21 とある交通課課長の苦悩
「ばかやろう!」
思わず怒鳴った
暴走族を追い回した上にバイクを転倒させて相手を病院送りにしたんだ
交通課課長は間違っていない(はずだ)
事の起こりは管内の道路整備が始まったことだ
完成から30年も過ぎると道路のアスファルトというのは穴だらけになる
耐久年数が20年だから当然だ
そうすると
陥没して車がはまったり
雨が降ると巨大な水たまりがあちこちにできてスリップして事故が起こる
等々問題ばかりが起るようになる
問題が起るたびに対応にはいる現場の警官の苦労といったら1晩中でも語り終わらないだろう
・・・宴会のときなんかブーブー酷いからな
道路工事というのは費用が膨大で毎年「予算がない」との理由で先送りされてきた
もっとも政治家や土建屋の駆け引きの結果、進まないという事実を知る人間は結構いるがな
それが誰の気まぐれか都市開発の名目でかなり予算がついた
それも数年計画で、だ
絶対に政治家が悪い事をしているな
そしてバレそうなら工事業者を人身御供にするだろう
・・・まあ、ただの交通課の課長には関係がないがな
関係があるようになったのは道路の整備が完了した後のことだった
片側2車線のピカピカの道路
それも長いストレートコースに速度を出しても曲がれるほどの巨大で緩やかなカーブ
あっという間に暴走族が目を付けた
・・・昭和が全盛期だったが平成だって生き延びているから驚きだ
土日の真夜中になると爆音をとどろかせて数十台のバイクが走り回る
当然、警察には苦情の電話が殺到だ
「安眠妨害だ!なんとかしてくれ!」
「あかちゃんが驚いて眠れない」
「税金泥棒!」
等々、数多くの苦情が寄せられた
騒音だけならよかっただろう
いやよくないが
それよりも暴走行為の方が警察としては問題だ
青信号を渡ろうとしたら横からバイクが次から次へと現れる
思わず急ブレーキをかける
後ろの車が追突してきた
なんて事故が起る
あるいは
バイクを車に寄せて行き驚いた運転手がハンドルを切り損ねて電柱にぶつかるようにする
またある時は
バットやら棒やらで走っている車のガラスを割ったりする
などということもあった
一般車両はたまったものではない
多くの警察官を動員して取り締まるが全然捕まらない
パトカーに対して小回りのきくバイクが相手なのだから仕方がない
しかし署内の雰囲気は段々悪くなっていった
そんな中、とうとう暴走する警官が出た
それが婦警なのが驚きだ
・・・昭和の頃なら無茶するのは男性警官の方だったんだがな
バイクを追いかけた結果、事故が起った
暴走族は病院送りになった
・・・言っておくがすべて法律の範囲内の行動だ
最近はそのへんが厳しいんだ
ちょっとでも外れると検察もマスコミも人事一課がうるさいからな
「「もうしわけありませんでした」」
呼び出した婦警達が頭を下げて謝ってきた
まあ気持ちはわかる
おまえらがやらなかったら課長がやっていただろう
だが警察を運営するには鉄の規律が必要だ
だからあえて叱ろう
そうすれば処分もしずらくなるだろう
しかし
「なぜとどめをささなかったのか」
と言いたくなるを我慢するのは大変だ




