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第8話 ビジネス・ウオリヤー・ガード

 世界8都市に支社を持つ、ビジネス戦士を外敵から守るビジネス・ウオリヤー・ガード・アクティビティ株式会社。


 ザック兄貴が18のとき叔父(パパの弟)の会社を引き継ぎ、持ち前のバイタリティーと技術力で、わずか7年で上場企業にまで飛躍させたという。


 この会社組織の各部署のキーマンたちは、この仕事が無かったら、かなりディープな世界に埋没してそうな個性派揃いと兄貴は言う。


 ようはパパの荒野開発事業の手下たちと大して変わらない特異な技能者の集まりってことなのね。


 無類のショタ好きか、百合好きが居たらどうしようかとボクは身震いした。


 今日の兄貴の目的は今月新しく就任した支社長との面談と、経営状況の確認、そのあと開発部門へ行って、新規開発部署の視察ということだった。


 電子データはオンラインで逐一わかるので、あえて出社している社員に生で顔合わせし、意見を聞き、職場の風通し具合を確認するといったことみたいだ。

 兄貴は結構出来た若社長ってとこかな。


 たぶん、兄貴は日ごろのボクの日頃の行動や、趣向を読み取り、この手のものが好きそうな雰囲気をつかんだに違いなかった。


 実際、ボクも兄貴の仕事には興味ありありだ。事業内容を見ても、パワードスーツにとどまらず、アンドロイドの意志遠隔操作なんてのもあるのだから、これってなんだろうね。


 ボクと兄貴は動く家を止めているドッグステーション地下の地下鉄で、ビジネス・ウオリヤー・ガード・アクティビティ株式会社のチョモランマ支社駅まで行くことにした。


 チョモランマは、荒野にぽつんとある街にしては大規模すぎる街だ。


 富裕層ではあるが一般人も住居していて、ショッピングモールに娯楽施設、飲食店、学校、病院、警察、消防署、病院、飛行場、役所、銀行、地下鉄、路線バス、タクシー、教会、寺院などもある。でも、お墓は無いので、葬儀は行えても埋葬は出身地域での実施となっているらしい。


 ここでは、新興宗教団体や自然保護団体も活動や活動拠点の設置が禁止されている。見つかれば、逮捕され、出身地に強制的に戻され一年以上の禁固刑となるようで、面倒くさい連中が居ないのはとても助かる。


 都市整備がきいているため、貧民層や低所得者は居住することを許されていないので、治安は比較的いいが、富裕層も善人ではないので犯罪は大小合わせ手年間100件弱は起き、時に銃火器を使った凶悪犯罪も起きるらしい。


 また、富裕層にはありがちな、麻薬やドラッグ、売春もいろいろと派手にあるとのことだった。以上、ウエキペディアで調べた内容だ。


 そういえば、ボクらが住むあの動く家には、一応、愛称があることを最近知った。巨象というらしいけど。いまひとつピンと来ないので、みんな動く家か、型番の930Eと呼んでいる。


 地下通路では、この街を動かす様々な人であふれていた。時間は朝の7時。平日なので、出勤中の会社員や公務員、登校中の学生たちが足早に移動していた。


 富裕層であるが所以か、以前、ボクを襲ってきたような異常な連中のような人々は居ない。居るだけで逮捕されるからだ。自由にも規制があるってことだ。


 なぜか、ボクの視界にはこの光景が懐かしくというか見慣れた光景に見えている。これまでの情報からなら、ボクは外国人だからこの都市を訪れるのは初めての筈なのだが、以前は都会に住んでいたのであったということなのだろうか?


 地下鉄のホームも、そこで電車を待つ人々の姿もなぜか懐かしく感じている。中でもデザインの良い可愛い感じの制服を着た女子学生たちにひときわ目を奪われた。


「お、トロイどうしたんだ。あの子たちの制服でも気になるのか?

