不死身の第4小隊
「その人形がもしかして?」
ぺローは生唾を飲み込んだ、シュラの問いかけに対する答えは喉まででかかっていたが言葉に出来ず唾と一緒にまた飲み込んだ。
「うん… これが」
「俺ではないぞ!」
「シャー!!」
ぺローが毛を逆立て跳び跳ねた。シュラは直ぐ様刀を抜き声のする方へ切っ先を向け軸足に力を込め飛び込む臨戦体勢に入るまでおよそ瞬き一回分、視野を敵に向けるより早く手足を動かし防御、そこから攻撃に移るのは敵を確認してから、だから切っ先を向けた時点でシュラの行動は完結した。敵意が不信感へと交替していく。
「伊丹ユウ、本物と認識して良いのかな?」
俺はぺローの後ろに人知れず立っていた。俺が声をかけるまで気づいてはくれなかったはずだ。シュラが未だに刀を下ろさずにいるのは気配を消していたことと俺が本物であると言う確信が得られないからだろう。まず、この二人に信じてもらうことが先決だ。ぺローに至っては疑うことすら忘れ毛が逆立ったままこちらを見ている。目を見開き魚のように口をパクパクと上下させているだけだ。何か言えやオイ、感動の再会だろうがよ。猫二人に感動を求めることは間違いだろうか?
「物本ですよーえーはい、敵の魂引っこ抜いて人形に縛り付ける魔法をな、何とか妨害したんだが何者かの足音が…いや、風を切る音がしたからこいつは危ないかなと思って…」
「部屋にヴァンパイアがいたがそいつをどうやって騙したんだ?それにこの部屋に隠れる障害物なんてどこにもないぞ」
「真っ当な意見だな。この部屋に最初は3人いた、俺を含めな。敵の姿は一瞬しか見ていないがダークエルフの女、魔法使いらしいが黒髪が足までつくほど長かった…今は関係ないか、本題に戻すな。その女の術を跳ね返そうとしたら敵さん時空間魔法使って次元の歪みに姿くらましやがってもう一人のヴァンパイアと対決する瞬間虚を突かれて異空間に引きずり込ましたいやーまいった」
「時空間魔法なんて高等魔法…それよりそれで異空間に引きずり込まれたのに戻ってこれたカラクリはどうなっている!?」
「魔法で俺と正面から張り合おうなんて片腹痛いわまったく♪どこ飛ばされんのかとぞっとしたけどあんなもんソナーとダイブ使えば戻ってこれる。それよりあれだ。早く逃げようかここでゆっくりしてたらオーガとさっきのヴァンパイアが戻ってくるぞ。
狭い部屋で混戦なんて避けような」
「では索敵なら任せてもらおう。そうだな、敵は左右の通路から来るが右のほうが若干到着が遅れる…敵の進行が遅いし何より途中でいくつか通路や部屋がある。こっちだ」
右と左を部屋から首だけだして何を見ているのかと思ったらそんなことがわかるのか!?ここはシュラのことを信じるとして呆けたぺローをシュラに引っ付ける。怪訝そうな顔で見ないでくれ、お前に任せるのも危険な気はするが一応俺が連れるより安全だ。
「これくらいの荷物は何ともないがこれでは戦いに集中できないのだが?伊丹ユウ、お前が持っていろ戦闘は私が担当する、案内も私が…」
「なら少しは怪我人を労るつもりでぺローを持ってちゃくれないか?今の俺なら守りきれる自信がないんだ」
「自信がない、それは怪我のせいではないだろう」
そう言うとシュラは先陣切って走っていく。俺もそのあとに続く…どうもシュラには見透かされていたように思える。そうだ、誰かを守るなんて今の俺には自信がない。道を躓いたらそのまま立ち上がって歩き出せばいい、でも今の俺は思い詰めていた。今のまま何の変化もないままではまた誰かが危険な目に…もしかすると死ぬなんてこともあるかもしれない。全員守りきる、その自信がないんだ。だから昔のようにぺローを背負えない。足が重い…前に進むのが辛い、できれば座り込んで…なんて言ってもいられない。それが出来たのは元いた世界だけだ。この世界に逃避して生き残れる道はない。前から雄叫び、オーガだ。道を塞ぐほどの群れとなってくるオーガ達。左手の手甲で左のオーガを、右をシュラが切り捨てる。
