伊丹SOS
「イヤァァァァァ!?足首掴まれてる!!ちょっ!触るなよーーーー!!何する気だ!離せー!」
ドッペルゲンガーの群れは俺に迫り追い詰められた俺はグラムを岩壁目掛けて投げ、それに掴まりなんとか避難してはいるものの、重なりあうドッペルゲンガーたちは俺を引き剥がそうと足首を引っ張りにきた。数匹はリヴァの水鉄砲に狙撃されミカサは一人また一人と崩れ落ち激しく姿が変化する。皆は助け出そうとするもののミカサに化けたドッペルゲンガーは強さはないものの数で勝負しているため苦戦している。それにユニファーさんや大胆エルフちゃんからしてみればお世話になった人でもあるので殺すところにどこか躊躇いがあって数は増える一方だった。
「ミカサ!!俺をどこまで苦しめれば気が済むんだ!」
レザーブーツの底で頭を蹴り飛ばし阻止を図るもなにぶん数が多い、それにミカサの姿と言うことで精神がジリジリと削られてるように感じられる。
「恐怖…恐怖?そうか、俺はミカサが怖いからドッペルゲンガーはミカサに化けてるのか?こいつら自身知能はない!だからシュラとミカサも混同してるんだ!なら恐怖を置き換えて無難なものにすればいいんじゃのいか?」
地を埋め尽くすミカサ、最近こいつの顔が巷では流行りなのか?俺は恐れるものを色々考えた。そして思い込む…どうだ?その時ドッペルゲンガーに変化がおこる…みるみる小さくなり見覚えのある恐怖の生物へと変身した…家内に潜む黒い悪魔…やつだ…
Gだ、目をつぶりふと耳をすますとなにやら足下とからカサカサ、カサカサと音がする。そして女性の悲鳴が洞窟にこだまする。どうも聞き覚えがある。
この世界では忘れかけていたあの恐怖を思い出す。
そう根本的に人を不快にさせるあの音だ。どうしてあんな音が鳴るもんかねーもっと忍ぶことを覚えたらいいと思うよ。
「皆、俺は今怖くて目を開けることができない」
「そんなこと言ってないで助けてくださいー!リヴァとぺローだけじゃ足りませんからー!きゃー!こっちに来ないでくださいー!」
目を開ければ黒いゲテモノが地面を覆っていた。俺は冷静を装い深く息を吸った。
「出やがったなゴキどもめ!これでぶっ殺せるわけだなー!!」
洞窟は戦場と化し、やむことのない暴力の応酬が続いた。逃げ惑うおなごを救うため意を決して地獄の戦場へと降り立った。
ドスン…
砂煙が舞うなかゴキどもは悲鳴を上げる女性より屈強な若者を標的に変更した。一斉に襲いかかる、地を這うもの、あるいは羽を広げ飛んでくるものも…それを一瞬でサラマンダーで焼き払う…一網打尽だこう言うときの俺は容赦がない。火をつけられ狂ったように暴れまわるゴキたち、謎の奇声を発しながらやがて燃え尽きた…ふぅ、ミカサを燃やすより効果的だったな。それでも炎を免れたゴキどもは次の手として女性陣を襲うもパニクったユニファーさんと大胆エルフちゃんの精霊術によりもれなく撃破されていった。
「やっと一息つかせてもらえるな」
「ユウ!後ろだ!まだ一匹残ってる!!」
「なんだ~?まだ生き残ってたのか?」
岩影からゴキが飛び出してくる…そのまま隠れとけばよかったものを!!ゴキは空中で姿を変えた…
漆黒の羽はなんの汚れもない純白の羽へと姿を変えた。鳥の…そう白鳥よのうでいてもっと神々しいなにか…黒いゲテモノの体は天使の姿へと変貌する。凄い進化だな。黒い悪魔から白い天使になるとは…
「うっ…ユリネル?」
「ふふふ…やっと見つけた。愛しの女…殺せぬ相手をな…どうだ?寸分違わぬだろう?もっとじっくり触って確かめてはどうだ?ああ、口調が違うかな。
これでどうです?ユウさん♪」
「ユウ!早く殺せ!何を躊躇している!!」
ぺローの怒声も混乱する俺の頭には届いても意味を理解することなんてできなかった。目の前にユリネルの姿がある。何度も何度も真似をされてユリネルを侮辱されて…普通なら怒るはずだろ、怒ってるはずなんだ。いうもの俺なら…
