17 片翼の天使
「うわっ、気持ち悪っ!」
電車に乗るとそんな声が聞こえてきた
いつものことなのでグッと歯を噛みしめてガマンする
現在、25歳
死ぬまでコレが続くかと思うと絶望しかない・・・
オレの右手、いや右腕は根元のちょっと下からない
だから洋服の腕の部分はブラブラとしているか、ベルトの下に入れて固定するか、のどっちかだ
子供の時の交通事故が原因だ
休日に家族で公園まで出かけた時のこと
父親が運転する車が交差点を左折しようとしていた
そこに対向車線の車が右折してきた
そうして父の車の前に強引に割り込もうとしたところ、見事に目測を誤ってうちの車の右側に衝突した
運転席の後ろの後部座席に座っていたオレは車二台に挟まれたようなものだった
身体が挟まれたせいで瀕死の重傷だった(そうだ)
消防自動車が来て、大きなカッターで車を切り裂いて救出された(そうだ)
骨が至る所で折れていた(そうだ)
出血が激しくて文字通り血だるまだった(そうだ)
一番挟まれていた右腕はグチャグチャになっていた(そうだ)
緊急手術の結果、右腕は切断された
医師曰く、右腕だけで済んでよかった(だそうだ)
・・・頭を打っていることもあり2週間ちかく意識が戻らなかったんだから当然といえば当然(だそうだ)
まともな生活ができるまで約半年
大変な日々だった
でももっと大変だったのがその後だ
片腕がないんだ
着替えるのにも一苦労
荷物を持つのも一苦労
・・・それだけだったらよかったんだけどな
外を歩くたびに好奇の視線を浴びる
それだけでもキツイ
でも
「うわっ、気持ち悪っ!」
「え~、マジで!?」
「おかあさん、あのおねえちゃん、怖いっ!」
「うえ~ん!」
日本語の表現の豊かさを身をもって実感する日々
事故から十年以上の苦行の日々
そしてその数倍が後に確定している
この地獄から解放される日が本当にくるのか、と言いたくなる
・・・加害者は3年くらいで交通刑務所を出て、普通に暮らしているらしい




