第一章 第5話 めぐりめぐる高校生活
これ説明回なんですよね……。あー長かった。
視聴覚室で、俺はビデオを観ていた。
頭痛はそのままで、物を考えるのも億劫だ。
「ここまで解ったかな?」
「……痛い」
「やはり、あれは使ってはいけない代物だったか。今後の参考になるな。宜しい、私が説明しよう」
「痛い……頭、割れそうだ」
「よく聞きたまえ。この説明は長いから二度も聞きたくないだろう」
「……はぁ。分かり、ました」
「うむ。まずこの望月学園は、現実にあるものではない。モニターの奥に存在する、プログラムでしかない。その中で、生徒は全員人工知能、先ほど言ったTera AIだ。教師もだが、教師役として数人計画に携わる博士がいることもある」
「あなたが、計画最高責任者ということですか」
「その通り。さすが廻くんだ。さて話を戻すが、博士としては、数学の清川先生、国語の林及先生、英語の川々(かわがわ)先生、体育の小本先生。君のよく知る人物だとこれくらいだろうか?」
「そんなに……?」
「小本君は博士号を持っている訳では無いのだがね、裏のエージェントを知るもので、小本君を知らない者はいない。それくらい有名なのだよ、彼女は」
そんなすごいやつだったのか。確かに、銃の扱いに長けている節はあったか。
「説明を続けよう。この計画は、入学式で入ってきた新入生を第三期生として考えると、すでにその学校には三年生である第一期生と、二年生である第二期生がいることになるな」
「はい」
「ここで、三年生が卒業すると、彼らは第四期生としてもう一度、同じメンバーで高校一年生になる。そのサイクルで何年も経っているのだよ。卒業式を迎えると、学園の記憶はリセットされる。新しい気持ちで入学式を迎えるのだ……。
高嶺廻、君は事故に合ったことで、記憶がリセットされずに入学式になってしまったのだろうな」
いきなりこんなこと言われてもさ、分からないじゃん? でも、眼鏡の件でその考えが浮かんでいた俺は、意外と冷静でいられたんだよね。
「……なるほど」
「ほう、意外と冷静じゃないか。先ほどの、AIと聞かされたときの狂乱振りとは全く違う」
ここで疑問が浮かんだ。何でこんな計画は考えられて、実行されているんだ? さっき学園長は言った。「そのサイクルで何年も経っている」と。何年も継続されているということだ。
何の為に……?
「質問だ。この計画の目的はなんだ?」
「良い質問だな。簡潔に言えば、"個人の考えのパターンがそれぞれ変わらないのなら、全く同じ人生を送る筈なのではないか?"ということを検証の為だ」
「全く同じ人生を……送る。それで、結果は?」
「全く違う。同じ友だちを作ることもあるが、違う友人をつくることもある。前回あったいじめが今回はない。無遅刻無欠席の生徒が逆の常習犯となってしまったこともあった。前回なかった事件が今回起きるということもあった。
廻君のは、まさにそれだろう。運命など、有り得ないのかも知れない、そう思い知らされるような検証だよ。
尤も、人生は一度きりだから、こんな検証意味ないと言う者もいたがな。今では賛成しかけてしまう」
学園長は困ったように笑った。
俺にもう一つ疑問が浮かぶ。
「生徒それぞれの考えを元にしたプログラムは、どう作ってるんですか? 俺にもオリジナルがあるってことですか?」
それを聞いて、学園長の目が鋭くなった。思わず、たじろぐ。
「そこに気が付くとは……。やはり君は何か違うのかもしれないな。いや、事故の影響か? これほど影響が出るとは思えないが……。っと、考えのプログラムと言ったね。それらには零から作ったプログラムがあるんだ。オリジナルはないよ」
「そう、ですか……」
ここで何か違和感があった。
何だか、早口でこの話を切り上げたがっていると、そう感じたのだ。
それは、本当に些細なことで、気付けたのは奇跡かも知れない。
そこから、俺は確信した。
(計画の目的は別にあるかもしれない。だが、これだけは断言できる。元になった考えはプログラムなんかじゃない。生身の人間だ。学園長や教師陣がこの中にいるってことは、現実の俺の考えを移したという可能性もある)
そうして、俺は覚悟する。
(俺は絶対、望月学園から脱出する……!
今は情報が少なすぎる。しばらくは生徒として静かにしているのが得策だな)
誤字、脱字あったら教えて下さい。