第10話 コネクト
ボクはふり〇〇を女性職員の目に、いやこの話はもういい。結局、見られたのは、エレナとサラだけだったんだ。医師と看護師に見られたなら普通だろう。
ボクの個人的なことはさておき、別室でエレナから聞かされた驚愕すべき事実に驚いたというより、愕然となった。
当然、社長も既に知っているが、状況が、状況なのでどうにも出来ないのだ。いったい何が起きたのかと言えば、共同開発者であるコベナント博士が行方不明ということなのだ。
まだ実験中だというのに、急にどこに出かけたのかというと、急用があって帰国したというのだった。
確か、彼の国は、バスチカン公国。大災害後、王制復古した貴族階級が政権を握る特殊な国。表向きは民主政を敷いた民主国家で、王室は国の象徴なのだが、その実は本来、象徴であるはずの王室が陰で政権を指示しているという博士のような、国の内情に詳しい一部の者しか知りえない話なのだ。
彼には確か15歳くらいの娘さんが居て、ちょっとネットマニアなところが玉にキズだったらしいが、語学に長け、家事全般が出来る気立てのいい娘だとよく自慢してたっけ。
50歳を越して授かった子供なので、かなり溺愛してたようだったが。娘さんの写真は見せてはくれなかったけど、まだ、あどけない感じはあるも、将来、妻のような美人になると、息まいていた。
結局、自分が娶ったオンナは、絶世の女だったと自慢していたんだろうけど。
博士のような優秀な科学者や芸術家は、巨額の開発資金の援助を国から保証され、自由に活動が出来、国外への出入りも自由だったが、家族は事実上の人質で常に監視されており、博士は近々、亡命を計画していたとのだった。その話をボクは、一年前に打ち明けられたが、まだ準備中の段階なのに急にどうしたんだ。
でも、博士の家族って、あの国に居たんだっけ?どこに居るとは聞いてなかったな。あの人、プライベートなことは極力ぼかして話す人だったから。
何が起きたのかと言えば、既にニュースになっていた。クーデターが起きて、国内は内戦状態、一般市民たちは国外へ避難しているが、特権階級は家族を人質にとられ出ていけない状態なんだろう、国の統制が崩れているのに、その辺はしっかりくぎ打ちしてるなんて、ひどい話だ。
クーデータが起きたのはつい、3日前。博士はボクの様子を社長が見に来て、大事の無いことを確認した直後に急用ができたと、大急ぎで国に帰ったとのことだった。
たぶん博士のことだ、国の内政の不穏な空気をつかんで、家族との亡命の時期を早めたのだろう。博士はクーデターが起きる1日前に出国したと、暗号通信でエレナに連絡をして来たとのことだった。
だが、エレナは博士の口調に冷静さが全く無かったので不安がって、各旅客会社の乗客情報を照会してもらったが、どこにもコベナント博士とその家族の名簿は無かったとのことだった。しかも、入国したはずの記録も無かったというのだ。
博士はいったい、どこへ行ったというのだ。まさか、自家用ジェットセスナ機を使っていたのか?
それなら航空管制記録にあるはずだが、元ネットヲタクのエレナ、その辺はぬかりなく調べてくれていた。記録はなかった。これらは偽名や偽コードは使えない、たぶん準備なしには、例え、レジェンドンでも不可能だろう。
ステルス機を使って隠密にという可能性もあるが、何にせよ。離陸時、飛行時には騒音が出る。
それ以前に、家族を連れだして、どうやって、それに乗り、離陸して、どこに着陸するのか、アクション映画の秘密エージェントのような超編集による離れ業でもしないと不可能な話だ。
そういう状況であっても、ボクを急に起こさなかったのは、脳に障害を起こさないための配慮だった。地震や火事で研究室の安全が確保できず、避難しなければいけない事態にならなければ、自然な目覚めを優先すべしという博士の指示に従った結果なんだな。
特権者への情報アクセスは、トップシークレットで一般公開はされていない。世界的な著名人が多いのに、国内に居たものはこぞって安否が不明な状態だ。国外にいる彼らも、家族のことを知ることができず、やきもきしてることだろう。
そこで社長は、わが社の新兵器、レジェンドンにアクセスを試みさせたのだな。レジェンドンは博士が勧誘して、彼是、5年働いてくれている。雇い主は、社長なんで、社長の荒野の動く家に常駐してるんだけどさ。これが噂通りのスゴ腕で。
いやいや、ばれたらえらいことなんだが、あの国の情報防壁を開発した一人に彼が居たわけだ。
結果は何もなし。秘密どころかデータがゼロ、すべて抹消されていたとは、どこかに移設して、通常アクセスでは見えない場所にでも置いたのだろう。これは内戦が収まって、中央政府が落とされない限り、ことの真相はわからない。
