第4話 実はボクは!
従業員たちの食事が終わるころ、親方たちが入れ替わりで食堂に入ってきた。何人かは仕事のために凝れていない仲間のためにと、弁当にして包んで持ち帰っていた。
「みんな、今日もご苦労様。夜勤の人は頑張って!」
食堂の女神さまの声に勇気づけられ、従業員たちは一同に声をそろえて叫ぶ。
「ジョアンナさん、今日も一日ありがとうございました。明日もよろしくお願いします!」
皆、顔に似合わない、行儀のよい子供のような感謝の声をジョアンナにかけて、食堂を後にした。そんな皆を、手を振って別れを惜しむジョアンナ。すごい、コミュニケーションだ。
彼女だけ、名前で呼ばれる所以はまさにこれだ。彼女への日々の感謝の気持ちなのだ。
「トロイ、わたしたちも食事だよ」と、ジョアンナはボク(仮)の手をひいて、家族のテーブルに着いた。
テーブルの上にはもう残りものしかない。従業員にはたらふく食事させて、自分らは残り物をいただくのか、この親方はなかなか出来た人だ。見た目は極悪な犯罪者みたいだけど。
家族の面々を見ると、親方夫婦と、ショタネゴ、ジョアンナ、重労働に居たスキンヘッド2人。一人は監督、もう一人はペイントのはずだが、入れ墨がない。あれは本当にペイントだったようだ。
スカーは従業員だったのかな。ここにはいない。さっきの一団にも居なかったから、職場を離れられない保安関係か鉱物分析の仕事でもやってるのかな。
弁当はいくつか出ていたから、数名はそういう仕事をしてるのだろう。
「坊主、今日は結構、働いたらしいな。ザックが筋がいいって褒めてたぞ!」
親方は見た目以上に気配り上手だ。ボクの働きぶりを褒めてくれるんだ。ん、ザック?誰の事?見回すと倉庫の監督だったスキンヘッド1号がボク(仮)の方を見て、右手の親指を立てて合図した。ああ、彼が、ザック兄さんか。
よく見ると禿げじゃなくて、剃ってるんだな。親方、剛毛だし、ありゃ禿げないわ。
「坊や、初めてにしては、やるじゃない。あの重労働かいくぐって、料理の下ごしらえまでやってのけるなんて。
カレーのジャガイモもニンジンも、玉ねぎも皮つきじゃないから、今日のは格別に美味しいわ。合格よ」
お母さま、お酒が入って、ちょっと色気ぷんぷんしてる。これはまずい、ショタネゴ以上に魅力的に感じてしまう。
「明日、一通りの仕事の紹介すっから、そこで気に入った仕事があったら、何でもするといいぞ。もっとも、二週間ちょっとだから雑用やってる間に、終わっちまうけどな」
元ペイントのスキンヘッド2号が、説明してくれた。
「ガンツ兄さん、それだったら、時間の無駄だから、あたしがもらう。
コックは一名欠員だし、他の人じゃ役に立たないもの。ね、トロイ、あんたもコックがいいよね、料理好きそうだし」
スキンヘッド2号は、ガンツと言うらしい。一応、ジョアンナのお兄さんなのか、良かった。
「いや、ジョアンナ。そいつは二週間しかいないんだぞ。それよりも早く、身元引受人が出てくれば、すぐにそいつに引き渡すことになるんだから。
コックは募集が決まらないうちは、これまで通り、持ち回りで手伝わせる」
ジョアンナは、胸の谷間にボク(仮)の腕まくりした右腕を挟んで来た。これはいたいけな少年のエロ心を弄ぶ、オトナのオンナのボディ攻撃なのか!
やっぱり、一応、ボク(仮)が、少年という認識で、アプローチしてるんだろうな。柔らかくて、暖かくて、いい香りもしていい感じだ。
そして、そして、顔がすごく近い。可愛い顔でボク(仮)を無言で見つめてる。ショタネゴのアプローチよりも、びんびんと効いてくる。
「やだ、トロイはわたしがもらうの、わたしがもらうの、わたしがもらうの、もらう、もらう、もらうの」
いきなりの、駄々っ子攻撃。これは兄貴がシスコンなら一発で撃沈だ。
「全くしょうがねーな。ジョアンナは」
「じゃあ、いいのね!」
「ああ、お前の勝ちだ。持ってけ!」
ボク(仮)の意思は無視して、勝手にもらわれてしまいましたよ。ガンツお兄様公認で。
ジョアンナは更に2、3歳は年齢が下がったように見えた。実際、いくつなんだろう。ボク(仮)とタメかな。
それにしても、今の彼女は、ちょー可愛いよ。この柔らかな山の谷間に挟まった腕をどうしたものか、上下に動かすか、いや、このままでいいか。
そういえば、ショタネゴは、どうしているのだろう。
「そいつは、アタイんだ。アタイが先に唾つけたんだ!」とか言って、割って入ってくると思ったのに。
ボク(仮)は、周囲という程でもないあたりを見回した。そして見つけた、隅っこでもくもくと酒をあおってるショタネゴを。
けっ、面白くねえって顔をしている。暗い、すごく暗い、ドス黒いほどに。最初の蛇女みたいになってる。やっぱり、妹にはかなわないって、譲っているのか。
だから、あんな表情したのかな。ここは声をかけるべきか、いや、また、べったりされるのもちょっと嫌かな。
ここはとりあえず、害のないジョアンナ側にいる方が無難だろう。
それにしても、先代料理長直伝のカレーは絶品だった。ここへ来る前に食べた食事もさっぱり覚えていないボク(仮)だが、なぜかこれまでで最高の料理に思えた。そういえば、カレーってどこが発祥だったんだっけ、どこの国?国ってなんだ。
そうだ、うっかりしていたというか、全く気にもとめていなかったが、ここはいったいどこの国なんだろう。
ボク(仮)が話しているこの言葉、部屋のあちこちに書かれている文字。読めるんだけど、何語とかが全く分からない。一体全体、どこの国なのか?
