029 (閑話)お姫様とドラゴンその2/2
オビトが夜に焚き火をして休んでいる時に物音に気が付きます。
音の元を探すましたが暗くて見つかりません。
音はだんだん近づいて来ます。
「こんばんは。邪魔していいかい?」
音の元は初老の剥げた男でした。
オビトは盗賊を疑いましたが、盗賊なら既に命は無かったでしょう。
男はオビトに話しかけました。
「旅人かい?何処まで行くんだい」
オビトは今迄の経緯を説明します。
男は少し悩んだふりをして、道案内を申し出ます。
道に迷っていたオビトはこれ幸いと受け入れます。
「私はオビト。名前教えてくれるかい」
「私はセバ・・・いえ、ゼスといいます。こちらこそよろしく」
日が明けてから出発しました。
ゼスの案内が良かったのかお昼頃には到着しました。
オビトは驚きました。違和感はありましたが、予想以上に早く着いたので、気のせいとして忘れる事にしました。
国の門の詰所で入国手続きをします。
審査が無かったのは拍子抜けでした。
それ以上に衛兵が記入した書類のサインに喜んでいたのが不思議でした。
更に門の外にある閂がとても重苦しい光を伴っていました。
入国して驚いたのは、街並みが酷く荒れていた事でした。
国民の目に生気がありません。
ゼスが真っ直ぐに宿屋へ向かいます。まるで全て知っている様に。
宿に着き荷を降ろした時に鐘がなります。
ゼスは「早過ぎる」と驚いています。オビトには訳が分かりません。
間も無く兵士が現れ、オビト達は問答無用に連れ去られます。
お城の謁見の間に放り込まれてしまいました。
床が不気味に黒く濁っています。そして立ち込める鉄の匂い。
オビトは状況が分からず困惑していますが、ゼスの臨戦に備えた姿に、危険な状態は理解しました。
奥の扉から3人の女性が現れました。
異様な情景でした。
先頭の女性は気高く立ち、鈍く輝く重いネックレスをまとった2人の女性を従えていました。
従者の片方の服に爆ぜた乱れに気づき、ゼスの表情は異常に険しくなっていました。
先頭の女性が、オビト達がサインした書類を掲げて言い放ちます。
「この国の法に基づき、恒例の審判を行う」
「ゼス及びオビトはこの国を脅かした罪で処刑を申付ける」
まるでハートの女王の如く、審議など御構い無しに言い放った。
ゼスは力の限り声を張り上げる。
「時の巫女よ。何が起きたのだ!前回は鎖に縛られていなかったはずだ!」と。
オビトには事態が分かりません。
先頭の女性が卑下た笑みで答えます。
「裏切り者には当然の姿とは思いませんか?」
そう言うと時の巫女と呼ばれた女性の鎖を力いっぱい引っ張ります。
「これから裏切ったのだ。信賞必罰は当然の事だろう」
ゼスはこれから起こり得る事に裏切られた悔しさ交じりに言う。
「いつ知った?どこで知った!」
先頭の女性は見下して言い捨てる。
「知りたいか。知りたいのであれば、仕えるに相応の礼装に着替えてから緩りと語ろうではないか」
そう言って指さす先には、背丈程ある蝋燭立てに、灯火で光る衣装が吊り下がっていました。そして女性は鋭い光を振りかざして話しを続けます。
「着替えなら心配いらぬ。手を貸してやろうではないか」
時の巫女、審判、そして剣。オビトはお姫様のお話しを思い出しました。
予想が正しければ、目の前にいる女性は3人の巫女。
剣の巫女はその力にまみれて、剣の悪魔になってしまったのでした。
オビトは失意しました。
正直者の暮らす幸せの国は絶望で染まっていたからです。
閂は民が逃げられない為に。
門兵の喜びは、私達を差し出す事により僅かでも生きながらえた喜び。
オビトには何にも出来ずまま、抗える気力も失ってしまいました。
悪魔は秤の巫女の鎖を引き「速く審判を下せ」と命令する。
ゼスは一縷の希望を託して時の巫女へ訴えます。
