冗談半分で日笠さんに俺を好きになる催眠術をかけたら……おや!? 日笠さんの、様子が……!
「ねえねえ日笠さん、俺昨日、ネットで催眠術のやり方調べたんだ! 今から日笠さんにかけていい?」
「催眠術?」
いつもの放課後の帰り道。
そこで俺は隣を歩く日笠さんに、そう提案した。
日笠さんはアーモンド形の綺麗な瞳をパチクリさせている。
「催眠術って、あの催眠術?」
「そう! あの催眠術! 催眠術の『催』に催眠術の『眠』、そして催眠術の『術』で催眠術!」
「催眠術というワードで催眠術を説明するのは、一番やっちゃいけないことよ」
「ちょっと待ってね、念のためやり方再確認するから」
「無視かよ。それに私はまだやっていいとは言ってないんだけど? ……もう、しょうがないなぁ」
やれやれとでも言いたげな日笠さんをよそに、俺は立ち止まってスマホを開く。
えーと、何何?
「『まず五円玉を用意します』、か。……財布の中には五十円玉しかないから、これでいいか」
「すでにグダグダじゃない」
「『その五円玉を糸で吊り下げます』、とな。……日笠さん、糸って持ってる?」
「昨日調べたならその時点で用意しておくべきでは!? ……もう、本当にしょうがないんだから」
そう言いつつ、日笠さんは鞄の中からソーイングセットを取り出し、糸を貸してくれた。
「おお! 流石日笠さん。そういうの常備してるの、女子力高いね!」
「……別にこれくらい普通よ」
プイッとそっぽを向く日笠さんだが、サラサラの黒髪から覗く耳が赤くなっている。
ふふふ、可愛いなあ、日笠さんは。
俺は日笠さんから借りた糸を、五十円玉に括り付けた。
「これでよし、と。で、次は――『その五円玉を、催眠術をかけたい相手の前で、振り子のように一定間隔で振りながら暗示をかければ、相手はあなたの思うまま!』、か。――よし完璧だ!」
「そのサイト本当に信用できるの!? 君騙されてない!?」
「大丈夫大丈夫。いくよ日笠さん」
「――!」
困惑気味の日笠さんの顔の前で、五十円玉をゆらゆらと振る。
「あなたは段々眠くな~る。あなたは段々眠くなぁ~る」
「定番のやつ。……一向に眠くならないんですけど?」
むう、意外としぶといな日笠さん。
まあ、もちろん俺も、本気でかけられるとは思ってなかったけどさ。
よし、どうせかからないんだったら、こんなのはどうかな?
「あなたは段々俺のことが好きにな~る。あなたは段々俺のことが好きになぁ~る」
「えっ!?!?」
途端、日笠さんは顔を真っ赤にしながら、目を見開いた。
…………おや?
「ひ、日笠さん……?」
「…………好き」
「――!!!」
日笠さんは目をとろんとさせながら、そう呟いた。
かかったあああああ!!!!
SUGEEEEEE!!!!
この催眠術は本物だったんだ!!
ラピ〇タは本当にあったんだ!!(迫真)
「そ、そう……。じゃあ俺の、どんなところが好き?」
「……背の高いことがコンプレックスだった私に、『背が高いのってカッコイイよ!』って励ましてくれたところ。……私が髪型とかちょっと変えただけで、すぐ気付いて『似合ってるね!』って褒めてくれるところ。……いつもあの手この手で私を楽しませてくれるところ。……私の将来女優になりたいっていう夢を、笑わないで応援してくれるところ。……あとは」
「あ、いや、もう、その辺でいいよ!」
おお……!
結構リアリティのある理由言ってくれるんだね。
この催眠術のやり方が載ってたサイト、マジで信頼できるわ!
「……あれ?」
「?」
その時だった。
そのサイトをスクロールさせると、最後にこんな注釈が記載されていた。
「えーと、『なお、この催眠術は必ず五円玉を使用してください。五円玉以外の硬貨を使用した場合は、効果がありません。硬貨だけに(笑)』」
お読みいただきありがとうございました。
普段は本作と同じ世界観の、以下のラブコメを連載しております。
もしよろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)