ジョアンナたちは何人?ボク(仮)とは少し顔立ちが違う感じがする。さっきの従業員たち、髪の色は濃淡はあれど、黒か、こげ茶がほとんどだった。金髪、銀髪といった色も少しは居た。
瞳の色は茶系統か、濃い緑色が居たかな。平たい顔の人や、鼻が鳥の嘴のような人も居た。肌の色は日焼けしている人が多いからはっきりしないけど、日焼けとは思えないほど黒い肌の人も居た。多国籍人種という感じだった。
一方、ボク(仮)は、金髪に近い赤茶毛。洗ったら金髪に近くなるのかも。肌の色は、ジョアンナは、他の人より白いが、ボク(仮)は更に白い。瞳の色は、さっき、ぴかぴかの鍋蓋でみたら、濃い青だった。
まあ、ボク(仮)みたいに、男だか女だか分からないような容姿の人は居なかったし、ジョアンナより年の若い人も居なかった。老人はひとり居た。きっと、キッチンの換気扇を修理してくれた人なのだろう。
「トロイ、早く食事済ませなよ。後片付けもあるんだから」
ジョアンナに言われて、ボク(仮)はカレーを、肉料理を、魚のフライを、野菜サラダを、スープを口に放りこんだ。どれも、これも絶品だった。残り物でやや冷めているのに、味は落ちていない。誰もがジョアンナを慕う理由もわかるよ。
食事の後片付けは、大型の食器洗い機で一度に洗浄して、乾燥させるので、基本運ぶだけだ。キッチンの掃除も床はロボット掃除機がしてくれるので、ぼくらは流しやストーブを拭きあげる。
これらが済むと、ボク(仮)は、ジョアンナの部屋に誘われた。個室部屋は家族だけしか持っていないようで、その他従業員は、集団部屋らしい。
でも、なんでボク(仮)がジョアンナの部屋に。ああ、そうか、見た目に暑苦しいコレをひん剥かれるのか、ジョアンナに!
一応、気使って、皆の前じゃないんだな。でも、ジョアンナにはまる見えか。ボク(仮)も、スーツをひん剥かれたら、股間のブツを手で押さえて、子犬のようにきゃんきゃん泣くのかな?
ジョアンナの部屋は折りたたみのベットやハンモック、ちょとした机が備え付けてあって、これといって広い部屋ではなかった。女の子らしい小物も置いてある訳でもなかった。作業着とコック服。質素な普段着が目に入った。
「さあ、トロイ。ここに立って」
ジョアンナはボク(仮)を部屋の中心に立たせた。
「上着の内側の左右に紐のようなものがあるかしら?あったら、それを同時に手前に引いて、5秒間維持したら解けるはずよ。
あ、でもその間に排泄物の加工処理終わらせないと。加工途中のものが残ってると悪臭が出るから、先にそれやって、上着の内ポケットに制御装置があるから。処理完了にして」
ボク(仮)は、ジョアンナが言ったように上着の内側をまさぐった。まずは、排泄物加工処理の実行。残量はほとんどなく、一分程度で済んだ。
次は、腰回りをまさぐと左右に二本の紐があった。紐には小さな説明図が縫い込んであり、スーツの解き方が説明されていた。
確かにジョアンナの言う通り、左右の二本の紐を同時に手前に引いて、5秒維持せよと書いてあった。
ようやく、ボク(仮)が、ボクかアタシに分かれるのだ。
ジョアンナは気をきかせて、後ろを向いてくれた。スーツが解けた時に羽織るローブも添えてくれている。
ボク(仮)は、意を決して、両紐を手前に引いた。
1、2、3、4、5・・・・。
ピーっという音がして、ボク(仮)を覆っていた服がすべてはだけた。ボク(仮)の体に密着していた装置や人工体組織が、ペロンと剥がれ落ち、開放感が訪れた。
ボク(仮)は、ゆっくりと自分の裸を見降ろした。
「トロイ、どうだった?」
ジョアンナの問いに、ボクは答えた。
「ボク、・・・・・女の子だ・・・・・・・・・・」