死ぬ
大学やバイトもない休日、趣味のネット小説を読むだけの日々にもなんだか物足りなくなってしまった俺は自分でもネット小説を書いてみようと一念発起、小説を書いてみることにした。
「うーん」
小説の内容を考えながら俺は部屋の中を歩く。
「かー、こんなんじゃいつまでたってもかけないぞ。もういっそいいのか? この休日は自己満妄想タイムで終わりにしてさ、どうせ小説書いてみるのも趣味なんだし、また10年後に考えればきっともっといいアイディアが浮かぶだろうし、語彙だって増えてるはずで自分の文才のなさに悩む必要もないし」
なんて言いながらも俺は部屋の中を歩くのをやめない。
あっちに行ったりこっちに行ったりぐるぐる回ってみたりする。
独り言を言いながらである
「あー、書くしかないぞ! 書いてたら上手くなるはずなんだ。頭に浮かぶ情景をうまく表現できるはずなんだ。だがしかし辛い。だったらやめればいいだろ? 違う! あー! 自分の妄想を形にしたいんじゃー! 異世界ファンタジー最高なんじゃー! オラも自分の手でそんな世界をー! ご都合主義で万歳の理想郷をー!」
こんな感じでずっともやもやする羽目になってしまっていた。
ぐるぐるぐる、ピタッ
「そうだ。高尾山に行こう。考えていても仕方ない、とりあえず山登ろう」
高尾山、それはある程度日本の観光番組や雑誌などを見たり読んだりする人なら知っているだろう観光スポットである。小さいころ遠足で言ったことのある人もいるようなところだぜ!
山頂には絶景、道中には美食と猿とお寺があり駅の近くには温泉まである。適当な説明しかする気はないが気になる人はググってみてくれ。
うん、考えれば考えるほど行きたくなったな。
「山登りでひらめきがこうビビッとくるかもしれんな。それに帰りには温泉もよってけるし、休日にはぴったりの場所だ。そうだ! 蕎麦も食べちゃうか。バイトの給料日も近いしな、よーし、小説なんて置いといて外出るか!」
自分のひらめきに従って俺はそのまま電車に乗った。目指すは高山駅、終点だ。
車内でも俺は結局小説の事を考えていた。車内でにやにやしながらスマフォで小説の書き方をググった。
ふむふむ、まずは「ぷろっとぉ」なるものを書かなくてはいけないな。うーん、これはノートと鉛筆を持ってくるんだったな。
他にもアイデアが浮かびそれを確かめるために検索した。
定番の紙や石鹸の作り方、老化の原因、銃の仕組みや物体の質量について、あとは気球にレーザー兵器なんかも調べてみたりした。
光や電波の波長、コンピューターの仕組み、調べれば調べるほどに「へー」と思ったり現代スゲーと感動したりした。
今乗っている電車に感謝、スマフォに感謝、とにかく周りの物全部発明者と製作者に感謝。
ようは自分の頭では理解できなくてスゲーとしか思えないもので現代はあふれているんだなと今更気づいた。
そしてネット小説の主人公たちの幸運とハイスペックさに驚く。
軽々銃を作ったり、貴族や神様とタメ口で話したりと……そらリア充ハーレムも自然にできますわ。
男の子の中の男の子、その度胸、勇気、まさに勇者、もうもてまくりですわ。
あー、アイデアが浮かぶ。なおさらノートがほしくなった。
この時はスマフォのメモ帳機能はきれいさっぱりと忘れていた。
と思考が小説の内容からなんだかよくわからないほうに流れだしてようやく気づく。
恐ろしさからあえて口に出して確認をする。
「あ、あれ、一駅も止まってない……というかそもそも電車の音が……なっ!」
恐る恐るスマフォから顔を上げると異常がすぐ分かった。
電車の外が真っ白だ。
こんな非常事態なのに、いや、だからこそか、あまりの非現実の中で俺はとっさに考えられた。
脳腫瘍か、精神的なものか、いや……まさか外には転生物でお馴染みの神とやらがいるのではまいか。
ならネット小説の数多の主人公たちのように大声でリアクションを取るべきか!
いやいやそれこそゲーム脳ならぬ小説脳だ。
転生物を読み過ぎたんだ。
幻覚ならここで大声を出したら狂人確定だ。
だが待てよ、無言でいたら幻覚かどうか確認ができない。
「こ、これが噂に聞くげ、幻覚ってやつか……はは、リアルだなぁ」
そう小声でつぶやいたあと気づく、そもそも車内に乗客はいるのか?
辺りを見回すと、俺の目の前に座った小学4年生ぐらいのかなりかわいい女の子しかこの電車には乗っていなかった。
彼女はこちらを見て何か言いたそうにしていた。
それに少し涙目だということから外の景色は幻覚ではないだろうことがわかる。
かー、俺というやつはこんなにも可愛い子が目の前にいたのにも気づかずにいたのか!
もうおっさんなのか、枯れてるのか!
というかこんな状態で目の前のこのお兄さんはスマフォで妄想タイムだったんだよぉ!
きづかなくて、泣かせてごめんよぉぉぉぉ!
そんな悲しみと反省を7割、この非常事態をこのかわいい女の子と過ごせることに感謝を三割ほど頭に浮かべながら女の子に声をかけようとすると急に女の子が立ち上がった。
そして言った。
「ようやく気付きおったか! ワシはロリ=ノージャ! ここは天界じゃ! ちなみにロリが名前でノージャが姓だぞ。ノージャ神さまと呼ぶのじゃぞ! そして転生じゃぞ!」