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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
反撃の英雄たち
98/135

追い詰められた世界

人類反撃の起点、オルガ連合国前線より後方。


幾度かの攻撃を多大なる犠牲を出しつつ何とか盛り返した翌朝。


明るくなって見えた景色はおびただしい数の怪異の死骸によって大地が埋め尽くされている、そんなものだった。


「ちょっとした街の住人がこいつらの餌にされてるって話だ」


槍を持って随伴する元冒険者、今は引き抜かれて警備兵をさせられている男が唐突にぽんっと嘆いた。

彼は歳は若いが家族を魔物につい最近村ごと消されていた。


何度も続いた襲撃、攻め込んだ敵は約6万。最近の襲撃と比べ随分と少なかった。オークやゴブリンの大軍を潰しても敵は確実に人間の陣地を削ってる。減るどころか増えてるんだもん。魔物は団結し始め人間は魔物に変えられる。虐殺に次ぐ虐殺で今や人間ってだけで絶滅危惧種だ。勇者もなにも指揮系統は魔王によって破壊されゲリラ的に戦ってるやつら以外はここにいる僅かな人間しかいないだろう。


「それにしてもヤバいですよねー途中まで押されてたのに、勇者ってやつはこれを伝承通り覆すんですよね~?」


生存者…なんているはずもないが。死に損ないを探してはいるがこれも時間の無駄だ。こんなことに人員を割くなら撤退した敵の第二波に備えて防衛ラインを固めとく方が賢明だ。


「お前が知ってる話は全て夢物語だ」


腰のポーチから木の枝を取り出して口にくわえる。

火はつけてはいない。甘い香りが微かに鼻を抜けるていく。


「煙草っですか?」


「シナモン…だ。昔マタタビ吸ってるやつがいたんでな…そいつの真似だ。それにこの香りが好きだからイラついたときにはこうしてる…」


「すいません…自分は伝説の勇者様に…」


「止せ止せ…今更お前のそんな口調、聞いてて調子が狂う…ほらっ!帰るぞ、でないとまたお嬢ちゃんに俺が怒られる」


死体の山から跳んで下りると今度は横たわるワイバーンの死骸によじ登った。敵はどうやらこの近くにまた集合しているらしい…どこから湧いてくるのやら…


「教官ですか?まさか!?昨日の今日ですよ?まともに動けるのは遅れた俺たちだけですよ!!」


「いんやーあのお嬢ちゃんのことなら顔真っ赤にして怒るぞ~まっ、俺にそんな態度とったらケツも真っ赤にしてやるけどな」


「昨日のやつら見たいに火つけてやるんですよね?

頼もしいです!!」


ワイバーンの死骸、体にそって下りていく。急がないと朝飯抜きでここまで来たんだ。帰ったら昼飯と一緒にされてしまう。


「さて…帰るぞ~全員駆け足っ!!」


いくつか敵から回収したものを馬にのせる。馬を走らせ数分後、荒廃した…(魔物に襲われた村)廃村を越えた先に前線基地がある。元は領主の館で今は周りに壕が張り巡らされ囲いは元の頼りない木の格子柵から確りとバリケードが組まれ戦闘施設へと変貌している。物見櫓の監視兵は遠くから馬を走らせる俺たちを発見し大の男数人で上げる丸太を重ねた城門を開くよう指示を出し、許可が出て門を開けるここまでの動作、到着した直後に門が開いている。

待つ必要がないってだけで嬉しく感じる。


「守備は固めた。そちらの報告は?」


「お嬢ちゃん、つれないねー帰ってそうそう仕事の話かよ」


「お嬢ちゃんなんて気安く呼ぶな、後それが当然の義務でしょう?」


「俺はあんたの部下でもなければ兵士でもない。昨日農作業が途中で阻まれなかば無理矢理連れてこられた可哀想な勇者さんだ」


「勇者が聞いて呆れる」


俺はお小言に耐性がないからな、それに俺が折れてやらないと永遠と続くんだこれが…こっちが大人なら素直にはいはいって言っとけばいいんだ。こんなのが教官でさぞ日頃苦労が絶えないだろう。お前ら外れくじ引いたな。


