那朗高校特殊放送部~衣装と制服と校則と編~
今回の著者:紅葉黑音・倉井雪絵
筆者:紅葉黑音
日本のとあるところにある高等学校、那朗高校で特殊放送部という部活動の部長をしています。
特殊放送部とは、部員たちでバーチャルYouTuber的な活動をする部活動…
と言われれば聞こえないいのですが、実態は放送部とは名ばかりの、自由活動部。
勿論今日も、放課後に一部の部員が集まって、気の向くまま適当に過ごしている訳です。
今日居るのは、私、白金君、霜月さん、夏輝さんの4人です。
何も無い日に全員集まるのは稀で、大体いつもこんなのものですね。
「そう言えばなんだけどさ…」
各々読書したり、勉強したりしている中で、霜月さんが声を上げます。
「夏輝の格好って、セーフなのか?」
「んえ?」
言われた本人はお菓子を齧りながら、まるで意味が分からない、とでも言いたいかのように霜月さんの方を見ています。
「この学校が制服改造自由なのは知ってるけどさ、それでもそれはアリなのかぁ、ってさ」
霜月さんが言う通り、ここ那朗高校は、校則で制服の改造が正式に認められています。
普通の高校でも多少気崩したりとか、スカートの裾を折るとか、その辺りはやってると思いますけど、
ここではもっと自由です。
例えば、スカートにフリルを付けたり、ネックレス等のアクセサリーを追加したり、
別の学校の制服と間違われるようなものでなければ、かなり自由な選択肢が取れます。
そのおかげもあり、ここ那朗高校の女子はそれ目当てで入学した生徒も多く、個性的な外見の人も沢山居ます。
私はスカートを多少詰めただけですけれどね。
ですが、霜月さんが疑問に思うのも無理はありません。
夏輝さんの格好はと言えば、太ももまで覆う白いニーハイソックス…はまぁいいとして、
正直歩くたびに捲れて中が見えてる位短いスカートに、
冬場以外はずっとヘソ出しスタイルな短いシャツ。
そして、金色のハートが目立つ太いチョーカー。
夏服の話ですが、多分全生徒の中でもトップクラスに中々オープンなスタイルだと思います。
改造こそ自由ですが、当然公序良俗に反さない範囲で、という前置きはあります。
私見としても、これはどうなのでしょうね?
「んー、どうだろうね?たまに注意されるけど…」
注意されてるんだ…
「注意されてるんならダメなんじゃないですか…?」
白金君も私と同意見のようです。
「注意されてるんだったら直した方がいいんじゃないか…?ぶっちゃけると普通に見えてるからな?」
夏輝さん以外の三人は意見が一致したようです。
「注意って言っても"夏輝ィ、そう言うカッコするのは自由だけどな、何かあっても責任は取れないぞ?"って感じだったしー」
先生の真似なのか、妙な口調をしながら反論してくる夏輝さん。
「あれでしょ?制服の改造は自由だけど、改造の結果のトラブルは自己責任って、確か校則にあったでしょ?」
「あー…確かにそうだったような気がしなくもないですね…」
制服の改造に関しては、さほど行ってきたわけでは無いので、校則もあまり詳しく覚えている訳ではありません。
でも、なんとなくそうだったような気がします。
家庭科の先生が注意喚起していたような…?
「つまり!この格好も私が責任を取れればセーフって事だよ!」
ガタン!
っと椅子を鳴らしながら夏輝さんが立ち上がり、腰に手を当てながらポーズを取ります。
趣味でコスプレをしてて、何かのイベントにも参加してるらしい夏輝さんは、ポージングが様になっていますね。
そんなドヤ顔の夏輝さんに、座ったままの霜月さんが、
「それあんま強い事言えなかっただけで、正直止めて欲しいって意味だったんじゃねぇかな…」
冷静なツッコミを入れてます。
多分私もそのニュアンスだったんじゃないかなぁ…って思います。
端っこで白金君も頷いているような気がします。
でも夏輝さんはそうではないようで…
「別に丸出しって訳じゃ無いし、風紀的にもセーフだと思うんだよねー」
夏輝さんはそう言ってますけど、たまに見えてます…
「実際さ?アクセ付けてる子はいっぱいいるし、私程じゃ無くてもスカート詰めてる子はいっぱいいるじゃん?黑音ちゃんだってそうだし」
夏輝さんは私の方へ歩いてきながら、私のスカートをガン見してきます。
わ、私は夏輝さんほど短くないですからね?
