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第6話 ボクはこの世界の片隅で生きていく

 ボクは新しい家族を得た。ボクは素性にいろいろあるので、養子縁組はできないが、その家族はボクを快く受け入れてくれた。


 家族の大黒柱、ボクはずっと親方と呼んでいるが、名前はゲオルグ・シュミット。遠いご先祖は鍛冶屋とのことだ。


 彼は、機械工、掘削工、火薬工のスペシャリストで、先の大戦では義勇兵の曹長として活躍した肉体派の熱血漢。部下思いで情にもアツく、受けた頼みごとは絶対に完遂する義理堅く頼りになる男と皆は言う。


 顔は強面で、見た目は極悪犯罪者のようだが、家族思いで、末娘のジョアンナには超甘々な一面がある。娘を愛でるときの彼の顔面崩壊ぶりは、顧客の信用を無くしかねないほどの物なので、その様子を収めた映像はトップシークレット扱いとなっている!


 親方の妻である女将さん、レイラ・シュミット。レイラとは、女将さんの遠いご先祖の国では「闇の美しさ」という意味があるらしい。武神のような勇ましさと、地母神のような優しさを併せ持つ女将さんには似つかわしい名前だ。


 今は封印中らしいけど、両腰に二挺拳銃を引っ提げて、並み居る敵をバッタバッタと、、女将さん、昔何やっていたんだろうと思っていたら、その片鱗をうかがわせる出来事がつい最近あった。そのことを少しだけ紹介したいと思う。


 親方たちの仕事である荒野開発の主体は鉱物採掘なんだけど、当然、副産物として貴金属やレアメタル、宝石の類が出る。


 親方たちの鉱脈探りのポイント情報はトップシークレットの企業秘密、どこのポイントから、どの角度で、どのくらいの長さで、どの幅で掘るかは秘密中の秘密。


 なのに、ボクらの城でもある、荒野開発用トラクター、駒津ハーキュリー930Eはとてつもなくデカい。作業してたら平原なら1キロ先からでも丸見えである。そこでおおよその位置がばれてしまう。こちらも相手も衛星からの映像やドローン、ありとあらゆるセンサーで位置をさぐっている。


 掘削しながら電波を遮断する物質を周囲にバラまいて場所を特定させないとか、あの手この手で同業他社を出し抜いている。


 それでも超原始的な縄張り争いは、日常茶飯事的に勃発してしまう。お互い生活がかかっているので、相手が先に居たからといって、じゃあ私は別のところでなんてことはない。


 時にはギャングのような連中をけしかけて、場所を追い出そうとする訳だ。おまけに広大な荒野は法の管理があまり行き届かないほぼ無法地帯、法の目の届かぬところでは殺人、殺傷もあるとか、ないとか。


 まあ、かくいうボクも荒野の片隅で、誰だか分からない敵に暗殺されそうになった身だから、あながち嘘ではないと思うんだ。


 我がシュミット・ファミリー、あ、なんかギャングの一味みたいだが、シュミット一家ですからね。


 コホン、気を取り直して、我がシュミット・ファミリーは、レイラさん、やっぱり女将さんじゃなくて、レイアさんと呼ぶことにしよう。レイラさんのカリスマ的な美しさに惹かれてか、美しくも逞しき女性たちが非常に多いことでも知られている。


 女性従業員と男性従業員の比率は、6:4という構成で、女性の方が多いのだ。男性従業員にとっては、ハーレムのような世界に映ることだろうが。仕事師としての彼女らは、浮ついたナンパな男どもなら、股間の汚物を引きちぎってやるぞと凄むほどの強者ばかりだ。


 それでも、世間の男たちはそう見ない。だから、縄張り争い時のけしかけも下品極まりない言葉が吐きかけられることもしばしばだという。


 そして、つい先日、ボクはその光景を身をもって目の当たりにしたんだ。この日は、初のオフ日で、ジョアンナのお古の普段着を借りて、外のデッキに出て、荒野をそよぐ風にあたっていた。


 あたりは一面の荒野、散歩できるのはトラクターの中だけ。見物も兼ねて普段いけない場所もあちこち回っていた。


 年の若い子供は、ボク一人しか居ないから、皆にトロイだとわかるのだけど、かけられる言葉は、「よう、坊主、今日はびっぺんだな」という違和感だらけの言葉だった。


 皆がそのように言うのには訳があった。


 ジョアンナから借りたお古の服はフリルのついた短いスカート着だった。そんな服を高所に展望デッキのある930Eで着ようもんなら、下から見上げられれば、スカートの中が丸見えと言う周囲が荒野でなければ赤面してうずくまってしまう恥ずかしい服なのだ。


