お盆休みその2
お久し振りです。残ってた連載をひとまず完結させようかと
あなたは久し振りに帰ってきた実家で両親と都での生活の話に花を咲かせていましました。最初の方こそ仕送りの額と自らの貯金の額の差に説教を受けた彼でしたが(貯金額が少ないから)、アパートの人たちや都の雰囲気などを話し始めると興味津々のご様子(ただし、異世界云々は説明していません)。
「んだら、お前が暮らしてるアパートの人たちに挨拶してみてぇな」
「そうだねぇ。お前さんがどんな生活を送っているのか気になるしねぇ」
話を聞き終えた両親がそう呟いて、あなたは再びついてきたと思われる彼女たちの姿を思い出し、内心首をかしげます。
どういうつもりで来たのだろうか、と。
あなた自身はこの故郷に観光的な要素がないことを知っています。唯一知っているのは隣町にある酒蔵ぐらいですが、それ自体が知られていないので観光要素たり得ません。
ほとんどが高齢な方ばかりですし、観光に適しているとはとても言えません。
それでも彼女たちが来ています。その理由を大家さんにしていた彼は、少し考えてやっぱり大家さん以外いないと考えます。
なぜなら、大家さん以外に全員を同じ場所へ行かせるなんて芸当できないと住んでいる間に実感したからです。
……まぁ、ほかにも理由は有るでしょうがね。
そんな風に首都での暮らしについて両親にしゃべったあなたは、昼食を食べてから何をしようかと考えましたが両親が「来たんなら手伝え」と言って腰を上げたので、それについていくように立ち上がることにしました。
「やっぱり乗り込むか」
定食屋の中。
各々好きに頼んで食べていると、不意にレンゲが呟きます。
その発言に女性陣一同は箸を止めますが、ジャグラは食べながら「いきなりかよ」とぼやいたせいでレンゲにおかずを一品とられます。
「なんでだよ!?」
「罰だ」
「女王か!」
「あんた達、観光でも来たのかい?」
彼の抗議の声がむなしく響く中、店の女将さんが問いかけてきたので代表してレンゲが「はい」と答えました。
「何にもないど田舎に来るなんて、変わりもんだねぇ」
「結構新鮮ですよ……ところで、面白いところとかありますかここは」
「さぁてねぇ。生まれてからずっと住んでるからか面白い場所なんて見当がつかないけど……ここから山の方へ行くと神社があってね。そこぐらいかねぇ、あとは畑ぐらいしかないねぇ」
「ちなみにどういったご利益があるんですか?」
「そうさねぇ……五穀豊穣に無病息災ぐらいだった気がするね」
「そうなんですか。ぜひ行ってみますね」
「そりゃ嬉しいね……そういえば」
レンゲとの会話で思い出したのか、女将さんは「明後日に夏祭りがあるね、この地域総出で」と言いました。
それに食いついたのが、カナリアです。
「お祭り、ですかぁ?」
「そうだよ。子供は減っても伝統は消えないって感じでやってるんだよ。年々参加者は減ってるけど、それでもね」
「昔から神への奉納などを大々的にやる名残、ですか。どこにでもあるのですね」
「たぶんそうじゃないかい? ま、うちは町おこしを兼ねてるけどね」
祭りは二日後にやるから、良かったら参加してくれないかい? そう言い残して女将さんは奥へと引っ込んでいきました。
その姿を見送った彼女たちは、食事を再開しながら話し合いを始めました。
「さて、どうするか」
「その前に会社とかは大丈夫なのかよ? 俺は学生だからまだ大丈夫だけど」
「ふん。誰に向かって言ってる。この休みを確保するために仕事全部消化してきたわ」(レンゲ)
「問題ありません。店長に了承は得ました」(カナタ)
「私も問題ありません~。むしろ休みを取ってくれって言われたぐらいですぅ」(カナリア)
「私の研究少し詰まったから今は放置でいいのよ」(ギール)
「私は実家に連絡を入れましたので大丈夫です」(ナユタ)
「童も問題ないぞい!!」(レイ)
「そもそも仕事先が異世界だから関係ないのよね~」(ミチル)
「ここじゃ、私も学生だから墓参りって理由で友達と遊ぶの断ったし……ってあれ? ミュンテンさんは?」(サリー)
『あれ?』
全員が慌てて周囲を見渡します。しかし、いつの間にか料理は食べ終えられており、彼女――ミュンテンの姿はありません。
その事実を認識した彼らは、ああまたかとため息をついてから「今度はどっちへ向かったと思う? 思考能力だけで答えてみろ」とレンゲが切り出します。
「ちなみにあたしの予想だと、すでにこの町にいない」
『ありそう』
続いて発言したのはジャグラ。
「意外とあいつのところにいたりして。あの人の特性、最近あいつ周りになってる気がするから」
『確かに』
と、そんなところでジャグラの電話が鳴りました。
取り出して画面を見ると、ミュンテンの文字が。
「本人から電話来た。なぜか俺に」
『!?』
周囲の驚きも気にせずに電話に出たところ、「すみませんジャグラさん。わたくしどうやら泊まるホテルの前まで来てしまいました」との声が。
思わず目を覆いたくなる報告でしたが、ジャグラは『ホテル前』と空中で小さく書きました。
それだけで全員納得しましたが、そこからの行動をどうすればいいのか考えられませんでした。
何せ気づいたらいなくなっていて、言われた場所へ向かっている途中でまた別な場所へ向かったなんて鼬ごっこを毎度続けていたら、そりゃ思考を拒絶したくなるでしょう。
予測不可能で法則性の欠片もないその特性を持っている彼女になんて言って待ってもらおうと思っていると、レンゲがジャグラの携帯を奪い取ってこう言いました。
「いいか? 今から半数がそっちに向かって残りは定食屋付近の商店街にたむろする。その場からいなくなったらその都度連絡してくれ。ただし、あまりに遠かったら私達は追いかけないからな」
『ああはい、すみません。お手数をおかけしまして』
「気にするな」
そう言うと電話を切ってジャグラに渡し、「それじゃ、班分けするぞ」とレンゲは真剣な表情で話し始めました。
一方その頃あなたはというと。
「ちんたらやってねぇでさっさと運べよおめぇ!」
「親父。久し振りに作業するのにその言い草はないだろ……」
怒られながら手伝いをしていました。先にやっていた男の人――あなたのお兄さんですね――が呆れながら諫めてくれますが、お父さんは完全に聞く耳を持っていません。
「都会さ行って足腰弱ってんじゃねぇだろなぁ、おい!」
弱ってないって! 肩で息をしながら必死に戻り貴方は叫びます。昔からこの父親の怒声に対して反抗心があるので、それが原動力となって作業スピードを上げていきます。
「やりゃできるじゃねぇか」
「全く親父は……。俺が跡を継ぐんだからあいつに厳しくしなくたっていいだろうに」
「ふん! 腑抜けてねぇか確かめてるだけだ」
「やれやれ」
それから夕方まで作業は続き、何事もなく自室で就寝しました。
ちなみに、あなたのお兄さんは結婚しており、子供が一人います。みんなここで暮らしています。
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