「ほら、あんなことやこんなことしてみたかったんですよね?いいですよ、我慢しなくて。ほらじっくりと堪能…確かめてはどうでしょうか?」
俺の手を掴みユリネルの腰へ回させる。羽は消えていていつもの思い描くような恋人を抱くシーンを再現することができた。腰をなで回す…これが先程のゴキとは誰も思うまい…俺もわかんないぞ。
腰から自然と手がユリネルのお尻を撫でる。
「んっ…いいんですよ…お好きにされても」
「やめろ、誘惑するな!!」
「クソッたれ!!今すぐ離れないと…」
攻撃するぞ、ぺローもそう言いたかった。ほかの皆も指をくわえて見ることしかできなかった。接近されすぎてユウが離れないと攻撃できないのだ。
「そうですか?記憶をたどればそう思ってたはずですが?」
いきなりの口づけ…俺がユリネルに殺気を放つのを遮るように舌を絡ませた熱いものだった。目線はミルティーたちに向けられ挑戦的な眼差しだった。それと奪ってやったという自慢の意味もそこには込められている。
「はぷ…ん、まだですよ~?」
「おい、おいたはそこまでにしとけよ。さんざん人をけなしといて楽には殺させないぞ?ほら、見えるかあそこのユニコーン?お前の命、もうないぜ?」
後ろ足を激しく前後に動かし突進の構えを出すユニ…俺が離れればいつでも突っ込む用意はできているようだ。それに気づいてもなお止める気配はない。
「そうか?さんざん仲間を殺しておいて何を言う。
姿を写し取れないなら心を潰すのみ!!」
「それが狙いか」
「ドッペルゲンガーの威厳に関わるのでね、子どもたちは逃がした…私だけだ。さぁ踊ろうか」
「悪いねー相手はしてあげられないな、どうも皆がそっとしておいてくれないから」
「外野なんていない…私たちだけだ。そうだろう?勇者?」
「今度は…うう…」
髪が赤く…ま、魔王…
痛いところを突いてくる。姿が魔王になると後ろもまたどよめき出す。自分達が知らないが俺が知ってる女が次から次へと出てくるから心配にもなるだろう…後でなんて説明しましょう!?
「今のお前は信じるに値するのかな勇者?」
俺から離れた隙をリヴァは見逃さなかった。脳天を撃ち抜かれ鮮血を吹きながら地面に崩れ落ち姿が変化し続ける…
「あー致命傷だよ…よかったな!」
八つ当たりしたい気分だよ全く!イライラする!そんな俺の態度を見てかユニファーさんが拠点を変えることを提案する。なかなか動こうとしない俺にユニが角で外へ出るのを促されてようやく外へ飛び出した。
「火の番か…火でもみて落ち着きますよ…ふんっ」
オークの餌食となった女性たちと肩を並べて座る。
枝を火かき棒にして特に意味もないのにいじる。
ほかの皆はドッペルゲンガーが変身していった女性はいったい誰なんだと議論しながら食料調達に行ったり水場を確保しに行ったり警備したり夜営の準備やらで忙しそうに動き回るなか俺だけがこうやって被害者女性保護の名目でこうやっていい子にしておくように言われる…
「あーあ、そこまで俺は信用が足りないのかね~?黙ってたり騙してたりしたことは確かにあるけどさ酷いよな~?」
独り言を呟く…隣のほうも何を言っていいか戸惑ってる様子だ。林の暗がりからぺローがいきなり飛び出した。手にはレイピア、ただ事じゃない様子にまた被害者女性たちが怯え始める。
「ぺローさんよーあまり緊張させることすんなよなどうしたよ?また豚でも逃したか?」
「お客さんだ…」
俺は立ち上がりグラムを抜く、他に大胆エルフちゃんとネリアが続く…
「ネリア情報だが未確認勢力を確認、偵察に向かうユウは…待てと言っても待たんからこい。大胆エルフちゃんとペアを組め、俺はネリアとできるだけ接近して観察してくる…援護は頼むぞ~他は警護しながらここから離れたところに潜んでいてくれ今更火を消しても無意味だからななにか意見は?」
はいはーい、ぺローが仕切るのは気に食わん!