「偵察隊か?怪我人は?いない?ならいい。早速で悪いが勇者殿は指令部に、他の者は十分に休息をとってくれ。それでは解散」


後から現れた白髪の美人騎士…彼女も若手の教官で前線の指令もだす部隊長だ…この髪金ベル薔薇部隊長様よりよっぽど話が通じる。元はどっかの国の騎士団の団長だったらしいが…詳しいことはよく知らないがここでの評判はよくない。部隊を見殺しにしたなんて噂は耳にしたが…前に尋ねても話は聞けなかった。


「人の仕事に首を突っ込まないでほしい…」


「どうも無駄話が多かったので…余計なお世話だったようですね」


「お二人さん、いいから案内役頼むわ」


「私はこれから補給物資の確認があるので」


「いいわ…ついてきて」


嫌悪な二人を引き剥がし領主の館に入る。相変わらず仲は悪いようで…俺は途中踵踏んだりして嫌がらせするも手酷い仕打ちが帰ってくるのでその内遊ぶのを止めた。目的地についたからだけどね。


「あらかじめ忠告、ここから先は先程のような悪ふざけはご遠慮願いたいのともし失礼な発言及び行為があった場合は!!」


「脅すように言わないでくれ~てゆうかここの偉いさんとは皆知り合いだから。あれか?お前のような脳筋筋金バカ乳女でも尊敬される上官に失礼があったらキレる質か?」


「しっ知り合い?」


「お前とは同じ死線を潜り抜けてきた仲だがそれ以前にも色んなところで俺は頑張ってきたの」


「顔の広さが異常…今更驚かないけど」


「あら?からかいがいがない娘だこと!!」


はい、膝をげしげし蹴られながらノックをして部屋に入る。ただの一般人には入ることさえ出来ないが基本どこでも俺は顔パスで入れる。唯一許可がいるのは女子風呂にトイレ、後は寝室だけだ。ここ数年で俺の株価はうなぎ登りだ。


「それはきっとあの日より後に会った人でしょ…」


「…」


「あんたが仲間を作らなくなった理由が関係してくるんでしょ?」


「聞きたけりゃ酒でも持って今夜部屋に来ることだな…」


「なに?口説いてるの?」


あいつは笑っているが俺は笑ってない。ドアノブに手をかけゆっくりと回した。ガチャッと音がなるのを確認すると少し開けてそのまま部屋に入った。


「…少しくらい話してくれたっていいじゃない、そっちは嫌でもこっちはそうじゃないのに」


少し動くと鎧が擦れて音がなる。金属がぶつかり合う音を出しながら自分の受け持つ部隊に戻った。






















「以上で俺の報告は終わります…まだ聞きたいか俺の昨日の武勇伝!?」


ここの領主の執務室で脚色なしでも随分と自分の成果を熱弁できるのも俺が頑張りを発表する数少ないチャンスであると同時にここは俺の抗議をする場でもあるから。勇者ですが最近足りてない百姓に俺がなると言ってるのに反対されるんだ。だから度々こうしてお手伝いはしているが正直迷惑なんだ。


中は散らかっている。あっちこっちに重大であるはずの書類が落ちている。この村の小麦生産量の報告書やら昔調子にのって書いたラブレターとか、隠滅出来ずにそこらに散らばっている。壁の右側に窓があって左側には壁に双剣が飾られ奥には領主様の先祖と思わしき肖像画がかけられている。日差しを浴びない位置に飾られているのは変色を防ぐためかなんて考えながら質問がないか部屋にいる顔触れを見渡した。領主の御先祖さーん、子孫はこんなポエムみたいなラブレター書いてますよー変人でーす。


