男たちのルーツ、協力は強力
「おーい、確りしろ大胆エルフちゃん。まだ体が思うように動かないだろうけど寝てもらっちゃ困る」
「う…無理そうです…思うようには…また眠たくてしょうがないのですが…」
魔法か、大胆エルフちゃんはぐったりとして二日酔いに苦しんでるかのごとく地面にだらしなく横たわっている。敵陣なので眠らないように耐えてはいるがいつものようにシャキッとはしていない。それにしても大人数だな…あっちこっちで煙が…それなりの数がいるのだろう。人拐いとか言ったな…
見張りは一人だけだが長槍で武装、魔力も溜まってるしなんてことないのだがここにいるのはぐるぐるまきぺローと大胆エルフちゃん、それに又兵衛とユニファーさんと俺だけだ。リヴァを含めユニや被害者女性たちも側にはいなかった。なのでここはおとなしくしておき場の状況を詳しく分析しておくことにする。捕らえると言うことはすぐには殺されないと言うことだからだ。
「おい、俺たちはどこかに連行されるのか?」
少し離れたところにいた兵士は答えてくれるかわりにご丁寧に鳩尾を殴り付けた。受け身もとれない俺は地面を転がった。それで終わらずに蹴りが襲う。
「黙ってろ猿」
蹴りなんてこいつは本気でも俺にとってはイラつかせる以外に効果はうまない。ただじっと我慢した。
又兵衛が腰を少し浮かせたので俺は冷や汗かいたが大人しくするように又兵衛を睨んだ。悪いが火の粉が又兵衛に降るより断然ましだ。
俺が抵抗せずにじっとしていたおかげか兵士は元の位置へ戻っていった。そしてまたこちらを監視している。俺はいなくなったリヴァとユニが気になりソナーを発動する。敵が魔力なんて感知できないことを祈るか。
魔力は広がり色んな情報が頭を飛び交う。それを一つ一つ整理していく。リヴァは辺りにはいない…ユニはすぐそばまで迫る…哨兵を後ろから串刺し…一人始末して突破口を作ると侵入してくる…さて逃げる支度でもするか…ん?
「おい、交代の時間だ」
もう一人兵士が現れた。もう夜だったし交代するのは不思議じゃない。俺が疑問に思ったのは殺気を少なからず放ってるのと俺の下からみた角度から新たに現れたこの兵士が短剣を握ってることだ。
「もうそんな時間か?気を付けろよ、さっきからあの男が怪しい動き…?ぐぎぎ…」
助けを呼ばれる前に喉を引き裂き兵士は糸の切れた操り人形のようにだらんと力なく崩れ落ちた。その光景に俺たちは生唾を飲み込んだ。敵か見方か、どっちにしても俺以外に戦える者なんていない。後から現れた兵士は深く被っていたヘルムを脱ぎ素顔を現した。無精髭の50代の男、隻眼なのか片目は眼帯黒い瞳に黒い髪。同じ日本人に似通った姿だ。
「誰だ、お前は誰なんだ。敵か?見方?」
俺が落ち着いたように話すとニヤリと笑う…不気味さが漂っている…どちらにしてもただもんじゃない修羅場くぐってきた男だというのはわかる。
「誰だ?そちらこそ誰よ」
手枷足枷を腕力だけで引きちぎると皆の前に躍り出て楯になる。男は俺が急に動いたこともあって喉元に短剣を向けた…両者とも退かない。
「答えろよ、そっちはどこの誰だ」
「俺はあんたが危険かどうかまだ判断に困ってんだよだから聞いてるんだが?」
「言ったところで知り合いでもないのに敵かどうかわかるのか?」
しばらく膠着していた俺たちだが俺の後ろをみて態度を変えてきた。声高らかに大笑いしている。そこまで面白い顔してないのにな皆。てか敵陣でなにこのおっさん大笑いしてくれちゃってんの?敵全員に異常を報せてるもんだろ。
「失敬、失敬!そんな顔で大勢の女を囲ってるもんだからな、冗談だ。このような森の中でなにをしていた?どれほど金をつぎ込んだ?法を抜け出てこんなことするもんは多いな~」
「探るな、もう一人凄腕の弓兵隠しやがって…木上か?他の兵は始末済みか」
ニヤニヤ顔はやめずに関心したように…いや、小バカにしていたが少し評価を上げたようでまだバカにしてる。
「俺の後ろに転がってるのはもう死体だけだ。やけに静かだし血の匂いで感付くとは思うがなぜ弓兵がもう一人いるとわかった?それも凄腕だと」
