住人達の集い
久し振りに二話連続投稿します。
……なんか続編みたいになりましたけど。
畑仕事を終えた時刻は午前八時半。バケツを戻して腕を伸ばし、自分の部屋へ戻って朝食を食べようとかと考えながら歩いていると、「おはようございます」とカナタさんが二階から声をかけてくれました。
あなたは顔を上げておはようございますと返しますと、「朝から大変でしたね」と苦笑しながら言われました。
あなたも釣られて苦笑しながら、出勤ですか? と訊ねますと、「いえ。畑の様子を見るところです」と階段を降りながら答えてくれました。
まぁこの辺りは個人の自由だからなぁと思いながら頑張ってください、と言うと、「今から朝食ですか?」と訊かれました。
自分で何とかすることが多いあなたは気を遣わせてはいけないとすぐさま思い 大丈夫ですよ。ちゃんと作り置きしていますから。と答えます。
……実際はこれから作るのですが。
ともかく、その答えに納得したカナタさんは「そうですか」と少し残念そうに言って畑の方へ向かったので、あなたは安どのため息を吐いて自分の部屋へ戻り、朝食を作ることにしました。
今更ですが、ここファンタジ荘は一階・二階共に六部屋の計十二部屋あるアパートです。家賃は二万円ぽっきり。敷金礼金含めて、です。
まぁ大家さんが変わった人なので偶に「一万円でいいですよ」とか言うらしいのですが、ここに来てあなたは一度もそんな言葉を聞いたことはありません。
現在暮らしている人はあなたを含め十二人。つまり、全部埋まっているということになりますね。
あまり変わらない朝食を食べながら今日これからどうしようかなと考えていると、ノックの音が聞こえたので箸を置いて食べていたものを飲み込んで立ち上がり、玄関前で、どちら様ですか? と訊ねました。
すると返ってきたのは、「ミーちゃんあそぼー?」という確信犯的に舌っ足らずの口調を使う人が言ったものでした。
この人の面倒くささを身を持って体験していたあなたは一瞬迷いましたが、とりあえず部屋で待っててくださいと降参してドアを開けます。
「おはようミーちゃん」
そう言いながら入ってきたのは、身長百五十あるかないかの女の人。傍から見れば子供なのでそれを存分に利用しているという事実を会ってすぐ気付いたあなたは、もうそのことに触れずに精一杯の抵抗で、ミーちゃんじゃないですよ。と抗議します。
「えー? ミーちゃんはミーちゃんでしょ?」
「……」
頭が痛くなりそうな会話になりそうだったのであなたはすぐに切り上げ、朝食を食べるためにリビングへ戻ります。
「待ってよミーちゃん」
トテトテと言う言葉が似合いそうな足取りで彼女が追ってくるので、よくやるよなぁと思いながら放置しました。
「食べ終わったですねー? それじゃ、遊びに行きましょー」
わざわざ食べ終わるまで座って待ってくれた彼女の言葉に何とも言えない表情をつくりながら、今日お暇なんですか、カナリヤさん? と食器を片づけながら訊ねます。
「はいお暇なんですー」
演技というより素でやってのけてるからなこの人…と言葉を聞いたあなたは台所で食器を洗いつつ考えていると、コンコン、と控えめのノックが聞こえました。
少し待ってください。と食器の泡を水で洗い流しながら言うと、分かりましたと女の人の声が。
あ、カナタさんか。声で分かったあなたは食器を拭かずに重ね玄関の方へ向かおうとしたところ、一瞬でドアが開いてしまいました。
そして、「素直にお引き取り下さいカナタさーん。私と遊ぶんですぅ」という声が。
そこはかとなく挑発するような声だったことに気付いたあなたは、けれど首を突っ込み辛い感じだったので素直に食器を片づけることに。
すると、「なぁ助けてくれ!」と叫ぶ声が聞こえました。
先程怒られたジャグラがこちらに来たようで、誰に助けを求めているのか分からないから反応しないでいると、「うおっ!」とジャグラが驚きの声を上げました。
「そうですか。朝食の時間から押しかけたカナリアさんは相変わらず強引ですね。だから未だに独り身なんです」
「カナタさんに言われたくありませんぅ。いい男の出会いがない淋しい人よりマシですぅ」
「「……」」
一瞬で雰囲気が戦う人たちのそれになりました。気のせいか表情が消えています。
えっと……これは一体どうなっているんだ? 現状の理解が追い付かないあなたは雰囲気の悪い二人になんて声をかければいいのか分かりません。
が、ジャグラはそんなことを気にしなかったようで、台所の方からあなたの部屋へ向けて叫びました。
「助けてくれ! 農業のいろはが全然わからねぇんだ!」
ああ罰の話か。すぐさまピンときたあなたはどうしようか考えます。
別に教えるのは構いません。が、今は玄関先の二人をどうにかしないことには始まりません。
下手な言葉次第では自分に矛先が向きそうだなと思ったあなたが言葉に迷っていると、「一体なんだこの修羅場は」と声が。
またややこしくなりそうな人が来たなと思っていると、「あ、皆さん今日はお暇なようですね」という女の人の声が。
なんか今日はみんな集まる日だなと考えていると、「よし、この場にいる全員で今日は遊ぶか」と提案されました。
「いや俺教えてもらおうと思ったんだけど」
「勉強しろ」
「勉強してください」
「勉強してくださいですぅ」
「勉強してください」
一気に興味が変わったのであなたはホッと息を吐いて玄関から顔を出します。
それを見た肩に羽織って腕を組んでいる女性と、人形を抱えている金髪の女性、そして地面に手をついている男の人が新たにいました。
顔を出したあなたに、肩に上着を羽織った女性は「今日暇か?」と質問してきます。
ええ。と頷くと、「ならこの場にいる全員でどこかで遊ぼうじゃないか」と提案してきました。
お金はないのですが別に構いません。と言おうとしたところ、カナリアさんが「お断りしますー。レンゲさんの遊びに行くってほとんど死地じゃないですかー」と物騒なことを言います。
それに賛同する様にカナタさんも頷きながら言いました。
「同感です。どう考えても遊びじゃありませんあれは」
一体何があったんだろうと気になりましたが、聞いたら最後だなと直感して口を閉ざすと、レンゲと呼ばれた男っぽい女性は「流石に言うわけないだろ」と苦笑しながら言ってから、小冊子をあなた達の前に広げて言います。
「今回はここだ。都にあるテーマパーク。仕事の時に相手からチケット貰って使い道なかったから、みんなで行こうか」
「っていう話を昨日私の部屋でしたんですよねレンゲちゃん」
「う、うるさい。良いだろ別に」
レンゲさんの後ろにいる金髪の女性の言葉に頬を染めながら反論していると、「俺今から農業について学びなおさないといけないんだけど」とジャグラさんが申し訳なさそうに言いました。
けれども、レンゲさんは「知らん」と一蹴しました。
「ちょっ、」
「お前達の過失だ。私達には関係ない」
「いや、そうだけど」
「だからそんなもの帰ってから勉強しろ」
「そりゃそうだけど!」
「諦めたらよろしいのでは?」
その一言にがっくりとジャグラさんは肩を落とします。
一方で、カナタさんとカナリアさんは驚いてレンゲさんのパンフレットを凝視。
あなたはというと、着々と進んでいる計画に口を挟まずに部屋にこっそりと戻ることにしました。
次はいつになりますか不透明ですね。