あの学校はこの町でも超有名なエリートの女子高だな。受験も超難関、うちの研究所も相当優秀な奴は多いけど、あの学校の卒業生はいないな。

 制服も世界一流のデザイナーがデザインしてるらしくて、一着50万ユーロン(貨幣単位;1ユーロン=1円)もするらしい、」


「デザイナーは、クロエ・ワイルダー。年齢は今年で20になる。既に起業していた姉、クラリッサの助けを借りながら12歳から自らのデザイン会社を立ち上げた才女。勉学もしていたが仕事が軌道に乗り、姉に続いて、14歳で名門ユーロピア女学院を中退。


 数々のデザイナー賞を受賞し、数々の斬新的、かつ機能的なデザインのファッション、工業製品のデザインを手掛け、クロエ・エンタープライズは設立から5年で、年商30兆ユーロンの超企業へと躍進した。


 彼女のデザインした制服を転売などしようものなら、30年の禁固刑をくらうんだよ、・・・・デザインを汚した罪はその若さを代償にさせられるのよ」


「お前よく知ってるな。ウエキペディアで調べたのか?

 ここは低俗な変態どもには厳しい街だからな。おかげで深淵に行かなければ平和に暮らせるいい街さ。

 税金が恐ろしく高いところを除けばな」


 ボクは無意識に言葉が出ていた。クロエの名前を口にしたとき、妙に心が温かくなった気がした。そしておぼろげに、少女の顔が頭に浮かんだ。これは、昔の記憶?

 そして、思い出したことは、すっと頭の奧に引っ込んでしまい。何を思ったのか引き出せない。なのにじれったくもない。


「うちもクロエに女性用の特殊作業スーツのデザインをお願いしようとしたが、デザイン料がばか高くてな。諦めたよ。

 帰り際に彼女に『おととい来てね! お兄サン』って笑顔で言われたけどな」


 地下鉄はビジネス・ウオリヤー・ガード・アクティビティ株式会社のチョモランマ支社駅に着いた。


 改札を抜けると広い地下道があり、その奧が会社の地下入り口があるが、それは高位レベルの社員向け通用口。兄貴は当然通れるが、今日は正門から入るため、ボクらは脇のエレベーターから地上へ上がった。


 地下道は逃げ道が無いので、ひったくり等の犯罪は起こせない。やったら途端にお縄だ。たまにお金持ちのお坊ちゃまがやらかして、懲役30年を食らったりする。出所する頃には、50手前のオジサン、オバサンにトランスフォームしちゃう。


 そして、ようやく、ビジネス・ウオリヤー・ガード・アクティビティ株式会社、チョモランマ支社の前にボクらは立った。


 地上80階建ての巨大なビルの玄関を抜けると、そこには広大なエントランスホールがあった。


 今日、ボクを連れて行く予定の研究所は、3年前にこちらの本社ビルに移転したもので、その前はもっと郊外のほったて小屋だったらしい。


 3年前、兄貴の企業戦士スーツが大ヒットして、会社は急成長し、当時、経営が傾きかけていたスポーツ用品メーカーを引き込んだのらしい。

 そして、その本社ビルがここだったということだ。


 とにかく、転落を考えずに有頂天の絶頂期につくられたこのビルも、とりわけ、ビルの顔とも言えるその玄関はデカかった。


 そのエントランスホールの遥か10メートル以上奥の中央に受付があった。受付に居るのがかろうじて若い女性だと認識できるくらい遠かった。


 どうやら、中のエア掲示ボードに表示されている行事ごとを読み取ると、このエントランスホールでは、新製品のデモンストレーションを行う他、会社行事の式典やパーティを行ったりするようだ。


 このビルのセキュリティ装備については、来る前に兄貴からの説明はうけていたけど、実際に見ると圧倒される。


 エントランスの周囲は強固な外壁に守られ、シャッターなども軍用のレーザーカッターをフルパワーにしても1時間は開けることが出来ないほどらしい。


 ただ、軍用レーザーカッターのフルパワー駆動は30分が限界で、レーザー同士を交差させるのは危険なので、複数人でやっても効率はあげられない。


 その間に、連邦警察を呼ぶか、治安軍を要請するか、脱出ルートで逃げることが可能で、その脱出ルートも地下鉄、回廊、輸送トラックと様々な手段が用意されてるって、力いっぱい企業機密と言えることを家族にばらしていいのかな。


