不思議をのりこえて繋がる友情
このお話の時代は、昭和四十年代。バブルもオイルショックもまだ来ていない穏やかな時代。この物語の舞台は山梨県F市、朝見小学校(架空)子供たちは学校で、放課後も学校でドッジボールをしたり、男の子はケンケン相撲や三角ベースボールに、女の子は友達の家で長話に夢中になっていた。大体はクラスの男の子の格付けを楽しんでいた。
楽しみは、公園に来る紙芝居。目当ては、型抜などでもらえる、ミルク煎餅やあんず、水飴などでした。また、ポン菓子屋もよく回ってきました。男の子たちは、公園や友達の家の近くでビー玉やコマ回し、メンコで遊んでいて、ホンケンでは負けたら取られるのでみんな真剣になっていて、うまい子は、缶の中にとてもたくさんメンコを持っていたりした。
まだテレビゲームや携帯電話のない時代。ケンカもたまにあったけど、みんな仲良しだった。
登場人物は、主人公昭夫君、磯部昭夫。文ちゃんこと路地文太郎。
友達には、ろじぶんとも呼ばれている。そして文ちゃんの仲良しの、ちずちゃんこと、橋場千鶴子は、おかっぱの少女。後から吉岡佐和子が登場する。もう少し彼らの事を伝えると、血液型はたぶん昭夫はB型。文太郎もB型。千鶴子はAB型。佐和子はA型と思える。昭夫は何でも首を突っ込むが仲間に助けてもらってる。文太郎は食べることが好き。千鶴子は料理や読書が好き、お裁縫は家庭科でも苦手。でも時として思いもしない行動をするときがある。
彼らは学校でもその筋で名前が広まり。名前からABCトリオ とか、 いろは組とか言われている。
さて、彼らの活躍する世界にあなたも共に行って楽しんでください。
昭夫の毎日はこんな風に始まる。
「磯部の隣の開いた席は、吉岡と言って、病気でずっと休んでいる。磯部一度見舞いに行ってやってくれ。それと、みんな、明日は宿題のプリントを忘れないようにな」
と藤田先生。
その日昭夫は学校に忘れ物をしてしまった。明日宿題提出しなければならないのに、そのプリントを机の中に入れ忘れた。
夜になって校舎に入ると、三階の 五年三組の自分の教室あたりがぼんやり明るい。教室に入ると、見たこともない先生と生徒一人で授業をしている。
昭夫は
「どうしてこんな夜に授業をしているんです?」
と、聴いてみた。 すると、先生が話し出した。
「何年か前、林間学校があり、そこの川で泳ぐ時間があり、その時この子が川の流れのはやい所に体を取られてね、担任の私はすぐに助けに
入ったんだが二人とも流されて…… だから、夜にしか授業で教えて
上げられなくてね。でも今日はもう終わり。帰らなくてはね、グランドに停車している列車を見たかい」
「いいえ何も見えなかったです」 私の名前は小林拓と言います。この子はね、佐藤君。
昭夫は佐藤君が付けている青いバッジをちょっと見た。
「明日担任の先生にでも聞いてみてください。私たちは冥星鉄道に乗ってここまで来てるんだけど、この列車はね、まだこの世にたっぷり未練のある人のために運行してくれていて、この宇宙銀河系も縦横無尽に走れるんだ。 どう、君も一度見てみませんか」
昭夫は窓からそっとのぞくと、ブルートレインがグラウンドに見えた。
「いえ僕はいいです」
と言うなり机からプリントを取り走って帰ってしまった。
翌日お昼休みに担任の藤田先生に昨日のことを話してみた。先生は新しい綴じたノートをいろいろ見て、
「小林先生 ああこれだ、あの後、危険だからということで、あそこの林間学校はそれ以降中止になったんだ。しかし不思議なこともあるんだなあ、この学校は」
昭夫は、後になってあのブルートレインに乗ってみたかったと思ったが、その時は恐れが優先していた。
おばあちゃんの宝もの
今日は、文太郎君の出来事。文太郎は、路地文太郎。三代続いている和菓子 路地文 というお店の息子。文太郎は、食いしん坊の太っちょ。
さて、今日は土曜日、一人で下校途中。学校を出たところで、
「文ちゃん」
とかすかにこえた。振り向いても誰もいない。下を見ると大きな葉っぱで何かを包んであり、開けてみると、それは初めて見るニッキ水だった。
「お飲み」
この声どこかで聞き覚えあるんだなあ、誰だっけ。
小さいガラス瓶をあけて飲んだら
「うまい!」
声を上げてしまった。
いったい誰かなあ。すると、
「文ちゃんこっち}
こっちという方に少し行くとまた大きな葉っぱに何か包んであり、開けてみると、
「これもうまい」
こんどはみかんの味だ。いったい誰だ、僕にくれるのは。
今度は、
「文ちゃんこっちおいで」
声の方へ行くと、学校の塀の東側と南側の角の所が見えた。その角に子供が一人はいれそうな隙間があった。
声はその中から聞こえた。文太郎は少し怖くなり、友達の磯部昭夫君に一緒に来てもらうことにした。昭夫はまだ校舎にいて、友達と話をしていた。
昭夫は誘いにすぐ乗ってくれた。二人は塀の隙間から入り込んだ。
ちょっと文太郎は太っていて入りづらかった。
「学校の中にこんなところがあるんだなあ」
そこは、校舎の裏側の空き地で、空き地のすぐ隣が学校の敷地内に消防の施設の建物があり、その狭い空き地へは学校の中からは入れない、不思議な空き地だった。
その空き地にボロボロの壊れかけた昔の地蔵堂のようなものがあり、声はその中から聞こえる。また、
「文ちゃん こっちおいで」
声があった。
ギー
昭夫はその扉を開いた。
見ると、中に大きな穴が開いていた。
昭夫は、探検好きで、いつでも探険ができるように鞄の底に七つ道具を黒い布に包んで持っていた。中身は、懐中電灯 腕時計(貰い物で普段は腕につけていない) 小さなねじ回しセット 針金 ラジオペンチ メモとボールペン 軍手。
昭夫は懐中電灯で中を照らし、
「入ってみようか」
「う、うん、また何かおいしいものもらえるかな」
中は、縦穴が、石を足場に一メートルぐらいで、そこから横穴が続き、斜め下に下り、すぐに立って歩ける高さの洞窟の地下道が伸びていた。
すると、
「文ちゃんお友達連れてきたの、二人とも こっちおいで」
その声のする方を見るとぼんやり明るくて、行くと大きなお社があり、光はその中から漏れていた。
「ええ すごいなあ、学校の地下にこんなのがあるなんて」
「本当だ、今度は何くれるのかなあ」
「ああ、うん」
お社の小さな階段の両側に白い狐がいた。
白いきつねは狐のお面をかぶっていて、声をそろえて
「通行料よこせ!」と言った。
昭夫はちょうど持っていた給食の残りの食パンを二つに裂いて狐たちに渡した。狐たちはお面をずらせて夢中で食べていると、ガチャ 社の扉の鍵が外れる音がした。
「そのパン、僕ほしかったなあ」
文太郎は小声で言った。
二人で社の中を入っていくと、長い廊下があって、お寺にあるような障子の窓枠〈火灯窓〉があり、柱には灯皿の上に人魂のような明かりが灯されていた。
迷路のような廊下を進むと、山水の絵の描いた、ふすま戸があり、そこを開けると、お寺のお堂のような広いところに出た。その薄暗いお堂の真ん中に、お坊様のような方が大きな座布団に座っていて、
「まあお二人、こちらに来なさい」
そう言って座布団を二つ出して二人を座らせた。
「わしはな、この寺の和尚じゃ、名を焚胡絽と申してのう、寺の名も旻頃寺じゃ、ささ、先ずはおあがりなされ」
和尚様は渋いお茶とあまーいお饅頭を下さった。
「やったーうんまい」
「ちょっと文ちゃんてば」
しかし二人が和尚様の顔を覗き見ると、その顔はなんと黒光りしていた。
和尚様が語るには、文太郎の食べた道端のお菓子と声は、文太郎をここに呼ぶため、あの妖力を持つ狐めに用意させ、声色は文太郎のおばあさんに似せて、また飲み物も準備させたとの事。
「僕を呼ぶため?」
「そうじゃ、大事な用があるのじゃ。文太郎、良くお聞き、そなたのおばあさんから伝言がある」
「え?おばあちゃん」
「そうじゃ、そなたのおばあさんはな、ことのほか文太郎に会いたがっていてのう。わしの知り合いの冥星鉄道の車掌からのとりなしで、何度か向こうから冥星鉄道に乗ってこちらに来たのじゃが、生身のお前さんたちにはわからないらしく、言づてを頼まれたのじゃ。では言づてじゃ。
『文ちゃん おばあちゃんは文ちゃんにあげるものがあってのう、しかし、文ちゃんが七歳の誕生日の前に病気で、この世から去ってしまったんじゃ。その一か月前に、おばあちゃんの宝ものを隠して、文ちゃんが見つけられるようにある所に埋めておいた。しかし、文ちゃんに宝探しをさせて、渡す前に、わしは急に文ちゃんにはもう会えない所、あの世に来てしもうた。それが気がかりでのう それでな、明日、わしは文ちゃんの家の庭に昼ごろトンボになって行くから。わしを見つけたら、ついておいで』。さあこれで伝えたぞ、気をつけて帰りなさい。それと、あの階段の狐めの目を、見るでないぞ。目を見ると狐の術にはまるから、あいつらにお面をかぶせてやったのじゃ。わしはな、普段は悠悠自適での、フンコロガシをしておる。あの塀から決して覗くでないぞ」
昭夫たちはもと来た道を戻り塀を抜けた。
「昭夫君明日家に来てくれる?」
「もちろんだよ、早い目にお昼ご飯を食べて文ちゃんとこ行くよ」
昭夫たちは自宅に戻り、次の日を待った。
次の日昭夫は文太郎の家にいた。文太郎の家は、裏が広い庭で、縁側があり、裏には通りに面した勝手口がある。
昼、少し前に、
「文ちゃん」
と聴こえたかと思うと。ギンヤンマのとてもきれいな蒼いトンボが舞い込んできた。わしについておいで と言わんばかりに文太郎の周りを二周ほど回り、前を飛んで行った。
「行こう文ちゃん」。二人はトンボを追いかけた。
文太郎は、幼い頃、家が和菓子屋で忙しかったため、いつもおばあちゃんに預けられていた。
おばあちゃんの家は、広い敷地で昔からの家。縁側も広く、庭には果樹も生えていた。おばあちゃんが亡くなってから、その家は取り壊され、今はマンションが、建っている。二人はトンボを追いかけた。
「昔のおばあちゃんの家のほうだ」
トンボはマンションの裏から細い竹林の道の方へ飛び駆け、昔の田んぼのあぜ道を超えた所にある、一本の大きな木の根元で止まり、すっと消えた。
二人がその木の根元を掘ってみると。錆びた四角いお煎餅の缶が、すぐ出てきた。ふたを開けると、ビニール袋の中から手編みの熊の人形が出てきた。
「あー!」
文太郎は叫んだ、
「これ、僕のだ―。ずっと大事に持っていたんだよ。無くしたと思っていたら、おばあちゃんが持っていてくれたのか。このぬいぐるみはね、おなかにチャックがあって、いつもおばあちゃんがお菓子を入れてくれていたんだよ、あれっ あれれ」。
文太郎がチャックを開けると、お菓子の代わりに、日本の古いお金、大きな銀の一円玉や、昔の日本の金貨や小判、古銭が沢山出てきた。
「えーこれが僕にくれたおばあちゃんの宝ものー」
目を見張るように見ていた昭夫は
「文ちゃん、こ、これはすごい宝物だよ、びっくりしたよ」
文太郎は、昭夫はついてきてくれたお礼に、明治二十年の一円玉を一枚、大きな硬貨をあげた。
その夜、文太郎は夢を見た。
おばあちゃんの家の縁側で、おばあちゃんの飼っているニワトリを抱っこして一緒に日向ぼっこのうたた寝をしていたら、
「文ちゃん、そろそろ起っきしな、さあ、ばあちゃんが拵えた水飴お食べ、今日はよく来てくれたね。あれは、ばあちゃんの宝ものだけどみな文ちゃんにあげるよ。あれは、ばあちゃんのお父さんにもらったもんだよ。
さあ、これでやれやれだ、文ちゃんにも会えたしね。文ちゃんあまりおやつを食べ過ぎないようにね。元気でいるんだよ。またいつかトンボになって会いに来るよ。遠くで見守っているからね」。
文太郎は目を覚ました。
「おばあちゃん。本当に僕のこと大事にしてくれて、ありがとう」。
*
次の日学校で、古銭をもらって喜んだ昭夫は文太郎に、「探険隊を作って、学校のいろんな不思議を探険する仲間を作ろう」と言い出した。
「うん、いいね!また何かおいしいもの貰えるといいなあ」
楽しげに話していると千鶴子がすぐ寄ってきて、
「私も寄ぉせぇて」
と言い出した。
ゴキブリ先生
磯部昭夫 路地文太郎 橋口千鶴子の三人は、探険隊を結成した。担任の藤田先生は、三人の頭文字から、いろは組という名前を付けた。
すると、他のクラスからも不思議なことや相談が持ち込まれるようになった。
ある日、合唱クラブに入っている同じ組の、瀬田友子さんから、雨の日の夜に校舎の一番西側二階の、、誰もいない真っ暗な、今は使われていない音楽室から、ピアノの悲しそうな音が聞こえる、との事で、調べてほしいと相談された。旧音楽室は、もうずっと使われていない教室で校舎の東側から行くと、美術室の西隣だが、廊下の突き当りの入り口のカギはずっと閉まって開かずの扉となっている。
校舎の一番西には階段があるが、その入り口も開かずの扉になっていた。しかし、昭夫は、用務員さんがそのカギを、西壁の壁板の隙間に隠すのを知っていた。
次の日、
「今日は雨だし、今晩七時に校門の前に集まれる?探険隊出動だよ。懐中電灯もってきてね」。
昭夫は、家の人に学校に用があって出かけるけどすぐ帰ってくることをちゃんと言ってくるように告げた。
そのころ学校では講堂で夜、保護者会やご近所の人に卓球場として開いていた。大人の出入りもあり、
「何かあったらすぐに大人の人に言うのよ」と、言われた。
昭夫は鍵を見つけ、開かずの扉を開いた。
懐中電灯で照らすと、階段も廊下も埃だらけ。その時。ポロン タララン とピアノの音が聞こえた。
「こっわ」
と千鶴子。
「ねえもう帰ろうよう」
と文太郎。
「きっと危険はないと思う、怖いと思う時こそ前に進むんだ。そしたら、きっと新しい世界がけるって、信州の槍ヶ岳の頂上近くでお父さんに教えてもらったんだ。これを調べたらきっといい事があるよ、ねえ頑張ってみてみようよ」
「うーん、後で誰かが何かおいしいものくれるかもね」
「わかったわ。私も文ちゃんと付いて行く」。
階段を上がって音楽室の戸を横に引くと、ガタガタ音を立てて戸は開いた。カギはかかっていなかった。割と小さい教室に、真ん中に小型のグラントピアノが置いてある。
「なんだか古いピアノだなー」
「本当ボロボロね、足のペダルも下りたままだわよ」
「でもね、きっときれいにして弦を整えたらきっとまた使えるよ、元々はきっと上等なピアノだよ」
グランドピアノは上の蓋は、外されて部屋の隅に置かれていた。
その時またピアノの音が、ポン パランと音を立てた。
「うわ、やだ」
「えー、また音がしたよ」
「おかしいな、ここには僕たち以外いないし、ピアノの椅子もないよ」
千鶴子が
「あらっ? ねえねえちょっと、このピアノ弦の所ぬれているわ、懐中電灯で私が照らしているところ照らして、見て見て」
「あー本当だーぬれてるー」。
昭夫が
「あれっ?これは……ねえみんな天井照らしてみて」
「ああーやっぱりー」
三人は声をそろえて、
「雨漏りだー」
「そうか、天井からポタポタ滴り落ちて、ピアノの弦に当たり、それで音が出ていたんだよ」
「なーんだ」
明日先生に言おう との事で、この件は収まったが、文ちゃんが、向こうの扉がぼんやり明るいと言い出した。この音楽室は、扉が三つあり、西側の扉は。今上がってきた階段の上り口。
もう一つは、校舎の東側からの廊下の突き当りの扉。この二つの扉は向かい合っている。もう一つの扉は、小さなドアで、部屋の東の壁の一番南側にあった。
三人はドアに前に立つと、ドアの窓から、石膏で作ったようなたくさんの顔のお面のようなものが掲示されているのが見えて、その一つがぼんやり光っていた。
ドアには鍵がかかっていなくて、開けて中に入った。
「あれ、この場所は、美術室だよな」
と昭夫。
「でもいつもの図画工作の教室に、こんな所ないわよ」
と、千鶴子。すると突然、先生らしい白衣を着た年をとった人が、ランプを手に、三人に近づいてきた。見ると、顔は茶色っぽくて脂っぽいし、髪の毛は黒くて油でベタベタ.その先生はいきなり大きな甲高い声を上げ、叫んで言った。
「あなた方はもっとゴキブリを大切にしなさい。ゴキブリこそ生命力の鏡なのですよ」
三人は先生らしき人の甲高い声にびっくりして、一目散に家に帰った・。
次の日、昼休みに藤田先生に昨日の出来事を話した。すると先生は、何か考えているようで、放課後まで待つように言った。
藤田先生はカギを持って、真上校長と教室に来た。
校長先生は、藤田先生と話し合っていて、
「そろそろ時ですかね、ご家族にわかってもらい引き取ってもらいましょう」
と言った。
校長先生は
「それじゃ後で校長室に届けてください。私はご家族に連絡を取りましょう」
と言って帰られた。藤田先生は三人に分かるように話してくれた。
美術室には、美術準備室があった。前は美術室からドア一つで入れたけれど、今は鍵をかけて、ドアが見えないように、大きなゴッホ展のポスターを張り付け、隠していた。その昔、定年間近の図画工作を主に担当する、今川先生と言う先生がいたが、定年前に病気で亡くなられた。
その先生の遺言で、自分の顔をデスマスクにして美術室に飾ってほしいと強く願われ、ご家族の願いもあり、その事は叶えられたが、授業中、子供たちが気味悪がり、怖がったので、美術室にあった前の生徒が残した石膏の顔面と一緒に準備室に掲示して、カギをしめたと言う事だった。
ガチャ、先生はポスターを外してカギを開けた。細いその部屋には、昔の授業や美術クラブで描いたり作ったりした作品や絵画が棚に並べてあった。いくつかの水彩画の色がこすり取られた跡があった。
「ははーこれはゴキブリの仕業だな、ゴキブリは絵の具の中に混ざっている、膠が好物なんだ。膠は動物の皮や骨を煮て作った糊だからね」
「みんな見て、この大きい顔面の石膏の面が、デスマスクだよ」
そのお面だけ何かぼんやり光っているように見えた。
「えー何だか私怖いわ」
「僕も、薄気味悪いよう」
「亡くなった先生はきっとみんなをいつまでも見ていたかったのかな」
その時だった。一匹の、びっくりするぐらい大きなゴキブリが、そのデスマスクの裏から現れ、サササッと音楽室の方へ逃げ去った。
「うわわあー」
「キャーイヤーもお」
「えーあ、あれはー、そうか、そうだ、きっとあいつが昨日現れた白衣の先生だよ」
と文太郎
「えーあの脂ぎってる甲高い声のかい?」
「そうか、そうよそうよあいつがゴキブリ先生だわ」
藤田先生は
「うーん、そんな事あるかどうかわからないが、亡くなった先生の残留思念がつよすぎて、あのゴキブリを先生の姿に化けさせたのかな」
「残留思念ってなあに」
と千鶴子。
「ああ残留思念ってね、その場所に強く残る思いの事で、たぶんあのデスマスクに美術の先生の思いが強く残って、それが薄気味悪いことになっていたんだろ。どちらにしろマスクはご家族に返し、ここは準備室として使えるように綺麗に片づけ、昔の作品は処分する物は処分して、後は考えよう。それと音楽室も工事を校長は業者に頼むと言ってくれた」
デスマスクを外す時、その裏に小さい電球が仕掛けてあった。
「なんだこれは!ははーこれでぼんやり光っていたんだ。誰だこんな仕掛けを作ったのは」
「先生、きっとそれ、美術の先生を慕う前の美術クラブの生徒じゃないかな」
「うーん、調べてみるな」。
古い絵画は処分され、顔面像はまとめて、今の美術の担当教師が記念碑のようにして、校庭のプールの横の塀沿いの芝生に立ててくれた。
何日かして、合唱クラブの瀬田友子さんからお礼を言われた。何でも、合唱クラブは、講堂の舞台の端でピアノの周りに輪になって活動していて、たまにバスケットボールが飛んできて遮られたり、あまり大きな音を出せない肩身の狭さがあった。小学校のクラブ活動は、授業の一環として行われ、五、六年生を対象として、クラスを越えて、好きなクラブに入れた。音楽室はあったけれど、ブラスバンド部や鼓笛隊が主に使っていて、合唱クラブは、バレーボール部やバスケットボール部と一緒に活動していて不便を感じてた。
*
ある日の夜、当直の用務員さんが見回りの時、給食室のゴミ置き場で、白衣の先生らしき人が、ゴミの袋を開くのを見た。それで、
「どちらの担任の先生ですか?」
と声をかけると。律儀にも袋をもとのように括り、サササッと逃げて行った。
昭夫は、その話を藤田先生から伝え聞いた。学校帰りに給食室の方に向いて。
「ゴキブリ先生元気でなー」
と一言叫んだ。
森に続く道
初夏の日差しが心地いい下校時間のひと時。
下校時、千鶴子はいつも他の人より少しだけ遅く出て、学校のはずれで後から来る二人と落ち合い、三人でおしゃべりしながら歩くのを楽しみにしていた。南へ五百メートルほどで、昭夫は東へ、文太郎と千鶴子は西へ分かれる、ちなみに、あと百メートルほどで千鶴子の家。文太郎は、そこからまだ南へ五十メートルほどの、和菓子の 路地文 が家である。
その日、千鶴子が、正門へ向かおうとグランドを横切った時、グランドの真ん中に何かキラキラするものが見えた、よく見るとキラキラがふわーと広がっている。
「何かしら。そうだ二人に知らせよう」
昭夫と文太郎が千鶴子に呼ばれてすぐグランドに下りた。
すると、まだキラキラ金色の光の粉ふわふわ浮いていた。
「行ってみよう」
昭夫たちは、それに近づいた。
よく見ると、それは蝶だった。
「何かしら、このちょうちょ大きくて紫色してるわ」
「ほーんとう、こんな色の蝶見たことないや」
すると、この蝶は昭夫たちの前をふわふわ飛んで、校庭の北西の方角に飛んで行った。
蝶は、飛ぶときに金の粉を撒きながら飛んで行った。
「行ってみよう、この前のトンボのこともあるしね。きっと僕たちを呼んでいるんだよ」
「うん、おいしいものの予感がする」
「もう文ちゃんたら、ほんとなの」
校庭の北西は、外壁が見える所。そのあたりは緑のコーナーの一角で、木がまばらに生えていて、背の高い大きな杉も生えている。
