008.螺旋
全身に意識を集中させる。
ゆっくりと身体を動かす。
さっきのように流れるように動かしたら、全身への集中が動かしている部分だけになってしまうから。
腕をS字に動かす。
まずは右手を顔の外の方に向けて。
斜め後ろへと動かしていく。
一緒に、少しずつ。
身体が水面へ向けて傾いていく。
右手が頭を越えて、肩くらいまで広がっていく。
そのときには、すでに肩幅、顎の位置辺りに手が来ていた。
そこで今度は手を少しまっすぐと後ろに動かす。
一瞬、身体の傾きが停止する。
身体の内側へと水を掻いていく。
へそに向かって、まっすぐに。
身体の傾きが再開する。
水の重さを強烈に感じる。
へその辺りにまで手が来ると、今度は手を外側へ向けて掻いていく。
同時に頭に意識を集中させる。
傾きすぎないように、抑える。
視界の端に、水面のラインが見える。
視界の半分と少しが、水中の景色を映している。
そのラインの、口がある部分と思われる辺りが、ぽっかりと凹んでいる。
呼吸を始める。
吸いすぎないように、少しだけ。
吸い始めて一瞬後、手が水を掻ききった。
ゆっくりと、肩の力を抜いて、肘を視点にして天へと高く掲げていく。
呼吸をしながら。
今度は呼吸をやめる。
同じ頃、肘が上へ十分行ったことから、今度は肘にも意識を集中させて前へ前へと動かしていく。
同時に身体の傾きが、水面と平行になるように元に戻っていく。
顔の傾きもそれと同じく戻していく。
右手が左手の手首と同じ辺りにきたとき、左腕が少しずつ自然と動いていく。
同時に、身体の傾きが戻るスピードが一瞬速まり、刹那で平行になる。
右手をもっと前へ前へと入水角度を意識しながらも、動き出した左手にも意識を割く。
左手を外側へと掻いていく。
斜め後ろへと。
身体もそれと同時に傾いていく。
左側が、水面から出ようと。
左手が頭を越えて、肩辺りの幅まで広がっていく。
そのときには、すでに肩幅、顎の位置辺りに手が来ていた。
そこで今度は手を少しまっすぐと後ろに動かす。
一瞬、身体の傾きが停止する。
身体の内側へと水を掻いていく。
身体の傾きが再開する。
水の重さを強烈に感じる。
左手が乳首から手を縦にひとつ分ほど進むと、ようやく右手が入水した。
それでもなお前へ前へと意識して右手を伸ばしていく。肩から。
左手がへその少し前まで来る。
右手の前身が止まった。
そして左手がへその辺りにまで来る。
今度は手を外側へ向けて掻いていく。
同時に頭に意識を集中させる。
今度は呼吸をしないから、頭が動かないように、抑える。
頭が動かないように、前方を見据える。
視線を固定する。
左手が水を掻ききった。
ゆっくりと、肩の力を抜いて、肘を視点にして天へと高く掲げていく。
前を見据えながら。
肘が上へ十分行ったことから、今度は肘に意識を集中させて前へ前へと動かしていく。
同時に身体の傾きが、水面と平行になるように元に戻っていく。
顔の傾きもそれと同じく戻していく。
左手が右手の手首と同じ辺りにきたとき、右腕が少しずつ自然と動いていく。
同時に、身体の傾きが戻るスピードが一瞬速まり、刹那で平行になる。
左手をもっと前へ前へと入水角度を意識しながらも、動き出した右手にも意識を割く。
右手を外側へと掻いていく。
斜め後ろへと。
身体もそれと同時に傾いていく。
右側が、水面から出ようと。
右手が頭を越えて、肩辺りの幅まで広がっていく。
そのときには、すでに顎の位置に手が来ていた。
そこで今度は手を少しまっすぐと後ろに動かす。
一瞬、身体の傾きが停止する。
身体の内側へと水を掻いていく。
身体の傾きが再開する。
水の重さを強烈に感じる。
右手が乳首から手を縦にひとつ分ほど進むと、ようやく左手が入水した。
それでもなお前へ前へと意識して右手を伸ばしていく。肩から。
右手がへその少し前まで来ると、左手の前身が止まった。
そして右手がへその辺りにまで来ると、今度は手を外側へ向けて掻いていく。
同時に頭に意識を集中させる。
今度は呼吸をするから、頭が傾きすぎないように、抑える。
頭が傾きすぎないように、前方を見据える。