「あんたみたいに音もたてず殺すには後ろを回り込むのが一番だ…けど一人殺すのと大人数を始末するとじゃ訳が違う」
「なぜそう思う?」
「考えろよ…あんたみたいに紛れて闇討ちしても集団をいっきに始末するほど素早そうには見えん。上から敵の位置を把握して一発も外さずに早撃ちで数十人殺すなんて凄腕じゃないとな」
「一人とは限らんだろ?紛れているもんも、弓兵もだが」
「さっき指で左後方にサインでなにか送ってた。一ヶ所だ。木の上、ここら辺の木は枝が細い、せいぜい小柄な奴が一人乗れる程度。それに指を確認するとなると相当接近してるだろ?見えてるぞ」
「確認できたのが一人か、上出来だ。名は?」
木の上からぞろぞろとエルフが下りてくる。そして一番手前の木から女のように、髪の長い男が…美少年だ。後ろで髪をくくっているから女と間違えそうだ。
「おい~倒せば後ろに下がってくれないと見つかるじゃないの~」
「面白そうでしたから」
にこにこしているが…こいつも気は抜けないな…それにしても美少年だ、皆騙されるぞ。男の娘だ!
「信義だ、藤堂信義。そして息子の信頼」
「どうも」
「そして後は愉快な仲間のエルフたちだ」
みればエルフの男たち…こちらも美形…ユニファーさんが美人だからエルフも美形だと思ったら…そうだったのか。
「奴隷解放を主な任務とし、ゲリラとして王国と戦っている。みればお前らはなんの罪だ?さまざまなヤツがおるが?」
「人拐いだと…違うのにな」
「奴隷解放を人拐いとして王国は俺達を狩ってるからな」
「なんでだよ、全然意味が違うだろ」
「スケールを小さくみせれるだろ?国民に危機感を持たせたくないのさ」
聞いたら今俺たちはオルガ帝国と呼ばれる国に来たがあっちこっちに戦争ふっかけ国内に不満が溜まってるらしい。各地で奴隷たちが反乱してるから軍部はハラハラドキドキしてる真っ最中のようだ。その先駆けとなったのがこのおっさん率いるゲリラで今この近くの王国の駐屯基地を攻略する途中らしい。
「いや、敵らも本格的に攻めて来た」
「おい、巻き込むんじゃねーよ!」
「なんでよ、エルフとかダークエルフとか…おお、ケットシーまでいるな…俺らと同じことやらかしてるもんらがおったとはそれに…同じ大和民族ときたもんだ…みな、掲げる動機は違えど根底は同じもんなのだな…」
このおっさん…ずっとニヤケ顔なの…信用してもいいんだろうーか…すると後ろで静観していた又兵衛が騒ぎ出す。
「奴隷解放!?人拐いは向こうだろう!家畜のように拐ってるのは奴らだろ!?」
「んあ~?どこの国から来たか知らんがこっちじゃ大和もんは危ないからよ…みたら殺す。よかったよ敵さんがお前らを国民の前で殺さなくて、今指揮が上がってもらうのはまずい」
エルフの部下らしき人は皆の手枷足枷、ロープを切っていった。その後残った野営テントをあさり、何かを探してるようだった。
「(ちっ…なによ、やっぱり逃げてるじゃない)」
ユニが遅い登場、信義とか言うのが身構えたが俺が事情を説明して危険が無いことを伝えた。結構疑ってたが。
「魔物を飼い慣らすなんてね~おいおい、近づけるなよなー!」
「たまにしか噛まないから安心してくれ」
「何だろうとやめろ、ここではまだ死ねんからな」
エルフが何やら運び出している、聞けばここら辺の地域の地図らしいが…
「ここら辺の者じゃないのか、いったい何をやらかすつもりだ」
「いっちょ国取りよ…まずは亜人どもを解く。帝国に支配されてる諸族を解放する。帝国と敵対している者と手を結ぶ。他部族連合国家を作り上げ奴隷制をなくし内治は丸投げするが兵権は俺たちが握り国民を守る」
「それで平和になるのか俺には疑問だな」
睨みを効かせて言い放った。どこか危険な男だ、それで止まることのない気がするからなのか…どうしても納得できなかった。
「人間にらみ合いでは意味がない…ここで誰かが動かんと事態はますます悪い方向へ傾くだけだと思わんか?」
「この戦いの後には何にも残らないと思うが、死体の山だけだ」
背中を向けて歩き出す信義、不気味な笑い声だけが俺をさらに不安にさせていた。寒気がするんだこの男と話していると。