一つの太い木に蝶は止まった。昭夫たちはその前まで行ったが、金の粉を少し吸い込んでいた。
その時、その蝶は、その木ともう一つの木の間を、北西に飛んで行った。
「追いかけよう」
昭夫は声を出した。
その木と木の間を抜けると、一本道が森まで続いていて、まるで山道のようにくねくね曲がり、道の両側には下草が茂り、小さな花を咲かせていて道沿いの木々にはプチトマトくらいの沢山の実がなっていた。
「うん、この赤い実はサクランボの味でちょっとすっぱくておいしいし、黄色の実はあんまいのなんのって」
と文太郎
「もお、文ちゃん何頬張ってるのよ、私にもちょうだい」
「ねえ食べてないで早く蝶を追いかけようよ」
道は薄っすらと霧がかかり、道のほかの景色は霧で見えない。昭夫たちは、紫色の蝶を追いかけた。
「ねえ、磯部君、もう学校の壁を通り越してだいぶ経つわよ」
「ほんとだね、僕たちはいったいどこを歩いてるのかな、文ちゃんどう思う」
「うん、だけど、何かいい匂いがするんだなー」
「ええ本当かい」
いつの間にか森の中に入った、森林のとても良い香りがした。
「これは、もしかすると、白檀のにおいかな、僕、白檀の扇子を持っているからわかるかも」
と文太郎。
三人が話していると、小さな建物の入り口で、蝶は、消えた。
建物はインド風で、屋根は丸くて先がとがっていた。その建物自体は、薄黄色で窓も小窓が沢山で、綺麗な色ガラスも使われていた。
昭夫たちの前で、浮き彫りのある扉は開いた。中には、一人の女の人がいて、軽い会釈をして、三人を中に入るように促した。
玄関から中に入ると、左側に、小さな部屋があり、ガラスの小さなテーブルと、薄黄色のソファーが向かい合って置かれていた。三人は招かれて、そこに座った。薄黄色の壁には更紗の模様の壁飾りがかかっていて、窓の色ガラスの重なった光が差し込み、部屋は異国情緒の雰囲気があり、床もじゅうたんはペルシャ風のものが敷かれてあった。
昭夫たちもその人も靴を履いたままだった。女の人は、光る紫色の生地のドレスを着ていて、とても上品な銀の頭飾りと首飾りを付けていた。
その人が反対側のソファーに座り、話し始めた。
「あなた方について来ていただいたのにはわけがあるのです。私はこの国ではツマムラサキマダラという名の蝶です。私が蝶であることは、もうお気づきと思います。私はこの国の蝶ではありません。はるばるインドという国から来ました。私の名前はユープロエア。さて、お話の前に、心ばかりのおもてなしをさせてください」
ユープロエアは、楽器を取り出した。
「この楽器はとても穏やかな楽器で、シタールという名前です、私はこれがいちばん番好きです」
と言って膝を立てて演奏始めた。
シタールの音は、とてもエキゾチックで心が安らいできた。いつの間にか打楽器や笛を吹く楽師たちが、シタールに並んで座っていて、その合奏は素晴らしく、インドの宮廷音楽と言われるものだった。
昭夫たちがシタールの音に酔いしれていると、ユープロエアはシタールを他の楽師に渡して、話し始めた。
「先ずはこれをお召し上がりください。
野蜜のビスコットです」と言ってソファーの前のガラスのテーブルの上に、一人ずつ牡丹の花びらで作ったお皿の上に、ほぼ透明なクッキーのようなお菓子置いてくれた。
「これは、私達蝶族がとても大切にしている野蜜。花の蜜を集め、ほんの少し他のものを混ぜて造った焼き菓子です。どうぞ召し上がってください」。
声を上げたのはやっぱり文太郎。
「やったー」
と言って一口で食べた。その後が大変だった。うなりだした。
「うわー!なんだこれはー、頭の中がもうお花畑だあ」
昭夫も
「あーすごい、すごくおいしい、すっと溶けて、花の香りがとてもすごいことになってる」
しかし千鶴子は一かけだけ食べて、残りをこっそりポケットに入れた。「私この甘さ好きよ、お花の香りのとっても爽やかな甘さね」
「やはりあなた方もお気に召したのね。 喜んで下さりありがとう。これからのお話聴いてくださいね。私達蝶族は平和にひそやかに生活しています。私たちは花の蜜を頂いてその代わりに花の受粉をお手伝いします。私たちはこの空にしるしをつけて、それを頼りに飛んでいくのです。その中で恋をして結ばれて卵を産みます。蝶に生まれてきた幸せを、この命を謳歌しているのです。私達の一生は短いのです。休眠し、越冬するものもおりますが、幼生からでも数ヶ月です」
「幼生って何?」
千鶴子が口火を切った。すると昭夫が、
「幼虫の事だよ」
文太郎も言った。
「そそ、青虫や芋虫ね」
「もお、文文」
「お話続けますね、私たちは陽の光の中、平和に暮らしております。それなのになぜ人の子は私達蝶族を迫害するのですか」。
「迫害って?」
と千鶴子。
「迫害とは、私たちを苦しめ、軽んじ、命を奪うことです。私たちは美しいから、網で追い捕まえて観察することは、不本意ながら許しましょう。しかしながら小さな檻に閉じ込め、命まで奪うのは、余りにも酷いことです。 人の子よ、そなた達がご自分の命を大切にするように、私たちの命を大切にしてはもらえないでしょうか。ご自分の瞳を守るように、同じ地球の仲間として、私たち蝶や、蝶の幼生やすべての生き物を守ってほしいのです。私がお話ししたくて皆さんをここへお呼びしたのはこのためです」。
そう言ってユープロエアは立ち上がり、音楽に合わせて舞い始めた。蝶のように衣をひらひらさせて踊ると、ふわふわとまた金の粉が広がり始めた。昭夫たちは、粉を吸い込んだのか、頭がぼんやりしてきた。
ふと気がつくと、昭夫たちは初めに蝶が止まった木の前に立っていた。蝶は、まだその木の幹に美しい姿で止まっていた。
その時、
「君たちはこの木の前でさっきから動かないで立っているけど何か、してるの?」
と、校長が近づいてきた。
「校長先生この蝶々を見てください」
と昭夫。校長はチラッとその木を見た瞬間、その蝶はスッと消えた。「君達は、そう藤田先生のクラスだね、音楽室の事はありがとう。チラッと紫の蝶が見えたけど、今は何を探索しているんですか」。
昭夫たちは、蝶と金の粉の事。この木と木の間から森に続く道があったこと、森の屋根の丸くてとがった一軒家で起こったことを話した。
校長はそれを聞いて、その太い木に耳を当ててみた。
「うん何か音楽がまだ聞こえるようだね」
文太郎は木と木の間を覗いて、まだ道がつながってるよと言ったが、校長が覗いても塀しか見えなかった。文太郎が
「僕あの家まで行ってみようか」
と言ったが、昭夫は
「ダメだよもう今度行ったら帰れなくなるよ」
その時千鶴子が
「そうそう校長先生これ食べてみて」
千鶴子はあのお菓子をほんのひとかけ割って校長に差し出した。
「どれどれこれがそのお菓子だな」
と言って口に入れた瞬間。
「わーこれはすごい頭の中がお花畑でいっぱいだ。君達は幻覚でも見せられたのかと思ったけど、そうではないらしい。うーん、まあ、あり得ないことだけどね、多分その蝶の人は何百年も生きているのかな、子供たちにしか見えない道や森、建物を出せるのはね妖精かきっと魔法使いだね。。そのお菓子も魔法で作ったのかな」
「えーそうなのう」
と文太郎と千鶴子。
昭夫は言った。
「でも校長先生、その人が言ったことが、人間が蝶や同じ地球の仲間である蝶や生き物たちの命を大切にしていないってことです」
「え、なんだって、詳しく聞かせてくれないか」。
昭夫たちは、その人の言ったことを全部話した。
校長は心に決めたように
「そうですか、それはとても尊いことです。明日は朝礼ですから、小学生全員にこの事を伝えましょう」
と言った。
千鶴子は、そのお菓子。野蜜のビスコットを家に持ち帰り、お母さんに一かけ食べてもらった。
「これなーに、れんげ畑の中にいるようだわ」
「ねえお母さんこれと同じもの作れるぅ」
「そうねえ材料は何なの」
「花の蜜と何か混ぜてるって」
「そう、うーんちょっと考えがあるわ」
そう言ってお母さんは。砂糖水を煮て水あめを作り、まだ若い頃に買った、バラのエッセンスオイルを爪楊枝の先につけて水あめをかき回し、卵の白身だけを良くかき回して泡立てたものを少し混ぜて、片栗粉も少し入れて混ぜたものを型に入れて焼いてみた。
「あーやっぱり駄目ね、あんなに透明にはならないわ。文量によっては飴になるわ」
「でも近いわよ、香りもいいし、これ、教えて」
千鶴子は、作った菓子を文ちゃんや昭夫君に分けようと思っていた。
朝見小学校では、毎週水曜日に朝礼を行っている。
(小さい前にならえ)
で、学年ごと、クラスごとに並んで立って、台の上の校長先生の短いお話を聴くことになっていて、お話が終わると、若い男の先生が体操服で台に上がり、
(大きい前にならえ)
の掛け声で、隣の人と手を広げて触らないほどに広がり、ラジオ体操第一と第二を体操することになっていた。
校長先生は話し始めた。
「皆さんおはようございます。今日のお話は、命は大切なものです。ということです。校長先生も子供の時は、この小学校に通いました。その当時は、ここら辺はまだまだ田畑や竹林、森や小川やため池も多かったです。生き物も、イノシシや狸、奥のほうは、熊もいました。
ある時、狸の子どもが小学校に迷い込んできて、親を探したけれど見つからないので、教室のみんなで世話をして、飼うことにしました。小屋と囲いを作って、給食室のおばさんに、残り物やお粥を作ってもらって、餌をやりましたし、みんなでかわいがりましたが、ひと月ぐらいで死んでしまったんです。教室のみんなはとても悲しい思いをしました。
その子狸をとても大切に思っていたのです。担任の寺内真先生は木の板に墨で名前を書いて、お墓を作ってくださりました。皆さんも、家族の人や友達を亡くして悲しい思いをした人もおられるでしょう。命をなくすと、周りのものは悲しみます。それは、蝶や昆虫、動物も同じです。自分の命を大切に思うように、周りの生き物の命を大切にしてください。
蝶を捕ってはいけません、と言っているのではありません。でも蝶を捕ってしっかり観察したら、蝶の命を大切にして、また空へ返してあげてください。他の生き物たち、かぶとやクワガタムシ。ザリガニも、自分で責任をもって、その命を大切にしてやれないのだったら、元いたところに返してやってください。この地球は、生き物の命で満ち溢れています。どうか人間だけが偉いとは思わないでくださいね。人間も蝶も他の生き物もみんな、この地球に、命を頂いているのですよ。私のお話はこれで終わります。今日も一日。みんなは元気で頑張ってくださいね」
職員室のトイレ
千鶴子は、背が低く、少し長めの、おかっぱの髪は気に入っている。西側の緑のコーナーが好きで、黄色のベンチ。赤のベンチ。水色のベンチが置いてあるが、いつも水色のベンチがお気に入りで、そこに座り、いろんな考え事を楽しんでいる。大抵はメルヘンチックなことで、お気に入りの分厚いノートも、持ってきている。いい考えはノートに書き留めたり、料理やお菓子の書き込みもたくさん入っている。時にはみんなと一緒にドッジボールをしたり、女子の仲間で鉄棒でぐるぐる回ったりを楽しんでいます。
その日は、新緑がとても心地よく、ベンチでゆっくりした後、教室に戻ってきた。授業まで、後5分という時に、五年一組の女子、藤原久子さんが飛び込んできた。
「ねえねえ、ここに、何でも探偵さんがいるって聞いてきたんだけど」「探偵じゃないけど、不思議なことを追いかけている、いろは組って探険
隊は、ほら、そこの窓際にいるよ」
と田中範夫君が指差した。
すると昭夫が
「慌ててどうしたの」
千鶴子が、
「何かあったのね、話してみて」
「えっとうと僕たちにまかせておけばー」
「あのね、職員室のトイレでね」
と文太郎の話を切るように藤原
「安心だよ、あれれ」
と文太郎。昭夫が
「もう授業始まるから、放課後に来てくれる?心配ないよ」
「うんそうそう」
「じゃ、お待ちしてるわ」
藤原さんは二度頷いて、教室に帰った。入れ違いに藤田先生が入ってきた。
「あれっ今の、一組の藤原じゃないか、どうしたんだ」
「ギリギリに来たのでまだ話を聞いてないんですけど、また先生に後で話します」
「じゃ頼むな、では学級委員」。
「起立。礼。着席」
「はい、では、算数の教科書二十五ページ。今日は、少数の掛け算を学びます。
放課後、その女子はすぐ飛び込んできた。
「私ね、五年一組の藤原久子という名前です。さっきはごめんね名前も言わず。私ね、みんなにチャコちゃんて呼ばれています」
「それでーチャコちゃん何かあったのー」
と文太郎。
「うん、しっかり聞くから、ゆっくり話してね。僕は磯部昭夫。隣が路地文太郎君。和菓子の路地文とこの子。向かいが、橋場千鶴子さん。三人で探険隊を作ってるんだ。音楽室が新しくなったのも、僕たちも関係あるんだ」。
「そう、じゃ話すわ。私ね、お昼の自由時間に、先生に呼ばれて職員室へ行ってたの、今度、家庭科で作るサラダの材料を買うのを先生に頼まれたの。用がすんで、教室に帰ろうと思ったら、すごくトイレ行きたくなって、講堂の前の小学生用のトイレに本当に間に合わないと思ったので、本当は使ってはいけないんだけど、職員室の隣のトイレで済ませちゃったの。 その大人用のトイレはね、男女共用で南側は男用の小用が4つ並んでて。北側は大用、女用が3個仕切りでつながっていてね。そこは、この校庭の一番南側の職員室の入ってる校舎の一番東の端にトイレはあって、その校舎は、学校の東の外壁にピッタリなので、校舎と外壁には、小学生の入る隙もないの。なんでかってね、そのトイレの中の、一番奥、つまり東に、南北向かい合って、便器のない余地があって、そこの南側のタイルの壁に、鏡があったの、でも手洗い場と鏡は入り口にあるから意味がない。なんで、かなって、やめときゃよかったのに、その鏡をのぞいてしまったの。そしたらね、そしたら、あー怖いよう」
「藤原さん、怖くないからしっかり話してみて」
と昭夫。
「鏡を覗い(のぞい)たらね、そこにあるはずのない、緑の扉が映ってて、でも鏡を見ないでタイルの壁を見ると、扉はないの。それでね、怖かったけど、まず鏡を見て、扉が写って振り返ると、緑の扉がありありと見えて、怖かったけどその扉を少し開けてみたの。そしたらね、その中はもう取壊されていて、あるはずのない、旧校舎だったの。
普通なら、もしそこに扉があって、開けたら、すぐ東の外壁から講堂が見えるはずなのに、開いた扉の向こうは、廊下でずっと一年生の札のついた教室がつながっていたの。私も一年生んとき通ってた教室だったしね。私ね、もう怖くなってすぐ閉めて逃げてきたの」
「えー本当―不思議だなー」
「なんだか怖い話だわ、で、磯部君行く気なのね」
「うん行くつもりだけど、みんな、どう、付いて来てくれるかな」
文太郎が
「うん付いて行くよ、当たり前だよ。僕たちこのためにそういう所を探険しておいしいものを手に入れてきたんじゃないか」
「あれ?ぷぷっ」
「まあいいわ、文ちゃんも行くのだし、私も行ってあげる」
「きっと大丈夫だよ、何か、この学校が僕たちに見せたいものがあるんだよ。きっと、何かいいものを掴んで、無事に帰ってこれるよ。ところで藤原さん、何時何分頃にそのトイレに行ったの」
「えっとね、お昼からの授業の始まる十分ほど前だったわ。だからね、十二時五十分ぐらいかな」
「あ、そうそれで、旧校舎の中まで入ったの?」
「いえ、入らなかったわ」
「ありがとうわかったよ、じゃ、明日行ってみるね、何かわかったらまた伝えます」
藤原さんは手を振って帰った。
「それじゃ、明日行ってみっか、僕は七つ道具もっていくよ。他は多分何もいらないと思う」
「とりあえず僕は非常食に家からお饅頭三つもっていくぞう」
「もうそんなの勝手に取ったら、後で怒られても知らないわよ」
三人は、おしゃべりしながら帰った。
次の日、先生方がいないのを見計らって、三人は、職員用トイレに忍び込んだ。時間は昭夫の腕時計で、十二時五十分。奥までは、三メートル半。昭夫たちは、三人手をつないでその鏡を見た。
すると、少し黄味がかった深い緑色の少し剥げたような木の扉が、ありありと見えた。取っ手のノブは、真鍮で出来ているのか、錆びた金色で、丸いつるつるの物。
三人が振り向くと、扉は、あった。昭夫は、思い切って取っ手を回して扉を開けた。
(ギーー)
「わあ、本当にここは、旧校舎だ」
三人は、思い切って踏み込んだ。
「どうなってるのー旧校舎は二年前に取壊されて、今はなにも残ってないはずだけどー」
と文太郎。
「あ、一年二組だ。この教室、一年生の時の僕の机があるよ、まだみんなの絵が貼ってある」
と昭夫。
その時だった。
廊下にいた千鶴子が叫んだ
「ああ、大変、みんな見て!扉が閉まっていくわ。こちら側にドアの取っ手がないわよ。」
「ああ本当だーどうしよう」
三人は扉を見つめていると、扉は、じわっと周りから消えて、跡形もなくなり、そこにはもともとあったかのように階段横の壁だった。
文太郎が、窓ガラス割って出ようと言い出して、教室の椅子で、廊下の窓を思い切りぶつけたけれど、びくともしなかった。
「駄目だよ、文ちゃん。きっとここは、流れている時間が違うし、窓から出られても、旧校舎があった時分は、今じゃないよ」
「そっか、どうしようー」
「ねえ、磯部君今何時」
「わ、もう二分経ってしまった」
「早く出る方法見つけないと授業始まっちゃうわよ」
「そうだ。この旧校舎にも、職員室があったよね」
「あったあった」
「ねえ、職員室行ってどうするの」
「困ったことがあったら藤田先生かなって、僕。二年生のころの職員室覚えていてね、そのころの藤田先生の机の場所覚えている気がするんだ。きっと何かここを出るヒントがあるような気がしてしょうがないんだよ、他に行くところないしね」
「行こう行こう」
三人は、駆けだした。
「あった職員室―」
「ここだ、この机だ」
ガチャガチャ、昭夫は机の引き出し開けて調べたが、何も出てこなかった。
文太郎は、一人で他の全部の机の引き出しを開けまくっていた。
「だめか どうする。何か考えないと」
その時千鶴子が。
「あら!ちょっと待って、藤田先生の机のすぐ下の広くて浅い引き出しの奥に何か挟まっているわよ」
千鶴子は、背が低くて、少し屈むとそれが見えた。
「ちょっと昭ちゃん。磯部君、昭ちゃんて呼んでいい?」
「いいよちずちゃん」
「あのう、この引き出し少し開いて、うんもう少し」
「こんなもんかな」
「そ、取れたあ」
すると文太郎が
「何なに、なーに」
それを机の上に置くと、それは、台帳だった。
「朝見小学校 不思議事件台帳って書いてあるね」
と昭夫。
「それ私に見せて」
千鶴子は、すごい速さで見て読んでいって、一瞬ギクリとなったが、
「これよ、これだわ、見て見て」
昭夫が見ると、校長室に、急に現れた小学生がいて、その子は震えていた。後で聞くと職員用トイレから来たとの事。
「きっとこれだ、校長室は二階だ、急ごう」
昭夫の言葉に急いで校長室の前に来た。千鶴子は、こっそり台帳を持って行った。
「昭ちゃん今何分」
「五十四分。急がないと」
ガタガタガタガタ
「ねえ、この扉開かないわ」
「ほんとだ、どうしたらいいんだろう」
「うーん、これじゃあないかなあ」
文太郎は、カギを校長室の扉に刺した。扉は、ギーと音を立てて開いた。
「さっき見つけておいたんだ、多分校長先生の机の引き出しかも」
「やった、偉いぞ文ちゃん」
「さすがは文ちゃんだわ、目敏いわ」
三人が扉を開いて中に入ると、中は真っ暗だった。
「なあにここ、校長室の中のはずよね、何だか狭いし何かひらひらするものが、顔に当たるわ」
「それに、今入った扉は、もう開かないし、跡形もないよ」
「あーこれは樟脳の匂いだよー」
その時、ドアがばっと開き、
「何やってるんだ、こんなところへいつ入ったんですか、早く出てきなさい」
昭夫たちが出て見ると、そこは、今の校舎の職員室の二階の校長室の中の、衣装室。
校長室には歴代の校長の写真が飾られていた。先代の校長は、寺内真と書かれていたが具合の悪そうな顔だった。昭夫は
「ああ良かったあ、やっと出られたよでも校長先生ごめんなさい」
すると文太郎が指差し
「あー」
「どしたの」
と千鶴子。
「この、この扉、衣装室の扉」
すると昭夫が
「ああこの扉だよ、トイレの緑の扉にそっくりだ。取っ手の真鍮のノブも一緒だ」
校長先生が、
「君達は、例の藤田先生の教室の人ですね、この前はありがとう。さあ詳細は後で藤田君に聞くから、早く教室に戻りなさい」
「はいありがとうございます」
昭夫たちは急いで教室に戻った。時計を見ると、十二時五十八分だった。昭夫は、すぐ腕時計をかくした。
千鶴子は、なぜか、先生が入ってくる戸の少し前で立っていた。
先生が教室に入って来るや、千鶴子が
「せーんせ、これ、なあに」と言って、あの台帳を見せた。
「うわっ、そ、それいったい何処にあったんだ?。本当にお前たちときたら。いやあ見つけてくれて良かった、話は後だ、授業だ授業。委員長」。
「起立。礼。着席」
その日の授業が終わった時、先生が昭夫に耳打ちした。
「すぐに帰らないで、三人で校門で待っててくれ」
しばらく待つと、三人の所へ先生は来た。
「ちょっと付き合ってくれ」
先生はそう言うと先頭に歩き、学校の北へ歩き、西に曲がって、しばらく歩き、喫茶店コロンバン〈フランス語で、野鳩〉に三人を連れて入った。
「ここはね、僕の行き付けだ。ここは、地下もあってね、ギターを片手に歌声をやっているよ。君達には、お礼を兼ねて、餡蜜をごちそうしてやる、他のみんなには内緒だぞ」
「やったー僕はこれを待っていたんだよう、僕のね、餡蜜大盛りがいいなあ」
「わかったわかった。腹壊すなよ。所で、この台帳、ファイルともいうんだけど、何処にあった」
「それは、ちずちゃんが」
「あのね先生、旧校舎の」
「ちょっと待ってくれ待ってくれ、今、旧校舎に行けるわけないだろ。ぶっ壊されて二年だぜ」