室内は本当にがらーんとしている。物がない、持ち去ったからだろうけど。四方はなんの価値もないのっぺりとした石壁で装飾は壁の双剣のみ、家具といったら大きくて扉を通らなかったのだろう。椅子と机に本棚、もちろん中身はない。暖炉はあるが使った様子はない。暑いからね。


パチパチパチパチ…


室内は年老いた老人、退役軍人だろう。こうして手数が揃わない人間はこんな老人でも駆り出す。老人の知恵は役に立つけどもな、前線には立てない。かといって経験値のない学校出たての若造に人類の命運が賭かった勝負なんて出きるはずもないしだからここの前線の指揮は男気溢れる女の人が多い。沢山の優秀な兵士は死んだ。腕っぷしがあるやつも敵が面倒だと思えば魔物に変えられ強敵へと変貌する。

老兵は黙り混む…この場で最年長の女の前に発言権があるのは俺くらいなもんだ。女はパチパチと機嫌よさげに手を叩く。一人だけ浮いている…存在が~だけどただ者じゃないオーラを放つ…殺気、キリングオーラや王の気質、ロイヤルオーラに近いこれはどんな人でも黙らせる。絶対にこの場で機嫌を損ねたら厄介であることは見てわかる。


「もちろん、戻ってきてくれたのだから…戦ってくれるのよね?」


妖艶に微笑むがこの場に浮かれてるものは一人もいない。口を固く閉ざし冷や汗だらだら流して視線を合わせないようにするのに皆必死なようだ。俺はボケーと見させてもらいますけど。


「九尾の狐…女狐め、俺はあんたにボコられたから言わせてもらうけどなんでそうやって決めつける?おかしくない?」


「そう呼ばれるのは好きじゃない」


場が凍りついた。聞きたくなかった言葉だけに時間が止まったように錯覚した。何人かは思ったことだろう。ここで死ぬんだなーって。俺も身構えたよ、その首はねてやろうかって。殺気を抑えてるつもりでも漏れだした量が半端ない。


「おい、あんた。俺たちの最初の出会いを思い出してくれ?俺は親切にしたつもりだけどあんたさー俺になにした?恩を仇で返したよね~?」


殺気を上乗せして返す。じい様たちはおねんねしてもらった。最初は心臓マヒされるんじゃないかとひやひやしたが加減はしたつもりだぜ?ここからは互いにとって聞かれたくない会話、皆さんには寝てもらった。


「あ~まだ気にしてる?だからこうして今は協力してるのに」


「今は、だろ?いつでも魔王側に寝返る用意はあるってわけだ。危険が多い前線に出向くから俺は疑ってんだ。なんせ国王騙して国一つ乗っ取った女だからな。警戒して当然だろう」


「命の恩は感じてる…だから」


「嘘こけっ!こっちについてるのはお稲荷さんの調理法が俺の頭の中にあるからだろ!」


そう、この女。俺がちょっと昔にしていた遺跡調査中誤って蘇らせた内の一匹(勇者の過失って事件名でそのほとんどが解決済み)。殺生石となって眠りについていたものの知らずに魔力流し込んだら復活でさあ大変!遺跡から逃走して俺が探しだしたら国一つ乗っ取ってんだもん。たまんねーなオイ!元は俺が悪いのだけど。


「危険が多かったからヴァルキリアの捜索は打ち切ったけど…こっちにも欲しいなーヴァルキリア」


ヴァルキリアを利用されたのならこっちもヴァルキリアを探して戦況を逆転させようと思ってた時期もありました。魔物となった人間を救えるのは今のところ勇者の神降ろしだけだから…楽したかったのよ俺は…結果は散々だったけど。


「お稲荷さん100あれば見つけ出してあげなくもない」


お稲荷さんが絡めばこの女、ガキっぽいこと言うの…俺の言うことは聞かない。脅したらやっと聞くくらいだから。お稲荷さん様様だ。なければこいつも裏切ってただろう。


「おいおい、尻尾隠せ尻尾!?狐耳も!!誰もいないのは確認済みだがもしもってことがあるだろ!」


「(じゅるり)だってお稲荷さんだもん。あっ、今夜はお稲荷さんね」


「……今日中には帰るんだよ!一人養うだけでもこっちは苦労してんのに仕事増やしやがって!」


「お稲荷さんないと壊滅させるぞ~」


ほらな、いつもはクール気取ってて人前では俺を子ども扱いするくせに自分はこんなこと言うんだからな?一回皆の前で化けの皮剥がしてやろうか?


