15 着ぐるみの中の人
「けいぶ、ばいば~い」
「またね~」
ブンブンを手を振りながら幼稚園児達が帰っていく
園児達が見えなくなってようやく尻もちをつく
もうヘトヘトだよ
着ぐるみの中は結構、いやマジで暑かった
状況を説明しよう
オレは警察官になって2年目の巡査だ
え?
1年目?
警察学校と交番勤務だけで終わったぞ?
もっとも2年目になっても交番勤務だけどな
そんなオレがなぜ交通安全教室の着ぐるみを着ているかというと、ただ単に人手不足のせいだ
交通課主催の交通安全教室では北警部という犬のおまわりさんが登場する
ウチの管内が北警察署だから北警部
実に安直だな
でもいるといないじゃ子供の反応が違う
所詮は幼稚園のお子様だ
通常は交通課の人間が入るのだがこの猛暑でみんな体調を崩したせいで誰も入る人間がいなくなった
・・・外気温35度とかで着ぐるみを着ること自体間違っている
でも交通事故の発生は暑いからといって待ってはくれない
体力自慢の交通課の若手は頑張った
・・・頑張りすぎて熱中症になって装着禁止、どんだけ仕事に命を賭けているんだよ、と言いたい
交通課の若手が全滅したので地域課のこちらにお鉢が回ってきたというわけだ
そんなわけで交番勤務で体力の有り余っている20代男性に出番が回ってきた
・・・Noと言えない平巡査は大変だ
ついこの間もスマホのながら運転で子供が一人死んだ
この交通安全の意識が高まっている所を利用しない手はない
というわけで園児、児童向けの交通安全教室の連日開催だ
子供の死亡事故を利用するのはちょっと・・・
と言ったら班長がオレの両肩をガシッと掴んで持って言ってきた
「普段は口を酸っぱくしてまで言っても、全然気にかけない奴らの相手を一度してみるか?
無理解と無関心のヤツらばかりだぞ?」
・・・日頃の苦労が伝わってきた
うん
仕方ないよな
子供の死を利用しているんじゃない
いつも通りの通常のお仕事しているだけだ
たまたま聞く気になっただけ
・・・納得したらなぜか明日もあの蒸し暑い着ぐるみを着ることになった