「そこを退け!切っても切っても死体が道を塞いでいく!良くできた防衛装置だな!」
多少の傷でオーガは止まらない。息の根を止めるにはそれこそ何度も剣を心臓に突き立て殺す。でもグラムを取り上げられた俺にまともな攻撃方法なんて残っていなかった。魔力がないなら精霊を、と思うかもしれないが今の俺の心境に精霊達が素直に言うことなんて聞くだろうか…うじうじとだらしのない召喚者、操れなんてできもしないだろう。
「この痛みが俺には足りない!苦しむだけ苦しまないと気が済まない!ほらっ!どうした?こちとらお前らがこれまで惨殺してきた人間と変わらないただの男だぞ!?さぁ!来い!」
日本刀を華麗に振りかざし雷のように動き回るシュラより俺のほうが圧倒的に弱者だ。剣も魔法も使わないただの吠えるだけの勇者だ。勝てる見込みはオーガならわかるはずだ。それでもなぜか襲いやすい人間がいるのに攻撃どころか仲間を見棄て我先に逃走する始末。どうしたってんだ。
「もう離してやれ、どう殴ればそうなんのかね~今更お前には驚きもしないけど」
嘘だな、ぺローは平然としているように見えてどこか俺を恐れている。俺の手には潰れたオーガの首が一つ、俺がオーガ一匹始末するのにシュラは八匹片付けた。それなのにオーガは俺一人を恐れた。それにシュラは怒りもしなかった、嫉妬もしなかった。認めていた、流石だと納得したこれが勇者かと。
始末したのは一匹、自分は八匹。どちらが優れているか数にすればシュラだ。でもオーガに(素手)で挑み敵うのはおそらく数人、それを無傷でこなすのはこの世界でこの男だけだろう。
素手で殺すのはシュラだってできる。勇者だと再認識したのは勇者とは種が違うと言うこと。人間と言う貧弱な数と知能に頼る生物がオーガと渡り合ったと言うのはシュラにとって尊敬できる人間だ。強さこそ全てのシュラに武器に頼らずオーガを素手で殺してみせたユウが魅力的に映った。
「あの部屋に入ろう、皆は俺の後に続け」
ぺローももう一人で歩き目的の部屋の前、扉の前に横一列となって俺が突入し横二人も雪崩のように部屋へ突撃した。敵は三匹オークがたむろしている。警備ついでに珍しげに俺達の道具を弄っていた。シュラが頭を弾き飛ばす。それに続きオークを殺していく。ぺローが殴り付けると肉が弾けとびオークは倒れた。俺は後ろに回り込み首に手をまわして締め上げる。もがくオークの腕力も俺には敵わずやがて骨が折れる嫌な音が聞こえると動かなくなった。
「おっし、俺の財産も返ってきたしお仲間の救出でも行くか白馬の王子様?」
ぺローがベルトの調節をしながらマタタビを口にくわえる。オークに折られたのか短くなっている。旅の途中でマタタビを育てられないので残り少ない大事なマタタビだ。小さなベルトに取り付けられたポーチを確認して残りを確認する。俺も取り返した道具を装備していく。鎧を着て最後にポーチに手を突っ込み目当てのポーションを取り出すと一口であおった。薬草の苦味で顔にシワが寄る。
「うげ~苦~!!もう少し甘くする努力をしろよな!体に良さげな感じはするけどもさ!」
文句は言ってもしょうがない、ぺローの軽口は俺の気分を楽にさせる。嫌々飲んで機嫌悪そうに見えるが内心余裕が戻ってきた。魔力を回復しそれから傷の回復…お腹がちゃぽんちゃぽん鳴ってないか?
