一睡もしてないけど殺し合いとか嫌だけど
朝もや…なんにも見えない…が、なんかいそうだよね~敵か味方かはわからないけど。
「勇者様、偵察隊の準備が整いました」
「うむ、すぐ行く。下がってよし」
「はっ!」
物見櫓から見下ろして下界を見下ろす。視界は災厄だし敵は集結中で奇襲をかけるには最適な場面だ。
直ぐ様敵はここに大軍を向かわせるだろう。
入った情報を鵜呑みにするのなら心配はいらんのだがな…
その時だ、お嬢ちゃんが走りながら装備を着用…櫓の階段をかけ上ってくる。ここでちょっと後悔、誰か側にいてくれないと容赦なしにあいつ俺を叱るんだから。
「置いていくならその前に起こして行ってくれてもいいんじゃないですか…」
ぶつぶつ言いながら冑の紐をくくる。全くもってその通りだがしょうがない。緊急性があるのはお前よりこっちなのだから。
「お前らが寝てから部屋を出てたからな…さすがに俺も気を使う…」
「デリカシーがないのが勇者様だと思ってたのに」
「それ言うともう一人の勇者にも失礼だろ」
「あーあ、もう一人は寛大なのに…こっちはどうしてこんなに器の小さい変態なんでしょう…」
おい、聞こえてるぞ。なんだー?その呆れた顔は…
シバくぞ?俺はこう言うときは慈悲ないよ?
「ほら、エルに限っては馬にまで乗って準備万端だぞ~?」
「あの女…信用なりませんよ。部隊殺しのエル・ビレンツと言えば一度は聞く話ですよ?」
「毛嫌いして~それが本当だとか関係ない。腕は確かだしそんな噂みたいな感じ、しなかったけどな。
まぁ訳ありだからここに流れてきたんだろうが…」
櫓から内側を見下ろす…馬に乗った白髪の騎士が待機命令を守りまだかまだかと自分の受け持つ部隊とともに緊張している様子だった。
「ふーん…」
小生意気なお嬢ちゃんに尊敬と愛の眼差しを感じながら、俺は下界の異常はないか観察していた。フッこの歳の割りに経験豊富そうな今の俺を見たらお嬢ちゃんじゃなくても誰でも惚れてしまうだろうな…
おい、お嬢ちゃん…先にシャワー浴びてこいよ。
「ふーん…勇者様はやはり無敵すぎて(危機管理能力)が皆無なんですね」
「スッパリ言うね君」
「よく言われます」
…………。おい、お前は本当に教え子なのか?
そして颯爽と階段を下りる君、俺はお仕置きとばかりに脆い木製階段を踏みつける。軽い振動の後見事に階段は崩れ去る…いや~楽しいな。下から何やら罵声がするぞ?覗いてみるとお尻をさすりながら涙目で訴える哀れな子羊が。よかったな、それだけ叫ぶ元気があるなら大丈夫だ。俺は下りるのが恐ろしくなり城門が開くのを待つ。あの小生意気なお嬢ちゃんはお留守番、救援隊だから付いてこない。あ~幸せ。
開け放たれた城門から偵察隊の騎馬が次々と出ていく。よく知った土地とはいえ、不足の事態なんてこのご時世、ありえる。俺は櫓から跳躍して内側に戻るより外側に、エルの後ろに見事に着地した。これでお嬢ちゃんの説教はあと伸ばしにできる。内心ガッツポーズだぜ。
「!?」
「驚くことなかれ、この伊丹ユウ同行させてもらうご存知の通り戦力にはなるはずだ。苦しゅうないぞ者共」
「もしものことがあれば私は!!」
「やっかましいーこれ以上兵士を無駄に死なせる訳にはいかん…それに、昨日の集結した敵ではないかもしれん…」
「昨日報告書にあった敵の第二波ではないと?ではいったい…」
「信用していいのか…捕虜になってた兵士が護送中に脱走した…と言う情報が入ってな…」
「それはいつですか!?にわかに信じられない話じゃないですか!!」
「知らないだろう…お前寝てたじゃん」
遡ること数時間前~
「ズルルルルル~ぷはぁ~ご馳走さま。どうだ?私の権限で店でもせんか?贔にしてやる」
「そんなこと言ってる場合か!!」
アホ狐…が部下を始末…しそうになったのを防ぎ、気絶させてベッドに仲良く放り込む。これでよしとして、九尾と一緒に部屋を出る。
「お前の言うとおり兵が足りん。わが妖狐の家系から育っておるものを引き抜いても…分家から応援を頼んでもこの戦況は打破できんな~」
「妖狐…尾獣は今最高で何本だ?」
「九尾の私が最高だが里では…そうさな~雷綱の三尾かな、それと刑部かしらね?分家の木の葉一族は詳しくないが似たところでしょ」
「そっか、俺もあたってみるか色々と」
「おーあれだ、あの鹵獲したドラゴン」
「捕獲じゃなくてか…」
「あんなもんドラゴンなんて兵器よ兵器!生物兵器~!」
「ブラックドラゴン、グロリアだな?それがどうした。怪我の後遺症でとてもじゃないが戦闘は無理だせいぜい遠くからブレス吐いて遠距離支援しか期待はできない」
「いんや~後ろにドラゴンがいるだけで兵士の士気高揚にもなるからの」
グロリアは…きっと出たくはないだろう。俺もそっとしてやりたい。
「やめとけ、制御できるのか?もし逃走されでもしたらこちらにとって都合が悪くないか」
「なに、そこまで期待しておらん。もう遅い、寝るとしようかしら?明日も早いし」
そう言ってスタスタと早歩きでこの場を去った…
あ~これで頭のアラームを止められる…はいはい行くよ!!行きますよ!!
