかよ)
そんな超常の力でも借りなければ、とても歯が立たない代物だ。別段、驚くことでもあるまい。
「買い取るっていうのは、その……なんだ。全員がお前みたいに生産系で、交換所に向かえねえってことか?」
やっとのことで、コーザが絞りだした言葉は、取り留めもないものであった。妖精のスキルもなしに、モンスターと戦うことは現実的でない。ならば当然、ニシーシたちにしてみれば、ダンジョン内の往来は、自分らとは比較にならないほど、危険なものとして映ることだろう。
「ええ、おおむね。ですので、僕らはイトロミカールから、ほとんど出られないのです。仲介人が僕らのところまで、加工元となる資源を運び、そうしてイトロミカール側が手を加える。そのあとは、再び仲介人が地上の世界とやり取りをし……という形ですね。イトロミカールの取り分は、そのときの差額から、仲介人の手間賃を引いたものです」
「……。お前たちのところにやって来る仲介人は、みな妖精の瞳を持っていない。そこに、コーラリネットの様相も加わったからこそ、イトロミカールのほうが例外であるとわかる。そういうことだな?」
「そのとおりです」
「なるほどな。たしかに、驚きはしたが……だからと言って、そんな大ごとでもねえだろう。何をそんなに怒っているんだ」
やはり、まだいくらかのためらいがあるようで、ニシーシはすぐには答えなかった。
「……。生産系のスキルしかない僕らは、コーザさんに置いていかれた時点で、詰んでしまいます」
「――ッ!」
「チャールティンは、コーザさんに交換所の位置を示させたあと、案内については、辞退の申し出をするつもりだったんです。そうして、金銭を支払って正式に別の人間を雇う。……純石のレートに首を突っこんだのは、儲けやすい場所と、加工後の相場とを量るためでしょう。実際、コーラリネットで暮らしながら、帰還に向けての貯金をするとなれば、純石の相場を知っているかどうかは、僕らにしてみれば死活問題ですから」
「……」
何も言葉を返すことができず、コーザは黙ったまま、何度も己の後頭部をかきむしった。疑われていたのだ。それも、初めから信ずる気のないやり方で……。それに照らせば、コーザの反応は無理のないものである。
ひどく長いように感じられる沈黙。
実際には、ほんの少しの間でしかなかったのだが、耐えきれなくなったニシーシは、つづけて言葉を口にしていた。
「誤解しないでください! 僕の……ためでは……あるんです」
段々と萎れるように小さくなっていく声に、コーザも少しだけ居心地が悪くなった。コーザもまだ若い部類に入る人間だが、ニシーシはそれ以上だ。幼い子の懸命な弁明を聞いて、気分のよくなる人間は少ないだろう。
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