ちょっとだけですよ、ちょっとだけ。
でも確かにそれくらいの改造ならどこにでもいますね。
霜月さんだって、スカート詰めたり、アクセサリーを追加したり程度はしています。
「短いなら短いなりに見せパンにするとか、切ったり短くしたりするなりにちゃんと工夫はしてるんだからね?」
「ふーん…まぁ、対策有りでやってんならまぁ…いいのか…?」
「あはは…止めても辞めるような人じゃないですしね…」
対策かぁ…考えてませんでしたね…
一応、結論としては、夏輝さんの制服はセーフ、という事になった…
多分なった訳ですが、どうも夏輝さんはまだ何か考えているようです。
さっきから何か面白そうな顔をしながら私たちを見渡していますからね。
「そうだ!これを機に皆の制服をチェックしようよ!それを動画にするの!」
ほら出ました。
突拍子もない企画。
「それって、何をするんです…?」
「そうだねー、例えばどこを改造してるとか、スカートの長さを測るとか!結構個性あると思うんだよねー」
「個性あるのはあんたくらいだと思うがな」
同感です。
「まぁでも、一応皆ちょっとくらいは弄ったりしてますし、その小さな違いを比べるのも悪くは無いのかいんでしょうかね…?」
実の所、動画のネタに困りかけていたので、こういうアイデア出しはありがたかったりします。
もちろん、そのせいで採用のハードルも下がっていたリハするのですが。
「あ、勿論白金君たちも参加だからね!」
「ええ、僕ですか!?男子はあんまり改造とかしてませんよ?」
「いいからいいから!実はちょっとやってるとかあるかもよ?」
そんな事を言いながら夏輝さんは白金君に飛び掛かっていきました。
後輩なので、大きく抵抗をする事もできず、成すがままにされている白金君…
「あの二人、何やってるんだろうな…」
「さぁ…分かりません…」
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筆者:倉井雪絵
ふぅ、教師の手伝いをしていたら随分と遅くなってしまったわね。
別に教師のご機嫌取りとか、そういうわけではないわよ?
成績は良い方だから。
そんな事はどうでもよくて、とにかく今は部室に向かっている途中。
よっぽどのことが無ければ部室は空いているはず。
少なくとも紅葉は居るでしょう。
居れば行く、誰もいなければ帰る。
そんな心持で部室のドアを開けた私の目の前に待っていたのは、
「あれ?黑音ちゃんスカートの材料変えてる?」
「え?か、変えてませんよ…?」
「あれー?なんか分厚いような…」
「もしかして冬服のまんまなんじゃないか?」
スカートを穿いてないのか、下だけジャージの紅葉の姿と、
紅葉のであろうのスカートを入念に観察?してるらしき夏輝と霜月さん、
そして、それを一歩引いた位置で気まずそうに見ている白金の姿だったわ。
「…何してるの?」
いつもは頭の中で一瞬本当に口に出すべきかどうか思案する私だけど、
今回は反射的に出ちゃったわよね。
今までの中でも格段にトチ狂った状況だったんだもの。
~~
「なるほどね。確かにわからなくもないわね」
詳細を聞いたけど、夏輝の制服の露出とかが校則ギリギリだって話になって、
そこから各々の制服のチェック企画になったって事らしいわね。
分からなくも無いわ。あいついつも跳ねまわる度にモロ見えてるもの。
別に不快じゃないけど気にはなってたし。
勿論風紀的な意味よ?