「転送してくれ」
辺りを確認し人がいないのを確認。俺の体は光に包まれどこかへ転送されていく。あいつはきっと寝ないのだろう…だから昼夜問わずに俺を連れ去るんだろう…
ついた先は廃墟…だがどこか工場のような研究所のような…最先端の装置やら技術が開発されてるのはわかるが…まぁとある幹部の家だ。ここは。目の前には人間と見間違うほどの出来のゴーレムが…
「搾精…」
「いやいや、主のもとへ案内してくれ」
「案内?どうぞこちらへ」
ものすんごい手違いが発生するところだった。そのために人間の女性そっくりに仕上げてるのだろうがあいつの観点おかしいんじゃないだろうか?人間を材料とした兵士の大量生産…聞こえは恐ろしいが内情はもっと恐ろしい…初潜入したときを思い出される。それはここじゃなかったが似たところ…
「まだあの研究は続いてるのか?」
「どの研究でしょうか?」
「色々と」
口に出して言えるかー!!青少年の発育によろしくない影響がでたらどうする!!
「サキュバスの精力剤の研究は中断。素材を生成する人間の健康的な成人男性は破棄されました」
「破棄されただぁー!?」
「はい、あるものは他の魔物の餌に、魔物に変化させたり。数が多いので虐殺してみたり。様々ですが一人として人間として、生き残ったものはおらず全て破棄、という状態です」
止まることなく淡々と話を続けるゴーレム。俺は立ち止まり唖然とする。まさかな、そんなことが…
「実験用魔物…や兵士量産のための魔物の雌は小数ながら実戦配備されつがいの雄はみな、破棄されました。研究じたいは終了させられました。魔王様の手によって」
「そうか…」
肩を落とすが昔ならこんなときどうしてたかな、気でもふれて暴れてたかな。これでまた人間が貴重になっていくんだな。人間が滅びゆく種族となってしまったわけだ。
「着きました、この部屋です」
「おう…ご苦労様、下がっていいよ」
「では…」
一人部屋の中に入っていく…まず気になるのは薬品やら何やらの鼻をつく刺激臭と肉が腐ったような腐敗臭だ…種族が種族なだけにこれは仕方ないか…
何かの生き物の部品やら危険な魔法の本だとか地面に転がっている。机らしき物はあるが上になにかが積もっていてこの部屋一つがまるで物置小屋…生活なんてとてもできない。そんな中に小柄な少女が一人似つかわしくないがなぜか馴染んでいる。
骸骨だらけの装飾、部屋だというのにローブを頭からすっぽりと被っている。俺は躊躇なくあいさつをするもどこか素っ気ない。
「あいさつは無駄、遅い」
怒られた。いきなり呼び出して…
「今日の用事はなんだ?お前の使い魔みたいに召喚ばっかりしやがって…そう言う盟約だーとかほざくんだろう?どうせ」
「呼ばれたらすぐ来る常識」
「で用事はなんだ?」
「今度の脱走した人間の護衛…今度の襲撃から保護までお願いしたい」
「なるほど、今までのやり方が通じなくなってきたのか?」
「他の幹部が介入してきた」
俺とリッチは今停戦中でリッチが預かった人間を返してもらっていたがどんどん難しくなってきた。捕虜は基本魔物の餌か奴隷、それを魔王に研究のためにと大量にリッチは譲り受けている。それを人間界に横流し、そんなことをしていた。最初は前線の近くで檻を開け解放していたが、何度も謎の襲撃があり捕虜を逃がしたなんて嘘の記述が信用されなくなり魔王の息がかかった兵士を見張りに置く…最初は雑魚だから俺たち人間が演技で襲い、魔王の部下を皆殺しにして解放していたがとうとう幹部が入り込んできたのだ。
「んで手練れが必要になるのか」
「今度ばかりは勇者でないと厳しい」
「お前がそう言うならそうなんだろう。敵の能力はなんだ?どの種族だ?」
「知らされてない、信用されてないからか。当日まで知らされない」
「疑われてんのか?」
「立て続けに逃走されれば疑われるのは当然」
リッチとリリスにはお世話になっている。こうやって何度も危ない橋を渡ってもらっている。申し訳ない気持ちで一杯だ。しかしまだやってもらうよ!!