昭夫が話し出した。
「昨日、五年一組の藤原久子さんが教室に来た事を知ってますね、その人が見た不思議な状況を確かめに、今日、職員用トイレに行ったんです」
「あそこは小学生は入っちゃいけないんだよ、ま、いい、それで」
「その奥に、周りと関係ない鏡があるんです」
「確かにある」
と先生。
「その鏡を覗く(のぞく)と、反対側に、緑色の扉が写るんです。そのまま振り返ると、扉はあって、開けて入ると、そこは今あるはずのない、旧校舎の中だったんです。
「嘘だろ、いや、すまない、それで」
と先生。昭夫が
「僕らが懐かしい教室を見てたら、扉が消えちゃったんです。それで、困って旧校舎の職員室の、藤田先生の机の所へ行ったんです」
文太郎が、
「あの、僕、先食べるね、やった、餡蜜大盛りルンルンルン」
「おう、食え食え、先に食べていいから。それでどうなった」
千鶴子が
「それで先生の机の、広い方の引き出しの奥に、この台帳が挟まっているのが見えたの」
「そうか、やっぱりそうか、あの職員室の引っ越しの時、この台帳、いっくら探しても見つからなかったんだ。いいか、このノート、つまり台帳はな、先生の先輩から引き継いだ、とても大切なものなんだ。失ってしまって申し訳たたなくてな。困ってたんだ。学校の不思議な事件の記録がびっしり詰まっているんだ。もちろん最近の君たちの働きは別のノートに記録しているからね」
すると千鶴子が怪訝そうに言った。
「先生、旧校舎に、幽霊が出たってほんとですか」
「ああ、台帳見たのか。当直の用務員さんが、夜の見回りの時にね、教室の中に、女の子がいたので、まだ帰らないのか聞いたら、スッと消えたとか」
すると昭夫が
「え、そんな話聞いていないよ」
「台帳見てた時それ言ったら、みんな怖がったでしょう。だから言わなかったの」
「あーうまい、僕は幸せ者だあ」
「さあ皆も食べよう」
「ありがとうございます」
「此処のコーヒーうまくてな。そうだ、お前たちの名前いろは組はやめだ。いい名前をやる。これからは、学校不思議探険隊 を名乗れ」
次の日放課後、昭夫たちは、藤原さんに、中に入って無事帰って来た事を説明した。藤原さんと一緒に、職員用トイレの前まで行くと、業者が入っているのが見えた。校長先生がちょうど出てきて、危険な個所は直すと言われた。やはりあの鏡はどうしても取り外せず、金づちで叩いても、ここに存在しないかのように、割れなかった。それで、鏡と扉のある両方セメントで塗り固め、鏡の上にもセメントの上にタイルを張り付け、扉の方は、板を張って、道具入れを作った。それには用務員さんが喜んだ。いつもトイレの掃除用具をもっていく手間が省けたとの事。
藤原さんが
「ありがとう、怖い思いさせてごめんね、でもこれですっきりしたわ、私ね、またいつかお返しするねバイバイ」
藤原さんは帰った。
三人も帰り道、七山千夏の、♪波をちゃぷちゃぷかき分けて、を歌って帰った。
赤いビー玉
ある日、昭夫のお母さんが、家で昭夫の下校を待っていた。
「昭夫、今日がその日よ。あの日からちょうど二十年目なの」
「何のこと?」
「お母さんね、大分悩んだんだけど、やっぱり昭夫に行ってもらうことにするわ」
「どこに?」
「ずいぶん前に言ったと思うんだけど、我が家にはね、家宝があったのよ」
「ああ、赤いビー玉の事。よっぽど悔しかったんだ」
「そう、私のお父さんがね、手に入れた、赤い大きなビー玉」
「でもただのビー玉じゃないんでしょ」
「そう、あのビー玉は、特別なの、私の父に与えられた素晴らしい、この世界で一つだけのものよ」
「じゃあ、どうしてそんなに大切なものを人に貸してあげたりしたの」「そこがお母さんの、一番の失敗よ。その人の事を信じてしまったのよ。なんかね、初めて会ったのに、懐かしい感じがしたのね」
「それで?」
「その人が借りに来る前に、あなたが借りて持ってきてほしいの」
「どういうこと?」
「お母さんのね、小学校六年生の時の親友で、秋山信子さんていう人がいてね、私だけに教えてくれたことがあるの。新月つまりお月さんの出ない日の事ね。その日、夕刻の、六時二十七分から十分だけ、そいつは現れるの」
「そいつって?」
「ビー玉の穴よ。よく聞いてね、あなたの小学校の、プールの南側の奥。校庭の南西に背の高い鉄棒と砂場があるでしょ、その奥、つまり西の外壁の手前の、砂場との間に、ひょっこり直径十五センチぐらいの筒が土から斜めに突き出した様に現れるの。お母さんは子供のころ見たわ。その筒の外は古びた煙突みたいだけど、中は、ふちにぎっしりビー玉が敷き詰められていて、一番奥に大きなビー玉が一つあるの。そのビー玉を押すと、本当に二十年前に行くことができるの、今度はその大きなビー玉を掴んで引くと、二十年後に行けるのよ」
「そんな馬鹿なあ!。その秋山さんに担がれているだけだよ。お母さんは人がいいからだまされて、きっと笑われているにきまってるよ」
「それでもいいのよ。お母さんはそこに賭けているの。お願い、昭夫、あなたは不思議探険隊、隊長さんなんでしょう。こんな不思議なこと、確かめなくていいの。行ってくれたら、きっときっといいことあるかもよ」
「わかったよ、行ってみて何にも出なかったら、すぐ帰るからね」
「いいわ、でもよく聞いて、六時二十七分から十分だけなのよ。十分過ぎたら、次の新月の日まで、出てこないから、手に入れたらすぐに、帰ってくるのよ」
「本当に、よく自分の子にこんな危険なことさせるよ、我が家の母は」。
その日は、昭夫の好きな大きなハンバーグが、早い目に夕食に出され。母の使いとの事で、六時過ぎに、家を出た。前日までは梅雨空で雨。しかし今日は晴れていた。昭夫は小さい手カバンに七つ道具を入れた。
学校の校門は、卓球同好会の大人の人のために開いていた。六時二十分。まだ空は明るい。用務員さんに見られないように、隠れながら、砂場を見ていると。その奥にむっくりと、筒が現れた。「ああ、あれがビー玉の穴か」。中をのぞくと確かにビー玉がぎっしり、その一番奥のビー玉を押してみた。
途端に砂場に飛ばされた。
「あれ、何でもないや、二十年前だなんて、え?。今はあるはずもない旧校舎がある。また迷い込んだのかな。いや違う、紛れもなく二十年前に来たんだ」
昭夫が腕時計を見ると、六時二十九分だ。
「急がないと」。
母親の実家は良く知っていた。小学校の南、道を挟んで二軒目。
ピンポーン
「山川好子さんおられますか」
「はーい、私ですけど」
「あの僕は、磯部昭夫と言います。」
「ええ?磯部君の親戚の人ですか」
好子さんは少し赤くなった。
「ええそんな所です。あのね、磯部君に聞いたのですが、山川さんがすごい宝物を持っているって」
「ええ?宝物。ああ、あれね、きっとビー玉の事ね、磯部君に話したっけ」
「そ、そうです。それをちょっと見せてほしいなって」
「あれは、お父さんのものだけど、いいわ」。
好子は直ぐに持ってきた。
「これかあ、すごいものですね、悪いんだけど、ほんの少し貸してくれませんか。すぐに返しますし、明日、学校で磯部君にお礼を言ってもらうので、だめ、ですよね」
「ううん、ホントは人に貸しちゃいけないんだけど。 いいわ。すぐに返してね」
なぜか好子は嬉しそう。
好子さんごめんねと心で叫びながら、昭夫は急いだ。正門に行くと、用務員さんがニコニコして
「どうしたの忘れ物かな」
昭夫は笑顔で返事して、裏門へ急いだ。
「だめだあ、閉まってる」
時計を見ると、六時三十五分。
「うわ、」
もう一度正門へ行くと誰もいない。昭夫はダッシュで、砂場へ。しかし砂に足を取られて転んでしまった。
目の前で、昭夫の目の前で、ビー玉の穴の筒は、ドポンと音を立てて、地中に消えた。
「わあ、どうしよう。間に合わなかった。どうしよう。新月まであと三十日もこんなところで待てないよ」
昭夫は夢中でその辺りを手で掘ってみたが何もなかった。
「どうしよう」
昭夫は泣きそうになった。その時、昭夫の持っていた手カバンの中が光っているのに気づいた。中をのぞくと、あのビー玉が光を放っていた。
昭夫がそれを握りしめると、
「大丈夫だよ」
と、ほんの微かに声が聞こえた。昭夫はそれを握りしめて、ビー玉の穴の跡にかざしてみた。
すると、なんと、ビー玉の穴の筒は、バシッと現れ、中のビー玉も色めき立って、キラキラ光を放ち、奥のビー玉は、懐中電灯のように光っていた。
昭夫は直ぐに手を入れて、奥のビー玉をつかんで引いた。
するとまた、砂場に飛ばされた。昭夫がすぐに、旧校舎のあたりを見ると、旧校舎は消えていて、ビー玉の穴も姿を消していた。
「よ、良かったあ。僕、無事に戻ってきたよう」
ビー玉の光は消えていた。
校門のところで、おかあさんが待っていた。
「はいこれ、もう大変だったよう」
「ご苦労さん。でもね、おかあさんあれからよく思い出して考えたんだけど。昭夫よね、私からビー玉借りて返さなかったの。あの後、磯部君、つまり今のお父さんに散々問い詰めたけど知らないって言うし、僕にはそんな親戚いないって言われたのよ。今思い出したわ、確かに、磯部昭夫って言っていたわ」
「そんなあ、おかあさんが行けって言ったから大変な思いして、行ってきたのに」
「そうだったわよね、ま、いいわ、こうして我が家の家宝も戻ってきたからね。実はあの後お母さんのお父さんには言わなかったの。だからばれていないのよ。今から久しぶりに実家に行って見せてくるわ」。
お母さんは実家から帰ってくると、話し出した。
「我が家はね、あなたのおじいさんの代から、キリスト者なのよ。あなたはちょっとも日曜学校に来ないけど。おかあさんとお父さんは子供の頃から教会に行っていて、小学校の時も同級生だったしね、高校卒業して働き、二十歳の頃、結婚したのよ。あなたもしっかりと、キリスト者の道を歩んでね。お母さんのお父さんはね、露店でこのビー玉が売られているのを見た時、チラッと光ったこのビー玉を手に取り、これは手に入れなければならないと感じて、とても高かったけど、買い求めたそうよ。その夜、夢を見て、由来を知ったといっていたわ。このビー玉の中にある赤黒い色は、あの方の血潮と言われていて、ビー玉を満月にかざすと、あの方の横顔が見えるというわ。今日はこのビー玉握って寝なさい」。
その夜、昭夫は夢を見た。
なんと、残酷な光景。一人の男が、「この人は日本人じゃない。白人でも黒人でもない、誰だろう。多分中近東の人」。この人は、磔刑に処せられていた。
この人は、組み合わされた木に両手、両足を釘で、打ち付けられていた。他にも二人、並んで刑に付されていた。
頭にはなんと、とげとげの茨で作った冠を差し込まれ。血を流されているのが見える。
そこへ一羽のスズメが、その前を飛び上がった時、その茨の冠の傷から大きな血潮のひとしずくが滴り、そのスズメの体に落ちた。
びっくりしたスズメは、もう無心になり、飛び続けた。飛び続けては、落ち。落ちては飛び続け。とある洞穴、後の時代の鉱山の奥深く迄、飛び。力尽きて死んだ。
その鉱山は珪砂鉱で、スズメは石英の石の上で、息を引き取った。
月日は流れて、スズメの亡骸は消え去ったが、あの方の血潮は生きているように、石英砂にしみこみ、やがて、ガラスの材料として、日本に輸出された。
(ビー玉は、大阪で、初めは、ラムネ玉として、明治の終わりに作られた)。
「昭夫、もう起きなさい。今日は土曜日よ。お昼からあなたに用があるのよ」。
「おはようお母さん。昨日夢を見たよ。なんだか怖い夢。それで何の用なの」
「そうなの、あなたも、選ばれし人なのね。お母さんも昔そんな夢を見たわ。それでね、吉岡さんて、知ってる?」
「うん、名前は聞いたことあるけど一度も学校に来ないよ。先生が一度、お見舞いに行ってほしいって、言ってたよ」
「何言っているの、小学校一・二年生の時、同級生だったじゃない」
「ああ、吉岡さんて、吉岡佐和子さんのこと?」
「保護者会で聞いたんだけど、吉岡さん、もう先がないらしいの」
「ええっ!」
「よく聞いてね。ここだけの話よ。 吉岡さんは、小児白血病と言う病気で、病院で抗がん剤というきつい薬を注射されたんだけれど、薬の感受性が悪く、色々薬を変えても、副作用が起きなかったの」
「副作用って?」
「そう副作用って、髪の毛が全部抜けたり、吐き気がしたり、酷い口内炎になったり。それでね、治療できないのに病院にいるより、ご家族と一緒に、大切な時を過ごす方がいいって。退院されたの」
「そう、それで?」
「そこであなたの出番よ、あなたはまだ何もよくわかっていないけれども、選ばれし者としての務めがあるのよ。吉岡さんをこのまま放っておいてはいけないわ」
「どうするの?」
「あのビー玉よ。あのビー玉の別名は癒しのビー玉なのよ。よく聞いてね、明日は土曜日、昭夫は学校が終わってお昼ご飯食べたら、吉岡さんの家に行きなさい、そして…」。
昭夫は、おかあさんの言ったことを全部覚えて、吉岡さんの家に行った。
吉岡さんとは、一二年生の時同級生で、良く知っていたし、家にも遊びに行ったことがある。お父さんは、職人さんで、家で働いておられて、昭夫が遊びに行くと、いつもお母さんは火鉢で、薄く切ったお餅を焼いてお醤油を刷毛で塗った、おかきをくれた。
ピンポーン
「こんにちは。磯部です」
「はーい、まあまあ磯部君、佐和子のお見舞いに来てくれたの」
「はい。今、吉岡さんと同じ教室で、席は僕の隣なんです。それで先生が、一度お見舞いにって」
「それはそれは、ありがとう。だけどね、佐和子は今日は、少し具合が悪くて、何も話したがらないの。本当にありがとう、ごめんなさいね。磯部君が来たことを、あとで佐和子に伝えておくわ」
「うーん、わかりました。おばさんありがとう」。
戸が閉まり、昭夫が帰ろうとしたその時、奥から声がした。
「誰が来てくれたの」
「おや、佐和子、大丈夫なの。前に一緒だった。磯部君だよ」
「磯部君?あの磯部君?。お母さんお願いお願い、磯部君を、もう一度呼んできて、お願い」。
戸が開き、昭夫は、おかあさんの手招きで呼ばれて、家に入った。
吉岡さんの家は、二つ町内が離れているけど、昭夫の家からは、通学路の途上から、ちょっと寄り道したところにある小さな一軒家。玄関で父親は仕事をしている。仕事の道具もいろいろ置かれていて、通り庭には台所があり、玄関の奥は居間があり、大きな火鉢が置いてあった。佐和子の部屋は二階の奥、隣は弟君の部屋だった。
昭夫は、風邪をひいてないか聞かれてから、二階に通された。
佐和子は、ベッドに寝かされていた。
「昭夫君来てくれたのね、うれしい」
「昭夫君か、なんか佐和子ちゃんからそう呼ばれるの、懐かしい」
「そうよ。私たち二年の頃、よく遊んだじゃない。手をつないで、いつも笑い転げながら話して、家まで帰って、いつもそのまま私の家に来て、焼いたおかき食べてたわ」
「そうだった、三年生になって、違う組になった時、なんか淋しくて、でもよそよそしくなってしまって。声も掛けられなかった。でも今、五年三組同じ組で佐和子ちゃんは、僕の席の隣なんだ」
「ええ、そうなのね、わたし、昭夫君と同じ教室であなたの隣の席なんだ、なのに、うう」。
佐和子は、声を潜めて泣いた。
「私、どうして死ななきゃ、いけないの いやよ 死にたくない」。
昭夫の頬に、熱いものが流れた。
佐和子は、自分の病の事を知っていた。
「佐和子ちゃん、今日はね、僕はお祈りに来たんだよ。佐和子ちゃんの病気が治って、また学校に元気で来られるように。お祈りをしてあげたいんだ」
「お祈り?」
「そう、僕の務めなんだって、お母さんが言ってた」
「ええ?、そう、じゃお願いするわ。期待してるからね」。
昭夫は、お母さんに教えられた通り、あの方のお名前と血潮の権威で、佐和子さんの病気は出て行け、と、手を置いて命令した。その手にはあのビー玉を握っていた。昭夫はビー玉が光を発したのを気付かなかった。
「まあ、随分威勢のいいお祈りね、でも、なんだか効いた気がしたわ。私、学校に行きたいわ。行って、昭夫君の隣で勉強したい。遊びたいわ」
「うん、きっと治る、信じているよ」
その時佐和子は、力ないその手を昭夫に差し出した。昭夫が佐和子の手をしっかり握った時。心の中で長いこと燻っていたものに火がともった。懐かしい灯火。そして昭夫の元気が佐和子の体に流れ込むようで、お互いが一つになったような感じがした。同じく佐和子は、胸に込み上げる、生への力強い炎のような想いに、ほほが染まった。
「なんだか、僕たちが手をつなぐと、すごいことが起きそうだ」。
二人は涙をボロボロこぼしていた。暫く(しばらく)して、お母さんが、焼いたおかきとお茶をもって上がってきてくれた。
その後、昭夫は、佐和子のお見舞いに行かなかった。佐和子のお母さんが、風邪とかうつると命にかかわるので、すまないけど。これきりにしてね、ごめんねと言われた。その時が来たら必ず呼ぶからと言われた。
*
それから、二週間ぐらいしたある日の朝。その時は来た。
いや、良い方のその時である。
昭夫が登校して、自分の席に座っていた時、開いた扉から、おはよう磯部君という声を聞いた。聞き覚えのある、ちょっと懐かしい声。
「え、」
もしやと思って振り向くと。佐和子だ。
「ええ?うそ、もう学校来て大丈夫なの?治ったの?」
「私ね、治っちゃった。あの後ね、なんだかおなかすいて、しっかりご飯食べたの。それから少しずつ元気になったみたい。昭夫君にあの時元気をもらったのね。遅れていた勉強も家で、できるようになってね。もう家族もびっくり。一昨日、お父さんとお母さんと一緒に、入院していた病院に行って診てもらったの。詳しく検査してもらったの。そしたらね、どこにも、白血病の細胞がいなくなっているって。こんなことは本当に稀にしか起きないそうよ。お医者さんがびっくりしていたわ。お医者さんは、再発するかもしれないから、定期的に、病院に来なさいと言われたのだけど。私はもう治りましたから来ませんって言ったの」
「すごーい、じゃあこれから一緒だね、やったー神様ありがとう」
直ぐに三つ前の席の千鶴子が飛んできて、
「どうしたのどうしたの、この人だあれ」
「この人は、ずっと病気で休んでた吉岡さんで、一、二年生の時一緒だったの」
「そう、よかった。私は、橋場千鶴子ですよろしくね」
「僕は、路地文太郎です良かったね、えへ」
「もおっ」。
お昼の給食の後、文太郎の席で、いつもの三人で話していると、佐和子が来て、
「何話してるの?」
「ああ、僕たち三人で、学校不思議探険隊をやってるんだ。いくつか解決したのもあるんだよ」
「ねえ、そこに私も仲間に入れてくれない?迷惑かなあ」
すると千鶴子が
「本当、いやー、うれしいわ、もう男子二人の世話は大変で、これであたしゃぁ、楽ができるというものさね」
「はいはい、おばあさん」
と言って、文太郎が千鶴子の背中をポンポンとたたくと四人は大笑いした。昭夫たちは、佐和子を歓迎した。
こうして学校不思議探険隊は四人になりました。
ブルートレイン
あれからひと月余りがたち、佐和子の勉強も追いついてきた。何より千鶴子の協力は大きかった。お昼の自由時間や、休憩に、いつも佐和子の所に来て、教えてあげたり、わからないところわかるまで付き合っていた。千鶴子にとって、佐和子は、気にならない存在で、千鶴子は教えるということがとてもうまくて、好きだったし、佐和子は千鶴子に教えてもらうことがとてもうれしくて、頼りにしていた。二人は良く内緒話もしていて、千鶴子が聞きたいことを聴けたときは、ほっと安心した。自分も、文ちゃんとは、幼稚園の頃から親しいことなど語った。
七月のある日。昭夫たちの住んでいる近くの商店街が七夕の星祭りの催し物を開いた。昼間は大売り出しで、七夕の飾りつけも派手で、それぞれ気に入ったお店で短冊に願い事を書いて笹に結んだ。夕方から屋台の夜店と出し物で、屋台も金魚すくいや鯉子釣り、飴細工や、綿菓子、リンゴ飴などあり、当てものや手品師の手品道具売りや、型抜きの景品、はずれのミルク煎餅などにぎわっていた。
出し物は商店街の事務所の呼びかけで、今年はお化け屋敷をすることになり、ポスターも張られていた。
昭夫たち四人は、それぞれ家族の了解を得て、このお化け屋敷に入ろう、ということになり、昭夫は、佐和子の家に行って話をしてあげ、吉岡さんの親は、快く送ってくれた。ちょっと遅れた。
校門の前に、四人は集まった。夕、六時半の約束だが、先に文太郎と千鶴子は、先に来ていた。「もお、お そ い」。学校の前の道を、北に行き、大通りを東に曲がり、次の南行きの道が、新道商店街になっている。
早速、文太郎は、やらかしていた。もらったお小遣いも、あっという間に、焼きトウモロコシや綿あめに変わっていった。
それぞれお祭り気分を味わいながら、タコ焼きも分け合って食べた。
「ゆかた着てきたらよかったわね、でも前に買ってもらったの小さくなってるわ」
「じゃ今度私に見せて、私背が低いから」
「おおっ、ちずちゃんのゆかた姿いいなあ、見たいな」
「もお、文文」
昭夫はこっそり、鯛焼きを半分佐和子に渡すと、佐和子はとても喜んだ。
「あーここだ、ここだ」
と文太郎。お化け屋敷の入場券は、以前商店街で買い物をした時にもらえる。四人は、家でもらったお化け屋敷入場券を、入り口で渡した。
中は、良い香りのする笹の葉をくぐっていくと、真っ暗で、提灯がふらふら飛んでいて、分かれて、見る見るたくさんの提灯が襲ってきた。
提灯は大きな口をがばっと開け、長い舌をべろべろだした。
「きゃー」
昭夫たちが、次の部屋に入ると。
ひゅうーどろどろ。う ら め し やぁ。
「きゃあ怖いわ」
と言って、佐和子は昭夫に抱きついた。
一枚 二枚 三枚 古井戸からお岩さんのお化けが出てきた。
「こっわ」
と言って、千鶴子は、文太郎の手を握りしめた、と思ったら、お化けの手だった。
「ぎゃあ、も、どこよ文」
「こ こ だよ」