同じ部から違反者が出るとか嫌だもの。
その後、何かあるかもと専用の衣装に着替えた私たち。
この部はメンバーにそれぞれ衣装があるのよね。バーチャルYouTubeだから。
今の所初期メンの紅葉、白金、夏輝、私の4人にしかないけれど。
そうそう、これよ。
こんなだから部室内でコスプレ大会みたいなことしてんのよ。
私の衣装はストリートファッション。
紫のパーカーとロングスカートに野球帽。ぶっちゃけ私服同然だからそのまま町に出れるわね。
っていうか出てるわ。
紅葉のは真っ赤な和服。
って言っても振袖とかじゃなくて、何かしら。ゲームキャラの和服っぽい感じよね。
左袖だけノースリーブだったり、下半身はガッツリスリット…って言っていいのかしら。
まぁ、隙間があるのよ。
本人は気が付いてないかもしれないけど、…あ、言わない方が良いかしら。
で、白金のは、軍服ね。
白と青がベースの軍服だけど、青いマントが付いてるわ。
キマってはいるのだけれど、翻ったりしていると結構邪魔なのよね。
あと、長袖長ズボンだから、この季節は屋外は無理そうね。
そして夏輝のが、なんて言ってたかしら。魔法少女風バニースーツ、だったかしら。
要するに、バニーガールベースで、その上にリボンやらフリルやらを盛りまくった衣装よ。
当然バニーガールだから胸元も背中も鼠径部もガッツリ見えてる訳だけれど本人はどこ吹く風。
正直、私はアレを着るのはムリね。
こんなカラフルな4人が揃ってるせいで、今の部室は大変賑やかな事になってるわ。
この中で唯一まだ新衣装が与えられてない霜月さんが制服なのに逆に浮いてるくらいにね。
…その霜月さんが私たちを見る視線は何の視線なのかしら。
なんとなく「やっぱゴチャゴチャだなぁこの集団」って思ってそうな気がするわね。
正直私も感じてるわ。
とはいえ企画がなければ衣装を着ててもここは自遊空間。
何かネタが生まれるまでは本でも読んでいましょう。
フリーホラーのノベライズ版。
もう何度か読んでた奴だけど、結構読み返しちゃうのよ。
で、それを読んでたらスマホを弄ってた白金がふと思い出したように顔を上げて一言、
「思ったんですけど、制服なんかよりこの衣装の方がよっぽど校則違反ですよね」
固まる部室。
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筆者:紅葉黑音
「思ったんですけど、制服なんかよりこの衣装の方がよっぽど校則違反ですよね」
白金君の一言で、部室全体が凍ってしまいました。
と同時に、私は内心確かに、と思ってました。
比較的かっちりしてる白金君はまだいいとして、完全に私服姿な倉井さんとか、
バニーガールな夏輝さんとかは先生に見つかったらアウトかもしれませんね。
…私の姿も人の事は言えませんが…
そんな疑問に返事をしたのは、意外…って訳じゃありませんけど、倉井さんでした。
「一応、部活動の時にしか着てないから、ユニフォームとして扱われるわよ」
さっきからずっと読んでいた本から目を離さないまま、淡々と答えます。
「それはそうかもしれませんけど…バニースーツもユニフォームになるんですかね…?」
白金君のツッコミに、私も影響をうけて少し考え込んでしまいます。
確かに、ユニフォームでこんな格好する部活なんて無いような気がします。
っていうか普通バニーガールなんてカジノとかでしか見られませんよね。
カジノ行ったことは無いですけど。
「それを言ったら黒音ちゃんの衣装も中々だよね?」
「えぇ!私ですか!?」
そ、そんなに変な格好ですか?
と、自分の姿を見返すと…
…
確かに、学校には不相応な気がしてきました。
和服と言うだけでも茶道部位しか居ないのに、その上滅茶苦茶目立つデザインですからね。
全世界、部活でこんな格好してるのは私くらいなものだと思います。
そう考えると私と夏輝さんの衣装はセーフなのでしょうか?