 厳密な利用方法や場所は教えてもらってないし、襲う側もそのくらい設備があることくらいは予測の範疇だとは思うけどさ。


「社長、お早うございます。今日はお早いですね」


 爽やかな声とともに、白衣の下に伸びる白く細い足がボクらの前でピッタリ足先を揃えて止まった。

 足先からフェロモン臭が醸し出ているようで、ボクは目線がくぎ付けになった。


 ボクは身長158センチ、その人は170センチを超える長身だった。


 ひとめで美人と認識する整った顔立ち、控えめながら豊かさを感じる胸、細すぎないほどにくびれた腰、全体的に引き締まって鍛えられた筋肉を感じる体つきだった。


 ・・・・・・、うーん、まるで、オジサンな目配り描写だ。実はボクの中身は中年おやじとかないよね。


「エレナ、君も早いじゃないか。主任研究員への昇格から更に気が引き締まったのかな?」


「ひどいですわ社長。

 それじゃあ、私が以前は、ぐうたらだったみたいじゃないですか。こんな可愛い弟さんの前で、ねえ」

 

 彼女はちょっとふくれツラで、社長を軽く小突くと、兄貴は笑って、冗談だよとなだめる。エレナさんは笑いながら、一瞬だけボクの方を見下ろして、軽くウインクをした。


 ボクの中の少年がハッとした一瞬だった。それとも、百合心が目覚めた一瞬だったのかもしれない。


 若き社長と女性社員との軽いかけあい。とてもいい感じだ。


 彼女は、白衣を着ているところを見ると、今日、訪問する予定の研究所の人なのかな。


 時間は朝の8時。始業は9時からだからまだ出勤中の社員も少ない。もっともネットワーク業務の雇用社員も多いので、朝から会社に来るのは3割程、後はランダムな時間に2割程度が来るらしい。


「それでは、社長。わたくしはいったん失礼いたします。ご訪問、お待ちしてますわ」


 エレナさんは、姿勢正しく美しい所作で、兄貴に一礼すると通路の奧へと消えて行った。


「兄さん、エレナさんって、大人で綺麗だね」


「ん?・・・、綺麗か。

 確かに言われてみれば綺麗になったよなあ・・・・。いや、ほんと確かに綺麗になったよ。3年前は、ひどかったからなあ。よくアレが、あそこまで変わったものだよ。

 キースに申し訳ない気がするんだが、まあ、あいつのディープな過去はそっとしとかないと・・・・、おっと余計なことを口走ってしまった。

 大人か、・・・・うーん、まあ、ジョアンナや、カルメンシータよりも遥かに年上だしな」


「カルメンシータって?」


「ああ、名前は知らなかったか、お前を少年と勘違いして、一方的に惚れまくって、ベロ入れディープキスした、ショタ好きのジョアンナの姉だよ」


「う・・・・・」


 ボクは一瞬、悪夢を思い出した。口の中にねっとりしたモノが強引に入り込んだ感触が思い起こされた。

 

 カルメンシータとは、ショタネゴ、今はユリネゴのことだ。でも、彼女もやっぱ、名前あったんだ。あるだろうけど、スペイン系の名前にしてるだ。

 パパはドイツ系、ママはペルシア系、それぞれ、独特の特徴がある。名前は親の思い入れでつけられるから、どこの国もないんだろうけどね。


 そういえば、ボクの名前のトロイメライは、ドイツ語で夢なんだよね。記憶の無いボクという存在はある意味、夢みたいなもの。


 もっとも、親は夢のある子供になってな思いで名付けたのかも、国が混乱して、他人が信用できなくて、他人から殺されそうになるほど、人を信じれない情勢の国なら、そう子供に夢を託したくなるのかなあ。


「すまん、トロイ。トラウマになっちまっていたか?」


 一瞬、飛んでた心が、兄貴の呼びかけで戻って来れた。思考がつながった。


「カルメンシータって、”いい女のカルメン”って意味じゃないですか?」


「さすが、トロイ。語学力万能だな。

 カルメンシータって名前は、親父が間違って戸籍登録したんだよ。変更も面倒だから、名前にしちまったのさ。母さんはカルメンとしたかったらしいけどさ。

 でも、お前も居てわかると思うが、あそこに居たら、名前とかほとんど呼ばないからな。オイ、ソレ、オマエ、アンタ、ボスで通じてしまうだろ」


「確かにそうですね」


 ボクはどっと思い出し笑いが噴出して、ケタケタと声を上げて笑ってしまった。


 ジョアンナによるボクをキュートな女の子にするオフ日の着せ替え計画や、食堂での顔出しの号令挨拶のおかげで、図らずも最近はやっと930Eのクルーたちにに名前を覚えられ始めている。


 けど、最初のころは、良くて坊主、普通は、オイ、アンタ、ガキ。名前なんか呼ば無くてもコミュが取れてたから。これは大進化と言えるね!

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