「バカ、もお、怖いじゃないの」
「うわっ、今何かが顔に触った」
と昭夫。
「きゃっ、いやーん、なにこれ冷たいわ」
「わわっ、これはこんにゃくだよ、ふむ、かぷ、うまい」
「文ちゃん。お化け屋敷のもの食べちゃだめよ。私まだだったのに」
と千鶴子。
「ああ、墓場だ、人魂が飛んでいるよ」
と昭夫。読経の音 ナン ミョウ ホウ レン ゲキョウ すると、お墓の迷路を出たところの大きな墓の横に一人の綺麗な花嫁衣装を着た日本髪に角隠しの女の人が座り込んで、うつむいて、しくしく泣いている。
「どうしたのですか」
と昭夫が声をかけると、
「ワタシキレイ ワタシ ヲ オヨメニ モラッテ クダサイ」
その女の人が振り向くと、目も鼻もない、牙の生えた口だけ大きな、のっぺらぼうだった。
「きゃあ」
「いやー」
四人は無我夢中で飛びのいた。
「助けて文ちゃん。あれえ?」
あんまり怖くて暗くて、千鶴子は、昭夫の背中に抱き着き、佐和子は、文太郎にしがみついた。
「ちずちゃん僕昭夫だよ」
文太郎は、
「ムフフ、これだから、お化け屋敷はいいのう」
「もお、すけべじじい」
と千鶴子。
すると、今度は、背の高い大きな髭面の、大入道が出てきて、道をふさいで、
「ぐはあぁ、こぉうらぁ。」
と、とても大きな斧を持って、出てきた。
これには文太郎もびっくり。驚いてしまって。
「ちずちゃん、怖い、僕怖いよう」
と、千鶴子の後ろにしゃがんでしまった。千鶴子は
「もお、男のくせにだらしないわよ」
「ごっめーん」
昭夫と佐和子は、しっかり手を取り合っていて、じっと大入道を見ていると。なんと、大入道は、小さな狐になって、逃げて行った。
「もうハラハラドキドキだわ、でも愉しいー」
と佐和子は、昭夫に身を寄せた。
出口も近くなって、別の小さな戸口が開いていた。この先進むべからずと、立札があった。さっきまで順路を間違えないように、鬼が立っていたが、小用でその場を離れた時に、昭夫たちが通りかかった。
「昭ちゃん、あれ見て」
と文太郎
「あ、あっちへ行ってみようか」
「行きましょう、楽しそうだわ」
「ええ?いいの、この先進むべからずって書いてあるわよ。出口へ出た方がいいんじゃないの」
「ちづちゃん、僕たちは探険隊だから、行ってみようよ」
「ううん、文ちゃんが行くなら付いて行くわ」
その戸口から出た時、文太郎は、声を上げた。
「あ、う、なんだろう」
佐和子も、
「キャッ。何かしら」
「どうしたの」
と昭夫と千鶴子。
すると文太郎が、
「なにか、見えないカーテンみたいなものをすり抜けたよ、これもお化け屋敷のものかな」
「私もね、頬に、ふわって、透明のレースの分厚いのが触っていった感じよ」「僕達には何も感じなかったけど。いいよ、先に進もう」
「お化けさんたち出てこなくなったわよ」
と千鶴子。
「ね、昭ちゃん、商店街の東って、こんな暗いトンネルみたいな、森あったかな」
と文太郎。
「うん、なかったけど、きっと、もう少しで川の土手に出るよ、そこから南へ行って橋のある所を西へ行けば、家に帰れるはずだよ」
「昭夫君、私なんだか寒いわ」
「そう、それに、もうこんなに暗くなっているわよ。お化け屋敷に入る時まだ明るかったのに」
と千鶴子。
「ほんとだね、でもあれを見て、きっと、土手だよ」
昭夫は、腕時計を見たら、七時少し前だった。
「夏場なのにもう暗い、何かがおかしい」。
森を抜けて、土手に上がった時。そこは、土手ではなく丘だった。
文太郎が、空を指さし、
「あー、見て見て昭ちゃん」
昭夫が、
「ええ? こ、ここは、いったいどこなんだ」
千鶴子が
「こんな星の並び見たことないわよ。天の川かしら、すごく大きいし、北斗七星がどこにもないわ」
佐和子が
「それになあにあれ、オレンジ色の輪の中が黄色で黄緑色になってる。あっちの方は紫色のモヤモヤがあるわ」
「あれはね、きっと星雲だ。地球からは、見えるはずのない空だよ。
どうしてかわからないけど。僕たちは、どこか宇宙の果てにきてしまったんだ。どうしよう」
「ねえ、さっきのお化け屋敷の所へ戻って、みましょうよう」
と千鶴子。
「いや、戻っても、きっとそこには何もないよ。さっきのカーテンみたいなもの、僕は、本で読んだことがある。それは、宇宙のワームホール。旅の扉が開いて、きっとそこに入り込んだんだ。でもまた開くかもしれないから、そこへ戻ろうか」
その時、文太郎が、丘の上の何かを指さして、
「昭ちゃんあれ、何か建物があって、日本語で何か書いてあるよ」
「ええうそっ」
みんなでそこへ駆けつけた。
「ああっここは、駅だ」
他の三人は、初めは見えなかったが、文太郎が、あまり言うので、目を凝らして見たらぼんやりから、はっきり見えだした。
古い、田舎の駅で、駅舎に、冥星鉄道と書かれた古くてすり切れたような看板があり、線路には青い信号のランプが灯っていて、様々な列車標識があり、線路の先は、すうっと消えていた。ホームには小さな待合所がある。柱には、駅名(アルビレオ第二惑星)と書かれていた。
昭夫は、
「アルビレオだって!アルビレオと言えば天の川の白鳥座の星だよ。そんな所に来てしまったのか。でもどうしてこんなところに日本語の駅があるんだろう」。
アルビレオは、白鳥座の嘴の、二重連星。大きな金色のB星Aと青い小さな星B星Bは、地球からは一つの星に見える、実は二つの星は、太陽系、太陽から海王星までの距離の五十五倍も離れている。惑星があるのは、小さいB星Bの方である。
四人は、待合所で寒さと不安に座り込んでいた。佐和子は言った。
「いいわ、私、何があっても昭夫君に付いて行くわ」
「ごめんね、お化け屋敷の出口ちゃんと出ればよかったね。でもきっと大丈夫。家に帰れると思う。冥星鉄道は、前に、文ちゃんのおばあさんも乗って、文ちゃん家ヘ行ったって、あの和尚さんが言ってたしね」。
その時、ピーっと重い音がした。ライトが二つ、強い光の列車がゆっくり、ゆっくりと、ホームに入ってきた。前には、冥星鉄道。その下に大きく北斗星と列車名が丸い大きなヘッドマークの表示板に記されていた。紛れもなく日本のブルートレインだ。
ブルートレインは、昭和三十三年年に登場した国鉄二十系のディーゼル列車。クリーム色のラインが入っている青い車体で、名前の由来となっている。上野、青森間と東京、博多間の夜行寝台特急で人気があった。
ホームに入った列車横の運行表示板には、(反宇宙 冥王星 ― 地球)と記されていて、四人は、ちょっと一安心。昭夫が、
「これに乗って帰ろう」
と言ったとき。列車は止まった。
すると中から
「君たちどうしたんだね、どうしてこんな地球から遠く離れたところに来てしまったんだね」
と語る声。
昭夫が、
「ああ、もしかして、小林先生じゃないですか」。
「まあ早く乗りなさい、中で話を聴きましょう」
「ああよかった。先生と会えて助かりました。その、あの時はすみません」
昭夫は、小林先生と佐藤君の事を、三人に手短に説明した。
先生の勧めで、後ろの空いている四人座席に昭夫たちは座った。
昭夫は言った。
「僕たちは商店街の催し物を見ていて、違った道から出たら、この星に来ていたんです」
「ああそう、そうあの辺りはどういうわけか磁場がおかしくなっていてね、多分気がつかないうちにワームホールを通ってしまったんだよ。アルビレオはね、地球から見ると一つの星だが、実は二つの星が連なっているんだ。小さい方に惑星があり、地球と環境はそっくりだ。しかし、この星から地球まで、光の速さでも四百年かかる。どんなロケットでも君達は生きて地球に帰れないよ。
この星に冥星鉄道の駅があるのも、この星の環境が、ほぼ地球に似ていることと、ごくたまにワームホールが開いて、日本のF市へ行けるので、降りる人がいたからです。それと、いいですか。次の駅で必ず駅の売店で、命のリンゴをもらいなさい」
先生はそう言って、佐藤君と他の車両へ行ってしまった。
佐和子が
「命のリンゴもらうのね、ねえ、文ちゃんはどんなリンゴが好きなの、私はスターキングデリシャスおいしいわ」
文太郎は
「僕は印度リンゴかな、実が詰まってておいしいな」
昭夫は
「何と言っても信州アルプスの山小屋で水槽に浮いてるあの青リンゴが忘れられないおいしさだな」
「私はふじよ、だってリンゴの王様だもの」
と千鶴子、文太郎は、
「ふじって、食べたことあるの」
「なくてもわかるわよ王様だもの」
車掌さんが回ってきて
「次は、ガリバー星団 青い希望の星。停車駅は、秋草渓谷 鈴峡です。停車時間は地球時間の二十分です」
昭夫は、学校にブルートレインの臨時停車場があることや、前にこの列車が止まっていたのを見たことを伝えるとみんなは安心した。
昭夫たちは、星々の移り行く風景を楽しんだ。
昭夫が腕時計を見ると、七時半を回っていた。
「早く帰らなきゃ」
めくるめく宇宙の光。何度も銀河や星雲を超えて、小さな青い希望の星に着いた。その星は、ずっと夜明けのままの星。
駅に着くと夜明けの清々しさに満ちていた。すこし薄暗くて、遠い所は見えないが、手近の風景は十分見える明るさだ。
深い渓谷の駅でホームからつり橋が出ていて、川を渡ったところが駅舎で、右に改札口、左には、駅の売店があった。
その売店の店員さんが、昭夫たちに手を振ってくれた。
目ざとく見つけた文太郎が、
「あ、向こうで売店のおばちゃんが手を振ってくれているよ。行こうよ昭ちゃん」
「行ってみよう」
青い希望の星。この星の岩石の色は、コバルトブルー。渓谷の底は、透明な水のため、綺麗な、青い岩々が透けて見えていて、小魚の跳ねるのが見える。渓谷は、日本でいう所の秋草で満ちている、小菊や桔梗、なでしこや萩の花など鈴なりの花々、それ故にこの峡谷の事を、鈴峡と旅人は言う。
つり橋を渡りながら文太郎は言った。
「ここはきれいな花がいっぱいだね。僕ね、小さい頃何度かおばあさんに教えてもらったことがあるんだ」
「なあに」
「花の名前」
「なになに教えて」と佐和子
「めずらしいな、文ちゃんが、花に興味があったんだ」
「まあ昭ちゃんそういわずに聞いてよ、おばあちゃんがね、将来、和菓子屋を継ぐなら、このくらい知っておきなって」
「だから、なあに、花の和菓子の事?教えて」
「違うよ、七草の事」
「わたし、知っているわ、一月七日に食べるお粥のことでしょ」と佐和子
「違う違う、あれは、せり なずな ごぼう はこべら」
「違うわ、ごぼうじゃなくて、せり、ナズナ、ゴギョウ(、、、、) ハコベラ ホトケノザ スズナ スズシロでしょ」と佐和子
「違うんだ、それは、春の七草だよ。僕が言いたいのは、秋の七草だよ」
「へえ、秋にも七草あるの、僕は初耳、言って」
「えっとね、萩 薄 葛 撫子 女郎花 藤袴 桔梗だよ」
「すごいわ文ちゃん、それ、皆どんな花か知っているの」
「知らない」
「もお」
話をしている間に、細いつり橋を渡り、向こう岸についた。
売店に着くと。小さな背の少し低いおばあさんが、ニコニコしながら迎えてくれた。
千鶴子は、なぜか、じっとおばあさんを見ていた。
おばあさんは、文太郎を懐かしむような、慈しむような眼で、じっと見つめて、一言。
「文ちゃん」
と言ってしまった。我に返ったように、
「あらごめんなさいね」
「おばあさん、僕の事なんで知っているの」
おばあさんは、千鶴子にウインクして。
「あなたたちの事はみんな知っているのよ、さあ、あなたは隊長さんね」と言って、昭夫に、青色の、青い希望のバッジを胸に付けてくれた。
「このバッジ、どこかで見たよ」
「さあさあ、皆さん、そこの石の水槽に浸かっている青リンゴを、一つずつ持ってきてください」
綺麗な山の水がこの水槽に注がれ、青リンゴを冷やしていた。おばあさんは、丁寧に青リンゴを新しい手拭いで拭いてくれた。
「この青リンゴ、信州の山小屋で売っているのに似ているね」
と昭夫。文太郎は今にもかぶりつきそうだ
「まって文ちゃん」
と言って、おばあさんは、手作りのキャラメルを、すぐ小さな冷蔵庫から出して、二つ剥いて慣れた手つきで文太郎の口に押し込んだ。
「もがもが、う、うみゃーい」
「皆さんよく聞いてね、このリンゴは、青リンゴのいい匂いは、するけど、食べ物ではないのよ。生命のリンゴ、青い希望の林檎と言って、この星で採れるとても大切なもの。それでね、あの列車は地上を走る列車ではなくて、冥星鉄道と言って、地上で亡くなられた方が、どうしても必要があって、現生を見たい、という方のためにあの鉄道はあるのよ。体を亡くした人の鉄道なの、だからね、生きているあなた方は本当は見ることもできないし、乗れないのよ。
でもね、あなた方は、この鉄道に乗っておられる方に、知り合いがいたのね。
そしてあなた方は、助けてもらった。あなた方にはまたこの列車を見る力があったのですね。そういう方のためにこの駅はあるの。
このリンゴをもっていきなさい、でもね、このリンゴは生命のリンゴ、よく聞いてね、落として無くしたり、食べてしまったら、もうあなた方の世界には戻れないのよ。くれぐれも文ちゃんには気をつけてあげてね、千鶴子さん。」
「どうして私」
「わかっているでしょ。あなたとはどこかでまた会えそうね」
おばあさんは、にこっと微笑んで千鶴子をみた。
おばあさんは、一人ずつ、手作りのキャラメルを渡してあげた。
みんなは直ぐ食べたけど、千鶴子は、こっそりポケットにいれた。
四人が行ってしまったあと、おばあさんの目にはひとしずくの涙。
「やっとこれで私の務めは終わりました。あなた、長いこと淋しい思いをさせましたね。もう少しよ、次の便であなたの所へ戻ります。
あなたの好きなアーモンドの粉入りのキャラメルをたくさん持って帰るわ。待っていてね、文ちゃん」
四人は、元の席に着いた。するとそこへ車掌さんが話をしに来た。
「何でも、あの売店のおばあさんは、子供のころの大切なお友達、大好きだった仲間を助けるために、ご主人の元から離れて、駅の売店でずっと働いておられるんです。さて、このブルートレイン仕様の列車ですが、降りられるまで、他の車両にはおいでにならないでください。
この列車は六両編成で、前四両は客車、後ろ二両は寝台車になっていますが、その寝台車両には絶対立ち入り禁止です。
実はその寝台車に寝ておられるお方様は、御骸骨様と言って、この冥星鉄道のために身を献げ、御骸骨様となって、その方たちの強い思念の力、超念動力によって宇宙の力を引き寄せ、この鉄道は運行を続けることができるのです。この列車は地球で言うと、超光速。光の速さ以上に移動しているようですが、この銀河系のどこにも行くことができるのは、それを超えた次元、つまり思念の力で移動しています。
人間の心は一瞬にして宇宙の果てまで思いを寄せ、また過去や未来を自由に行き来出来ます。その微弱な力をこの宇宙を支える暗黒物質、つまり、星をも運行させうるその暗黒エネルギーを取り込むことで、大きく増幅させ、この宇宙を移動しているのです。だから、何百光年も離れた距離も、僅かな時間で運航できるのですよ。これらは反宇宙のメカニズムです。次は地球、停車駅は日本です、良かったですね。これで帰れますよ」
四人は、ほっとしたが、視線が文太郎に向けられた。文太郎はリンゴを見つめていた。
「おいしそうだな、一口齧ろうかな、ほんの一口ぐらい齧ってもリンゴを裏向けとけば、ばれないや」
文太郎が、リンゴを一口齧ろうとしたその時、千鶴子が
「文ちゃんダメ、だめよ、それ食べたらもう帰れなくなるわよ」
「そうだった。ごめんよ、ちずちゃん、みんな」
文太郎のリンゴには、歯形がついてしまった。
その時、車内アナウンスが、
「まもなく地球に到着致します。停車駅は、日本、青森の恐山駅です。日本で降りられる方は、ここでお降りください」
すると昭夫が
「ええ、困った、恐山なんかから帰れないよ」
「どうしましょう、すぐお父さんに電話するわ、でもわけを聞かれたらどうしよう」と佐和子
「昭ちゃん、何とかならないの」
と文太郎
「恐山て、下山の方法も分からないし、町まで出れてもお金もないし、警察に行きましょ」と千鶴子。
その時、小林先生と車掌さんが来て昭夫の方に手を伸べて。
「こちらの方はね、まだ子供さんで、家の近くじゃないと、今日中に帰れないんです。私達がいつも利用しているF市の朝見小学校のグランドに、臨時停車してもらえないでしょうか。私たちは今日はここでは下りないんですが」
「と言われましてもね、鉄道規約でそれは出来ないんです。あなた方お二人は、降りられますがね。ダメなものはダメです」
そう言って車掌は昭夫たちに頭を下げた。
昭夫が腕時計を見ると、八時十五分を回っていた。
「困ったな、どうしよう、遅くなった」
何気に車掌は昭夫の胸のバッジに目が行った。
車掌は
「ちょっとその青いバッジ見せてもらえますか、もしかしたら」
昭夫は、バッジを取り外して見せた。
車掌は直ぐに返してくれた。
「え?あなた方は、はあ、そうだったのですか、あの方の。はい、分かりました。このバッジをつけておられましたら、臨時停車でもなんでも致しましょう」
「どういうこと、あの方って誰」
「いやー良い方を仲間にお連れでしたね、それでは運転士に連絡します。」
「うわー良かった」
「なんでか、わからないけれど、助かったわ」
「もしかして、あの売店のおばあさんの事かな」
すると小林先生が
「そうです、この冥星鉄道はそれを支える多くの方の手によって成り立っています。その方々の家族や親族縁者の方は優遇されるのです。そのバッジはその象徴です。この佐藤君もおじいさんが、清さんというのですが、お寺のお坊様をされていたのですが、この世とあの世をつなぐ鉄道の運行にとても貢献してくださり、先代の車掌をもされていました。元のお寺の近くの、朝見小学校に臨時停車場を作ってくださったのも、その方です」
すると文太郎が
「もしかしてその和尚さん顔が黒くない」
「ご存知でしたか」
「僕のおばあちゃんも、その和尚さんの配慮で何度かこの鉄道に乗ったんだって」
「そう、あなたのおばあさんは、何度か乗っておられました。和尚さんのお陰で、孫に会えたと言っておられましたよ。 実はね、聞くところによると、あのおばあさんを助けるには少しわけがあって、それは、おばあ様のとても若い頃の事、あの和尚さんとは同い年で子供の頃から、とても仲良しで、大人になっても好き合っていましたが、でもお寺の嫁には同じ宗門の寺の娘ではないと、結婚させることは出来ないと、強くお寺の方から断られ、悲しい思いをさせ、すまないと言われたと、お話を聴いたことがあります」
列車は恐山を後にすぐに、朝見小学校臨時停車場に到着した。昭夫たちは、小林先生と車掌さんに送り出され、四人は、頭を下げお礼を言った。
昭夫は、先に列車のタラップを降りてグラウンドに降り立ち、手をつないで助けた。最後に文太郎が降りる時急に文太郎は叫び出した。
「痛い、痛いよう、誰かが僕の肩を噛んだ」
文太郎の後ろに誰もいなく、文太郎の肩を見ると、かまれた跡、歯形があった。文太郎も千鶴子に傷を撫ぜてもらい機嫌はなおった。
いつの間にか持っていたリンゴは消えていた。
昭夫が時計を見ると、八時三十分。だけど明るい。校舎の大時計を見たら、七時丁度
「え、どういう事、時間がおかしいよ」
「いいじゃない昭ちゃん。無事帰ってこられたのだしねー」
と、文太郎
「そうそうほっとしたわ、もうどうなるかと、ね、文ちゃん」
と、千鶴子。佐和子は
「昭夫君も悪戦苦闘だったわね、歌でも歌って帰りましょうよ」
昭夫たちは、七山千夏の、♪仲間仲間なーかーまーを歌って分かれ道まで来た。(明るい仲間)
*
千鶴子は、こっそり鈴峡駅の売店おばあさんのくれたキャラメルを持ち帰り、半分に包丁で切って、お母さんに食べてもらった。
「あら、このキャラメル、アーモンドの荒い粉が入っているわね、前によく作ってあげたのと同じじゃない」
「ほんとだ、お母さんの手作りのキャラメルと同じだわ。ねえ、お母さんのキャラメルの作り方、教えてくれる」
「いいわよ、これができるようになったらまた一つ千鶴の作れるお菓子の献立が増えるわね、文ちゃんにも食べてもらえるしね、ふふ」
千鶴子のお母さんはそう言って、キャラメルの作り方を教えてくれた。
「キャラメルはね、牛乳、2百㎖ グラニュー糖6十グラム 蜂蜜十グラムを鍋に入れて中火でグラニュー糖を良く溶かします。沸々してきたら、生クリーム百㎖ バター十グラムを加えて、焦げないようにヘラで混ぜながら煮詰めて、ここでアーモンドの砕いた粉を入れるのよ。バニラエッセンスを少し加えます。泡があまり出ないように、煮詰まり加減を見て、鍋離れが良くなれば、料理用紙を敷いた容器に流し込み、冷蔵庫で冷やし、固まったら温めた包丁で大きさをそろえて切り分け、パラフィン紙に一つずつ包んで、出来上がりよ、あとは、冷蔵庫で保管しとけばいいわ」
「お母さんありがとう。しっかり覚えたわ。でもあのおばあさん誰だろう。ねえお母さん、うちのおばあちゃんてまだ元気よね」
「何言ってんの、ついこの前、家に来たじゃない」
「うん、お父さんのお母さんは、背が高いし違うわ。ねえ、曾おばあちゃんて、私のことしってる?」
「しらないわ、早くに亡くなっているしね。ねえ、何言っているの」
「うーんあのね、今日、私に似たおばあさんに出会ったのよう、それでね、私の名前知っていたのよ」
「どこであったか知らないけど、覚えがないわ」
「うん、いいの、ありがとね」
「また会ったら聞いてみたら」
「そうね、そうする」
千鶴子は、この後もキャラメル作りが得意になり、文太郎や仲間に配って、好評を得た。
*
時が経ち、なぜか、路地文でこのキャラメルは店頭に並び、ヒットした。
星の子の里
昭夫たちも夏休みに入った。
休み前に先生は、二学期の初めに水泳大会があるから休み中プールで泳ぎの練習をしておくように言っていた。