「どうしてここまで人間に肩入れする?サキュバスからみれば魅了してなんぼだが死者のリッチ、あんたには助けるその…失礼なんだがメリットが何なのかわからないんだ」
ズバリと突いてみた…さて、どんな答えが返ってくるのやら…
「死者だからこそできないこと、生命の誕生に興味を抱くのはある意味必然的。無機質な感情だから愛というものを知らない。夫婦、子ども、家族…その観点から愛について知るためにメスを入れた」
「魔物に限らず子孫を残す人間、人間は魔物と相成れないものなのか?確かめるためにとりあえずさせてみた」
「あ~させてみちゃったか…」
「性欲を改造してあったから雌の魔物は肉欲に素直に従う、子どもが産まれても同じ、そこに愛と似た感情は感じなかった。ただ欲望に生きてるだけ」
実験は失敗、そう思ったとき人間の廃棄命令が魔王より発令、例外なく殺せと言ったところだ。初めは抗議した、でもそれは断行された。
「兵士とするため魔物の雌の前で人間を殺す。少ない感情を消すため。その時衝撃を受けた」
魔物らしからぬ行動、魔物が人間を守ろうと暴れるのだ。
殺させまいと暴れる。必死だっただけどそれは無意味に終わる、死刑執行され皆死んだ。魔物は死体にすがって泣いたあんなに敵対していた魔物が人間に涙した。
「欲じゃなかった。愛してたからこんなに暴れて悲しんだと思う。人間を愛することができればこんなに胸の痛くなる光景を見なくてすむ。だから手伝うし危険でも頑張る」
「そっか、あんたは人間より人間っぽいな。話がわかるなら戦争なんてやめましょうってか」
「愛を知れるならなんでもする、要件はそれだけじゃーね」
「おい、閉め出す気か」
「さよーならー」
「コラコラコラ?転送またんか~い~」
「どうしました?なにかまずいことでも?」
「昨日の嫌な思い出を思い返してた…よーし、全員止まれ~!俺一人じゃこわいから助っ人を読んでいます。隠れてると思うからよーく捜してね」
「援軍なんて…どこにそんな…」
霧の中から誰かがこちらに向かってくる。黒いシルエットだけが浮かび上がる。一人は大男…もう一人は細身…高身長…頭に猫耳…時間ピッタシ。
「話と違うな~一人だけじゃなかったか?怖くなってそんなにぞろぞろとついてきてもらってよー」
「まったく、戦力は足りてるよな?たかだか幹部だけだろ?」
「さっすが二人とも仕事が早いね~」
「急がしておいてなんて言い草…」
霧からやがて現れる大男…肩にダガーナイフ、ただそれだけ。大柄な体に似合わない武器だ。顔には十字の傷…
「十字目のボス…」
「なんだ~女、人を化け物みたいにみてよ~」
「いや、怖がるだろ普通。しかも有名人だし緊張するだろ」
「勇者を後ろに乗せているのに?」
「シュラ…妬いてんじゃねーよー可愛いな~そんなところがミカサと違って好きだ♪」
「ならいい加減婚約の儀式をして子どもをつくろうじゃないか…いつまで待たせる…ミカサを二人で倒すまでか?」
桜色の着物に日本刀を引っ提げて登場…黒い甲冑の凶戦士とバグった猫耳剣士が味方にいるんだ。これなら幹部が待ち受けてようと心配いらないぞ~!
「それじゃぁ前線近くまで出ていこうか…集結している魔王軍に見つからないように各自慎重に行動するように!!」
「知るかよ切り刻みてー」
「カイドロ!お前が一番の問題児だ」
「知るかよ、行こうぜ?」
こうして不安を残して救出作戦が始まろうとしていた。
「エルは決してカイドロとシュラは怒らせないように部下に言っとけ…味方だと言っても切り刻まれることになるぞ…」
「はい…」




