000 前狂言
「よーおっ。たんたんたたたんたん」
ピエロが歌舞伎役者の真似事をしながら、包み太鼓の代わりに自らのかけ声で登場してきた。
ここは舞台の幕前である。
「
これはこれは皆様、お忙しい中わたくし達の為にお時間を割いて頂き誠にありがとう御座います。心より感謝申し上げたく存じます。
折角、時間を頂戴させて頂きましたのに、舞台はまだまだ準備中で御座いまして大変恐縮で御座います。
お待ち頂く間、余興とまでは申しませんが、わたくしめのお話しで愉しんで頂きたく、この度登場させて頂きました。
え、わたくしの名前ですが?
わたくしは只の準備係。皆様にお伝えできる程大層な名前は御座いません。
名乗れぬ失礼は重々承知では御座いますが、ご理解頂きたく存じます。
それで、お話しというのは舞台の演目について少々・・・って、そこの紳士淑女達よ。スマホで遊んで下さいますな。せめてわたくしからの案内を聞いて下さいませ。
舞台はの中心は『転生』による新しい世界で御座います。
あれあれ、皆さん?反応が薄いですね。
え~と、なんですか。
今更、転生話しは珍しくもないと、そうおっしゃいたいので御座いますね。
それはそうでしょう。
なにより神話の世界、皆様のお国では『古事記』まで遡りますし、六道の転生が語り継がれております現在では確かに今更という思われるのも当然至極というもの。
とはいえ、折角頂いたお時間です。
開幕までの間、できる限り愉しめます様に心尽くしましょうではありませんか。
って、そこの紳士様。音楽を聴き始めて瞑想するような格好はご免なさって下さいませんか。
はいはい?わたくしの言動が気持ち悪いと申されますか?
それは困りましたね。
これがわたくしの役所で御座います。それゆえに座頭にお伺い立てないとどうする事も出来ないので御座います。
・・・って、またもや音楽に浸るのは待って下さいませ。
:
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おや、どうやら、前準備は済んだみたたいで御座いますね。
わたくしのお役目はここまでですので、皆様と分かれるのは少々寂しいですが、さっさと去ると致しましょう。
それでは、演目開始まで今暫くお待ちくださいませ。
」
ピエロは深々と礼をして、登場した時と同じように袖へ帰っていった。