夏休みの宿題は、「夏休みのしおり」である。夏休みの四十日間毎日勉強出来るようになっていて、夏らしい挿絵もあり、国語 算数 理科 社会の勉強ができ、他に絵日記、工作、読書感想文があった。
藤田先生は不思議探検隊の四人には、保志彰著の、「ケンタウリ星の子の里」を渡した。
「君らはこれ読んでみてくれ。感想文の相談は、七月の末までにプールの時にでも聞きに来てくれ。必ず四人で来てくれよ」
内容は、F山のすそ野のある村で、真夏の一夜だけ、流星が飛び交い、草むらに星が沢山落ちる。その時どこからか子供達が大勢現れ、その星を拾い始める。実はこの子供たちは、他の星、プロキシマケンタウリの第二惑星からの旅の扉の恒星間来訪者で、決まった時間に戻らなければならないが、ある時、五人の子供達が、戻れなくなってしまった。次の扉が開くのは二十年を待たなければならない。
村の人々は快く星の子たちを受け入れた。五人の子供たちはそれぞれ事情を知った別の家で養子として引き取られた。元々地球の言葉は学んできていた。
恒星間飛行は子供しか通れない。二十年経って五人は手紙を向こうの両親に言づてた。
ケンタウルス座αケンタウリは地球からは一つの星に見えるが実は三重連星。そのうちの二つの星は、太陽1.5倍ぐらいあり、二つの星は、太陽から木星と冥王星の距離の間を行ったり来たりで結ばれている。
地球から一番近い恒星で距離は約四光年である。二つの星はリギルケンタウロスと呼ばれている、この二つは近い。もう一つは小さな赤色矮星プロキシマケンタウリである。この星から大きい二つの星までは、太陽から海王星までの距離の五百倍ある。またこの星はαケンタウリから少しずつ離れていて、いずれは広大な宇宙の放浪者となる定めである。
星の子たちは大人になると、地球では背が高くなり二メートル近い者
もいた。惑星ケンタリティスは、地球より1.2倍ほど大きい惑星なので地球では重力の加減で背が伸びやすいかもしれない。
若者の多くのものが都会を目指した時代。星の子たちは村に留まり、農耕牧畜を喜んだ。地球人と遺伝子型が似ていて、彼らは他のものと同じように、里親の勧めで、結婚し、子をもうけた。
それがケンタウリ衆の由来である。このケンタウリ衆の出た村は、星の子の里と呼ばれ、二十年に一度の来訪を喜び、七夕ではなく、この季節は、ケンタウリ星祭りを行い、「歓迎星の子」の横断幕を上げ、それぞれの家は、家の前に子供が描いた絵を行燈に張り蝋燭を入れたものを吊り下げ、星飾りを飾り付けます。七月の最後の日曜日には、遠く離れた家族も帰ってきて祭りに参加します。
あちらこちらでゴザを敷いて子供星祭りを行い、お菓子が出たり福引をしたり、また金魚すくいや出店もあって賑わいます
四人は、この本の読書感想文をどう書けばよいか、先生の勧めだから、この本について本当の事かどうか、先生に聞きに学校へ行こう、という事で、校門で待ち合わせ、先生を訪ねた。
藤田先生は待ってたとばかり喜んだ。
先生は、この本を書いた人は、友人で、F山の麓で、ペンション(洋風民宿)を営んでいる人で、八月初めの週末に一泊二日で先生と一緒に行かないかと誘った。四人は喜んで家族の了解を得て、費用をもって先生の家で待ち合わせた。不思議探検隊のための特別授業だとか言って、他の友達には内緒だと言われ、先生は車にみんなを乗せ出発した。
F山の麓は、とても緑の綺麗な高原。あちらこちらに森があり、少し離れたところには、大きな湖があり、広がった裾野から、山頂が雲間から顔をだし、とても爽やかなところ。
お昼前、早くに着いたので、ペンションの奥さんが、お昼ご飯にカレーを用意してくれた。手作りの福神漬けは甘くて、辛いカレーにぴったりでとても美味しかった。
料理を終えて、厨房から出てきた女の人に、藤田先生はびっくり
「あ、あなたは、たしか、あの麦わら帽子の髪の長い女の子、そ、そうたしか、みつ子さん。そう、小白川みつ子さん。ええ、彰、どういう事なんだ」
「あはは、こういう事なんだ。みつ子さんはね、正みたいに夏だけ毎年この高原に来ていたんだよ。牧場横の別荘地で、洋館の別荘にね」
「俺たちの憧れの的だったのに、実は、俺は一度別荘に呼ばれたことがあるんだぞ。すごい部屋で、お姫様みたいなベッド見せてもらったのを覚えていてね、テラスでジュースもらって話もしたぞ」
「そうなんだ、実は僕も呼ばれてね、みつ子さんはこの高原が大好きでとても気に入っていて、東京よりずっとここに住みたいって言っていてね、僕も将来この地で、ヨーロッパにあるような洋風民宿 ペンションを開きたいって言ったら、とっても乗り気でね、私も協力して一緒にやりたいと言っていてね。正には悪かったけど、僕達仲良しになっちゃったんだ。それで、フランス語勉強して、高校卒業後思い切って、本物の料理人になりたくてフランスへ渡って、一から料理人の修行をしてね、二十四才でここに帰って来た時、彼女に電話したんだ。フランスから便りをやり取りしてたからね」
「それで、どうやってこんなすごいペンション建てたんだ」
「うん、建物の計画から彼女も入ってね、この土地は僕の親が農地をくれて宅地に変えてね、建物は彼女がこだわって彼女の親に助けてもらたんだ。結婚の話はもう出来上がっていてね。彼女の所、兄弟は、兄も姉もいるから、親も喜んでね、式もパリのモンマルトルの教会で行ったんだ。もちろん披露宴はここだけどね。正を呼べなくてすまないな」
「いいや、しかし、すごいな彰は、夢を実現したんだな。俺も頑張らなきゃな」
「正だって、良い教師やっているじゃないか、お前を慕っている教え子がいるじゃないか」
「そう、俺もその夢は実現したし、これからだよ」
「先生も早くお嫁さんもらってよお」と千鶴子
みんな大笑い。藤田先生も頭を掻いている。
ペンションライフは楽しく、クラフトは、材料は少し焦げた材木で、昭夫は青い鳥の鍵かけを、佐和子は、大きな目の梟の可愛いキーホルダーを。
文太郎と千鶴子は、それぞれ熊とリンゴの鍋敷きを作った。
三時のティータイムでペンションのオーナーであるマスターは、子供たちは甘いハーブティを淹れ、大人はブルーマウンテンのコーヒー豆を挽いて、ホットコーヒーを注いだ。そしてお話は始まった。
「ケンタウリ星の子の里」の本を書いたのは、この人、「ペンション星の子」のオーナーで、藤田先生とは、子供の頃からの親友である。
ペンションのあるこの村の一帯が、昔から星の子の里と呼ばれていること。 ケンタウリ衆は実在し、背の高い友達もたくさんいたとの事。
そして、二十年前、子供の時に見た不思議な光景について、話してくれた。
「この近くの森のどこかで 夜、とても大きな木があって、その木だけすごくたくさんのホタルが飛んでいて、まるでクリスマスツリーみたいなすごいことになっていた。今は君たちの学校の先生をしている藤田正君と見たから本当の話。 正は、親戚がこの村にあり、小四の夏休みひと夏ここで暮らしていて、近くに住んでいる僕は一緒にザリガニやカブトムシをよく捕まえてね、それである日、正のカブト虫と僕のクワガタを交換してね、親友の誓いをしたんだ。大人になってもいつまでも友達でいようってね」
「そう、後で彰と蛍の木を探してみたんだけど、ついに見つからなかったね」
「うん、でも僕たちの見た、飛び交う流星とバタバタ落ちてくる光る星そして、初めて見た星の子たち。ちょっと怖かったけど感動したよね。だから僕は地元のこの地に、宿屋を作ってこの話を語り継いでいこうと思ってね、それで本も書いたのだよ」
「それで先生は僕たちにこの世界を知ってもらうために、僕たちがこの本を読んで興味を持ち、ここに連れてきてくださったんですね」
と、昭夫。
「そうだな、君らは今まで不思議な体験をし、乗り越えて来たからな、この不思議な星祭りを味合わせてやりたくてね」
「私、ここ好きよ。カレーもとってもおいしかったし、林檎の可愛い私の料理の友ができたわ。文ちゃんや仲間と旅行するって、もお、めっちゃくちゃうれしいわよ」
「そうそう、私もね、病気が長かったしこんな大自然の素敵なところに来れて、うれしいしペンションて素敵ね。さっき屋根裏部屋を昭ちゃんと探険して、赤い三角の小さな屋根の下の出窓に可愛い花柄のカーテンが掛けてあってとっても素敵だったわ」
話をしていると、オーナーの保志 彰さんがフォークギターを持ってきて
「歌ってもいいかな」
「よっ、彰、まってました」
オーナーも切り株の椅子に座り、ギターを抱えて歌い出した。
曲は、七山千夏の「あなたの心に」と「三日月に乗って」。とても好評で、三日月に乗っての“船出だ光をとりに”をみんなで何度も歌った。
昭夫たちも希望曲をだし「波をちゃぷちゃぷかき分けて」を伴奏してもらってみんなで歌った。大盛り上がりでした。
お開きになった後の時間、お風呂までの一時間ぐらい、昭夫の思い付きで、文太郎と千鶴子。昭夫と佐和子の二組に分かれて高原の散策を愉しんだ。
文太郎と千鶴子は、ペンション裏の沢路から小川で沢蟹やザリガニを見つけて遊んだと言ってた。
昭夫と佐和子は、緑の広場の大きな木の枝から下がったブランコを見つけ、乗ってこいだり、山沿いに沈みゆく夕日を二人して眺めた。いつしか手を繋ぎ
「本当に良かった、本当に良かった。佐和ちゃんがいなかったら、僕は…治って良かったよ」
「私もよ、本当にうれしくてありがたいわ。ねえ、この夕日、私達しっかり覚えておきましょう。まだ始まったばかりの私たちの人生の思い出に、あなたと過ごせてうれしかったわ」
二人の瞳に熱いものが込み上げていた。
さて、四人は替りばんこに入浴を済ませ、食堂に集まった。
今日は他のお客さんはいなくて、テーブルを合わせて六人掛けにしてもらって、藤田先生と四人は席についた。テーブルセンターは、とても素敵な水色の花をあしらったもの。薄いピンクのリボンと花束の柄はとても乙女チックで、佐和子と千鶴子は舞い上がった。
そして、見たこともないような綺麗な銀の大きな、ナイフやフォーク、いくつかのスプーンを並べてもらった。今度は昭夫と文太郎が舞い上がった。
ペンションの夕食が始まった。シェフであるオーナーは、安いカジュアルなお客さんには軽いコースを作り、奥さんの親族やヴィップなお客さんには、おつまみとワインから始める正規のフランス料理のコース料理を出すが、友人とその教え子には、それに合った料理を出した。
前菜は、四分の一の桃の生ハム乗せ。すごく相性がよくみんな舌鼓を打った。藤田先生は赤ワインを頂き、子供たちは葡萄ジュースをもらった。サラダは、燻製のハムと地元の野菜と洋風の野菜のブレンド。大きい目の皿に絵を描くように、クリームドレッシングとほろ苦いオリーブオイルがかけられて、
おいしく綺麗でした。佐和子のお気に入りは、ルッコラとラディッシュ。ルッコラの辛みがおいしいと言っていた。
次は、冷製ポタージュスープ。
これには文太郎がうなり声を上げた
「うわーおいしいこんなの初めてだ、なんて冷たくておいしいんだ」
すると千鶴子が
「ほーんとおいしいわ。ねえ、このスープの作り方あとで教えてほしいな」
「いいですよ、いつでも厨房に来てください。君は料理好きなんだな」
焼きたてのパンは三種類もあって、小さなクロワッサンもあった。好きなパンを選んだらシェフは、トングで取り分けてくれて、お代わり自由と聞いた分ちゃんは何度もお代わりして、それでお腹がふくらんでしまった。
次のメニューは、魚のマリネ。メカジキをソテーしたものにバルサミコで味付けた花野菜を乗せ、小さな酢の物をあしらたもの。そして、メインディッシュは、自家製燻製機で燻製にしたポークの分厚いハムステーキ。これは絶品でした。
「こんなおいしいもの食べたことないよ。燻製の香りがとても効いてる」
と昭夫
「確かにうまい。さすがフランス仕込みだな、彰」
「ありがとう正、今、ブルゴーニュの赤の良いものが入っててね、良かったらボトルで飲んでみてくれ、口に合うかな」
シェフは少し注いで味見をしてもらい
「これはうまい絶品だね」
の声を聞いてからワイングラスに注いだ。
デザートは、アイスクリーム。近くの牧場のジャージー種の牛の牛乳だけを使ったアイス。黄みを帯びた色は食べると濃厚。これだけでもご馳走で、子供たちには大絶賛。
さて、夕食が終わって、団らん室で文太郎と昭夫と佐和子がそれぞれ気になる本や図鑑を見ていたが、そこに千鶴子が厨房から帰ってきたところに藤田先生が、
「君たち、ちょっと夜の草原を散歩して来たらどうだい、時間もちょうどで、もしかしたらあの本に書かれていることを体験出来るかもしれないよ。実は今日がその日なんだ。ペンション横の道を真っ直ぐ山の方に行って、広場と森があってね、もし大きな木にたくさんの蛍を見つけたらすごいぞ。さあ、探検隊出動だ。このために来たんだからな」
「そうなんだ僕たちが、一度だけ見た不思議な光景をもし見れたらいい経験になるよ。この森のどこかにその大きな木があるはずなんだ。もし見つけたら場所を覚えておいてほしい。その木には蛍がたくさん飛んでいて、まるでクリスマスツリーみたいだった。そしたら急に流れ星が降り出してね、すごいしとても綺麗だったよ。その後バタバタ音がするのでみると、星がいっぱい落ちていてね。すると、どこからかたくさんのかっこいい服の子供たちが現れて、木の枝で拾い始めた。僕たちも拾ってみた。後で家に持ち帰って見たら、星は、折紙で作った星飾りみたいになっていて、親に言っても信じてもらえなかった。そもそもこの辺にそんな大きな木はないと言われた。地球に来た星の子たちは、ケンタウリ衆の家に呼ばれてもてなしを受けるんだそうな。もし君らも会えたら話してみるといいな。先生たちもね、ケンという名の子に会ったよ。じゃ、行くんだったら気を付けて行っておいで」
「うん、行ってみたい、みんな行ってみる?」
「そうだね、おいしいものはたらふく食べたし、ちょっと眠いけど行きたい、昭ちゃん行こうよ楽しそうだ」
「私も、もちろん文ちゃんと行くわよ」
「そうね、流れ星や蛍の木、とってもロマンチックだわ、行きましょリーダー」
四人は懐中電灯をもって夜の探検に出発した。
夜空は満天の星、星は輝いていて天の川もよく見えた。
しばらく歩くと草原の広場に出た。左の木に白い荒縄でブランコがあ
った。すると、広場の左奥つまり南西にある小さな森の方に、文太郎は何かを見つけて指さした。
「ねえ昭ちゃん、あそこ見てよ、何だろう、なんだかぼんやり明るいよ。なにか屋台でもやってるのかな」
そう言ってペロッと舌を動かした。
しかし行ってみると屋台ではなく 蛍だ。しかもその蛍は群れを成して、相当数集まっている。まるで大木のように、大木に群がる蛍のように見えた。
「これだよ」
と昭夫。
「大きな木じゃなかったのね、でもちょっと離れて見たら木に群がる蛍に見えるわ素敵だわ」
「ほーんと、これはクリスマスツリーだわよ」
「屋台の方が‥」
昭夫たちが蛍に見とれていると、辺りが急に真っ暗になった。蛍の木だけは輝いていた。すると千鶴子が
「あ、流れ星よ!」
見る間に弧を描くようにたくさんの流れ星がシャワーのように降り出した。
すると、今度はバタバタ音がした。周りを見ると、なんと星がいっぱい落ちていた。今度は皆揃いの銀色のユニホームを着た子供たち現れて、木の枝でその星を拾い始めた。昭夫達も木の枝を探して落ちている星にかざすと星はくっついた。星を手に取ると、星は輝きをなくし、紙で作った星になった。
いつの間にか同じ年ぐらいの男の子が立っていた。昭夫が話しかけた。
「地球にようこそ、君は言葉は解りますか」
「はい、地球の言葉は学んでいます日本語は大好きです」
千鶴子が
「あなたのお名前は」
「はい、ケンです、ケンと呼んでください。正式には、ケン・バス・ネリーです。僕らの星惑星ケンタリティスでは地球のような苗字はありません。バスは母親のことです。ネリーは母親の名前です。ケンタリティスは母系社会で、誰がどの母親の子かが大切なんです。お父さんも大切ですけど、男の人は結婚すると下の名前が母親から奥さんの名前になるんです。でも社会はとっても平和です。地球みたいによその奥さんを好きになったり離婚したりはほとんどないです」
「へえそうなの」
と千鶴子
「僕は磯部昭夫ですよろしく」
「僕は路地文太郎」
「私は、橋場千鶴子よ、ちずちゃんでいいわ」
「吉岡佐和子ですよろしく」
ケンが話し出した
「ねえ、君たちも星を拾ったの?良かったら僕の住んでいる所へ案内しようか。旅の扉は、地球の一時間。残り五十五分余り開いているし、来てみない。必ず帰ってこれるから。旅の扉は二十年ごとに三回、一時間おきに開くんだ。でもケンタリで一時間おきでも地球では二十年たっているんだ。この前一時間前来たとき男の子が二人いてね、ケンタリティスに来ないかって誘ったら、怖がって一目散に逃げていっちゃった。あの二人どうしてるかなもう大人だよね」
千鶴子はクスクス笑い出した。
「ねえ、君んち行ったらなんか、おいしいものくれる?」
「もお、文文」
「ね、みんなどうする行ってみようか」
昭夫達はケンについていくことになった。
「それじゃさっき拾った星を額に当てて目を閉じて星を放してみて。それから目を開けてみたら」
昭夫達が目を開くとそこに星の形の乗り物が五つ繋がっていて、まるでジェットコースターみたいだった。その一つずつに昭夫達は乗り込んだ。
「君たちが見た木のようなたくさんの蛍はね、この地に残ってくれた僕たちの仲間がここに来る目印のために用意してくれたんだ。蛍のフェロモンを科学的に操ってね。さあ行こう船出だ」
「あれ、どっかで聞いたような」
と文太郎
五人の乗った星は流れ星のように旅の扉を駆け抜けた。暗闇のジェットコースターに乗っているように思えた。前からは何度も放射状の光が弾丸が撃ち込まれたようにすごい速さで迫ってきては過ぎ去った。
一瞬真っ暗になったと思ったら、目の前に文明の開けたケンタリュウムの都市があった。五人は駅のホームみたいなところについて降りた。
「わあ、すごいやすごい。なんて言う高さの建物。それに、車は皆空を走っているよ」
と文太郎。みんなも目を見開いていた。ケンが答えた
「惑星ケンタリティスは、地球より文明は進んでいる。でも人が住めるのは星全体の三分の二程度なんだ。極地はね、零下マイナス七十度で、磁気嵐がひどく太刀打ちできないんだ。人が住める赤道近くにマンモスシティを造ってね、ここでは半重力の研究と次元を利用する研究がなされていてね、火山活動は極地に近いエリヤしかなく地震もないのでビルの高さは地球では考えられないくらい高い。車はわずかな推進力と重力・半重力の力を利用して燃費もほとんどかからなくて空中を走っている。」
昭夫が指差して
「空の向こうの方に浮いている筒を半分に切ったようなものは何ですか」
「あれはね、コロニーなんだ。人が住める環境を備えた巨大な衛星のようなもので、この惑星にはたくさんのコロニーがあります。今から僕の住んでいるコロニーの僕の家へおいでよ」
そう言って腕時計のようなものをのぞいた。昭夫がのぞくと、その腕時計には黄色い三角形したものが回っていて不思議な文字盤や小さな丸い穴が回転していて、指を置くと立体的に広がって見える。
「これ一つで惑星や宇宙、時間や次元の流れまでわかるんだ。僕の家には地上からエレベーターで行くよ」
「エレベーターなら時間がかかるんじゃない」
と佐和子
「大丈夫、次元装置のだから一瞬だよ」
と言って昭夫達がエレベーターに乗ると、操作盤をあれこれ押して、最後に大きなボタンを押した。
一瞬で扉は開いた。
コロニーの中はまるで別世界。日本の田舎の里山のようで、家々は農家の家のようだった。向こうには山も見え鳥たちもさえずり、環境は素晴らしい。家畜もたくさん山のふもとに飼われていて、昭夫達は牛かと思ったら、牛のような大きさの鳥だった。
「ケンタリで飼われている家畜はケーナと言って二種類だけなんだ。小さい方は愛玩用で家で飼われている、クヮーと鳴いて、とってもかわいいんだ。卵も産んでくれるよ。くちばしは太くてちっちゃくて、エサは野菜や木の実を食べる。もうひとつの種類はとても大きい種族で、大きな卵は食品やスイーツの材料になるし、食肉加工もされるんだ。そうだ、朝に焼いて料理したものがあるから食べてみて」
ケンの家に呼ばれて、その料理を味見したら、豚肉と鶏肉を合わせたような味で、文太郎は、やたらにうまいと言っていた。
「もう、ずいぶん昔、密命を受けて五人の子が地球へ降り立ち、そのまま地球に居残ったんだ。子供といってもケンタリ人の教育は早く、彼らは博士クラスの研究者だった。僕も今、宇宙での星の運航とそれを支える長大なエネルギーの研究生なんだ。他には安定した反原子と反宇宙の研究をしている子もいるよ。地球に残った彼らは、地球の家畜、特に牛や豚を研究していて、次の旅の扉が開いたときに研究論文や家畜のディーエヌエーや細胞のサンプル、試験管結合した培養受精卵などを託して持ち帰り、それでもうすぐ地球型の牧畜ができるようになるんだって」
「え、じゃわざと残ったの。彼らの子孫がケンタリ衆として今も生きているんだよ」
と昭夫。そのとき文太郎が
「ねえ、もうそろそろ帰んない」
するとケンが
「あーどうしようアラーム忘れてた」
すぐ腕時計のようなものを起こして。
「いけない、旅の扉が閉じかけてる。お母さん非常用ポッド借りていい?」
「いいけど充電で来ているの」
「大丈夫そのくらいは貯まっている。さあみんな早く乗って」
非常用ポッドは卵型で定員七名。みんなを乗せて、操作盤をいろいろ押したら扉が開いた。旅の扉のテイクオフホームに一瞬で着いた。
「みんな走って、あれに乗って早く」
ホームの端に四つ繋がった星の乗り物があった。昭夫たちはそれに乗った。
「大丈夫まだ時間はあった。この惑星に来てくれて本当にありがとう。今度地球に行くのはこっちでは一時間後だけど地球では二十年も経っているんだね。また大人になっても会いに来てくれるかい。こんなもんしか上げられないけど」