「薬とは苦いものだ。ほら、少しだけ舐めろあまり舐めすぎると腹を壊すぞ」
シュラが胸の谷間から何かが入った巾着袋を投げ寄越す。持った感触砂のようで中は白い粉が…俺は改めてシュラの方を見る…あの、大丈夫なんですかこれ、食べて大丈夫?この世界の危ない薬じゃないよね?ね?
「これは?」
「おー!砂糖だ!俺にも少し頂戴!」
ぺローが俺の肩によじ登ってはしゃぐ。ぺローの大きな帽子のつばが当たって邪魔なのだが…ここはうんと我慢して二人で机の陰で砂糖を舐めまくるうん甘い、うめー!最近は料理と言えば野生の豚(猪)を捕まえて焼豚にして食ってたからな、塩気ばっかの飯でうんざりしていたからなユニファーさんカムバック!!待っててくれ、もうすぐ助けるから…ペロペロペロペロ…
「もうないのかな~♪」
ぺローと二人なのですぐ底を尽き催促に出た。俺はシュラに近づきその大きな胸へ顔を沈めた。文字通り沈んで行ったが。
「クンクンクンクン…甘い香りがするぞ、どこかなどこかな?」
シュラの胸をまさぐる変態、しかし胸が突如として胸としての法則を失い沼のように俺の顔がシュラの胸へと沈んでいく。おっぱいに埋もれて死ぬのが必ずしも幸せな死に様とは限らない。ああ…胸に溺れて死ぬとこだった…
先鋒はシュラ、中心をぺロー、そして俺は背後を警戒する。索敵及び強襲はシュラにぴったりだからな真ん中をぺローにすることによって前後ろと敵がどちらかに現れたとき対応できる。俺は一番重要な後ろからの不意打ち防止するためソナーを発する俺が隙のないようにカバーするこの陣形で挑んだ。
ところどころ検問のように重要な部屋の前にはオーガが警備をしているもシュラの前ではただの動く肉であって次々消化されシュラの餌食となる。仲良く今ごろシュラの腹の中で再会してるだろうよ。
「おい!おっぱいモンスター、この道で合ってるんだな?この先に強敵の気配がするんだな?」
シュラはただ答えもしなかったが背中から殺気を匂わせていた。おい、あんま怒らせんなよ?頼むからポテンシャルはミカサと同じくらいあるんだぞ?
「この先にさっきのヴァンパイアが、本気で行くのか?勝てる見込みはあるのか知らないが」
「ん~ここはぺローと意見が合ったしそれに賭けてみる。ぺローに言われて自信もらったからね」
「ふふ~ん♪」
「そうか、なら適当に暴れてくるぞ?あの敵はお前らに任せる」
「アイアイサー」
二人でかっこよくみせるために足幅を合わせて歩くも逆に足の長さも違う俺たちではぎこちなくそれが写りかえってカッコ悪く見えてしまう…ここは俺がはめられた罠のあった広間、魔方陣は解かれそこにヴァンパイアとダークエルフ、タイバーンとネクソンにユニファーさんと大胆エルフちゃんを人質にとり首もとに剣を当てている。はっ!ヤル気か?