けれども、戦争を起こした連中は、自然保護団体から膨張した反政府ゲリラなんだけど、ファシストと戦うレジスタンスのような格好いいものではなく、国外からもテロリスト扱いを受けてるカルト教団と化してしまっているというのが、諸外国が応援しにくい状況になっている。
クソ、なんてこった。自由を、多様性を昇華させたツケだな。ヒトの社会はちょっとした不自由さが必要だったんだ。野生動物のような秩序を保とうとする縛りが一番効かない動物だからな。
研究データのほとんどはこっちにあるが、資金さえあれば、博士がいれば、いちから作り上げることは可能だろう。優秀なスタッフなんか探せば世界中いくらでもいる。
優れた人材と資金さえあれば造作もない。そうやって、大災害後、人類は復興を遂げたのだから。
オレの研究はちっぽけかもしれない。だが、これまでの人生を注いで来たものなんだ。誰かに模倣されて、そっちがオリジナルだなんて言われたら、オレは生きていけない。
ああ、こんな時に、秘密諜報員のスーパーエージェントがどこかに居ないものだろうか。科学が進もうとも、現実に起こる事件や災害に、ヒトは無力だよな。
あれから一か月が経った。
コベナント博士とその家族の行方は、未だ不明のまま。博士の奥さんや娘さん、ご家族の写真すら見たことなかったんだ。知っていれば映像検索で探せるが、もとから、調べることができないのだから、どうしようもない。
社長の親父さんが、あの国のクーデターの直後に遭遇した国籍不明の航空機事故がなんかくさいが、生存者は記憶喪失。プレートディスクの情報もうさん臭くて、辻褄の合わない部分も多い。
なにせ、あの地帯は国籍不明の航空機事故が、しょっちゅうなんだよな。例の国が内戦状態になってから、数日おきに国籍不明の航空機の不時着、墜落、爆発事故がひっきりなしだ。うちの国の広大さをいいことにやりたい放題だ。うちの国は、粗大ごみの投棄所じゃないんだけどな。
搭乗者もやれ王族の一族だの、貴族階級、芸術家、大学教授だのといろいろあったが、大元の情報と照合できないから証明のしようもない。
中には諸外国で知られている人もいて、そういう人は亡命者扱いされてたが、そもそも個人機を所有している時点で、セレブには違いない。
不時着や墜落が多いのは、公式の空港には降りれない、降りれば密航者となるからね。本国へ強制送還されてしまう。
国はああいう状態でも、大使館などは普通に機能している。実は見た目ほど、応えていないのかもな。レジスタンスも資金はあるから未だに戦えている。世界の平和団体を味方にしてるからな。
でも、このままじゃ、一年以上は内戦状態だろう。
おっと、今日は、これから社長と面会だ。今日は例の生存者を連れてきているって話だ。今朝、エレナが玄関であったようで、かなりの美少年だという話だ。おまけに語学に、科学に長けていると来ている、記憶喪失でもそれが生きているというから、将来有望だな。社長は、記憶が戻ってもうちにスカウトする気でいるようだ。
そして、ついさっき、ラボ階に来るや否や、女性研究員が目の色変えてたよ。黄色い声援こそ上げないが、その熱気を感じたな。
まさに、婦女子キラーだ。
20年前のボクもそう呼ばれていたんだけどね。今や3人の子持ちのオジサンだよ。最も家はここのビルのペントハウスで一人暮らし。子供はそれぞれの女性の家に居る。養育費をきちんと払ってね。
エレナも2年前に、男の子を産んでくれた。ボクの優秀な血を引いていれば、10年も経たずに頭角を現すから、心配はしていない。
「社長、お見えになられました」
おお、ドアが開いて、姿が見えた。奥で社長が珍しくにこやかにしている。こちらに来る少年は、確かに噂通りの美少年だ。
おっと、今は社長の弟でもあるらしいから、粗相はいかんな。ここは社長より10歳大人である威厳を見せねば。彼の名前は、確か、トロイだったかな。
「やあ、トロイ。初めまして、このラボの所長のキース・エマーソンです。君の噂は社長から聞いているよ」
「はじめまして、キースさん。トロイです。こちらこそ、今日はよろしくお願いします」
とても笑顔が美しい少年で、見ようによっては女性にも見えた。ドレスを着せたらそのまま女性としても違和感の無い感じだった。
ボクらはまず一礼して、握手をした。やんちゃな男の子というよりは、しとやかな女の子のような手触りだった。ボクの胸キュンセンサーが触発され下半身に大量の血流が起きた。
バカな!美少年にも反応するとは!今は、落ち着け、落ち着くんだ。
しかし、同時に不思議な感じが漂った。彼とは初対面の筈なのに、かつて出会った気がしたんだ。霧の中で出会ったヒト。
キミ、なのかい?