「きつねうどんな…」


「揚げ二枚~いや三枚~でお稲荷さん」


「じゃかましい!皆に隠れて作るのがどれほどまでの苦労があるのか知らないだろ!」


「知られたら噂が広まる前に呼び出してそいつを!!」


さすがは化け物、自分のスタイルを守るために殺人も仕出かすとは。あるしゅ想像はしてたけどその通りだとは。


「今日はおいとまさせてもらいます…」


「まてまてまて、よし。こうしようじゃないか、今は手持ちはないが体で払おう。入念にケアしてあるから自信はあるぞ。それに千年培った技も魅せてやろう」


「自分の歳考えろババア」


椅子が飛んでくる…構うもんか。いくら美人でも歳がかけ離れ過ぎるぞ。事情を知ってるやつなら誰もが遠慮するぞ。


「いい歳こいて色仕掛けとは惨めだな」


「いいもん、作るもん」


「今夜はどんな工作するんだ?スライムの山が出来上がんな」


キッ!


涙目で睨むもへらへら笑い通す俺、料理下手すぎて毎回意地はって挑戦するも失敗して俺に泣きつくのが目に見えて萎える。甘やかしはいかんよな、よし帰ろう。


「では戦争も料理も頑張ってー俺は帰る」


「いいのか~お前の教え子…可愛いよな?」


ニヤニヤしているが…脅しか?最近は部下のくせして生意気なあのお嬢ちゃんのことを言ってるのか?


「私のことを尊敬してくれているようで…どうやって裏切ってやろうかなー?」


「おい、耳の毛…剃られたいか?」


「ご冗談です、お帰りはあちらです」


「最初から素直ならお前も可愛いのにな」


扉を蹴り飛ばして執務室から出ていく。あの救い用のない女狐は俺が上に無理言って左遷してもらおうよし、そうしよう。手のかからないところへ…でも手元に置いとかないと不安は不安。困ったな…

廊下の石ころを蹴って進む、手でもって外に運ぶのも面倒なので足使って外にだす。途中すれ違った人たちとは軽く挨拶を交わし外へと出る。すっかりお昼時だ。炊き出しの匂いに一食分俺は損したことになる。話が長くなったのはあいつのせいだ!恨み辛みを漏らしながら部隊を見回る。激戦区だけに激しく人員が入れ替わる。少し見ないだけで知らない顔触れが増えていた。


「あ~見るたびに思うがどんどん歳が若くなってきてないか?あ~やだね~戦争は…」


「勇者様より少し若いだけじゃなくって?」


「ん?」


独り言のつもりだったが…聞かれていたようだ。


「おーす、部隊長殿は今からお昼で?」


「報告の方は?」


「済んじゃってまーす…もう列が出てきてるぞ?並ぼうぜ」


「後で詳しくお話してください。報告書にまとめますので。列は部隊長の分はいつも別にとってくれてありますから問題ないですよ。さーてと?ちょっと散歩に付き合ってくれる?」


