交通事故撲滅運動

6 新人医師の初体験

「お前がやれ」

先輩が言ってきた

目の前には交通事故でグチャグチャになった患者

研修医（インターン）相手に何やらせるんだ？

先輩指導医（オーベン）？

状況を説明しよう

ちょっと前のこと、ＥＲ（うち）に電話がかかってきた

交通事故の怪我人の受け入れが可能か？、と

先輩が詳しく話を聞いた後、受け入れを承諾した

その後、先輩がオレに向かって言った

研修医（おれ）が対処（やっ）てみろ

いや処置には自信があるけどさ

新米（オレ）にやらせちゃ結構やばいんじゃね？

・・・なんていえるわけがない

先輩医師（かみ）に逆らうわけにはいかないからな

患者が運ばれてくると詳細が判った

交通事故を起こして家族四人　～両親と幼い兄妹～　を殺した加害者、だった

治療の方針を決めるために事故の状況が患者と一緒についてきた

いやな情報だよな

研修医（おれ）がやっていいんですか？

ファイナルアンサーで聞いてみた

先輩のコメント

「いいんだよ、交通事故加害者（にんげんのくず）なんだから」

目がテンになった

そう言えば聞いたことがある

心臓が止まること3回

容体が急変すること17回

そんな瀕死の患者を止まりこんでまで助けたという先輩の伝説

今でもチューブまみれになって生きているそうだ

いわゆるスパゲッティ状態

ただ生きているだけの、胃に直接流動食を流し込まれ糞をするだけ

・・・口がきけたら「殺してくれ」というかもしれん

それも多分、今回と同じで交通事故加害者だったんだろう

今、ソレに気がついた

そうしてようやく判った

そりゃみんなが『ゴットハンド』だって言うはずだ

褒め言葉ではなく、畏怖を持って

・・・この人だけは絶対に敵にまわしてはいけない

そう思ったね