と言ってケンは、家から持ってきた、コロニーに咲く綺麗な花の押し花カードをお別れに一人ずつ渡した。
昭夫は
「ありがとうケン。僕たちは忘れないよ。必ず二十年後会いに行くよ」
佐和子やみんなも口々にお礼と綺麗な押し花カードのありがとうを言った。
星の乗り物はホームを無事出発した。鮮烈な光のシャワーをくぐり、もうすぐで地球に届くとき、佐和子が声を上げた。
「ねえ、昭夫くーん、私の星がガタガタして外れそうだわ」
千鶴子が
「佐和ちゃんしっかり私を捕まえてよ」
文太郎も心配げに
「大丈夫か、ちずちゃんしっかり支えてあげて僕は、もう片手で、ちずちゃん支えるから」
「うん」
昭夫
「もうすぐだから何とか持ちこたえて」
そのとき
「だめだわ、外れたわ。私どうなるの」
外れた佐和子の星は、一旦前に出た。昭夫は必死で手を伸ばし、佐和子も必死で手を伸ばした。指と指が触れ合ったけど離れてしまった。
「佐和ちゃーん」
「昭夫君ありがと」
佐和子の星は一瞬にして無限の彼方に消え去った。
「そんなあ、そんなことないよう佐和ちゃーん」
その時声があった。
「君たちこんなところで何してる」
「あ、先生。佐和ちゃんが」
「私がどうしたって、昭夫君、何、夢見て泣いてるのよ。私たち無事に目印の蛍の木を見つけてゆっくり着地したわよ」
「あ、そうだった。それで僕たち疲れ果ててこのベンチに座った途端に眠りこけちゃったんだ」
「君たちの帰りが遅いから彰と探しに来たんだ」
「これだよ正、見て」
大人の二人は二十年ぶりに見る蛍の木を見た。
「これかあ。確かにこれはすごいことになってる。木じゃなかったんだ。道理でいくらさがしても見つからないわけだ。いったいどうしてこんなに蛍が集まったんだろう」
「それは、星の子たちがこの地に来るための目印で、前にこの地に残った星の子が仕組んだものなんだそうです」
と昭夫
「それはにわかには信じがたいな。しかしなんで知っているんだ。もしかして、行ったのかケンタリティス」
すると千鶴子が
「せーんせ、先生とシェフは子供のころ星の子に会ったんでしょ」
「会ったよ」
「それで惑星ケンタリティスに誘われたけど怖くなって逃げちゃったんでしょ」
「何で知ってるんだよ」
昭夫が
「僕たちも星が落ちてきたとき誘われてね」
「行ったのか」
「行ったよ。乗り物はね先生達も拾ったあの星です。ほらまだそこに落ちてる。黄色い星が四つ繋がって、それが大きくなって乗っていたんです」
先生たちが見ると四つの星はシューと火花を上げて消え去った。
「あ、消えちゃったね。でも惑星ケンタリティスのケンタリュウムという都市はすごい所だったよ。車は皆空中を走ってるしね、コロニーでもらった焼き鳥はおいしかった」
と文太郎
「あれは焼き鳥じゃなくてケーナという名前の家畜のお肉でしょ。惑星ケンタリティスにはその家畜しかいなくて、鳥なのに牛みたいに大きいのと家で飼える小さい鳥の二種類しかいなくて、実は地球に残ったあの5人の星の子は、博士クラスの頭脳で、地球の家畜を研究して向こうでも新しい地球型の家畜として牛や豚を育てて増やす目的があったんだって」
と昭夫
「えーっそうだったのか、ううん、ま、ううん、ここだけの話にしておこう。おっぴらにするといろいろまずいしな。でも、とりあえず無事に帰ってこられてよかった」
と藤田先生。すると昭夫が
「向こうでは二十年に一度旅の扉は開くんだそうで、一度開いたら向こうの時間で一時間ごとに三回開き、向こうでは一時間ごとなんだけど、地球には過去と現在と未来の二十年ずつ別の日に離れて到着するんだ。その開いている時間は時間は地球の一時間で、その間は自由に行き来ができるので、僕たちも行ってきて帰れたんだ。ケンは次のも来る予定で、また二十年後に会おうって。先生たちも会うよね」
「そうだな、よし、その時はまた彰のペンションにおじゃまするか」
「いいよ、みんな子連れでいらっしゃい。でも僕たち五十だね」
みんな大笑いでペンションに帰った。もう九時近かった。
ペンションの奥様は、子供たちにはもう一度アイスクリームを出してくれ、文太郎は手を挙げてヤッターと言っていたが、先生たちにおつまみとビールを出した。二人は遅くまで話していた。
朝早く四人はもう一度昨日の場所まで散歩した。やはり木はなかった。
ペンションの朝食はおいしい。先生はカフェオレ、子供たちには搾りたてのオレンジジュースとミルク。パンは、クロワッサン ロールパン 小さく切ったバゲットで焼きたてを篭に入れてあり、またまた文太郎はたくさん食べた。サラダと燻製のハムとクリームみたいなオムレツは美味しかった。
二十年後を約束して、ペンションを後にした。
藤田先生はその夏もう一度このペンションに誰かと二部屋で訪れた。
*
二十年後その時は来た。六人はその場所で待っていると。あちらこちらからたくさんの蛍が集まってきて、蛍の木が出来上がると、一瞬真っ暗になり、弧を描くような流れ星、乗り物の星は、地上では小さくなり数も増えて、バタバタと落ちてきた。
その時、あの姿のままのケンが現れた。
「やあ君たち、やっぱり来てくれたのかい」
「わかるの?私達が」
と千鶴子
「もちろんわかるよ、ちずちゃんと地球のお友達」
「まっていたわよ、あれからいろいろあったけど、これ見て」
と佐和子は昔もらった押し花カードを見せた。色は褪せておらずあの時のまま。四人も見せた。昭夫が
「これそのお礼なんだけど日本中のきれいな風景の絵葉書集なんだ。どうぞ」
「俺たちは実は逃げたあの二人組でね、この人たちの教師なんだ」
「よかったら僕のペンションにおいでよ」
「うれしいよありがとう、こんな素敵なカード見たことない」
ケンは勧められるままペンションに来て、おいしい料理と飲み物に感激して、しばし楽しい時間を過ごした。
六人に見送られてケンは星の乗り、帰って行った。
「地球のお友達ありがとう。僕は忘れないよありがとう」
六人はいつまでも手を振っていた。
夏祭りの大杉
昭夫たちの学校の近くに、朝見神社がある。
神社は、社の前は広場になっていて、そこから参道があり、石段を二十段ほど降りたところに大きな杉の木がある。そこが神社の入り口で、赤い大きな鳥居がある。
鳥居は参道の中腹にも一つあり、鳥居の額(扁額)には、時の御社と書かれている。参道の両側は広く、縁日には屋台が並んでいる。参道の終わりにはまた石段が五段あり鳥居を超えると、社前の広場に出る。
社は、御神籤など売ってる所と、普段は閉じられているけど、祭りのときは開いて、巫女さんの舞と雅楽を見せてくれる建物がある。
朝見神社の夏祭りは、町の人が願い事を書いた木のようなものや火の用心のお札も持ってきて燃やす場所もあり、火がよく燃えている。
神殿前には大きな鈴と賽銭箱があり、賽銭箱には五芒星、桔梗のしるしが彫られている。夏祭りは、盂蘭盆の八月二十四日。社前の広場には向かって左側に盆踊りの輪が広がっている。右側と参道には屋台の夜店が並んで、あちらこちらで湯気を上げている。参道と広場には夜赤々と電球の明りや雪洞が灯されている。
昭夫たち四人は、この夏祭りに行くことにして、校門に六時に待ち合わせした。文太郎が来た。
「わー、ちずちゃん、かわいいよく似合っているよ。やっぱりちずちゃんのゆかた姿いいなあ」
「えへっそうお、佐和ちゃんがね小さくなって着れないからって、このゆかたくれたの。そしたらね、私にぴったりだったの。朝顔の柄、気に入っちゃった。ありがと文ちゃん」
「まったー、あー着て来てくれたのね、私もお母さんのゆかた縫い直してもらっちゃった。紺地に団扇のちょっと古い柄だけどうれしいわ」
「ごめーん、まったあ、七つ道具用意してたら、遅くなっちゃった」
「ねえ、何でお祭りに行くのに七つ道具必要なわけ?」
「あの、何が起こるかわからないでしょ。佐和ちゃんそう言わないでよ。佐和ちゃんも、ちづちゃんも、ゆかたいいね。よく似合ってるよ」
「私のは、佐和ちゃんの、もらったの」
「わたしのは、お母さんのゆかた仕立て直してもらっちゃった」
「いいね、祭り気分最高だ」
みんなこの日のために貯めていたお小遣いを持ってきたが、文太郎のポケットは小銭でパンパンだった。神社の大杉につくと、昭夫を先頭に一列で動くことにした。人が多いし迷子にならないためだ。まず神社へ行ってお神楽を見てから買い物しようということになったが、るんるんで歩いていた昭夫が時の御社の額のある鳥居をくぐらないで、みんなもそれに続いて歩いたが、昭夫が消えた。
千鶴子ひとりになった
「あれ、昭ちゃんどこに行ったのよう。げげっ、文ちゃんも佐和ちゃんもいない。みんなどこに行ったのよう。なんか変だわ、あんなに赤々とした明りが、急になんだか暗いわ。それに電球じゃなくメラメラゆらゆら燃えているし、お店が変だわ。みんな木の屋根に柱。それに木の車がついている。だんごやうどんやおそばが売られているし、おかしいわ。ここはどこなのよう、もお、みんな、どこいちゃったのよう」
すると向こうから、どこかで見たような背の低いおばあさんが歩いてくるのが見えた。
「まあまあ、あなたは千鶴子さんね、ゆかたがお似合いよ。どうしてこんなところにいるの」
「もしかして、鈴狭の売店のおばあさん。私仲間とはぐれてしまって」
「そうね、ここはあなたが住む世界ではありませんよ。この神社のお祭りはね、実はあの世とこの世が重なることがあるのよ。そればかりか、過去と現在、未来がすれ違う所でもあるのよ。あなたは間違ってあの世の人々が楽しむためのお祭りの道に来てしまったのよ、もしかしてあの、時の御社の鳥居で変な動きしなかった?」
「あ、昭ちゃんが、その鳥居をくぐらずに、ぐるっと回ったわ」
「それだわ、実はあの、時の御社 の鳥居は、この世でもあの世でもないところに、見えはしないけど、あの場所にそのお社はあってね、時や生成更新を司る強い社だと言われているのよ。さて、元来た世界に帰る方法はあるのよ、よく聞いてちょうだい。まず、神社の賽銭箱に桔梗のしるしが付いているわね、あなたはそこにいってそのしるしに、掌を付けてあわせてね、するとちょっとピリリとするわ。私も経験したもの。そのあと入口の杉の木にも小さく桔梗のしるしがあるので探してみてね、そこに手を当ててね、その後、時の御社の鳥居の、神社に向かって右側の柱の裏にも桔梗の小さなしるしがあるからそこも手を当てて、もう一度大杉まで戻れば、もう大丈夫よ」
「ありがとうおばあさん。ううん、おばあさんは私の親戚ですか、前に私の名前を知っていたし、おばあさんはいったい誰ですか」
するとおばあさんはじっと千鶴子を見て
「私はあなたよ、あなたは、わ た し、あなたはうまく生きれば私になるのよ」
「やっぱりそう、そんなこっとってあるのね。初めて会ったとき私と顔が似てると思ったわ。もう、びっくりだわよ。すると隣のおじいさんは」
「あなたはあなたの人生を行くのよ。でも一言あなたのために忠告させてね。あなたは十七歳の時に死にかけるわ。食べてはいけないものを口に入れ、そのまま飲み込むと、猛毒のため目が見えなくなって死んでしまうの。そこでわたしがおまじないをかけてあげるわ。口に入れた時嫌なにおいがするわ。その時、(これは食べ物じゃないこれは食べ物じゃない吐き出そう) これを思い出させるわ。もう一つはね、二十四才の時にあなたは人生でとても大きな決断をするの。でも。あなたは迷い、心を悩ますわ。その時、私の決断は正しいと何度も言うのよ。もし間違った決断をしたら、その時は正しいように思えても、あなたもあなたの周りの人も淋しい人生になるわよ。気を付けてお行きなさい。幸せいっぱいになってね」
「いろいろありがとう私のおばあさん行ってきます」
言われた通り賽銭箱の前の真ん中にある、桔梗の星型のしるしに手を付けたら、桔梗の大きな文様の真ん中から火花が飛んで掌がピリピリした。するとすぐに風景は変わり始めた、明りが明るくなった。あのおばあさんはもうおられなくなった。もう少しで大杉というところで、千鶴子はリンゴ飴がほしくなって、買ってしまった。近くなので一旦家に帰って、このリンゴ飴を置いてこようと思い家に帰って
「出てる途中だけど、ちょっとこのリンゴ飴預かっといて」
「ハイハイおまつりね、早かったのね、え?あなたは誰?」
千鶴子はその話も聞かず
「じゃ、行ってきまーす」
千鶴子は大杉まで戻って
「あ、私忘れてたわ」
と言って大杉の裏にある桔梗のしるしを見つけて手を当てて、参道の真ん中の、時の御社の鳥居の柱の裏にも手を当てた。
すると、明りがとっても明るくなった。
「さあ、みんなを探さなくちゃ」
ふと見ると鳥居の反対側の柱に、佐和子があちらこちら人を見て誰かを探しているようで、すぐに声をかけた。
「佐和子ちゃん会えて良かった」
「みんなどこ行ったの。昭夫くんや文ちゃんはどうしたの」
「それが、私一人っきりになっちゃって。でもまた鈴峡の売店のおばあさんにであって、教えてもらったの」
「何を」
「この神社の縁日はね、あの世とこの世が交わることがあるの。そればかりか、過去と現在や未来もすれ違うんだって。それでね、元の世界に戻る方法があるんだって。とりあえずそれやりに行こう」
もう一度、賽銭箱の文様に二人は手を当てて…
*
「あら、お前は、もしかして文ちゃんじゃないかえ」
びっくりした文太郎は指さして
「ああ、おばあ、おばあちゃんだー」
「まあ文ちゃん、大きくなったねえ、でもどうしてこんなところに文ちゃんがいるの。ここは文ちゃんが来るようなところじゃないんだよ」
「みんなとお祭りに来たんだけど、みんないなくなっちゃったんだ。それでね、ここの屋台でおいしいもの買おうと思っても、持ってるお金が使えないんだよ」
隣のおじいさんが
「そりゃそうさ、ここではこのお札で物を買えるんだよ文太郎」
「あ、あなたは、和尚さん?」
「よくわかったな、今は人間の顔じゃ、あの時はの、ふんころがしのお化けじゃからな、真っ黒けじゃ」
「おばあちゃんと和尚さんて、子供の頃から仲良しだったんでしょ。冥星鉄道の車掌さんが言ってたから」
「あいつ、おしゃべりだな」
「そうだね、またここで仲良くできてさ、若いころの続きみたいさね、清さん」
「そうじゃ文太郎にはこのお札をやろう」
わしらはもう楽しんだからと言って、和尚さんは一枚、おばあさんは二枚お札をくれた。元の世界に帰るには、時の御社の爺様に話を聞けば帰れると教えてもらった。それとこの場所は、あの世でもこの世でもない怪しい所で、気をつけなされや、わしらも、もう帰るからと言われた。
文ちゃんはうきうきで、はじめはうどん屋でうどんを買った。きつねうどんで、長椅子に座って、どんぶりの中をのぞくととってもおいしそう。そのとき店の主が
「そこの僕、早く捕まえて食べないと、うどんが逃げてしまうぞ」
ふと隣を見ると
「しくじったあ」
と叫んでいる。よく見ると、その人のどんぶりからうどんが逃げ出して、参道横の草むらに、シュルシュルュシュルと逃げて行った。
自分のどんぶりを見ると、うどんの頭がにょっきり持ち上がって、様子を見ている。今にも逃げそうなそぶり
「そうはさせるかぁ」
と、文太郎の食い気の方が勝っていた。
「お前らは僕のもんだかんね」
と言って、割りばしで挟んで抑え、食らいついた。中の揚げがその声を聞いて震えている
「うんまい、このうどん、味噌仕立てなんだな。それで口の中でまだ少し粋がよくて、食べごたえあるんだな」
うどんで気をよくした文太郎は、次は、もう一枚の札で、焼きトウモロコシの甘醤油掛けを買うことにした。屋台のおじさんが、食べるときは思い切ってな。と言っていた。
おいしそうな焼きたてのトウモロコシ、文太郎は、焼きトウモロコシが大好きだった。
すると、見る間にトウモロコシ一つ一つの実に目玉がついて、みな、文太郎をギロっと睨み付けた。今度は小さな口ができて
「わたち達を食べる気ですか。そんな、ひどーい。♪やめろ やめろ 食べるのやめろ」と大合唱始めた。
文太郎は、またも
「うるさい、お前たちは僕のものだ!」
と言ってかぶりついた、トウモロコシは声をそろえて
「ギャー鬼、ひとでなしー」
と叫んだが、みな、文太郎のおなかに入った。文太郎は、
「旨かったー、醤油と甘みが絶妙だあ、それと征服感があるね」
と訳の分からないことを言ってたが、次は、たこ焼きの屋台を見たら、ガラス張りの所で、小さな蛸たちがずらりとラインダンスを踊っている。
たこ焼きを買った人を見ると、丸い蛸焼きの中から、茹で上がりすぎた小さな蛸たちが、口に見えるところから強い湯気を吹いて
「あつい、あつい、もうダメ」
と言って丸いたこ焼きの中から真っ赤になった茹で蛸たちは抜け出して蛸焼の皿である薄い木の船の端に避難しているのが見えた
「こんな面倒なものはだめだな、熱いの苦手だしね」
今度は、甘いものがほしくなり、お札で飴細工の飴を買い求めた。
飴細工の屋台で、お札と交換で、タヌキの飴細工をもらったら、屋台のおじさんが
「坊主、頭からな、がぶっといけよ」
と、言われていたのに文太郎は、楽しんでタヌキの耳を噛んでみると
「これは甘くてうまい、あたりだね、あれ」
見ると、噛みちぎった耳が元に戻っていて、タヌキの笑顔が、むすっとした顔つきになっていて、もう片耳を齧ると、またタヌキの耳は生えた。しかし、タヌキの顔は怒り顔になっていて、色も白から少し薄桃色に変わった。飴細工はかなり膨らんできた。
「やばい」
文太郎は、タヌキの頭からかぶりついて、おなかも齧ったが、すぐにまた頭が生えておなかも、もとどうりで、必死で食べまくったら、異様に膨らんできた。タヌキの顔は、怒り心頭になっている。慌てて齧りまくったが、色も赤くなり、だんだん硬くて食べられなくなり、タヌキは牙をむき鬼のような顔つきになっていて、頭から湯気を出し、全体も真っ赤になり、大きく大きく膨らんで、ついに棒から外れ、空高く舞い上がり、パーンと音を立てて割れて、ちりちりに消え去った。周りの人も、あーあと言っている。見ると文太郎のお腹が、異様に膨らんでいて
「ふう苦しい、もう食べらんない」
と言って近くのベンチに横になった。
*
現実の世界に戻った千鶴子は佐和子に
「そうだわ、あの時私は文ちゃんを追いかけて、間違えて右の柱を右回りに回ったのよ、今度は左回りに回ってみるけどついて来てくれる?」
「ええもちろんよ、昭ちゃんも探さなきゃ」
二人が回ったところで、風景はガラッとかわった。
電球じゃなく、訳の分からない明りが、ふわふわ燃えて浮かんでいる。その時、パーンと音がした。千鶴子が
「今の音、何かしら、ここはどこかしら、でも文ちゃんの気配を感じるわ。あれ、あの白い建物、今までの世界にはなかったわ」
時の御社の鳥居の横の参道沿いに白い小さな建物があり、社御の時、と書かれていた。すると佐和子が
「これ反対に読むんだわ、ここが時の御社の本社だわ」
「おばあさんがね、時の御社は、あの世でもこの世でもないところに、見えないけどあるって言ってたわ。それがここなのね」
二人はその建物の扉を開くと、中はとても広く、たくさんの大きな歯車がいろんな方向に動いていて、それぞれかみ合って回っていて、中央には下からと上からに角のようなものが出ていて、その真ん中に地球が浮いていて、すごい速さで回っているのが見えた。その地球の周りを十の形のものが、地球と反対方向にくるくる回っている。すると、下の階段から人が上がってきて、見ると、千鶴子の半分ぐらいの背の高さの小人で、袖口の広い空色の着物を着て紺色の細い帯をして、頭は、長い白髪を束ね、編んだ空色のとんがり帽子をかぶった長いひげのおじいさんが出てきて
「どうしました、尋ね人かね、しかしお前さん方、よくこの世界にこれたね不思議なお方たちじゃ」
「おじいさんは誰?」
「わしか、わしは、時の御社の守り人、サイラスと申す」
千鶴子が
「あの、くるくる回る青い丸いのは地球ですか」
「そうじゃとも」
「それじゃ、その周りをまわる十の形のものは何ですか」
「あれか、あれは、時と生成更新を見張る支配の形じゃ。この宇宙は、エントロピーと反エントロピーの強い力が働いて保っておるのじゃ。ささ、話はこれぐらいで、お前様方の仲間か」
おじいさんが目を閉じて又開くと
「ほれ、向こうのベンチに寝ているものがそうじゃろう。早く連れてきなされ。もう間もなく、カイロスとクロノスの歯車が入れ替わる。そうすると元の世界に戻るのが難しゅうなる。ささ早く」
二人は苦労して二人抱えで文太郎を連れてきた
文太郎は
「もう食べらんないよう」
「わかったわかった」
と千鶴子
おじいさんは、ぴょんと飛び上がって、持っている、先に回る銀色の歯車のついた棒で、文太郎の額と腹に当てると、文太郎のお腹は元通りになった。
「なあにその者の体の時間を戻してやったのだ、さ、早くその階段から上に上がり、梯子を登りなされ」
文太郎を先頭にして千鶴子、佐和子の順で梯子を上った。梯子に全員取りついたとき、階段はぐるぐる回ってきえた。千鶴子は
「おじいさん、ありがとう」
と叫ぶと
「達者でなあ」
と小さく聞こえた。
梯子を上り詰めた所は、筒の中みたいな所で、筒の形に添ったドアがあり、ノブを回して押すと、外に出られた。外に出てみると、時の御社の鳥居の神社に向かって左側の柱で、そこからから出た。みんなが出ると、扉の後は消えた。
まだしんどそうな文太郎を、入口の大杉の所にあるベンチに座らせて、佐和子が
「さあ、次は、昭夫君を探さなくちゃ」
「心当たりある?」
と、千鶴子
「多分、あの子は時々調子に乗りすぎちゃうことがあるから。あの、時の御社の鳥居、『僕は鳥居をくぐりませーん』とか言って、二回もぐるぐる鳥居の周りを回ったんじゃないかしら」
と佐和子。すると千鶴子は