 更に首にはピンク色のチョーカー、頭にはリボンもつけられ、ブラも付けられ、薄化粧もさせられて、紅もさされた。


 親方やレイラさん、ザックやガンツの兄貴、ユリネゴ、そして当然、ジョアンナからもさんざん可愛いを連発され、超恥ずかしくも、家族愛に満たされて上機嫌でいたんだ。


 ジョアンナの部屋にあった全身鏡で我が姿を見たときは、見惚れるほどに可愛らしく美しかった。思わず体をひねってポーズをとってしまった。

 ボクの深層にある乙女の気持ちがそうさせたのだ。流石にこの時ばかりは、ボクからアタシに変わってしまいそうだった。


 そして、その気分をいっぺんに台無しにする最悪の集団が現れた。毎年の総売上では親方と一、二を争うジョルジオ・アリギエーリ一家だった。こちつらはとてもヤクザな連中で、代々マフィアの家系だとうそぶいている。


 彼らは、資金源も豊富で、ただでさえ巨大なトラクターが二連結という大きさで、一度に採掘できる量は親方の二倍以上なんだけど、そこは高名な地質学者も配下におく、ゲオルグ・シュミット一家は、採掘する鉱物の純度が高いため、少ない採掘量でも高額の金が稼げているんだ。


 そんなことを当然面白くないと思っているジョルジオ・アリギエーリ一家の先兵部隊が、オフ日でのびのびとしていたボクに話しかけてきたんだ。


「よう、嬢ちゃん。パパはご在宅かね。せっかくなんだが、ここの道を開けておらえないかね。

 なんだったら、お兄さん、嬢ちゃんの×××××××を××××して、×××しちまおうかなあ、あは」


 話しかけてきたそいつは、頭は髪が角のように伸びていて、この暑さなのに、皮ジャンのような黒いジャケットを着こみ、じゃらじゃらした金属の装飾品をつけていた。鼻や耳、唇にピアスをしたいかにも危なさそうな奴だった。


 その男が発した言葉は、あまりに下品すぎて何を話しかけられたのか分からなかったが、すっごく不快な言葉だとは理解した。


 ボクは思わずキッとなってそいつらをにらみつけたら、言葉を発したイカレた奴が、まるで、軽業師のように、高さ8メートルもある930Eの展望デッキまで駆け上がり、ボクの目の前に降り立ったのだ。


 ボクはまさか、そいつがここまでは来るまいと思っていたので、気が緩んでいたのだ。目の前にするそいつは、死に対する恐怖すら持っていない無敵の人に思えた。そして、そいつはボクの喉笛すれすれに、ナイフをつきつけていたのだ。


「嬢ちゃん、このお兄さんと、××して楽しまないかい。

 そうしたくなかったら、パパやママに言って、この場所開けてくれないかな。いっひっひ」


 心のボクは勇ましくも、このクズと戦おうとしているのに、深層では恐怖におびえきって、涙をながしながら、失禁もして、わなわなと震えている。


「あは、お嬢ちゃん、お漏らしかい。おしめを忘れたのかな。いけないなあ。

 さあ、早く、パパとママを呼びなよ。通信機でさあ、持ってるんだろう。そこに、ひらひらの可愛いスカートのポケットにあるじゃないか、さあ、早く」


「いや、やめて、・・・」


 ボクはか弱い少女の声で助けを乞う、


 その時だった。黒く大きな影が、ふわっとボクらの上を覆ったかと思ったら、ナイフを持っている男の右腕がデッキの上に落ちた。


 圧搾ポンプで押し上げたような血しぶきが男の切断された右肘から吹き出した。

 男は悲鳴を上げてのたうちまわる。ボクはいったい何が起きたのか分からなかった。目の前にはレイラさんが居た。


「トロイ、大丈夫かい。ケガはないかい。怖かったろう」


 ボクは初めて、レイラさんから名前で呼ばれた。


 レイラさんは甲板で先日届けられた機材の確認をしていたんだが、異様な雰囲気を察知して、なんと甲板からほとんど足場の少ない展望デッキに飛び降り、持っていた名工の短剣で着地と同時に男の腕を瞬時に切り落としたのだった。


 足場をふみはずせば、レイラさんだって大けがするのに、娘の一大事にそんな恐怖など消し飛ぶよと言って、ボクを優しく抱いてくれたんだ。


 男は形成悪しと、切断された右腕を持って、身軽に8メートルの高低差をものともせず、柱をつたって降りて、仲間とともに逃走してしまった。


 男はクスリでもやていたのか、大量の出血で、腕を切り落とされた時は大声でのたうちまわったものの、すぐに意識を切り替え、腰のバックルに下げていたロープを左手でふりほどき、止血をしていたし、あのケガを負いながら逃げていくという離れ業を見せていた。


 地下で掘削作業をしていた親方も地上での異変を感じて、男が逃走した後にボクのもとに駆け付け、大事が無いことを確認し、抱きしめてくれた。

 ほんとに親方もレイラさんもすごい人だ、血がつながっていないのにボクの危険を感じ取って助けてくれる。


 ボクは、この人たちと、この世界の片隅で生きていきたいと深く思った。

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