神々のことわり
誰かに呼ばれて、彼は意識を取り戻した。
荒い息を吐きながら、地面に仰向けに倒れた彼が見たのは、気分が悪くなりそうな程に澄んだ青空と、自分を覗き込む幾体もの異形の姿だった。
異形のうちの一体が、彼に訊いた。
籠って聞き取り難かったが、それは英語だった。
「満足したか?」
涙が彼の頬を伝った。
「何を、満足しろと言うんだ」
彼は喘ぎながらそう言った。異形どもが、彼の顔を覗き込んで来た。
「つまり、満足していないと、そういうことだな」
彼は悪態を吐いた。
人類は滅びた。愚かな戦争で。回避する機会はいくらでもあった。しかし結局、人類は多くの生き物を道連れに滅ぶことを選んだのだ。
異形たちは、喘ぐように人類の終末を嘆き続ける彼に、とっくに興味を失っていた。彼の声は異形たちにとって、もはや風の音ほどにも意味をなさなかった。
「さて、これで全部だな」
「えーと。集計すると、Cが11%で最下位だな。満足して死んだ信者が一番多いのは……。なんだ。また、無神論者だぜ」
「はぁ?またぁ?」
「おかしいなぁ。天国だけじゃなく、地獄もサービス向上に努めたんだけどなぁ。連中の要望に合わせて、なるべく長く苦しむことが出来るように」
「告知が足りなかったんじゃないか?地獄も結構いいところだってさ」
「まぁ、無神論者ほど、自分の世界に籠って幸せになっちゃうからな」
「まったく困ったもんだ。これで何回目のドローだよ」
「次こそ決着をつけようぜ」
「おう。次こそ、オレが」
「何言ってやがる。次こそワシが」
「それじゃあ、まずは掃除をしようぜ」
「ああ。そうするか」
「結局、五月蝿いだけのヤツラだったな。今度のは」
異形たちは地表を覆った文明の跡と放射能を悉く洗い流した。
そして今度は、ヒマラヤの奥に隠していた別種のヒト属を地上に下ろした。異形たちにとって時間は無限にあり、かつ、次のヒト属も、更にその次のヒト属も、数えきれないほど用意してあった。
最後のホモ・サピエンスである男は、自分の運命を嘆き続けながら、巨大なゴミ箱へと掃き捨てられていった。