私のためだと家族が追い詰めてきます[Book Live様にてコミカライズ]
初めての投稿になります。
つたない文章や、言葉の選択の怪しさなどあるかと思いますが笑ってお見逃しくださいませ(#^^#)
「マツリカ、ごめんね。また私のせいであなたの婚約が白紙に戻ってしまったわ。」
「いえ。」
これで3度目だ。家同士の縁を結ぶための政略結婚、貴族ならお互いそれを理解して歩み寄り、家族としての愛をはぐくんでいくのである。それなのに、これまでの婚約者は家族と顔合わせをするとみんな姉に懸想し、同じ政略結婚なら姉と婚約をしたいと変更を求めてきた。
別に婚約者を愛していたわけではない、それでも選ばれなかった事実はひどくマツリカを傷つける。そして姉が悪いわけではない、ただひと際華やかな容姿で、周りを思わず笑顔にするような微笑みと気の利いた会話ができる素敵な令嬢であるだけだった。
父の執務室に姉妹揃って呼ばれ、告げられたのは三度目の婚約解消の知らせだった。
「では部屋に戻ります。」
一度目、二度目はなぜだと悲しみ、怒りもわき父と姉に詰め寄った。しかしもう何も言うことはなかった。
「マツリカ。今までは相手が悪かったのだ、今度こそきちんとした婚約者を探すから我慢してくれ。」
「・・・お父様にお任せします。」
表情なく、頭を下げると自室に戻った。
今回、婚約解消を告げてきたオレガノとはうまくいくかなとかすかな期待をしていた。お茶会で顔を合わせ、時折、観劇や公園などに出かけ楽しい時間を過ごしてきた。そう思っていたのは自分だけだったようで、そろそろ家族同士の付き合いもしていこうとしたとき、やはり婚約者は姉に夢中となった。
「ふふ・・・みじめ・・・」
自室のソファーに座り、やっと泣くことができた。
父や姉の前では泣けなかった。優しい顔をして、親切なふりをして、マツリカを大切にしているかのようにふるまう人たち。
大嫌いだと思った。落ち込んでいる自分に次々婚約の話をもってきて、傷つけ続ける父、ごめんねと言いながら今回も家族の顔合わせには嬉々として美しく着飾り愛想を振りまく姉。そして魅力がなく婚約者を振り向かせることができない自分も。
マツリカは男爵令嬢、高位貴族ではないが領地経営がうまくいき、名前ばかりの高位貴族よりもよほど裕福だった。そのため二人の姉妹には釣り書きがたくさん届く。しかしマツリカの幸せを見届けてから自分の結婚は考えると言った姉は誰とも顔合わせをせず婚約者を決めることはなかった。
このままずっと自分は選ばれない寂しい人生を送るのだと思った。マツリカは苦しくて、もう家族のこともすべて忘れて天に召された母の元に行きたかった。
その晩、荷物をまとめると明るくなるのを待ち、家の者には友人の家に行くと言い残して家を出た。
夕暮れ時になっても、マツリカが帰ってこない。はじめて異変に気付いた使用人が男爵と騎士団に連絡した。血相を変えて戻ってきた男爵は使用人皆に探すように命じた。騎士団は女性が巻きこまれた事件や事故がないかを調べたり、辻馬車や国境の出入りを確認した。
3度も姉に婚約者の心を奪われ、婚約解消されどんなに傷ついただろう。だからそれを癒すため、すぐにでも次の婚約者を見つけるつもりだったのに。男爵はマツリカがもう帰ってこないかもしれないと気が付き、愕然として座り込んでしまった。
姉のミントも可愛い妹を大切にできないような婚約者たちに腹が立っていた。本当にマツリカを大事にしてくれるのかどうか心配で、婚約者を誘惑して靡くかどうか試したが、全員が見込み違いと分かり婚約が解消になるよう誘導した。3人目のオレガノだけは靡かなかったが、男爵家の資金力が目当てだった。男爵家を継がないマツリカと婚姻を結んでも援助はできないが構わないのかと伝えると、すぐに婚約者を妹から自分に変えるよう手紙が来た。
マツリカの幸せの為に、婚約者をふるいにかけてあげているのだ。少しの嘘や誘惑は許してほしい。マツリカも感謝するはずだ。
マツリカは、街に出てまずドレスを売り、古着屋で平民が着る服を買った。それに着替え、髪結いで髪を売った。完全に雰囲気を変えたマツリカは馬車に乗りこの地を離れた。これからの生活に当てはないが、まずは母との唯一の思い出の地に向かうことにした。
森の中にある、天気によって色が変わる湖。ここは家族4人で訪れたことがある。美しい景色の中でマツリカの髪を可愛く編み込み、花の冠をつけると鏡のような湖面に映してくれた。ここにきてしばらくして母は急な病に倒れてなくなってしまった。
湖面を眺めてしばらく佇んでいたが、マツリカはこの森のそばにある街に宿を取った。ここから森まで通うのは簡単だ、気がすむまで湖を見てこれからのことを考えることにした。家を出たときのような、一刻も早く母のもとに行きたいという気持ちは消えていた。生きていくうえで必要な住みかとお金を確保しなければならない。当面は持ってきたお金とドレスや髪を売り払ったお金でしのぐつもりだが、今後のことを考えると仕事を探さなくてはいけないだろう。
