テーマパーク
お久し振りです。修羅場ばかりとなっておりますが、よろしければどうぞ
さて。結局その場にいた六名が行くことになり、準備をして部屋の前で待っているとなぜかいつの間にか両隣にレンゲさん、カナタさん、カナリアさんが険悪そうな雰囲気を醸し出しながら立っていました。
……何かしたかな?
ぎすぎすとした雰囲気に当てられ思わずそう思っていると、ジャグラが今のあなたの状態を見てそっと近づくのをやめました。
え、引かれた? と反射的にあなたは思いますが、ジャグラは『今あそこに突っ込んだら血を見そうだ』と直感した結果。
そしてそれは正しい判断だと言えるでしょう。現在あなたの隣にいるのはレンゲさんとカナリアさん。そのせいでレンゲさんの隣にいることになったカナタさんの機嫌は最悪です。
もしこれで何らかのアクションであなたが離れた場合、離した人は血を見ることになる……そんな雰囲気を醸し出すほどですから。
もちろんそんな雰囲気の理由までは察することができないあなたは、一刻も早くこの状況を打破したいと考えます。
とはいえ下手に刺激したら痛い目を見るのは明らかなのであなたはただ立っているだけ。
とんでもなく居心地が悪いなと思いながらナユタさん来ないかな…と待っていると、「皆さんお揃いでしたか」とふんわりした声が。
やっと来た! と喜びながら声がした方へ向くと、そこには何やら見慣れない高級車が。
威圧感が半端なくてどうしようもない感じです。こんな庶民じゃ乗れなさそうな車をあなたは初めて目の当たりにして膝が震えて来ました。
あれなんて言う車なんだろう……とんでもなく高そうに見えるんだけど……。
都怖いよ母さん…と内心怯えながらも何とか堪えていると、声をかけてきた人物――ナユタさんが近づいてきてあなたの顔を覗き込み、首を傾げて聞いてきました。
「どうかなされました?」
い、いえ!! と顔を赤くして盛大に首を振るあなた。それを見た隣の人たちからは瞬時に肘打ちを食らい、カナタさんのピリピリした雰囲気は更に尖りました。
両脇腹に肘打ちを食らったあなたは崩れ落ちて咳き込みます。それを見たナユタさんは「大丈夫ですか?」と手を差し伸べてくれました。
やっぱり優しい人だなぁと思いながらその手を取ろうとしたところ、やった張本人たちであるレンゲさんとカナリアさんが「それじゃ揃ったし、行くか」「そうですねぇ。行きましょー」とあなたを立たせて先に行ってしまいます。
ええー、と声を上げたかったあなたですが何も言えずに両脇腹を抑えていると、ジャグラとカナタさんが心配そうに声をかけてきました。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですか?」
あ、はい。と何とか答えたあなたは、ナユタさんにあれに乗るんですか? と訊ねます。
ナユタさんは首を傾げました。
「そうですけど、お乗りになったことないのですか?」
田舎でこんな車見たことなんて一度もないので素直に頷くと、「そうですか。でしたら助手席にお乗りになりますか? 後部座席より新鮮だと思いますよ?」と提案されたので、あなたは素直にそうさせてもらいます…と答えました。
乗ってみて。
あなたは小心者故ガッチガチに緊張していました。
え、いいの? こんな高級な車に乗っていいの?
シートベルトをして助手席に座りながらも小市民を際立たせる思考がループしているあなた。
落ち着こうにも無理な感じになっているあなたはそのまま石の様に動かないことを決め固まると、後部座席の方から「助けてくれ…」と憔悴しきったジャグラの声が。
一応聞いていましたが、緊張により一種の地蔵になっているあなたは聞こえただけで何の反応もしません。
ある意味似た者同士の二人ですが、この場にいる女性陣の興味はどうやらただ一人のようで。
ジャグラそっちのけで盛り上がっているようです。
「なんか固くなってるな、あいつ」
「そこが可愛らしいと思いません?」
「そうですねぇ。でもでも、ミーちゃんをあまり困らせるのはダメだと思いますよーナユタさん?」
「そういうカナリアさんこそ朝食の途中にお邪魔していたじゃないですか」
「そりゃダメだろカナリア」
「ミーちゃんから許可はとったので大丈夫ですぅ」
「単純にしつこいのを嫌ったんだと思うんですけど」
バチバチと擬音が具現化するんじゃないかというほど視線の交差が目まぐるしく移る。表情は変わらない中で雰囲気だけが変わっているという現状に、ジャグラは「こんなのあの世界にいた時よりひどいぜ…」と本人でしか知りえない言葉を呟いて天井を眺めていました。
高級車に揺られること数十分。
都に入ってから普段渋滞になっている道が空いているという状況に誰もツッコミを入れずに進んだ結果、目的地に着きました。
地蔵のように固まり脳内で実家の祖母が呟いていた念仏をずっと詠唱していたあなた。
車のドアが開いて「着きましたよ?」と声をかけられても気付いていないようですね。
そんなあなたが我に返れたのは、誰かに肩をゆすられて。
「着いたぞ」
肩をゆすってきたのはレンゲさん。前髪がかかった男らしい顔立ちを見たあなたは次いで周囲を見渡してからゆっくりと車から降ります。
車から降りて地面の感触を確かめたあなたは大きく息を吐いてから深呼吸をします。
とても息が詰まる空間だったので解放感に包まれ、着いた場所を見るために後ろを向いたところ、案の定絶句。
固まってしまったあなたに対し、ナユタさんは人形を両手で持ったまま「どうしたんですか?」と首を傾げて質問します。
が、あなたは答えられるほど精神状態が正常ではないようで。
ギギギとその施設に背を向けてから、確認する様に全員に質問しました。
ここって、この国で最も入場者数が多い遊園地ですよね? と。
「何をあたりまえのことを言ってるんだお前は」
にべもなく即答したレンゲさんの言葉を聞いたあなたは、母さん…俺とんでもないアパートに入居しちまった……と心の底から思いました。
で。
「さぁ行きましょーミーちゃん」
そう言ってあなたの腕をとるカナリアさん。
あまりの自然な動作で腕を組むものですから、あなたは意識をせずにあ、はい。と答えようとしたところで――ぶわっと背筋が凍った想いをしました。
沈黙のままその原因であろう方を向くと、笑顔のままの女性陣がそこには居ました。ジャグラは我関せずと距離を取っています。
レンゲさんは口元を引きつかせ、ナユタさんは口元に手を当てながら、カナタさんは貼り付けたような笑顔のまま。
その笑顔に恐怖心を抱いたあなたはカナリアさんが腕を組んでいることも忘れ、ど、どうかしました? 自分、何かしましたか? と質問します。
正確にはあなたではなくあなたの腕を組んでいるカナリアさんの事を睨んでいますが、根が小市民で小心者なので気付けません。
「さぁ行きましょー!」
あえて気づかないふりをしているカナリアさんは怯えるあなたを無視する形で歩き出そうとし、その動きが勝手に止まったことに少しイラッとしました。
「ナユタさーん? こんなところで特技使うなんてぇ、どういう事ですかぁ?」
「勝手に動きを止めたのに何を言ってるんですかカナリアさん?」
にこやかな笑顔の裏に敵を見るような視線が交差している現状に、ついにあなたは声を張り上げました。
こんなことしてるなら早く入りましょう! と。
それだけでなんということでしょう。女性陣が手のひらを返すように動きだしました。
あまりにもあっさりだったのであなたとジャグラは置いてかれ、慌てて駆け出すことになりました。