「まぁ、セーフといえばセーフじゃないかしら?」
そんな疑問に答えてくれたのは、倉井さんでした。
「ただ単に露出度という点で語るなら水泳部とかの方が多いわけだし、部活は校外活動で、服飾規定も制服よりは緩いし、一応は問題無いんじゃないかしら」
正直ギリギリで、公共の場所に出たら一発アウトだとは思うけれどね、
と付け足しながら倉井さんは言います。
「ほら、やっぱりこれもセーフだよ!」
「あ、く、ま、で、この部室内でやる分には、よ。その格好のまま校庭とかぶらついてたらアウトよ」
自身の衣装を見せつけようとしてきた夏輝さんを、倉井さんは先手を打つように制止してきます。
「じゃ、じゃあ、結論としてはここで活動する分にはセーフって事…」
やや強引に纏めようとする私と、
「それなら僕のも問題無さそうですね!良かったー」
胸を撫でおろす白金君。
と終息ムードになりつつある中、ふと霜月さんが生徒手帳片手に声を上げました。
「夏輝とか紅葉の衣装が露出度的にセーフなのはわかったけどさ、倉井のはどうなんだ?」
「え?倉井さんですか?倉井さんのはそんなに問題無さそうな気がしますけど…」
倉井さんの衣装は、野球帽にパーカー、ロングスカート、そしてスニーカー。
特に奇抜な部分はありませんし、露出もありません。
これといって風紀に反する要素は見当たりません。
「倉井先輩の衣装は僕もあんまりおかしいとは思いませんね」
白金君も疑問に思っているようです。
ですが、
「いやさ、気になって校則見てたらさ、"校内活動中は、私服及び他校の制服に類似するものを禁ずる"ってあるからさ、それまんま私服だろ?まぁこれ制服改造の項のルールだけどさ」
霜月さんが気になっているのは風紀的部分じゃ無かったようです。
確かに…
校内を私服で歩くのはそれはそれでアウトですね。今の倉井さんの衣装は、町をぶらついていてもおかしくない、ザ、私服と言った風貌です。
「あー、確かに。そんな校則あったかも」
新たに議題の発生してしまった部室ですが、当事者の倉井さんは表情一つ変えてませんでした。
「確かにその校則はあるけど、演劇部とかに配慮して、部活動中においては教員の許可をとれば認められる、っていう特例事項があったはずよ」
「へー、そうだったんですか」
私、白金君。霜月さんの三人はただ頷いているしかできませんでした。
正直制服の改造とかそんなにする気の無かった私は、あんまり細かい所の校則は覚えてませんでした。
それにしても、
「倉井さんも制服の改造とか興味ないって言ってたのによく覚えてましたね」
倉井さんは私以上に制服に何の手も加えてないのに…
「そりゃぁまぁ、新衣装を用意するって話になった時に隅々まで勉強したからよ。あんまり悪目立ちとかはしたくないのよ」
「なるほど…」
「だから、新衣装の原案が出来た時に真っ先に許可を取りに行ったわよ」
ふぅと小さな溜息をつきながら、部室の椅子に深く腰掛けなおす倉井さん。
自由人な振舞いをしながらも、やるべきことははしっかりこなしている、案外真面目な幼馴染です。
「先生に許可取ってるなんてユキちゃんは真面目だねー」
「そういう所、結構しっかりしてますよね」
「え?部活動で使う衣装は物に関わらず届け出必須だけど…?」
「「「え?」」」
え?
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筆者:倉井雪絵
「もしかしてやって無いの…?」
本日二度目、凍り付く部室。
嘘でしょう?
届け出なんて初日にやってると思ってたのに。
「え…えっと…」
狼狽えている紅葉。
この様子だと、白金も夏輝もやって無さそうな感じね…
っていうか紅葉、どうやって特殊放送部を創部したのかしら。
「いいからやっておきなさい、活動停止になるわよ」
廃部まではいかなくても本来やるべき手続きをすっぽかせば、部活動停止は免れないでしょうね。
とうぜん今後生徒会に目を付けられるでしょうから、攻めた企画もできなくなる気がするわ。
この部室が校舎の隅にあったのが幸運だったわね。
「わ、わかりました!」「わ、わかった!」「じゃあ今すぐ許可取ってくるね!」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がった紅葉達は、急いで部室の外へと向かおうとします。
って、ちょっと待ちなさい!
「だ、か、ら!その格好で外をぶらつくなって言ったじゃない!」
特殊放送部、本当に大丈夫なのかしら。
あの衣装がセーフなのか不安になって来たわ…