「まあゆっくりでいいか。」
これまで令嬢としての教育、経営の勉強・補佐、婚約者との義務など忙しく、このようにゆっくりする時間はなかった。しかし髪とともに令嬢という立場は捨てた。もう家名の為に無理に結婚する必要はないのだ。そう思うと気が楽になった。
7日間、毎日通ううちに自然が持つ癒しと静謐さに心が落ち着いていった。宿の主人もその妻もいい人で長期滞在を歓迎してくれた。そしてこの街に住むつもりなら、仕事や住むところを紹介してやると言ってくれた。
焼き菓子を売る小さな店で仕事が見つかり、この地に落ち着いた。
平民の生活はなれなかったが、がむしゃらに働いているうちにお店に材料を搬入しているディルと仲良くなり、付き合うようになった。
政略でもないお互い慈しみあう関係の恋人。結婚をしたいと言ってくれた。そして恋人ディルはマツリカの家族にきちんと挨拶をしたいといった。
「いいの、家を出てきたんだもの。それに・・・嫌なの。」
姉に会えば、このディルも自分から去っていくかもしれない。そう思うだけで胸が張り裂けそうだった。
その思いを正直にディルにつげた。
実は男爵家の娘で、度重なる婚約解消に傷ついてこの地に来たこと。姉のせいではないが、姉の存在が婚約解消に関係していること。会うのが怖いことを正直に告げた。
ディルはマツリカをぎゅっと抱きしめると、
「辛い思いをしてきたんだね。だけど僕はご家族に君との結婚を伝えたい。父上も悪気があって次々婚約者を連れてきたのではないと思うよ。マツリカが幸せなことを見てもらおう」
「でも・・・」
「僕を信じて。君のお姉さんの見た目がどれほど美しくても僕は君を中身ごと好きなんだから。比べようがないよ」
マツリカは不安で仕方がなかった。姉に会えばみんな息をのんだように見惚れるのだから。
家族の仲は良かったと思っている。大事にしてくれていた。けれどたくさん傷つけられてきた。
「このままではずっと君は苦しむと思う。いくら捨てたつもりでも、お姉さんのこと引きずると思う。何より君がどこか自信がなさげにしているのが悔しいんだ。だから二人で挨拶に行って、僕たちの愛を見せつけよう。そうして、何の憂いもなく幸せになろう?」
自分のことを考えてくれているディルに断り切れず、半年ぶりに実家に戻ることになった。
久しぶりに会う、父と姉は二人の訪問を歓迎してくれた。家出をきつく咎めることはなく、無事に戻ってきたことを喜んでくれた。
「・・・ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
「お前の気持ちをわかってやれなくて済まなかった。それで、ディル殿がお前の婚約者か?」
「はい。」
「私は平民です、マツリカさんが貴族と知らず出会いました。ですが、マツリカさんはこんな私についてきてくれると言ってくれました。必ず幸せにします。今日はお許しをいただきに来たのではありません、結婚を宣言しに参りました。」
平民が貴族の前で啖呵を切るのは相当の胆力が必要だっただろう。
マツリカは感動して、隣に座るディルを見た。ディルはちらっと姉を見て会釈をしただけであとはマツリカの方を見てくれた。これまで消えることのなかった胸の奥底に渦まく重りがスーッと消えていく思いだった。
「ははっ。そうか、マツリカはいい人と出会えたようだな。マツリカ、今後のことで少し話がある執務室に来なさい」
「え?でも・・・」
「マツリカ、私がお相手しておくわ。お父様のお話を聞いてらっしゃい。」
姉とディルを二人にしたくなかった。もしかしたら・・・
「大丈夫だよ、いっておいで。」
ディルが笑顔でそう言った。
仕方なく父の執務室に向かった。
「なんでしょうか。」
「お前がいない間に、お前がこのフィネル男爵家を継ぐ手続きを済ませてある。」
「え?どういうことですか?」
「お前が彼と結婚するのなら二人でこの男爵家を守ってほしい。もちろん平民の彼は相当苦労するだろう、嫌な思いもするだろう。しかし頑張ってほしい。執事や他の者にも支えるよう言い聞かせておく」
「いきなりどうしたのですか?私は彼と平民として暮らしていきます。お父さまはまだお若いですし、それに男爵家はお姉さまが婿をとって継げばいいのではありませんか?」
「お前に継いでほしいのだ。いままで辛い思いをさせてすまなかった。お前の幸せを願っていたのは本当だよ。そのためにお前を支えてくれる婚約者を探していたんだ。」
「・・・。すぐに返事はできませんわ。」
「わかった。だがお前が継がなければこの男爵家は断絶となる、これで終わる。お前がそう望むのならそうしてくれても構わない。」