「そう、わたしは、一度回って、みんながいなくなって、反対側の柱を、左からのもう一度回ったら、あの世の祭りに行っちゃったのよ。そこを文ちゃんは右から回って、おかしな世界に行っちゃたのだわ」
「じゃ、昭ちゃんの足跡たどりましょうよ」
二人は、鳥居をぐるぐる二度、外側から回ってみた。すると、縁日の屋台の明りが、ぐんと暗くなった。屋台は厚手の布と木の柱を組み合わせてできたもの。明りは銀色のアセチレンライト、少し匂う。
佐和子が
「このスタイルってきっとかなり昔の時代じゃないかな。でもなんだか昭夫君の気配を感じるわ」
*
「この玉虫は、おじさんが卵から育てて成虫にしたからね。もし逃がしたら、餌になる食べる木がわからなくてすぐ死んでしまうよ」
昭夫は、
「きっと大切にしますから、一匹分けて売って頂けないでしょうか」
「いいよ、一匹五円です」
「え、五円玉一つでいいんですか」
「だめだね、新しく出来た硬貨は、まだ信じられなくてね、五円札ならいいよ」
「え、五円札は持ってないです。すみません今は昭和何年ですか」
「何言ってるの、戦争も終わってこれからの時代。昭和二十三年じゃないか」
「え、あ、そうだっけ、すみません。五円札は持っていないんですが、これでどうですか」
昭夫は、なけなしの大きな五十円硬貨を見せた。穴の開いていない大きな貨幣で裏には大きな菊の柄があり、表は、分銅を横にした形の中に、大きな文字で50と書かれた銀貨。それを見せたら
「ふーん、初めて見る銀貨だな、じゃが、日本国と彫られているし、珍しい。いいじゃろ、これで、一匹売ってあげよう。よし、一番元気な子をやろう」
おじさんは、縁が真鍮色で、青い細かな金網の小さな籠に、玉虫を入れて、昭夫に渡した。
「おじさんありがとう。それで教えてほしいんだけど、玉虫は何を食べるんですか。飼う時の注意はありますか」
「あのね、玉虫は、榎の葉を食べるんだけどね、普通に榎の葉っぱを入れても食べないで死んでしまうことがあるんだよ神社の入り口の、大きな杉の木の裏に、榎の木がたくさん生えているよ。葉の先のギザギザした葉が榎だよ。もし、家に古い金魚用のあまり大きくない水槽とかあれば、下に土を入れて、小さい瓶に水を入れて、新しい若い榎の葉のついた小枝をそこに入れて餌にするんだ、もし水槽が四角だったら、三方にエノキの葉を詰めて張るんだ。ごはん粒でいいよ。そうすると、玉虫はね、安心して、餌を食べてくれるんだ。それで、たまに気を休めてやるために、君の部屋の中を自由に飛ばしてやってください。寿命はね、大体ひと夏だけど、大切にしてやればもう少し生きるよ。もし逃がしたら死んでしまうよ、それと、絶対霧吹きとかで水をかけないでな、死んじゃうよ」
「ありがとうおじさん。玉虫大切にしてやります」
すると、佐和子が
「あーいたいた、昭夫君、もう何、買ってるのよ。みんな心配して探しに来たのよ」
「あー佐和ちゃん。そういえばみんないなくなったね」
「昭ちゃんここは、私たちが生きている時代じゃないのよ。一緒に戻りましょう」
「ちずちゃんごめんね、心配かけたね、ここは昭和二十三年だって。でも、玉虫を手に入れたよ」
道々三人は、ここでのことを話し合った。三人で賽銭箱の桔梗に手を付け、大杉まで戻ると。当然そこには文太郎はいなかった。
時の御社の鳥居の桔梗のしるしに手を付けると、ぐっと明るくなった。大杉まで戻ると、文太郎は手を振った。
「何だかみんなえらい事になったね、僕もう大丈夫だよ」
「ほーんとよ、文ちゃんや、みんなを探し回るの疲れちゃったわ」
「玉虫に夢中でごめんね、ちずちゃんがみんなの事助けてくれたから戻ってこられたんだね、ほんとに助かったよ、ありがとう」
「私もね、ちずちゃんに会ってほっとしたわ。ところで、屋台でなんかまた買い物する?わたし綿あめ買ってくるわね、弟が楽しみにしてるのでね」
千鶴子がふと見たところに
「あれ、見てみて、あの二人見覚えあると思ったら、藤田先生と山田先生よ、なんだか先生たち嬉しそう」
文太郎が
「え、どれどれ、あ、でも、そっとしておこうよ」
文太郎の言葉に千鶴子はうなずいた。
昭夫は、大杉裏で何か木の葉や枝を集めていて、
昭夫と佐和子を待って四人で出来事を話しながら家路についた。
早速昭夫は、夜のうちに、家探しして古いプラスチックの水槽に、庭の土を入れて、水槽の三方に榎の葉を貼り付けて、ヨーグルトの空き瓶に水を入れ、若葉のついた枝を入れて、玉虫を入れてやった。玉虫は気に入ったように、枝に取り付いて、葉っぱを食べ始めた。
千鶴子が家に帰ると大変だった
「私のリンゴ飴はどこ。お母さんに預けたでしょう。早かったのねって、お母さん言ったわよ」
「変ねぇ。お母さんは、千鶴子が帰って来たの知らないわよ」
この日は、おばあさんが来ていた。
もともとこの家は、おじいさんとおばあさんの家だったが、娘の結婚の時、娘夫婦にこの家を譲り、自分たちは田舎に住みたいとのことで引っ越していったが、お盆や正月にはやってくる。そのおばあさんが
「あれ、そのゆかた見覚えあるよ。そうそう。昔、祭りの時、知らない子が家に来てね、お母さんこのリンゴ飴預かっといてって言うんで、私、声も似ているし、祭りに行ってる娘と間違えて、早かったのねって言ってよく見たら知らない子で、その子がその朝顔のゆかた着ていたわ」
すると母が
「そうなのよ、それを聞いて待ってたけど、その子来なくて私そのリンゴ飴食べちゃったわよ」
「えーっ、そんなのないよう、私のリンゴ飴返して返して」
千鶴子が半泣きになっているのを見て、お母さんが、私も祭りに行きたいからもう一度一緒に行こう。ということになり、二人は出かけた。
不思議なことに参道中ほどの、時の御社の鳥居の扁額の字が、時の御社ではなく、朝見神社 に代わっていて、千鶴子が鳥居を回っても何も起きなかった。母に聞くとここはずっと朝見神社だったという。
千鶴子は、リンゴ飴を三つも買ってもらい、機嫌が良くなった。本殿前の広場左で、丁度子供向けの盆踊り、オバ9音頭を踊っていた。
♪ きゅきゅきゅのきゅ、これまったきゅきゅきゅのきゅ
こうして、夏休みも終わり、二学期が始まった。
昭夫の玉虫は元気だった。昭夫の部屋で放してやると、玉虫は少し飛んで、昭夫の肩や頭の上に止まった。
昭夫が指を差し出すと、指に移り寛いでいるようで、しばらくして、榎の葉に移してやった。
昭夫はこうしてかわいがった。玉虫は九月中ごろを過ぎても餌はよく食べ、ぴんぴんしていたが九月下旬のある明け方に、昭夫は夢を見た。
夢に、虹色の帽子を被り、虹色のマントを着た、男の子が現れ、
「ご主人様、今まで私を可愛がってくださりありがとうございます。ご主人様が私のために、いつも新鮮な葉を採ってきて下さった事は、よく存じています。ご主人様、私はもう旅に出なければなりません。ご主人様に出会えたことは、私の幸せでした。そしてどうか一つお願いがあります。私のこの体はどうかいつまでもご主人様のお部屋に、居させてください。もし、できたら、いつか、また」
昭夫が目覚め、胸騒ぎがあり、玉虫の水槽を見ると、榎の枝につかまって。玉虫は死んでいた。
その日、町に行くお母さんに頼んで、昆虫採集セットを買ってきてもらって、処置をして、ちいさな標本用の額に玉虫を入れて、昭夫の部屋の壁に飾った。その玉虫を見て夢を思い出し、昭夫は声を潜めて泣いた。
玉虫は、長い間昭夫の部屋に飾られていた。
*
次の年、七月の終わりごろ、二階の昭夫の部屋で、空いていた窓から玉虫は、飛び込んできた。部屋の中をぐるぐる飛び回り、昭夫の肩にとまった。昭夫は指を出すと、指にとまり、暫く寛いでいるようで、昭夫は
「玉虫君か?」
と、声をかけると、玉虫は、指を離れて飛び上がり、玉虫の標本の小さな額の上に止まり、それからゆっくり部屋を回って、窓から消えて行った。その後、玉虫が現れることはなかった。
ピイちゃん
夏休みも終わって、教室ではまだ休みボケの抜けきらない九月のはじめ。
「起立、礼、着席」
学級委員の甲高い声が、子供たちの脳裏にまた学校生活が始まったことを呼び起こした。低学年の時は皆で
「先生おはようございます、皆さんおはようございます」
と言ってたが、五六年生からはこれに替わった。
今日は月曜日。朝のホームルームの時間
「はい おはよう、今日はお知らせがあります。ところでみんなは夏休み中、言っておいたように学校のプールによく来て練習したよな。いよいよ来週月曜日、三時限目と四時限目ぶっ通しで、五年生の組対抗水泳大会を行う。そのためにこれから一日一時限プール授業に当てて選手を決める。種目は、クロールのリレー、自由形リレー、平泳ぎとバタフライの個人競技だ。おいみんなできるか」
藤田先生の言葉にみんなはざわついた。
「それから、着替えは教室でするなよ。例年通り講堂で組ごとに並んで着替える事。水中メガネは禁止。耳栓はしたい人はいいよ」
昭夫達もそれぞれ種目に参加、佐和子のクロールは見事で、回転して進むミサイルのようだった。文太郎の個人平泳ぎも思ったより力があり、二位。 昭夫と千鶴子はあまり奮わなかった。
こうして水泳大会は終わった。そして些細な事件が起こった。
講堂で組ごとに並んで着替えは終わり、給食を食べているときに、千鶴子は文太郎の異変に気が付いた。
「文ちゃんどうしたの、顔が赤いわよ、風邪でも引いたの」
千鶴子が文太郎の額に手を当てると。
「熱いわ、先生文ちゃんが風邪ひいてるみたいよ」
すると文太郎は
「先生、大丈夫です僕、風邪ではありません」
次の日、文太郎の顔の赤いのは少しおさまっていた。千鶴子も昭夫達も少しほっとしたが、朝、二時限目の授業の始まる前にそれは起こった。
二組の松原宏子さんが三組に来て
「ごめんなさい、ここに磯部君、いますか」
「磯部なら僕だけど」
その時松原さんの顔を見た文太郎はまた顔が真っ赤になった。直ぐに千鶴子は文太郎の顔をまじまじ見つめ、松原さんの顔も見ていぶかった。
松原さんは涙を目にいっぱい貯めて
「私は二組の松原宏子ですが、この組に、磯部君と仲間が探し物をして下さるって聞いたので来たんですけどお願いできますか」
「どうしたの言ってみて」
文太郎は、頭を抱えている。松原さんは
「ずっと ぐすん ずっとかわいがってきたセキセイインコのピイちゃんが、朝、かごを見たら扉が開いていなくってなっていたの。お父さんもお母さんも一緒に探してくれたけど、どこにもいないの。大きな声で『ピイちゃん』て呼んだら、遠くの方で、チロってさえずった気がして。お願い私と放課後一緒に探してください」
昭夫やみんなはオッケーしたが文太郎は、気が重いようなことを言っていた。
昭夫は文太郎に
「文ちゃんどうしたの、具合よくないの」
「うん、大丈夫だよ、昭ちゃんありがと」
放課後校門で待っていた松原さんと一緒に家まで行ってピイちゃんを探すことにした。松原さんと昭夫と佐和子、文太郎と千鶴子で二組で探した。松原さんの顔を見てそわそわしている文太郎に、ついに千鶴子が
「文ちゃん、私、分かったわ、あの人の事好きになったんでしょう。もういいわよ」 少し涙目の千鶴子に文太郎が
「違うよ全く違うよ、とんでもない誤解だよ。なんとも思ってないよ」
「じゃあどうしてその顔赤いの、朝、治っていたのにあの人を見たとたんに真っ赤になったわよ嘘つかなくてもいいわよ」 文太郎が
「千鶴ちゃん僕のことを信じてよ、僕が好きなのは」その時文太郎達と少し離れたところで、ピイちゃん見つけた、の昭夫の声を聞いた。
昭夫や佐和子がピイちゃんを呼ぶと、確かにどこかでさえずっているのが聞こえたが、昭夫が例のビー玉を握りしめて
「ピイちゃん帰っておいで」と声を上げて呼ぶと、ピイちゃんはバサバサと松原さんの頭の上にとまり、帰ってきた。昭夫は、七つ道具をカバンの底に入れていた。今日はビー玉も入れていた。
ピイちゃんを捕まえてかごに戻すとすぐ水をしっかり飲んで餌をついばんでいたという。文太郎たちも追いついて、出てこられた松原さんのお母さんに挨拶した。二人は何かにやにやしていて、千鶴子に笑顔が戻った。
お母さんは昭夫達に丁寧にお礼を言ってくれ、肉まんを、その当時珍しいエレックさん(電子レンジ)でほかほかに温め、一つずつ下さった。
肉まんは、その当時の子供たちの口には、とても美味しかった。ちなみにカレーの缶詰も、とても辛いけど美味しくて感動したけど、大人になり、同じもの買って食べても、味ががっかりだった事を思い出す。
ピイちゃんはなんと宏子さんの生まれる前から家で飼われていて、とても人懐こくて賢い鳥だった。おしゃべりも上手くて、ワタシハ マツバラピイコデス とか お母さんの口癖の オハヨウオハヨウ ヨガアケタ チクタクチクタクボーンボン とか話せたが、家に帰ってからひと月ぐらいで亡くなった。家族の一員として小さなお葬式をしてあげ、庭に葬って石を立てた。お父さんの話では、ピイちゃんは自分の死期を知っていて、広い世界を見たかったのかな と後で昭夫は松原さんから聞いた。
その日の帰り道、千鶴子は文太郎に今日これから家に来て、と誘ったので、文太郎は一旦家に帰り鞄を置いて、友達のところに行ってくる、と店の母親に言って出た。文太郎は千鶴ちゃん家に久し振りのおよばれにうきうきしていた。千鶴子も母親と相談してカレーの用意をした。今日は文ちゃんに来てもらうことや千鶴子が料理を作って文ちゃんと一緒に食べること話した。千鶴子の母親は喜んだ。千鶴子と幼稚園が一緒だった。家族の忙しい文太郎は小さい頃よく遊びに来てお風呂に入れてもらったりご飯を一緒に食べたりしてた。
千鶴子がカレーの料理している途中、ピンポンのチャイムが鳴り、文太郎がやってきた。
「こんにちは」と文太郎。千鶴子は満面の笑顔で
「あ、文ちゃん上がって上がって」
千鶴子の家は二階建ての小さな一軒家だがとても小綺麗で、台所が広く二階は千鶴子の部屋とお兄さんの部屋だ。
「お母さん、文ちゃんにお風呂入ってもらっていい」
「いいわよ、ゆっくりしてもらって、バスタオル青いの使ってね」
お母さんは二階で洗濯物の取り入れと片付けをしていた。
文太郎はありがたくお風呂を頂戴した。
「ちずちゃん家のお風呂は広くて清潔でいいんだなあ、いい湯だな」
すると、お風呂の戸が開いて、服を脱いだ裸の千鶴子が入ってきた。
「えー」
文太郎の目と心には千鶴子のあどけない姿が焼き付いてしまった。
千鶴子は直ぐに文太郎と背中合わせで浴槽に入った。文太郎は言葉も出なかった。千鶴子は
「ねえ、」
「なに」
「私の、見た」
「見ちゃった」
「じゃあ、あの人の見ちゃったこと忘れてくれる?」
「もう忘れた」
それは、水泳大会が終わり、各組一列に並んで着替えていた時に起きた些細な出来事。文ちゃんの向かいには知らない子が着替えていたが、途中で大きな長いバスタオルをはらりと落としてしまった。文ちゃんはいきなり裸の、松原宏子さんを見てしまい、それから顔が真っ赤になった。というわけ。
千鶴子は
「ねえ、大人になったら、私たち結婚 しない?」
「いいよ、僕、千鶴ちゃん 好きだもの」
「私ね、文ちゃんのおかみさんになりたいわ。ね、文ちゃんの事、おまえさん て、呼んでいい?」
「いいけど ちょっと時代劇見すぎじゃないの」
「よかった。じゃあ背中流してあげる、文ちゃんの背中広いな」
千鶴子は文太郎の背中を洗って流すと直ぐに髪はぬらさずシャワーを浴びて体を拭いて出ていった。母親はそのことを気付かなかった。
お父さんとお兄さんは帰りが遅いので。三人でカレーを食べた。お母さんも文ちゃんの事いろいろ聞いたり、陽気な文ちゃんの受け答えによく笑い、皆とても楽しそうで、とても幸せな時間を過ごした。
文太郎は何度もお礼を言って家に帰ると、路地家の晩ご飯もしっかり食べた。その日、文太郎はすぐに床に就いた。色々あって疲れたようだ。
その後、校庭や帰り道で二人の時、千鶴子はこっそり文太郎の事、「おまえさん」と呼ぶことがあり、そんな時はいつも「何だい おちず」と、文太郎も言って返して笑いあっていた。二人には温かなうれしい繋がりが芽生えた。
その後も二人はあまり目立つことなく仲良しだった。中学に入るとなかなか同じクラスになれず、二人は文通し始めた。中学三年生でやっと同じクラスになった。クラスでは二人は壁新聞のチームに入って一緒に活動できることがとてもうれしかった。
昭夫と文太郎は中学二年の時同じクラスで、ある日、二階の教室で文太郎は窓際で
「ううんいい景色だな」
と言っていたので昭夫は傍により
「どんな景色、あ、ううんいい景色だ」
なんと千鶴子と佐和子が仲良くブルマと体操着を着て、テニスのラケットをもって並んで校庭を歩いているのが見えた。二人とも中学三年間はテニス部にいた。昭夫は美術部で文太郎は、家の手伝いで早く帰っていた。時に千鶴子と文太郎は、小さな川の土手での目立たない所でよく座っていた。
千鶴子は英語の授業が好きで、英会話の教室にも習いに行っていた。
高校生になると、二人は同じ公立の高校に入れて、月に一度は上手くデートを重ねた。お小遣いをためて、遊園地の、まる急ハイランドにも行ったことがある。そんな時千鶴子はいつもお気に入りの、苺柄のポシェットを肩にかけていた。
二人は落ち着いて賢く付き合った。
千鶴子が十七才の秋、部活を終えてお腹を空かせて家に帰ると、玄関すぐの応接間の上がり框に紙に包んだおいしそうなお饅頭が一つ出てきた。
「お母さんこれ食べていいの?」
返事がなかったので、千鶴子は食べちゃえと言って口に放り込んだら、すごく嫌なにおいがして、 その時あのおばあさんのおまじない
「これは食べ物じゃない食べ物じゃない直ぐ吐き出そう」
という言葉がすごく強く心に浮かんで、噛まずに吐き出せた。その時お母さんが顔色変えてとんで来て
「いやー千鶴ちゃんそれ、食べてしまったたの」
「おえっ大丈夫」
「すぐ口濯いで(ゆすいで)ね。はあ、良かった良かった。ごめんねお母さんが悪いの、ネズミ駆除のお饅頭をご近所一緒に仕掛けることになってね、玄関に届けてくださったの忘れていたの。もう少しで千鶴子を死なせる所だったわ。本当にごめんなさい。危なかったわ」
千鶴子はお腹もすいていたし、構わずに食べてしまう所だった。
「私のおばあさんありがとう」
千鶴子には夢があった。スチュワーデスになって世界を飛び回りたいという夢である。スチュワーデスは今ではキャビンアテンダントと呼ばれている。高校を卒業すると、東京のスチュワーデスの養成学校に入った。八王子の親戚の家から通わせてもらった。文太郎は、公立の大学に入り、三回生の時、秋から春まで休学して、ひとりニュージーランドに遊学した。
丁度千鶴子がスチュワーデスになって一年目にニュージーランドにフライトした。ニュージーランドに着いたら丸二日休日となり、文太郎と落ち合った。久し振りに二人で会えた。千鶴子は宿舎に荷物を置き、文太郎の案内で、美味しいレストランで昼食を済ませ、ニュージーランドの近郊の牧場や果樹園に訪れた。懐かしさとうれしさで二人は近づき、森陰でしっかり抱き合った。二人は再び将来を固く誓い合った。しかし道を外すことはなかった。
文太郎は、ニュージーランドの果樹に嵌って(はまって)いた。キウイフルーツやブラックカラントやブルーベリー等のベリーの数々は文太郎を魅了した。
千鶴子がスチュワーデスになって四年目の夏。さんざん悩んだけど、あの時のおばあさんの言葉に励まされて、スチュワーデスを辞めた。
千鶴子はこの仕事がとても好きだったし、英語の発音はネイティブで、違和感なしにアメリカ人と受け答えしていた。千鶴子は心を悩ませた。しかし踏ん切りをつけて、
「私の決断は正しい」
と、何度も自分に言い聞かせ、好きだった仕事をやめた。
千鶴子はF市の家族のもとに帰ってきた。そして習い事を始めた。着物の訪問着や留め袖を買って着付けを習い、お茶やお花、作法などを身に着けていた。
文太郎は、大学は一年留年して卒業。家業を継いだが、和菓子の研究も熱心で、ニュージーランドから取り寄せた果物を和菓子やゼリーに見事に融合させて好評を見た。
文太郎の家族は忙しさのあまり文太郎にはあまりかかわってやれなかったが、文太郎が選んだ花嫁にはとても満足だった。何代も続く家風にふさわしいと思わせた。
文太郎は、おばあちゃんからもらった宝物を売って頭金にして、住宅ローンで庭の広い家を買った。文太郎は、スモモやイチジクや信州の青リンゴの木、小さな果樹園を作り、その家で千鶴子は和菓子店の仕事のない日、子供向けの英会話教室を週に一度開いた。結婚式には小学校
の頃からの親友や恩師にも来ていただいた。
二人には、子供にも恵まれ、穏やかで幸せな日々を送った。
メンコの友情
十月の学芸会を前に藤田先生は講堂の舞台下の倉庫を調べる務めを昭夫達にさせた。今年昭夫達の組は楽器で合奏することになった。
文太郎は、大太鼓。千鶴子は木琴。佐和子と昭夫はソプラノ リコーダー。曲は [ペルシャの市場にて] に決まった、メロディーも特徴のある
高い方のド、ド、ド、ラソラソミ、ミ、ラ、ラ、ラ、ソミソミレ、レ で、一生懸命音楽室で練習している。
さて、その日の放課後、藤田先生と探検隊四人は講堂にやってきた。藤田先生は四人に懐中電灯を渡した。
講堂の舞台の段差は一メートルぐらいだったが板で張られている。舞台への階段梯子は二か所で、舞台に向かって左側の梯子の左側に一か所板がはがれている。そこが倉庫の入り口である。講堂からは、光の加減で、その入り口の真っ暗な中に鬼の顔が見える、と子供たちからは怖がられている。
昭夫達が、板がはがれている所を入ると下に降りる階段梯子が五段ほどあり、中は真っ暗だった。四人は懐中電灯を照らすと、上の方に大きな鬼がいた。
「うわあ怖い、あれ張りぼてだ。後ろにおたふくの張りぼても吊るしてあるね、なあんだ」と昭夫
何年か前に節分で作った物と分かった。他に竜の頭とか、学芸会で使ったセットが吊るしてあった.