視線を固定する。
視界の端に、水面のラインが見える。
視界の半分と少しが、水中の景色を映している。
そのラインの、口がある部分と思われる辺りが、再び、ぽっかりと凹んでいる。
呼吸を始める。
吸いすぎないように、少しだけ。
吸い始めて一瞬後、右手が水を掻ききった。
ゆっくりと、肩の力を抜いて、肘を視点にして天へと高く掲げていく。
前を見据えながら。呼吸をしながら。
今度は呼吸をやめる。
肘が十分上へ行ったことから、今度は肘に意識を集中させて前へ前へと動かしていく。
同時に身体の傾きが、水面と平行になるように元に戻っていく。
顔の傾きもそれと同じく戻していく。
右手が左手の手首と同じ辺りにきたとき、左腕が少しずつ自然と動いていく。
同時に、身体の傾きが戻るスピードが一瞬速まり、刹那で平行になる。
右手をもっと前へ前へと入水角度を意識しながらも、動き出した左手にも意識を割く。
左手を外側へと掻いていく。
斜め後ろへと。
身体もそれと同時に傾いていく。
左側が、水面から出ようと。
……。
…………。
………………。
繰り返す。
繰り返す。
繰り返す。
延々と、意識を集中させながら。
ひたすら同じ動作を繰り返す。
退屈な行動。退屈な視界の移り変わり。
だけど悠には、それはとても面白いことだった。
自分の力で泳げる。
泳げている。
……彼女への距離が、また少し、縮まったことを意味しているから。
……悠の頭に、ゴツンと、衝撃と痛みが走った。
突然のその出来事に、身体は弛緩し、足からポルブイが外れる。
同時に身体に無数の水が絡みつき、悠の思考が真っ白に染まる。
――何か掴まるところ……。
――早く、早く……!
がぼがぼと口から気泡を漏らしながら、がむしゃらに手足を動かす。
手はプール壁にぶつかる。
しかし掴まることはできない。
他に何か掴まることはないかと身体を動かしながら暴れていると、あたたかい何かに指先が触れた。
それが何かを理解する暇もなく、悠は必死に両手を伸ばしてそれに抱きつく。
そしてそれを伝って頭を上げると、突然、頭の上に柔らかいものが乗っかった。
否、頭が触れた。
瞬間、誰かに力尽くで頭を水中に上から抑えつけられた。
どうしてそんなことが起きたのか。
理解不能な出来事に、灰の中の空気がすべて口から出て行ってしまった。
意識が遠くなる。
それと共に、全身から力が抜けていく。
暴れる力が弱くなっていき……、
……突然、身体を引っ張り上げられた。
「がはっ、はあっはあっ……!」
悠は顔をしかめて、荒く呼吸して身体に酸素を取り込んでいると、
「お前なあ、急に人の足に抱きついて人の股間に頭をくっつけるなよ。それも力一杯。びっくりして、水の中に頭突っ込んじゃったじゃんか」
「お、前だ、ったのかよ……! 死ぬかと思ったじゃん!」
「仕方ないだろ。男が股間に向けて突っ込んでくるなんて、反射的にそうしても仕方ないことだろ、常識的に考えて」
「それは、そうだ、けど!」
「なら仕方ないだろ。で、いい加減……俺から離れんかいッ!」
無理矢理蹴飛ばされて、悠の身体はコースロープにぶつかる。
ロープに抱きつきながら身体を起こし、息を整える。
「それと、だけどな。今回の泳ぎは比較的よかった。だけど、水を掻ききった後の腕の動かし方が少し問題だな。お前、肘を思いっきり上に上げてるだろ」
「ああ」
「それじゃあ駄目だ。ちょっと上半身を倒してみろ。そんで、右腕を掻ききった後の状態にしろ」
「これでいいか?」
「ああ。そうしたら、腕の力を抜け。完全に脱力させるんだ。そんで、水面を這うように肘を動かしていくんだ。ほら、こんな感じで」
自分のそれとは違い、燐の腕の軌跡は水面に擦るくらい低空飛行している。
その動きを真似る。
すると、かなり楽に腕を動かせることに気づいた。
先ほど泳いでいたときは、肩がパンパンになるほど疲れる動作であったのに。
「そう、それでいいんだ。さっきみたいなやり方だと、肩に無駄な力が掛かるからな。疲れるし、フォームのバランスが崩れる」
燐の言葉を聞きながら、両腕を動かしていく。フォームを、身体になじませるように。