「散歩はお一人で…俺はもう腹ペコ…おい!離せって!!聞いてたか!?おい!聞いてたか!?」


どんどん腕を引っ張って連れってちゃうの。俺の話は無視だぜ?もう俺は自己主張の激しいお腹を連れてとある場所へと連れてこられた。戦没者石碑、花が手向けられているが…


「ここは?」


「ここです」


石碑の名前をなぞっていく。一人一人、思い出と一緒に思い出しながらなぞっていく。


「全員一緒に戦った仲間です。部下に同期、部隊長となって身に染みてわかってきたことがあります。

部下に先立たれることが辛くなって…教えてください。元教官の立場から部下に死なれて…そのときは部隊長として私はどえすればいいのか…教えてください教官」


「はっ…お前もそんなこと言う立場になったんだなと言っても俺と変わらん歳なのにな…聞くならもっと年長者聞けよな…ここには一杯いるだろ?」


まぁ、そういうこと。教官なんてやってた時期もあります。遊んでたわけじゃないぞ?頼まれてだな…依頼だ依頼。それで何人か騎士学校から輩出した中に…こいつがいたわけで…


「今の私が聞ける人なんて…」


「俺も悩むときはあるが…そう言うときは墓作って生きてる限り拝みまくることだけだ。昔の仲間に生死感でどやされたことがあってな。十字架背負って苦しんで生きるしかないんだよ…それだけだ」


感傷にふけってみる。色んなことを体験してきた。幸不幸を沢山体験してきた。そのなかで俺が感じたことを教えてあげることは少ない。


「教官って時に良いこと言いますよね?」


「それは俺が良いやつだからだろ?」


一人来た道を戻る。少し歩いたら後ろから走ってくる音がして隣に並ぶ。変に覗き込んでくるからきになるのですが?


「なんだ…」


「別に~今夜はいるのかなって?」


「けっ…あの女の頼みだ…泊まってく。あーあ、明日ネリアに怒られる」


「別に良いじゃないですか、一日くらい」


「ふん、送ってくれたときも渋ってたのに…土産の一つでも持って帰ればいいが、このご時世ですからねー?」


仲良く連れ添ってその場を後にする。若干ネリアの事が気になる…心配だ。家のことが…日常生活がずぼらなネリアが…頼むから大人しくしてくれたらいいんだけど…























昼飯食って?昼休みは報告書の手伝いで?午後から警戒して偵察隊率いて外に出て?夕方は外濠の補強で?夜、今現在ですね、夕食抜きでなにしてるっのかって?お稲荷さん作って?きつねうどんを作ってますけどなにか?律儀に約束守ってます。皆が寝静まった頃にこそこそと取りに来るらしいので作っておいてあげるのです。夜食を作るお母さんの気持ちだね。その時部屋のドアがノックされる。俺は特別ゲストの勇者なので部屋があるが普通ならテントを宛がわれる。特別に俺はベッドで寝れるわけだ。


「ほーい、誰だ…あんたか…どうぞ~」
































「あ~なんなのよ!」


鎧は外し部屋着で彷徨く。兵士はこの時間宴の真っ最中なので領主の館は当直の兵しかいない。別に見られてもいいのだが指揮に影響するのでできれば見せたくない。なんとかユウの部屋の前までやって来る。軽くノックすると立ち上がる音、歩いてくる音が聞こえてくる。


「どちらさ…お前かい、どうした?」


「お酒…上等なの、持ってきた」


「まさか本気で来るとは…けど調度いい。つまみがあるからなーまあ上がれよ」


「お邪魔しまーげげっ…なんであんたが…」


目に映った白髪に一瞬で顔をしかめる。おいおい、もう少し仲良く出来ないのかい?気まずい空気となるなか俺は瓶のコルクを引っ張る。


「それはこちらのセリフですが?なんのようで?晩酌の相手ならこの通り、間に合ってるのですが?」


「だからお引き取り願えっての!?」


「止めろよお二人さん…男の部屋に入るのにどうせなら夜着でくりゃいいものを…」


場を和ませるために言ったのに二人からは不潔とかセクハラーとか、中傷被害に合ったの…悪くないのにね俺…ぐすっ(涙)


「それでたまには旅しながら呑気に暮らしてます」


「腕があるのにどうして?」


「そりゃ兵士になればなにかと優遇はされるわな、危険な代わりに。でもネリアが平穏がいいって言うからな…俺もそれがいいし、土いじりは昔から好きだったからな。植物を育てるのは実におもしろい」


