027 死後の世界では
「向こうにはとても小さいですが、国が御座いまして、その国が目的地で御座います。そこまでご案内致しましょう」
と言って、道化者は紅葉をおんぶしながら歩き出す。
太陽を背にしているから、北方へ向うのだろう。日本と同じく地球の北半球なら、の場合だけど。
それにこの世界の暦なんて知らないから、現代社会で想像するしかない。
夕刻・・・今の太陽の高さだと午前10時過ぎ位だろうか。それから夕刻を午後4時とすると6時間の計算だろう。そんなにウォーキング大会をさせられるとは思いもしなかった。
その間ずっと道化者と一緒かぁ・・・からかわれるのは嫌だなぁ。
同行されるのは良い気がしないが、私は自慢できる程の方向音痴だから、ここで放り出されても困る。
「そういえば、なんで男の姿に戻ってる?」
「この姿は、数ある容姿の中でもお気に入りなのですが、何かご不満でも」
「女の姿を希望していたはずだけど」
「流石にドレス姿では歩き難いでは御座いませんか」
それなら『森ガールコーデ』にすれば良いじゃないか。と言おうと思ったけど、想像したら凄く似合わないので止めた。
それに未知の世界、何が襲ってくるのか分からないこの状況。野獣なら兎も角、盗賊だったら逃げようが無い。女と子供、格好の獲物だ。
それよりも成人男性が居るだけで牽制になると思えば、確かにその通りだと納得してしまった。国に付くまでは言う通りしするしか無いだろう。
「そうそう、子供の脚では到着予定が夕刻頃になりますが、心配なさらないで下さい。ちゃんと休息時間含めてております」
改めて言わなくていいよ。それにそんなに遠くの土地に転生させるなよと言いたいが、今更どうなるものではない。
少しでも早く着くようにと速足で歩くのだが、これでやっと大人と同じ速さとは・・・。
「それでは、この世界についてご説明致しましょうか」
「この世界?目的の国じゃなくてか?」
「知らない事は、死を近づけます。ですから、大まかな説明をしましょう。詳しく話しても覚えられないでしょうから掻い摘まんで、で御座います」
「ああ、よろしく頼む。けど、変な含みを入れてからかうのは勘弁して欲しいな」
「そこは竜登様の器量と度量次第で御座います」
そういう変な含みをされるのが嫌なんだと言ったのに、悪い方で即答かよ。ちくせう。
「安心しろ。私は『大器晩成運』の持ち主だ。器量・度量の大きさは期待して良いぜ」
「しかし、その大器は晩成届かず、中途半端に崩れてしまったと思われますが」
変に含み笑いがあって苛立ったが、正論なので何も言えない。
・・・中途半端?・・・
「そういえば、私の体はどうなった?」
「そこに有るのでは御座いませんか」
「仮初めの体では無く、元々の体だよ」
「今のお体は仮初めでも借り物でもなく、紛う方なく竜登様のお体で御座います」
「それで、前の肉体はどうなった?と質問しているつもりなんだけどな!」
「通報しました」
そう言って、道化者は空いた手で電話の手話表現をしていた。
「どこに!だよ。まさか闇ルートじゃないだろうな!!」
「非道い言われ様ですね、残念です。竜登様はわたくしを何と思っていらっしゃるのでしょう」
紅葉をおんぶしているので、控えめなオーバーアクションで訴えてきた。
「悪魔」
「ああ、なんて素っ気ない物言いをされるのでしょうか。もっと言い方があるでしょう。『輝かしい』とか『美しい君』とか」
だいたい、急いで歩くのが精一杯なんだから、考える余裕なんて無い。
「それじゃ『傲慢』」
投げやりに答えた。
「何故『傲慢』だとおっしゃいますか」
「自分の考えを押しつけるのは『傲慢』以外に何があると?」
「そうでしたか。何か考えがあるのかと思いましたが、残念です」
少々気落ちした感じを受けた。何か期待していたのだろうか。
そんな事よりも
「到着が夕方って言ったよな。日が暮れたら何も出来ないだろうに。できるだけ明るい内に到着したくて急いでいるんだよ」
「おや、意外と冷静なのですね。てっきり「異世界バンザーイ」とか考えていると思いましたのに」
よく観察してやがる。半分はその通りだと図星を突かれて焦った。焦りを気付かれるのは嫌だから話題を戻そう。
「もう一度言うけど、前の肉体はどうなった?と質問しているつもりなんだけどな!」
「何故、その様な事を気にされるのでしょうか?もう過去の事では御座いませんか」
「もちろん、知った所で今更どうこう出来る状況じゃ無いのは分かってるさ。ただ、早く終活しておけば良かったと後悔している所だよ」
「終活?ですか。なるほどエンディングプランをしたかったのですね」
なんだろう、ブライダルっぽく聞こえたのは気のせいだろうか。
「そうだよ。身寄りが無いので孤独死確定だったからな。『片付けする人』にできるだけ迷惑掛けたく無かったと、今更後悔している訳だよ」
「見つかったら恥ずかしいモノがあって、死ぬに死にきれないとお考えなのですね」
本当に痛い所を突っ込んでくるな。半分はその通りだよ。からかわれたく無いから是とはしないけど。
「そういう冗談に付き合える程、気持ちに余裕は無いって言ったよな」
「それでは、どの様なお考えなのでしょう。少々気になりますね」
否定されたのが悔しくて、他に理由があるなら言ってみろって感じだな。
「さっき言った通り、遺体を片付ける人のトラウマに成らない様にしたかったんだよ。警備会社に葬儀屋、それと弁護士に相談して、死んだ後の事を任せる準備をしておけばとね。まぁそれでも家でひっそり事切れたからマシだと思ってる。交通事故、とくに電車だと運転手どころか衆目にもトラウマを与える所だったからな」
正直な所、交通事故死で無かったのは幸いだと思う。飲酒とかスマホしながら運転なんて輩は極刑になっても同情しないが、遺族や縁者にのし掛かる不幸を想像すると、相当に重苦しいくなる。
免許更新の講習で見たドラマ程度のイメージしか思い浮かばないが、実際はもっと悲惨なんだろう。
「おや?人生を投げてる様でいて、無駄に冷静で、周りの心配をされるのですね」
「無駄は余計だ!それにおかしいか?変な人間と思うかい」
「おかしくない。と言えば嘘になりますが、死んだら墓はどうする?と考える人は多いでしょう。まぁ特殊な考え方でしょうが、変とは思いせんね」
微妙な返しだな。
「でもご安心下さい。声色真似て緊急通報しました。病院に搬送後にインフルエンザにより間もなく息を引き取りました。という手はずを整えましたので」
消防機関にイタ電して、医療関係者に迷惑掛けてるって気もしなくないが、税金や健康保険に年金はしっかり納めていたのだ。事後処理を任せても罰は当たらんだろう。
それより事件性を疑われて警察も巻き込んでしまっては、それこそ報道の格好の餌だ。そんな醜態はさらしたく無い。今思いつく結末では一番マシな結果だと思う。
「これが通報っていう理由か。悪くは無いが、他にもやりようがあったんじゃないかい」
「竜登様が納得できる終いを演出するのも『契約』に含まれております。行方不明では心残りが御座いましょう」
「納得か?・・・確かに心置きなく、新しい人生に歩めそうだよ。あr・・・」
最後は恥ずかしくて言葉を濁してしまった。
「それでは改めまして、この世界についてご説明致しましょうか。先ずは、この世界に伝わるおとぎ話でも致しましょう」