「この人質がどうなってもいいのか?言うことを聞けば…」
「ウオオオオオオオ!!」
「おい!?話を聞いてるのか!?」
狼狽える二人、そんなの無視し突撃していく俺とぺローに理解不能だとわめく。野人のように剣を振りかざし雄叫び上げて突撃する。だんだんとユニファーさんの顔が近づいてくる。あー懐かしい…
「どうなってもいいの!!」
「黙れプレイボーイ~!」
人質を置いて後ろに跳び退く。俺達の突進は止まらない。ユニファーさんの顔が近づく…そして…
「ユウくん!!」
涙目のユニファーさんの顔が目の前にある。髪は薄汚れ体には暴行の後、あんのクソダークエルフ!!まだみたことなかったユニファーさんを剥いてそして…殺すぞ!と思ったのはつい最近今は…
「期待外れで悪かったな、俺はぺローと自分の直感を信じるぜ」
抜いたグラムをユニファーさんの腹に深々と突き刺した。ユニファーさんの顔が希望の顔から一気に絶望の淵に立たされる。ぺローも大胆エルフちゃんをレイピアで串刺しにする。なんの戸惑いもない。抵抗はあった、でもそれより怒りが先だった。
「嘘?」
「はあ?」
「どうして?なんで…」
「………」
「偽者だとわかった!?」
グラムを引き抜く、地面に倒れるユニファーさん。
魔法が解けたのかじょじょに形が変わりそこにはユニファーさんと大胆エルフちゃんの姿はなく裸のサキュバスが二人、血を流して倒れていた。
「あークソッ!どこでわかった?完璧なはずだぜ?あのときもプッツンしてたから騙せたと思ってたが演技だったのか?騙されたぜ~」
俺は白けた目で二人を見るも特に悔しそうな顔をするだけで何の変化もないようにみえる。策が尽きたか?他にまだ何かあるか…身構えた。
「どうしてわかった」
「あんたらやけに焦りすぎだし、演技力不足だな。それに檻から出たとき真っ先に一人殺すだろ普通なら、それでもう一人も殺すって言うのが正しい。強いよあんたら、それはわかる。だからその役どころは似合わなかった。ボロがでてたな、ぺローも偽者じゃないかと薄々気づいてたみたいでそこで確信というか自信を持てた」
「そんなことでか?」
「誰だ」
何もない空間から女が現れた。ダークエルフ、女だがやけに強そうだ。人形にするのが失敗してたなお前~(笑)さてお前が首謀者か!
「他の皆はどこだ!!言わないと…わかるな?」
「ぺロー、それは俺の台詞だ」
「随分強気できたじゃないか?人質の数は多いぞ?そんな口きいて大丈夫か?」
「るせーバカ」
ダークエルフの女は嘲笑しているが男二人の顔は笑っていない。おっと、ヤバイ相手を敵にまわしてるのかな…
「まぁいい、手下のオーガでは満足いただけなかったか。この大根役者二人に勝負させてもいいのだがここはもう一人に登場してもらおう」
「なんだ?まだなんか来るのか?もうお腹いっぱいなんだけど~」
「心配するな、これで最後だ。小細工はなし、勝てば人質は全員解放する」
「おー強気できたね、そこまでそっちの手駒は強いってのか?」
「お楽しみだ♪」
イタズラを仕掛けた子供のように無邪気な笑みをうかべる。頭上に突如魔方陣が出現、何かが出てくるんだが…
「避けろ!!」
とっさに回避する。俺とぺローの間に黄緑色の何かが落下してきた。なんだ?床を破壊して土煙が発生し視界がまったくない。そんな中で何かが起き上がる影だけが見えたそれは…
「緑髪の…エルフ?」
ぴんと長い耳、スラッとした体つき…エルフだ。間違いないでもなんだこの妙な胸騒ぎは…いきなり飛び付かれ右腕を押さえ込まれる!!
「なっ!なんだこいつは!!」
ぺローが叫ぶ、右腕から血が抜き取られる…これはまるで…ヴァンパイアか!?エルフがヴァンパイアになるはずが…
「お手製の改造エルフだ。ぜひ堪能してくれ…♪」
エルフの紅い眼がギラリと光った。
「パチもんの次は魔改造か、転職してサーカスでも開くんだな」
渾身の左ストレートがこめかみに命中、体がくの字に曲がりエルフの体は吹っ飛ぶ。ヴァンパイアならこれくらいなんともないだろう。多少体が潰れてもさ…
「終わり、はい次!」
左腕の手甲をダークエルフの女に向けた。
「そうこなくては…でもまだ終わりじゃないぞ?」
肩を待たれた。ぺローじゃないのは明らかだ。なぜなら俺の前を浮いているから、なんで浮いているんだ?
考える間もなく体が反転、爪先を見ると浮いてる…天井が見える…
受け身を取るも壁に激突する。腰を強く打ち付けた凄まじいパワーだぞこいつ!?
「不死身の第4小隊だ、出し惜しみも小細工もしない。全力投球で行かせてもらう♪悪いね♪」