「ネリアってあの性悪女の?どうして言うことなんかいちいち聞いてるんですか?裏切られることの方が多いですよね?」


「命の恩人…だからな…立ち直れたのもあいつのお陰も少しあるからな!!」


夜がふけるにつれて酒も進み話も弾む。現在の俺の暮らしぶりを赤裸々に語る。世間は恐ろしい話ばかりだが少なくとも俺の暮らしてる田舎はそこまで魔王の影響もなくのどかに暮らしている。


「で同棲していると?結婚はしてないですよね?」


「ネリアとの約束で治安が良くなるまで守ってあげてんの!結婚なんてするか!仕事から家事まで何から何まで全部俺がしてるけどな」


「えー羨ましいなー案外教官の料理って不思議と美味しいんですよね」


不思議と美味しいは失礼じゃね?誉めてるにしてはもう少しなんとかならなかった?


「たまには作ってやるよ」


「なら新鮮卵のあれがいい!焼いてあるやつ、クルクルしてるの」


「卵焼きかよ…べただなー」


話が盛り上がるなかで突如部屋がノックさせる。もうそんな時間が…


「入れよ」


扉をあけて出てきたのは…まず獣耳が扉の隙間からビヨーンと飛び出して…それはよく見れば狐耳であることが伺える。ひょっこり現れたのはここの司令官であるはずの…


「うっ!?司令官!!」


思わぬ客人に二人とも氷水を頭からかけられたように慌てながら立ち上がって敬礼した。二人は不味いものを見られたと思っているだろう。なんせ勇者の部屋に入り込み敵の襲来の危険性があるのにも関わらず酒を飲んでいたのだから。問題だろう。しかしそれを気にも止めずすたすたと俺たちの前を通り越し備え付けられたキッチンの机と二つ椅子がある内の一つに座る。この個室が俺に与えられる理由の一つ。キッチン付きなのはこれが理由。机の上には箱が、保存の魔法がかけられている。それをぱこっと持ち上げると湯気が立ち上ぼり今では貴重な素材を使って作られたきつねうどんが…


「むっ…お稲荷さんがないではないか」


「あれは冷やした方が旨い、お前の横の戸棚、そこに置いてある。自分で出して食え…」


「うむ」


「えっえっと…」


事態が掴めない二人、それもそうだろう。ふだんとのギャップがありすぎるからな。戸惑うのも無理はないがこれがやつの本性だ。お稲荷さんのためならふだんとは違う一面が見れる。おもしろいもんだが

俺はもう見飽きた。コップの酒を一口飲む。強い酒なので一瞬ふらっときた。


「違う…!なんか違う!」


「おっ、お前の尊敬してるのってやっぱり、こいつか?どうだ?惚れ直したか?」


首を振る、まあそうなるな。周りの面子を気にせず一心不乱にうどんを啜る…かかったな!!


「しっ七味~!!」


「お前のバカみたいなリクエストに応えたんだ。いつでも嫌がらせできるように常備してんだよこっちはな。辛いの嫌いだもんなー」


「ひっ!ひー!!」


バカデカイ油揚げの下に仕込んだ七味、実におもしろい。これが一番の酒の肴だ。二人はいまだ唖然としているが…しょうがないか。


「水~!!水~!!」


部屋で大騒ぎしやがって…野次馬が来たらどうするんだよ…全く、指揮に一番これが影響出るんじゃねーか?


俺とバカ狐の関係を知るやつがよく間違うのだがこいつが部屋に入るのはお稲荷さんが目的だからな?

決してやつが夜這いに来てる訳じゃない…

毎晩来るが決して乳繰り合ってる訳じゃない、断じてそれはない。案外グルメなお偉いさんを俺が敵に回らないように接待してるんだよ!!水面下でがんばってんだよ俺は!!

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