「時の巫女よ。まだ後悔の思いが残っているのなら、謝罪の気持ちがあるのなら、私達を、いやオビトを彼の地へおくってくれ!」
時の巫女はゆっくりと手枷に繋がれた両手をゼス達へ向けて応えます。
「お願い、します。 ドラゴンと、お姫様を・・・」涙を流しながら。
そしてオビトとゼスの姿が消えた。
ここは湖畔。
オビトが見慣れた風景が広がります。
すぐ横でゼスが悔しがって大地を叩きます。
「届かなかった。力不足だったんだ。悪魔め、悪魔め」
ゼスは落胆していました。オビトは心配して声を掛けるもゼスには届きませんでした。
我に返ったゼスが、何が起きてしまったのか分からないオビトに説明します。
ゼスの説明はこうでした。
・本来のゼスは剣の悪魔に屈してしまう事。
・そして時の巫女は悪魔の成り立ちに後悔しする事。
・時の巫女は断罪にとオビトをこの湖畔で傷を癒やしているドラゴンの元へ時を遡り送り届ける事。
・オビトは幸いにも湖畔の別荘で療養している王様一行、特にお姫様と一緒にドラゴンを助ける事。
・オビトが王様の元で学び、セバスと名を変え執事へ就任する事。
・残虐な悪魔が現れない様にと、セバスであるオビトが世界を救うべく、この輪廻が続いていた事。
しかし、この輪廻は最悪の結果で終わってしまった事を最期に付け加えました。
と、突然、少女の悲鳴が聞こえます。
そこには、つい先程オビトを見送ったお姫様とくまのぬいぐるみ達。
反対側からは、身の毛がよだつ剣の悪魔の声。
「ここに隠れていたのですが。探しましたよ。お姫様」オホホと高笑いが不気味に響く。
剣の悪魔は息絶え絶えの時の巫女を、もう用済みという風に投げ捨てました。携える剣はわずかに光を帯びました。
続けて秤の巫女へ剣を当てて
「同じになりたくなくば、審判を宣言せよ」と脅します。
秤の巫女は恐怖で声がだせません。
宣言すれば断罪の剣が力を増します。
悪魔は焦れて秤の巫女も投げ捨ててしまいました。剣は更に光を帯びました。
「次は、貴女の番ですよ。お・ひ・め・さま」深く重い笑みを浮かべながら近づい行きます。
剣の悪魔は時と秤の力を帯びた剣で、お姫様に襲い掛かります。
くまのぬいぐるみ達は剣の悪魔に立ち塞がり、お姫様を守ります。
くまのぬいぐるみ達を斬り伏せようと剣を振り払たその時、大きな音と共に煙が広がります。
地響きがした所には大きなドラゴンの脚が沈んでおりました。辛うじて避けた剣の悪魔。
ドラゴンはお姫様を見ると、誤って踏んでしまわないようにと、人の姿に変わります。
「成人の儀で邪魔をしたドラゴンめ。何度も何度もよくも邪魔してくれよって」
剣の悪魔の、呪いの様な言葉が響きます。
成人の儀で振りかざされた剣はドラゴンではなく、お姫様に向けてのものでした。
ドラゴンは助けられた恩を返す為に、お姫様を守って居たのです。
お姫様は思い出しました。王様と王妃様と一緒に旅した湖畔の片隅で、傷ついたドラゴンを通りすがりの旅の青年と一緒に介抱した事を。
お姫様は悟りました。幼かったかとはいえ自分の犯した罪の事実を。
お姫様は勇気を振り絞り、守り立つドラゴンの前に歩み、唯一残された慈愛の力を以って宣言します。
「わたしは、慈愛の神の名の以って、あなた達を許しましょう。あなた達が重ねた罪は全てわたしが身にまといましょう。わたしは全てを許しましょう。全ての御力よ元あるところへ還れられよ。」
自然と言葉が出できました。
まばゆい光に包まれた後、そこにはお姫様とドラゴン。そしてお姫様を助けるべくドラゴンを探しに出たゼスと名乗ったセバス。そしてオビトの4人が残されていました。
お姫様とセバスは元の幸せな国に戻す事を決意しまして祖国に戻って行きました。
引き続き恩を返したいというドラゴンと共に。
ただひとり残されたオビトは、何もできなかった自分自身を悔やみ、孤独な旅に出たのでありました。




