8 フリージャーナリストのアルバイト
「彼は10年前に交通事故を起こして人を一人殺しているんですが御存じですか?」
オレがそう聞くと相手は驚いていた
どうやら知らなかったようだ
・・・御愁傷様?
おれはフリーのジャーナリストだ
記事を書いて雑誌社に持ち込む
編集長が気にいれば金が払われる
え?
儲かりまっか?
いや貧乏だ
フリーの記者なんてこんなものだぞ?
そのためなら何でもするぞ
どこかの記者が風邪をひいて原稿が落ちそうになったら代わりに書く
どこかのアイドルが本を出そうと思ったら代わりに書く
どこかに凶悪犯が居ればその生い立ちを面白おかしく暴露する記事を書く
その他いろいろだ
今回は、加害者のその後という題材での取材だ
めずらしく依頼仕事だ
前金で半分、後払いで半分
もちろん経費は別
美味しい仕事だな
いつやるの?
今でしょう!
速攻で承諾した
・・・世の中金がすべてだよ!
10年ほど前の雨の日
前方不注意で横断歩道を渡っている歩行者を車で轢いた運転手がいた
加害者の言い分は
「(被害者は)赤信号を渡っていた」
だった
「夫は夜中の車が通らない交差点でも赤なら渡らない人でした」
家族がそう言っても警察は聞かなかった
・・・加害者の言葉は無条件で信じるのに被害者の身内の話は聞かないのはなんでだろうな?
裁判が行われたが事件が起こったのが夜のこともあって目撃者は出なかった
そのせいか加害者の罪は以外に軽いものだった
裁判を傍聴していた被害者の嘆きは酷かった、らしい
10年後、その被害者の娘から依頼があった
加害者のその後を取材して欲しい
できたら出版社に持ち込みを
もちろんその報酬は記者の総取り
やる以外の返事はないよな
しっかりきっちり仕事した
まあ周囲の人間全員に取材したら当然事件が知れ渡る
「何の恨みがあるんだ!」
元加害者が言ってきた
・・・しかし、恨みがないと思えるところが凄いよな
いやオレはないんだが
被害者遺族はアリアリだ
たった一日で10万円払うとか正気の沙汰ではないと思うぞ?
そう伝えた
問われれば答えるように指示されていたからな
いちおう言っておくが記者の行動に違法性はまったくない
法律の範囲内で動いている
そう言う指示だったからな
昔、法律で守られた加害者が法律で没落する
今回の趣向だそうだ
元加害者は10年かけて一生懸命生活を立て直したが、たった1日で崩れ落ちた
目の前ですべてを無くした元加害者が膝をついて涙を流している
・・・いや何人かの人生を潰しておいて平気なくせに、自分の人生が潰されると泣きわめくとか意味わからんぞ?
その後、家族を殺した加害者の周りを嗅ぎまわれとかの依頼がバンバンくるようになった
ある意味、被害者遺族のネットワークの方が恐ろしいかった
いやこの場合は恨みかね?
まあ、金になるならばオレはなんでもやるがな