「ないなら出迎えに行こうか…」
リヴァとユニは文句たらたらだったがおとなしく従った。珍しいこともあるもんだ。
「ユウくん?絶対無茶はしないこと…約束」
「俺は仲間のためなら無茶しますよ…すいません約束できそうにないです」
「ユウくんらしい返事…でも絶対無茶はダメ!」
念を押されてここまで言われると従うしかなくなるじゃないか!俺はかっこよく決め顔で行ってくると告げると恥ずかしくなってそそくさと大胆エルフちゃんの後を追う…
真っ暗闇の中、大胆エルフちゃんだけはハッキリと見えるようでどんどん遠ざかるなか、置いてかれないように必死に後を追った。そして物陰となりそうな木の裏に隠れると辺りを見渡す…誰もいないようだ。
「大人数らしいのでこの道を通るはずです、ここで待ちましょう」
「接近はしないはずだろ?」
大胆エルフちゃんは全てを悟ったように首を横に振った。どこか呆れ顔なのはどうしてだよ、おい!
「そこら辺は他人に任せないでしょうから」
「ついてきてくれたわけだ、そりゃどーも…」
俺はあえて顔を合わさずに前方を見ることにした。
あーそんな風な扱いにこれからなってしまうのね…
「ところであの洞窟の…」
「化けてた女はだれだっ!て話だろ?」
「はい…どうしても皆気になっても言い出せなくてできれば聞かせてもらうのは…可能ですか?」
俺は少し悩んで補正を加えて話すことにした。
「最初の娘は初恋の相手、次は重要な仕事相手だ」
間違ってない、我ながら花丸をあげたい。魔王の存在を置き換えるのには手間取ったぞ…しばしの沈黙の後大胆エルフちゃんが口を開いた。
「初恋の相手…ですか」
「おう、今は…遠くの世界にいるよ…」
「遠く?遠くの世界ですか?」
「会えないわけじゃない…いつかは会えると信じてるんだ。手の届かない遠くからずっと見守ってくれてると思うんだ」
「すいません…」
「いや、気にしてない」
死んでないからね、ユリネルは天使だから俺のこの表現の仕方は誤解を招くが間違ってはいないから。
「さて、大胆エルフちゃん…そろそろ騒音と松明の明かりが見えてきたと思うのだが?」
「はい、もうそこまで…?」
大胆エルフちゃんが急に倒れた、急いで揺さぶると気絶しているだけのようだ。急にどうして?
「猿と化け物がこそこそと…」
「誰だ!」
暗闇から一人、また一人と姿を見せる。整った装備これは…どこかの騎士か?
「こいつらで全部か?」
「はい、その通りでございます♪」
ニタニタと笑うネリアがひょっこりと先頭の男から顔を覗かせる。ぺローはロープで巻かれミイラのようにぐるぐるまきにされ引きずられている。
「おーまんまと罠にかかったな俺たち。大胆エルフちゃん?手をだすなよ…堪えろ」
「そう言われましても…はい、わかりました…」
おとなしくレイピアを地面に投げた。俺もグラムとポーチを地面に置いて後ろに下がる。
「ほーう、異常事態馴れしているな。捕らえろ」
その時林をかき分け男がやってきた。そして先頭の指揮官と思われる男に報告を始める。
「人拐いの共犯者も捉えました」
「よし、帰投するぞ。全員連れてこい」
言われるがまま俺たちも後に続いた。