すると、奥の方から幽霊の頭が出現
「キャー助けて、え!、いやね、不気味よ文ちゃん」
と佐和子。千鶴子も
「不気味よ不気味、もおぶんぶんやめてよ懐中電灯を下から顔に向けるのは、もともと不気味なんだから」
「ええ、なんだって、それはひどい、しどいしどい」
倉庫の外にいる藤田先生が
「やってるやってる、楽しんでるな」
昭夫が
「ねえ、こう暗くちゃ誰が誰だかわからない、みんな集まって横に並んで番号を言うよ、ぼくからね。イチ」
「ニ」
「サン」
「ヨン」
「ゴ」
「五て誰だよ、また文ちゃんの仕業かい」
と昭夫。文太郎は、
「僕じゃないない。やってないよ」
「じゃあ誰だよ」
みんなの懐中電灯は、五番目の者に当てられた。
「僕、まこっちゃん。四年生の寺内真と言います」
「ええ?ねえボク、いつの間にいたの。ここで何しているの、お姉さんたちが来る前かしら」
と佐和子。真は
「そうだよ。ずっとここで探し物してるんだ」
文太郎が
「ねえ、昭ちゃんさっきから気になってるんだけどこのボタン、押してもいいかな。ぽちっとな」
すると、とても明るい電灯が天井に付いた。
「文ちゃん分かってたなら早くやってよ」
と昭夫
藤田先生は
「ほほう、ついに電灯のスイッチを見つけたな」
倉庫の中は、出し物の看板や小道具大道具などが雑然と置かれていた。
昭夫が
「まこっちゃんどこから来たの、何で着物着てるの」
「僕たちの組は半分ぐらいまだ着物着てるよ。今はね、ここのお寺の和尚さん所に住まわせてもらってるよ。お寺の小僧さんやってんだ」
すると千鶴子は
「ねえ、まこっちゃん、今は何年なの」
「大正五年だよ、あたりまえだよ」
昭夫が
「うそ、ええどういうこと。今は昭和四十四年だよ。寺内 真ってどっかで聞いた名前だけど思い出せないな。お寺ってもしかするとね、文ちゃん」
文太郎は
「うん、あの旻頃寺かな、それと、ねえ君探し物ってこれじゃあないかな」
「これこれ、うわあどこにあったの、もうずっとずっと探してたんだからあ。これがないとね、広君に会えないんだよ。僕たちの友情の印なんだ。本当にありがとう良かったよ。あの時ね、絶対失くしちゃいけないと思って、ここに隠しに来たんだけど、隠した所どこだったか忘れてしまったんだ」
千鶴子が
「こういう才能はすごいわ文ちゃん。目敏いわ」
それは、昔のメンコらしいもので真ん中にジグザグに着られた片割れだった。文太郎が
「ここの棚の奥の、棚の横板と裏板の間の隙間にそれは、引っかかっていたよ。でもそのメンコとても古いよ、鞍馬天狗のだもの」
佐和子は
「ねえねえお寺って何のこと、ここは小学校の講堂よ。」
真が
「みんな、見つけてくれてありがとう。そうだ、思い出したよ。無くさないようにそこに隠していたんだ。今からこれを和尚さんに見せに行くから皆ついておいでよ」
そう言って奥の壁にある引き戸を開けた。昭夫達も入ってみた。
真は走って本堂に行き
「和尚さんついに見つかったよ、この人がメンコの割符見つけてくれた」
「ほほうついに見つけたか。うむ、誰かと思えば文太郎か、見つけてもらってよかったな。ささ、みんなここに座りなさい」
昭夫達が和尚さんの前の周りに並んで座布団に座ると、和尚は小さなお膳の上に、そのメンコの割符を乗せた。お膳は仏壇の前に置いてあるようなもので、曼荼羅模様の布がその上に置いてあった。お膳の右側に、真君を立たせ、何やらお経のようなものを唱え始めた。
「なあもうなもうなもうも はにゃけにゃへいにゃぁ ほう ふん ころころ えい!。さあ真、今その割符を持ちなされ」
すると、お膳の左側がぼんやり明るくなってきて、すごく明るくなった時、一人の男の子が現れた。真は
「あ、広君、広君だ。懐かしい、会いたかったよう」
「まこっちゃんついに会えたね、ああ良かった会えて本当にうれしいよ」
和尚が
「ささ、二人の割符を合わせなさい」
割符を合わせた所から凄まじい光があふれて二人を包み込んだ。光はだんだん小さくなり消えてしまうと、二人とも消えていた。
和尚さんが
「いいんじゃ、これでよかったんじゃよ。今頃二人は冥王星に向かうブルートレインに乗って、懐かしい昔話に花が咲いとるじゃろう」
文太郎は
「和尚さん、顔が」
「そうじゃとも、やっと昔の顔に戻れたのじゃ、この前の神社の祭り以来じゃ。そうじゃ、それとじゃ、そこのお堂の縁側で座禅を組んで、こちらの事の成り行きを見ておるお方を知っとるかの」
昭夫達が見ると
「あ、ゴキブリ先生!」
「ああ、その節はどうも。あなた方にゴキブリ先生と呼ばれることは光栄なんです が、ワタクシはあの部屋で今川先生のお姿とお言葉を頂きまして、名前を 角 竜一と、有難く名付けて頂きました。お言葉に、なんでも、外国に、カック ローチさんと言う偉い方がおられて、それをもじって名付けて頂きました」
と、相変わらず声は甲高い。昭夫が
「ゴキ、いや角先生今どこに住んでるの」
と聞くと
「ワタクシはあの後、給食の厨房の床裏に居を構えまして、しかし食物は不自由なく手に入るようになりましたが、反って心が虚しくなりまして、今川先生のお言葉も聞こえなくなり、ここの和尚様に講話を頂に来ましたところ、和尚様は妻を娶り(めとり)子を成しなさいと言われまして、妻となって下さる方を見つけました。その方のご両親は、あの憎っくき、バル3の時に亡くなられました。バル3の放射能が立ち込めてきたとき、ご両親は覆いかぶさるようにこの娘さんを守ったようで、未だその時の後遺症のために痺れが時々あるようですが、私の妻としまして、いたわり、妻との間に子も成しまして、今は幸せいっぱいで、こうしてお礼参りを兼ねて座禅にきております」
と長々と話すも昭夫は、良かったですね。と言った。
和尚さんが、うむ、知っておったか、しかし、さあもう戻りなさい、文太郎、割符の件、尽力恩に着るわ、と言われた。
昭夫達は、本堂を出て、障子の火灯窓のある廊下の先にその引き戸があり、そこの戸を開けて、倉庫の中を通り講堂に出た。
藤田先生が
「えらくまた手間取ってたな、何かあったのか」
昭夫達はかわるがわるに今あったことを伝えると先生は
「あんまり増やすなよゴキブリたち。それと寺内真、はて、どこかで見たような、とりあえずそこに行こう、すぐ案内してくれ」
昭夫達は引き戸のあった壁まで来たが、扉はどこにもなくなっていた。藤田先生は壁に耳を当てると
「ふん?なんだか聞こえるぞ、なあもうなあもう、と言ってる」
「そう、それが和尚さんだよ」
と文太郎
「しかしこの壁の向こうは学校の東南の壁だろ、おかしいな」
そう言いながら講堂に戻ると、校長がいた
校長が不思議がっていたので藤田先生はいきさつを話し、倉庫の中での出来事を話すと
「まこっちゃん?その子は本当に自分の事を寺内真と言ったのかね、不思議なこともあるものだよ。まあいいから藤田君も皆さんも、ちょっと校長室に来てください」
校長室に着くと
「この方が先代の校長の」
と言って指さした途端校長が叫んだ
「あ、そんなバカな。何故だ」
校長が指示したその写真の寺内真校長は、笑っていた。校長曰く、その写真の前の表情は、沈んだ面持ちの表情だったそうである。
「寺内校長はね、実は私が小学生の時の先生でね、私がこの学校の教師になったころ、校長になられたのですよ。今の藤田君と私みたいにね。校長はよく例のあの倉庫に探し物をされていてね。なんでも子供の頃の大切な友達との約束のものを、子供の頃になくしたとか、寺内校長はもうなくなられて久しいんですがね、この笑顔を見ると、見つけて頂いてうれしそうですね。私もとてもうれしいです。路地君と磯部君、橋場さんに吉岡さんありがとうございます。吉岡さんのお父様はお元気ですか。しかし不思議なこともあるものですね。藤田先生、良くやってくださいました。ありがとうございます。子供たちにも良くお礼を言ってくださいね」
校門のところで藤田先生はニコニコしてみんなを見て
「行くか、詳しく聞きたいからね。情報収集ということで」
行きつけのコロンバンで、昭夫達は暖かいココアを飲ませてもらった。先生は、野鳩ブレンドコーヒー を飲み、しきりに旨いを連発して
「この味は大人にならなきゃ分かるまい」
とか言っていた
藤田先生は今日の事を聞いた後、ためらいながら、実は君らにだけ話したいことがあると言われて
「先生もそろそろ年だからね、誰かと結婚して所帯を持とうかと思ってるんだ」
すると千鶴子が
「せーんせ、山田先生でしょ」
藤田先生は面食らって
「えー、えー、知ってたのか、さすが探検隊、探偵顔負けだな」
文太郎はココアをお代わりして、楽しいひと時は終わった。
枯葉舞う時
秋も深まる放課後、昭夫たちは、同じ教室のみんなと散々ドッチボールを楽しんで暖まった。
文太郎は、普段おっとりしているのに、逃げ足が速い。いつも最後まで残っている。たいがい女子で背も高い、北川悦子の力いっぱいのボールに当てられて終了。
その日は、千鶴子は母と買い物で、先に帰った。
昭夫と文太郎が鞄を取りに教室に戻ると、グランドに枯葉が渦を巻いているのが見えた。
正門で待っている佐和子に声をかけて、三人でそれを見た。
昭夫が
「ねえ、あの渦の中に入ってみようか」
佐和子は
「いいわよ、昭ちゃんまた探検の虫が出たのね」
文太郎が
「僕は何だか、いいよ、ここで待ってるから、二人で行ってきてよ」
「そうだな、ちずちゃんいないしね。じゃ待ってて」
「そんなんじゃないんだけど、僕は行っちゃいけない気がするんだ」
「うんわかった」
佐和子は手を差し出し昭夫と手をつないで渦の真ん中にジャンプした。
枯葉が、昭夫たちの周りをすごい速さで回り始めた後、渦はスッと消え、枯葉はグランドに散らかっていた。
「なんてことはなかったね、帰ろうか」
と、昭夫。佐和子が
「あら、文ちゃんがいない。先に帰っちゃったの、ここで待ってるって言ってたのにね」
その日、じゃまた月曜日にねって、二人は挨拶して別れた。
昭夫は商店街のスポーツ用品店で、卓球のピン球を買うために、校門を左に曲がり、佐和子は家路に右にがった。
ところが二人は慌ててまた校門に戻ってきた。
「どうしようここは私たちの町じゃないわ」
「うん、似てるけどあんなに高いビルやマンションはなかったよ。困ったね、ごめんね」
「私も一緒に来たんだもの謝らないで、それよりも帰る方法を考えましょう。もう枯葉は舞っていないわね」
「そうだ。職員室に行ってみようよ、知らない校舎もあるけど、僕たちの学校だからね」
「藤田先生いるかな、助けてほしいわ」
「よし、行ってみよう」
職員室の扉を開くと、ちょうど校長が職員室に降りてきていて、二人を見ると。
「君たち、誰ですか、見覚えありますね、え、ええ?そんな馬鹿な」
「先生、藤田先生でしょう。私、吉岡佐和子です」
「僕は、磯部昭夫です、先生、どうしてそんなに年を取られたんですか」
「君たち、やってしまったね。探検が講じておかしな道を通ってここまできましたか。本当に、この学校はおかしな学校ですね」
先生は、二人からよく話を聞き、説明してくれた。今は、あのころから二十年時間が経過していること、必ず元の世界に帰れること。それは、その次の月曜日に二人は教室に存在したから、ということで、今日は先生の所に来て泊まりなさい、と言うことだった。
先生の家には、奥様の里子さんが迎えてくれた。
藤田先生には男の子が二人いて、一人は大学生で、一人は高校生。お兄さんの方は東京の大学に進んで、アパートに暮らしている。弟は、今日はそこに泊りがけの東京見物をしているとのこと。
夜中、二人はなかなか眠れなかった。
「ねえ、私たちこれからどうなってしまうのかな」
「大丈夫だよ、きっときっと帰れるから」
その後、眠りについた。
次の日は日曜日、朝ご飯を頂いた後、先生は言った。
「今日は日曜日だからね、今日必ず元の世界に帰れるから、その方法を探しなさい。先生からの助言は二つ、もし君たちが分かれてしまえば、もう二人で元の世界には帰れない。だからね、必ず手をつないで探しなさい。それと、君たちが枯葉の渦の中に入ったとき、そばに誰かいたかな。もしかすると、帰って来た時のことを知っている人がいるかもしれない。さあもう出かけなさい。」
先生は、もう一度顔を見せてくれと言って、二人の肩をやさしくつかんで、無事帰れることを祈っている、気をつけてな、と言われた。
二人は何度も先生に何度もお礼を言った。
二人は手をつないで街を歩くときに、先生の言葉で気が付いたことがあった。
「そうよ文ちゃん」
「そうだね文ちゃんだ、あの後の事を知っているのは文ちゃんだ」
「文ちゃんの家なら二十年たっても変わらないでしょ」
二人が、路地文、の和菓子店で店主の文太郎さんを呼んでもらった。
文太郎は出てきた。
昭夫が
「あなたが文太郎さんですか」
「そうだけど」
佐和子が
「文ちゃん少しスマートになったのね」
「うん、奥さんがね健康管理だと言って太らせてくれないんだ。あれえ、あなたはもしや昭夫君、それと佐和子さん。どうしてそんなに小さくなってしまったの」
昭夫が
「違うんだよ。ほら、思い出してほしいんだ。グランドに枯葉が待っていて、僕と佐和ちゃんがその中に入ったら、ここにきてしまったんだ」
佐和子が
「そうなの、だからね、あの後どうやって私たちは帰って来たのか教えてほしいの」
「ええ?あの時は、ううん、覚えてないよ昔の事だもの」
昭夫が
「そう言わないで、ほら、あの日はちずちゃんが早く帰った日だよ」
すると文太郎は
「そうだ。思い出した。次の日は僕のお誕生日お祝い会をちずちゃん家でやってもらったんだ。僕のプレゼントやお祝い会の買い物で、ちずちゃんは先に帰ったんだっけ。そう、あのつむじ風の後、君たちは五分ぐらいで帰ってきたよ」
「どこから」
「うんとね、そうだ、校庭の西南にある砂場の方角から帰って来たよ」
昭夫は
「その時、もしかして、僕の手に何か持ってなかった?」
「持っていた。何か光るものを持っていたよ」
すると昭夫が
「やったーこれで帰れる。文太郎さん」
「いや文ちゃんでいいよ」
「じゃ文ちゃん、お願いしたいことがあるんだけど、お使いを頼んでいいですか」
佐和子が
「本当に帰れるの、どうやって」
「うん、見てて。文ちゃん、僕の実家に行って、お母さんから大きな赤いビー玉を借りてきてほしいんだ。必ず返すからって言ってね」
その日は、昭夫の七つ道具にビー玉は入ってなかった。
文太郎は手を振って二人の元に帰ってきて言った。
「昭ちゃんのお母さんは、なんだか全部わかっているみたいで、このビー玉は返さなくていいって言われた。これでまた一つに戻るとか、わけわかんないけど、はいどうぞ」
「ありがとう文ちゃん恩に着るよ、いつか大人になったらお礼をするからね」
「いいよ、子供の頃の仲間に逢えたことは、不思議だけど嬉しかったよ」
佐和子が
「文ちゃん元気でいてね、奥様にもよろしくね」
小学校のグランドの端で文太郎は二人が吸い込まれていくのを見送った。
エピローグ
昭夫たちは小学校六年生になり、またたくさんの探検をしたが、中学生に上がり、四人はクラスがばらばらになった。
たまに廊下で会うと、手を振ったりした。千鶴子と佐和子はテニス部に入り、三年間一緒に頑張った。昭夫は美術部にいたが、文太郎は家の手伝いで、いつも早くに帰った。
中学二年生になり、昭夫と文太郎は同じクラスになった。二人は釣りに行ったり、お互いの家でレコードを聞いたり、友情を温めあっていた。
中学三年生で、昭夫と佐和子は同じクラスになった。文太郎と千鶴子も、昭夫達とは別のクラスで一緒だった。四人そろって探検することはもうなくなっていたが。
昭夫は、佐和子と同じクラスになれたことをとても喜んだ。しかし、思いが募りすぎて、小学校の頃のように話せない。何故か二人ともギクシャクしてしまう。
席が隣同士の時もあり、消しゴムや定規の貸し借りとか、とても楽しい雰囲気の時もあった。
佐和子は、勉強についていけていない、不良になりかけている男子生徒の事を、関わりをもって気にかけてやっていたりした。
昭夫は、話をしている二人を見ると、ちょっと羨ましく思えた。
廊下ですれ違う時、佐和子は、昭夫に微笑んで、笑顔を見せてくれた。そんな時、昭夫は、もうたまらなく一日嬉しかった。
あっという間に月日は流れ、卒業時期となった。
クラスでは卒業までの一週間を、(思いで作ろう)の期間として、飯盒炊爨をしたり、日帰り旅行をしたり、スケートに行った。
クラスは一つになって楽しんだ。
ある時バスで、川の源流近くで飯盒炊爨した時、佐和子が赤いケトルでコーヒーを沸かし、一番に昭夫に注いだ。昭夫はとても喜んだ。
アリーナのスケート場でもクラスは楽しいひと時を過ごしたが。級長の大川君が、もう帰ろうと言ったとき、昭夫は佐和子に
「僕と一周リンクを滑ってもらえませんか」
と、声をかけた時、佐和子は、
「いいわよ」
と言った。
滑り始めると、佐和子は、手を伸ばし、二人は手をつないだ。
*
佐和子は、公立の普通科の高校へ進み、昭夫は系列の大学に入りやすい、私立の高校に入った。
佐和子は、ワンダーフォーゲル部に入り、登山女子になっていた。
昭夫も、父親が岳人で、長野の北アルプスなど、登山を仕込まれた。
高校二年生の夏、信州の高原の絵葉書が昭夫に舞い込んだ。佐和子からだ。昭夫は舞い上がり、しばらく二人は文通したが。一貫した付き合いの苦手な昭夫は、手紙を出せなくなってしまった。
二人はそれぞれ別の大学に入った。バス停で佐和子を見かけるときがあった。もう、とても遠い大人の女の人に見えた。
そんな時、大学三年の七月の終わり、昭夫は、夢を見た。朝、目覚めると、枕が濡れていた、顔が変だと思い、顔を触ると腫れていて濡れている。鏡を見ると、すごい形相で、目が真っ赤で泣きはらしていた。
その時、夢がよぎった。
なんと夢は、佐和子のお葬式の夢で、昭夫は、悲しみのあまり泣きじゃくっている。佐和子の家族に聞くと、山で遭難したと言っていた。
昭夫はとても嫌な胸騒ぎがあり、その思いは離れなかった。
朝、まだ早く七時半だけど、思い切って、思い切って佐和子の家に電話した。
「はい、吉岡です、昭夫君まあ久しぶり、朝早くどうしたの、え、佐和子は、昨日お昼に急に思い立って、一人で山に行きました。え、ルートはね、なんでも槍ヶ岳から穂高に行くって、言ってましたよ」
昭夫は、早朝の非を詫びて話を終えた。
昨日の昼出発ならまだ間に合う。そう言って父の山の道具を借りて、家族にルートを説明してからすぐに出発した。
大月まで出て、特急あずさに乗って松本へ。新島々からバスで上高地に着いた時には十五時を回っていた。
昭夫は、岳沢ルートで奥穂高に行き、そこから北穂、槍縦走で何とか佐和子に追いつき助けようと思った。
その日は、岳沢小屋にとまった。
佐和子は、前の日に上高地にたどり着き、連絡をして嘉門次小屋に泊めてもらっていた。次の日は槍沢ロッジに泊まり、余裕を持って槍ヶ岳山頂を下り、槍ヶ岳肩の山荘に泊まった。
その頃昭夫は、北穂高小屋に泊まっていた。
昭夫は、疲れから少し出発が遅れた。
難路、飛騨泣きを降りて槍ヶ岳を目指した。
佐和子は、槍ヶ岳の姿を見ながら悠長に進んだが南岳を越え、とんでもない悪路に苦労していた、死が隣り合っている。そう感じた。
昭夫は、もう少しで長谷川ピークというところで
「キャー誰か、助けて」
の声を聞いた。
長谷川ピークの手前で滑り、何とか稜線の小岩にしがみついている佐和子の姿を目にした。すぐに駆け寄り、昭夫は必死で手を伸ばし、その手を掴もうとした瞬間。指と指が触れ合ったが、離れてしまった。
「無限の彼方なんかに行かせるものか」
昭夫は、思い切り体を伸ばし、佐和子の両手を掴んだ。そのために昭夫の体は、山の稜線に、何とか足首をかけている状態。佐和子の足元には小さな岩の出っ張りがあり、なんとか体を支えた。二人は膠着状態になった。
佐和子が
「あ、あなたは、昭夫君じゃないの。どうして。どうしてなの。このままじゃあなたも死んじゃう。私はいいからこの手を放して」
「何言ってるんだ、佐和ちゃんがいなけりゃ生きていく意味がないよ。それよりも早く僕の体を登ってよ、さあリュックに手をかけて」
その時、四人の山岳警備隊が通りかかり、声をかけた。
二人の隊員はザイルを投げ、佐和子に手に巻き付けて握るように指示して、ゆっくり引き上げた。
後二人は、昭夫の足を掴み、腰まで引き上げてくれた。
昭夫と佐和子は事なきを得た。
警備隊員は、北穂高まで同行してくれた。
二人は、穂高岳山荘にその日は泊った。
昭夫君どうして助けに来てくれたの、の問いに昭夫は、夢で見たこと、家に電話して山に行くことを知ってルートを聞き、すぐに追いかけたら間に合うかもしれないと思ったことなど話した。
佐和子は二度も命を救ってくれたことに感動して
「私これから昭夫君のために生きていきたい」
と言い出した。
小学校の時からずっと昭夫君が好きだった事。中学校卒業前の思いで作ろうで、僕と一周滑ってほしいと声かけられた時、どれほどうれしかったか。昭夫もあの赤いケトルでコーヒーを入れてくれたことや。ペンション近くで二人で見た夕焼けの綺麗だったこと。僕もずっと佐和ちゃんの事好きで、思い続けてきたことなど話した。
二人の話は盛り上がっていた。お互い教師志望であることが分かった。
二人はもう一日、徳沢園にて宿を取った。
徳沢園はとても良い所で、槍ヶ岳や穂高、常念岳に向かう登山客で賑わう所だが、蝶が舞うお花畑や一歩森に入ると、白樺の木の森があり、氷壁の宿としても有名である。
白樺の森で、二人は同じ思いであったことを知り、しっかり抱擁した。
「私たち、生きているのよね」
昭夫の耳元で佐和子はささやいた。
「うん、これからも助け合って生きて行こう」
二人の話はもう出来上がっていて、大学を卒業したら結婚しよう、と言う事になり、次の年の四月には、昭夫は母校の小学校の教諭に、佐和子は、隣町の中学校の英語の教科担任になった。
二人は五年間は安いアパートに住んでお金をためて、家の頭金にして小さな家を買おうという事になった。二人は良く旅行にも行き、山も登った。
結婚式には、交際中の文太郎と千鶴子や藤田先生も来てくださり、昭夫の通う教会で質素に行った。
「先生、後九年ぐらいしたら、小学校の頃の僕たちが先生に会いに行くと思います。そしたらどうか、その日、泊めてやってください、そして必ず元の世界に帰れることと、二人手をつないで帰れる方法を探すこと。そしてその場にいた人の事を思い出すように言ってください」
先生は、笑いながら了承してくれた。
そののち、文太郎と千鶴子も結婚し、二つの家庭は親しく、行き来が始まった。
佐和子は、英語の授業を担当するに、千鶴子によく助言をもらうようになった。
千鶴子はおいしいご馳走を作り、二人を呼んでパーティーしたり、
昔のように四人で行動して、釣りやキャンプを楽しんだ。
二家族とも同じ時期に子供が生まれた。
さあ子供たちにはどんな冒険が待っているのでしょう。
終わり




