第二章 第7話 黒魔術研究機関部
黒魔術研究機関部、もみじが言うには、二年の白坏先輩が一人でやっている部活らしい。
「よし、行くぞ」
付いて来てくれるといった一之瀬と、もみじ、それからもみじの幼馴染の山落さんの四人で、部室の前まで来た。
視界の端で何かがキラリと光った気がした。
こんこんとノックすると、ほとんど時間を空けずに「入るがいい」と声がした。
一旦つばを飲み込んで、ドアに手をかけた。だが、ドアは思ったよりも重く、そこでまた中から声が聞こえてきた。
「しかし、その覚悟が貴様らにはあるのか? まだ引き返せるぞ、平穏な学校生活を崩したくなければ、今すぐ回れ右をすることを推奨する」
なっ、これはすごい、まじで真実に近づけるかもしれない! この先輩は頼りになるはずだ!
「構いません! 俺は真実に近づきたいんです!」
大きい声を出して、力を込めた。そうすると、さっきまで重かった扉がウソみたいに軽く動いた。
中に入ると、薄暗い部屋には窓から一筋の光が眩しく差し込んでいて、中央に人がいた。
「はっはっは! そこまでか! 歓迎するぞ、新入生諸君! ようこそ我が黒魔術研究機関部へ! 共にこの部活を盛り上げていこうじゃないか!」
「……はい?」
「えぇええぇー!? 入部希望じゃないのぉ!?」
とりあえず中に入って先輩と話をすること十数分、ようやく誤解が解けた。どうやら先輩は俺たちを入部希望だと勘違いしたらしく、仰々しくやったのだそうだ。
「あーでも、先輩。私たちが複数人でいること気づいてましたよねえ? 教室にいたまま。だから私、この先輩は何か力があるんじゃないかなーなんて思っちゃいまして」
一之瀬がはいはーいと手を挙げて話す。そうだ、確かに先輩は貴様ではなく、貴様らと言った。
「それは、あれよ」
先輩が教室の上を指す。ん? その方向に目を向けると、鏡があった。そして鏡はうまく反射して廊下を映しだしていた。あぁ、部室に入る前、何かが光った気がしたのはこれか……。
「それじゃ、この扉がやけに重かったのは」
言って、ドアに目をやる。そこには、倒れているほうきの柄のようなものと、先輩の足元まで長さがあるタコ糸が落ちていた。
手品師かよ!
「な、何よ。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
「いえ、出直しまーす」
ぞろぞろと四人で出口に向かうと、先輩が慌てた声で俺たちを呼び止めた。
「ちょっ、待ちなさいよ! 何かあって来たんでしょ、言ってみなさいよ!」
あぁ、そういやそうだったな……。しかし、頼りにならなさそうな先輩だ。AIなら別に言わなくてもいいんじゃないだろうか? もし科学者で敵なら危ないしなぁ。うん。
「相談してみようぜ。それで廻の負担が少しでも減るならそっちのがいいだろ」
っと。言わないでおこうとしたらもみじに制されてしまったか。
「ん、名前?」
「あぁ、いいだろ。そっちのが呼びやすいしな」
ちょっと嬉しかった。知ってるとおり、俺は友達が少ない。けれど、人と仲良くなることは出来るんだって、少しだけ思えたからだ。
それに、どこか懐かしい気がした……。
「ねぇちょっと? 二人の世界に入らないでくれる? あなたたちこれなの?」
口に手を持っていき、俺たちの関係を怪しんだ先輩に、俺は笑った。
「そんなことないですよ。せっかくだし、聞いてもらってもいいですか?」
俺は白坏先輩に身の上話をした。しかし、三人がいる手前、高校生活をループしたということでなく、人生をループしているということにし、どうにかループを抜けたいと、自分の願いを告げた。
「なぁるほどねぇ」
白坏先輩がニヤリと笑う。そういえば、暗くて分かりづらかったが、もみじが言った通り、なかなかの美少女だった。珍しい白い髪をボブにし、苗字通り白い肌を持つ先輩には、濃い色のマントがよく似合っていた。
いたずら少年のようにニヤリと笑う姿も、おそらく人気があることだろう。
「君はそれを何週目くらいで自覚したの?」
「え?」
「ん? だって、さすがに二週目で気づくもんじゃないの? でも、君の話通りなら高校の入学式でいきなり発狂した……。いやまあ、旭クンの言うことも分かるよ」
もみじは何も言わなかった。恐らく続きを待っているのだろう。
「うーん、何て言うのかなぁ、ちょーっと隠してることあるんじゃないかなーって、勘ぐっちゃうお姉さんがいるだけよ。気にしなくていいわ」
……やはり、この先輩は油断できない。鋭いところがある。
と、そこで、完全下校を知らせるチャイムが鳴った。
「あ、やば。高嶺クン、何かあったらまた来なさい。何もなくても来てもいいわ。もちろん、旭クンと山落サン、それから一之瀬サンもね。さ、鍵は私がやっておくから、君たちは先に帰りなさい」
「あ、はい。ありがとうございます……ありがとうございました。それじゃあ、さようなら」
「ばいばーい」
外に出ようと思って立ち上がると、肩が棚にぶつかってしまった。
いてっ。……ん?
「何だこれ」
拾い上げてみると、漫画本くらいの大きさの本だった。『いつかAIの支配下で』、んなっ、何だ、この本。何てタイムリー!
「廻、早く来いよ」
「っと、悪い」
慌てた俺は、先輩に何も言わずにその本を抱えたまま外に出てしまった――。