「何事もやって泣いてみなけりゃわからんもんだ。
男なら間違っていても前に進むもんだ」
「そういって取り返しの付かないことしたバカは結構見てきたよ」
俺は追い抜かしてポツリと呟いた。人間大それたことして良いことはない。戦争は終わることはないのはどの戦争だって言える。一時停止かどこまでたっても延長戦がだらだらと続くだけ、これを人は平和なんて言ったりする。
「歳の割にはやなガキだねー」
「そうしてしまったのは大人たちでしょ」
「違いない、さっさとずらかるとするかねーちんたらしてても良いことないし」
敵の装備をひっぺがし、穴を掘って埋めるとそこを後にした。エルフたちは口々に言ってたのはなぜ敵を埋葬するのか、ほっとけば虫や獣が食うのにそんなものほっとけばいいって。そんなの化けて出られたら怖いからだろ。罪の意識は以外と重いから。
森を歩き続けて数時間、空が白け出したとき目的地の村についた。でも休憩なんてしてられない、道中兵士を3人切り殺した。装備が整ってる、村を襲うつもりの盗賊でないのはわかった。正規兵、ここら辺の領主の兵だということだ。
「俺達を匿ってると思ったんだろなー♪偵察か、これで今から行く村は疑われるわけだ。否、最初から潰しに来てるかな」
「どういうわけだ信義、俺の仲間が捕まってる可能性がある。あまり敵を刺激してほしくないな!!」
机に地図を広げる信義、だが俺の話など聞く耳を持ってくれてないようだ。関心は全て地図に向かっていて俺の話なんて無視である。
「…………。」
終了でございます。会話が成立せず何事もなかったように終わる。机を叩いて注目を集め抗議することが全て風に消える…取りあえずついてこいと言ったのは邪魔になったら嫌だからか?それとも囮に使おうってのか!?この扱い方はあまりお金を払ってないスポンサーを名前を呼ばず「ご覧のスポンサーの提供でお送りしました」で片付けられてるくらいの適当ぶりだ。かなりぞんざいに扱われ俺に大変失礼だと思う。
「よーよー内の可愛い(立ち位置妹)がよー敵の手の内にいるかも知れんと言うのになんで争う準備進めてやがんだよー!!」
俺は身ぶり手振りを加えながら必死に伝えるもわかっていただけてないようです。なにやらぶつぶつと呪文のように呟いていた…あのね、生き残る道を模索するのは正しいと思う。リヴァが伝説級のドラゴンということも理解してる。でもね、心配なんだよリヴァが!!身の安全とかじゃない、とにかく俺の言うことをやっと聞くレベルのリヴァがましてや他人の命令なんて聞くはずがない!!もし怒らせようものなら町の一つが冗談抜きで消え去る…その気になれば巨体だけで町が押し潰され変身だけで消える…ゴジラでさえ日本を潰すのに数週間はかかるぞ!?
その気苦労で胃がキリキリ痛む。あー辛い(涙)誰か胃薬ないか?後で胃薬を調合しようか(涙)
「今ごろは手厚くもてなされてるだろーなー他国の人間でも自国の住民だと偽れば捕まってもなかくても拐われた被害者側に仕立てあげることも楽勝だ…オークの人拐い事件も俺達のせいにされている。そうやって帝国での評判は下がり敵の指揮は上がる。
敵から見事我が国の兵士が取り返したぞーと有能さをアピールできる。俺たちからは良い出汁がでてるわけだ」
「それじゃーあれか?今は悠々自適な生活を送ってるから心配ないと?」
「大丈夫だ…この奇襲が終わればいっきに攻め込み助け出す…敵に反撃の隙も与えず混乱している隙をつく…なら勝てるそれなら勝てる…逆に言えばそれしか勝つ手段など残されてはいない」
戦いから脱け出す隙を完全に逃した。対岸の火事に片足を突っ込んでいる。リヴァに会うためとはいえこれなら一人で救出したほうが断然ましなようにも思えてくる。俺一人で勝負を決するほうが犠牲も少なく皆も安全に敵を殲滅できるのだが…
「なあ、俺が敵をできるだけ引き付ける。その間に敵の巣窟を潰してくれよ。それなら何とかこの大勝負勝てるんじゃないか?任せてくれよ、それなら犠牲も少なくて…」
「どらほどの実力派かしらないのに任せられるか?