「お父様!何を言ってるのですか?お姉さまがいるではありませんか?!」
「そう決めたのだ。おまえのしたいようにすればいい。ディル殿としあわせにな。」
「お父様・・・」
応接間に残ったディルはマツリカの姉のミントを見た。
確かに美しい。その微笑みも見る者の頬を染めるだろう。
「ディル様、貴方のような素敵な方がマツリカを守ってくださるなんて嬉しいわ。あなたのことをもっと知りたいですわ、今度二人でお話しませんか?」
「せっかくのお誘いですが、遠慮いたします。それから私は平民ですので敬称はいりません」
「あら、マツリカと結婚するなら私の弟になるのですもの。仲良くしましょう?」
そういってディルの手を握った。
「・・・貴方はこうしていつもマツリカから婚約者を奪っていたのですか?」
「誤解ですわ。私はマツリカの為にしているだけですわ。」
ディルはその手を外した。
「あなたたち家族のせいでマツリカはどれだけ傷つけられているか。」
「・・・貴方はマツリカが貴族だと知っていて?」
「いいえ、知りませんでしたよ。」
「マツリカと結婚しても男爵家の財産はあなたの自由にならないわよ、私が後を継ぐのだから。それでもかまわないのかしら」
「そんなものあてにしてませんよ。もう、結婚の報告はしました。マツリカを連れて帰ります。これ以上こんな家にいたくない。」
ディルは立ち上がった。
「もう少しゆっくりとしていらして。」
そのディルにミントは腕を絡めた。
そこにマツリカが父親と戻ってきた。
「ディル?!」
ディルはミントの手を振り払うと
「違うよ、誤解しないで。お姉さんが・・・」
「ほら・・・だから言ったじゃない!姉に会わせたくないって!!」
「マツリカ!落ち着いて。二人で帰ろう、もうここには来る必要がない。君を苦しめるなんて家族じゃない。」
マツリカを抱き寄せた。
「本当に?お姉さまの事・・・」
「馬鹿なこと言うな、僕はマツリカを愛してる。誰に迫られたって変わらないよ」
マツリカは涙をぽろぽろ落とした。
「・・・ありがとう・・・ありがとう・・」
「マツリカ、おめでとう。幸せになってね。」
ミントは満面の笑顔でそう声をかけてきた。
「いつもいつもお姉さまがお相手の方を誘っていたのね?!どうして!ひどい!」
「あなたのためよ、あなたを傷つけてしまったのは謝るわ。でもこうして本当にあなたを愛してる人に出会えたでしょ?これで安心してあなたを任せることができるわ」
「ふざけないで!私がどんなに傷ついたと思ってるの!お姉さまなんか大っ嫌い!」
ミントは寂しそうに笑うと、ディルに向かって頭を下げた。
「試すようなことをしてごめんなさい。この子の事、よろしくお願いします。」
黙って聞いていた父もディルに頭を下げた。
「この子をよろしく頼む」
そして二人は顔を合わせると頷いた。そしてマツリカの方に向き直った。
「マツリカ、幸せにな」
「あなたの幸せをずっと願っているわ」
二人はそういうと微笑み、すーっとその姿を消した。
「お父様?!お姉さま?!」
ディルも衝撃で言葉が出ない。
急にマツリカは頭痛に襲われ、崩れ落ちた。
「マツリカ!」
ズキズキする頭に手をやり、うずくまっていると急に頭の中に映像が流れてきた。
「あ・・ああ・・お父様・・お姉さま・・・」
父と姉が血まみれで倒れている。それを父に閉じ込められた本棚の隙間から見ていた。領地で家族で過ごしていたとき、盗賊に襲われ父と姉は殺された。
そうだった、もう何年も前に父も姉も亡くなっていたではないか。
どうして忘れていたのだろう?
「ごめんなさい・・・お姉さま!私ひどいことを・・・ごめんなさい!」
マツリカのことが心配で天に還らず、とどまってくれた二人。
マツリカを本当に幸せにしてくれる婚約者かどうか試して、不誠実な婚約者たちを追い払ってきた姉。マツリカを一人にしないため、次々と縁談を持ってきていた父。
すべては私のために。
それに思い当たり、マツリカは二人の名前を叫び号泣した。
今日、ディルとマツリカは領地を訪れた。父たちの墓参りだ。
二人の墓の前でディルはこれまでマツリカを守ってくれていた事の礼をいい、これからは自分がマツリカを守り幸せにすると誓った。
マツリカは最後に暴言を吐いたことを詫び、ずっとそばにいてくれたことを心から感謝した。二人のおかげで幸せだと報告をし、そしてこれからも側にいて欲しいと心の中で願った。
柔らかい風が吹き、お墓の周りの白い花々が揺れた。
「いつでもそばにいるよ」
そう聞こえた気がした。
初めての小説をお読みいただきありがとうございました!
なんだか充足感でいっぱいです。
もっと楽しいお話が書けるように、人生の経験を増やさないと~~(#^^#)。もう手遅れな感もありますが・・
これからもおよろしくお願いします。