第二章 第5話 クラスメイト
「おぉ、高嶺くん。どこに行ってたんだ?」
教室に着くなり、担任の林及……通称、林先生に声を掛けられた。
しまった、さっきの授業は国語、現代文だったか。
しかし後悔先に立たず。
いなかったもんはしゃーない。どうにか逃げよう。
「すんません、腹の調子が悪くて……」
「まあ、今回はいいが、次からは友人に伝言を頼むとかしておいてくれよ」
「はい」
よし、何とか切り抜けられたな。
しかし、友人だと? 俺にそんなもんいるわけないだろ。名前を知っているのだって、
「やぁ、高嶺くん! 入学早々サボりかい?」
そう、この女子生徒、一之瀬陽菜くらいなもんだってのに……。
「あれ、元気ないね。ほんとに体調悪い?」
「あ、いや。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
そうだ、こいつは校長にとって不都合な人間かもしれないんだ。仲良くなっておいて損はない。
「あー、あのさあ」
そこまで言って思い出す。
(俺……今まで女子と話したことねえ!)
どう切り出せばいいのか分からず、何も言わないでいると、
「うん? 何か困ってる? 私で良ければ話聞くよ! 学級委員だからね!」
何と向こうから助け船を出してくれた!
というか、学級委員であることに誇りでもあるのかな……。
「あ、ありがとう。そう……実はちょっと困っててさ。あんまり人に聞かれたくないんだけど……」
「なるほどなるほど! それじゃあ、学校から少し離れたとこ行こっか!」
元気だなあ、この子……。
ん? 今何て言った? え、待って、放課後二人とか死ねる。一回死んでるけど、今回は気まずさで死ねる!
「レッツゴー!」
た、助けてええええええ!
◇◇◇
「高嶺廻、一之瀬陽菜……。高嶺くんが彼女に接することで、世界はまた狂う……」
「一度狂った歯車は、二度と元には戻らない……ですか? 長谷沼校長」
「おぉ、小本くんか。その通り、この世界はいとも容易く壊れてしまう。ボタン一つでな。だが、それではいかんのだ。この実験を成功させねば、誰も救えない。誰も救われることなく、破滅を迎えてしまう……」
「Tera AIが真の効果を発するとき、狂った歯車を一時的に戻す可能性がありますからね。我々はそれに賭けている」
「ああ、だが、この世界に敵はいない。ゆっくりでも、確実に進めばいいさ」
「……高嶺巡。この実験の命運は、彼が握っている……」
◇◇◇
校舎を出て思ったが、俺には帰る家があったのだろうか?
何故か記憶に靄がかかっているように思い出せないのだ。
それに、校舎の外はどんな世界だったかも思い出せない。唯一前回からある記憶といえば、やはりあの車だ。
そこで新しい疑問が浮かぶ。
Tera AIで造られたこの世界は、一体どの範囲まで造られている?
もし、家族や兄弟さえもいるのであれば、今の俺に、何故その記憶がないのだ……?
仮に、学校の生徒のみ造っているのであれば、車という概念はおかしい。三年生は置いといて、一、二年生は乗れない。
ならば――教師……か?
あの事故は、俺を狙ったものだとしたら……、教師の誰かが、俺をわざとハネたということになってしまう!
「高嶺くん……? どうしたの、もう着いたよ?」
「あっ、ごめん、ちょっと考え事してて。ん? あれって……」
俺の視線の先には、
「紅葉、今日はありがとね! 教科書忘れるなんて思ってなかったよ」
「いいってことよ、俺とお前の仲だろ、葵意」
あ、あいつらは……望月学園の生徒じゃないのか?
「おぉ、一之瀬じゃん! お、あと高嶺くんだっけか? 珍しいとこで会うな」
「そうだね、えぇと、旭紅葉くん……だったよね」
「正解、さすが委員長!」
同じクラスか? まぁ、俺の名前を知っているようだし、その可能性は高いな。
「えぇと、そっちの子は? 旭くんの彼女?」
「え、えぇっ!? ち、違いますよ……。わたしは紅葉の幼なじみで……」
「そうそう、今日こいつが教科書忘れてさ。お礼がしたいからって、連れてこられたんだよ」
「なんか、その言い方だと、不満があるように聞こえるんだけど~?」
「あはは、冗談だよ。ありがとな葵意」
随分仲が良いんだな……。こいつらにも、オリジナルがあるんだろうか。それとも、本当に造られた思考、プログラムで出来ているんだろうか……。
「で、委員長たちは? デートか?」
「えぇ、違うよ~。悩んでるからって、相談に乗ろうか? って聞いたの」
随分とはっきり否定するじゃないか……。まあいいけど。
「へぇ、それじゃあ、俺らも聞いていいか? もちろん、嫌ならいいぞ。おっと、自己紹介が遅れたな。俺は旭 紅葉。こうようって言うけど、もみじって呼んでもいいぜ。高嶺くんと同じ四組だ」
「わ、わたしも? わたしは山落 葵意。二組です」
旭 紅葉に山落 葵意か。覚えておこう。
「あぁ、俺の名前は高嶺 廻。よろしく、もみじ、山落さん」
どうせAIだと言うのなら、俺の悩みを聞いてどんな反応するのか、見てみようじゃねえか。