それに一人で、だと?不測の事態があればどうするつもりだった?」
ぐっ…確かにそうだが一国の騎士団と殺り合える実力は持ち合わせているぞ!仮にも勇者だぞ!といっても無駄なんだよな…俺らも共犯者扱いなんだよな何にもしてないのに…なにもせず敵ができちまったんだよな…なにもこれも全部ネリアのおかげだよ!!
「そこは信じてもらうしかないよなー♪はは…」
部屋に寒いすきま風が吹いて地図が少し浮いてまた戻る…なに、この空気?俺が軽い男と思われちゃったか?
「おい、オルガ帝国がどうやってできたか知ってるか?どうしてこの俺がエルフ率いて戦争の真似事してるか知ってるか?」
「お前の戦う理由なんてしらないな、どうでもいいことだ俺にとっては」
信義は歯軋りしながら語り始めた。オルガ帝国が今ある理由とこの世界に日本の製品が存在する理由について…
「元々ここいらはエルフの国だった」
「だから村人も皆エルフなんだな」
「それを隣の王国「オルガ」がそのエルフの国を滅ぼして自国の領土にしたんだ。他にもドワーフや獣人と呼ばれる亜人の国々がなことごとく滅ぼされ農奴や鉱奴に落とされた」
よくある戦争の話だ。で自分達の領土を取り戻せとエルフたちを焚き付けたんだろ…
「オルガはそうやって辺りに戦争ふっかけて今や帝国を名乗り人間至上とした占領制度をしいてる。効率的な官僚帝国を作り上げた。占領した亜人は「一定数の差別階級層」を故意につくりそれをもって民衆をまとめ中央集権を成した。そうやって成長してきやがったんだよこの国はな」
「それに見かねて頑張ったのが俺たちの先祖にあたる大和民族だ。黄色い猿と亜人扱いされはしたものの皆勇者の末裔だったがためにオルガだけでなく周辺諸国からは条約として交戦してはならないと決定されていた」
「それじゃぁなんでこんな事態になってる?英雄の
子孫なんだろ?」
「お人好しすぎた…エルフを含め開戦予告なしに虐殺だ。俺たちは亜人を守るために戦いそして数で圧倒されて負けた」
無敗神話、大和民族は亜人が次々と降参するなか最後の一兵になるまで勇敢に戦った。それまで苦戦したことのなかったこの世界の人間は勇者の末裔に場合によっては追い詰められ苦肉の策として大和民族が住む土地を新緑魔界に変えた。その土地の生物は巨大化、凶暴化し兵士だけでなく女こどもまで魔物に食われて死んだ。こうして大和民族は滅び、少数は各地に逃げ出し生き残った。
「俺の先祖はエルフに匿ってもらって今まで生きてこれた。そして現在、どういうわけか黒王と呼ばれる魔物が現れてオルガ帝国と戦争している。だからエルフ含め亜人は前にも増して働かされて何人もの酷死者がでている。今のやり方では黒王にも勝てんし大量の亜人が死ぬ、別に大和民族がどうとかは関係ない。世話になったエルフに恩返ししたいがために命を擲って戦うのだ。逃げたきゃ逃げろ止めはせんから…」
やけに可哀想だと感じた。俺と同じ守るためだけに生きてるようだ。それが俺を見てるようで悲しい。
「話し合いで解決が好きなんだがな…」
「猿と会話なんて向こうはしない、だがいっちょまえに命乞いだけは確りしよるからな」
普通はそうでしょ…人間どうし仲間割れみたいに争ってる場合じゃないのに、でも亜人の協力なくしてはその黒王とやらに勝てないようだしな~
「ならとりあえずこの村を襲ってくるやつらは倒してやるよ…エルフ守りたいし…これはユニファーさんが知ればなんと言うか…」
「決まりだな、指揮は俺がとる…詰めは任せる…」




