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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
いざ!勇者を訪ねて~
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許しと否定

「右見てーオーガ、左見てーオーガ。オーガその他数匹か、どこかー知らんが魔界かここは?」


檻の外、オーガが囲んでるので外が見えない…どいつもこいつも腰布に石斧を片手に持つ野生のオーガだがなぜ檻を破壊して襲ってこない?大人しくこうやって待ち構えているんだ?オーガは集団生活している魔物だ、群れのリーダー格が命令すればこうやって大人しくお座りしているだろう。でもリーダーのオーガもしょせんオーガ、獲物を前にして待つなんてことはしない…恐れている、野生の勘なんてあるのかな…落ち着いて見えるけど。


オーガを観察しているとふいに取り囲んでいたオーガたちが俺の正面から左右に分かれる。見えた奥の様子、神殿を思わせる冷たい石の感じ、白い石柱からここは室内で、大きな檻が入るほどの広間であることがわかる。外からの月明かりから今は夜のようだ。が俺の視線が向かったのはそこじゃない。俺の前方を大物ぶって歩いてくるのが今回の首謀者を匂わせた。人影が二人、オーガを従わせてるところから実力者と見とこうか。


二人とも男…一人はダークエルフ、色黒白髪にスカした顔がイラ立を覚える。ハーフプレートを装備、武器は細身の…レイピアだ。もう一人は真紅の瞳、あのぞっとする目付きは恐らくヴァンパイアだ。こちらも白髪、長い間日の光を避けるから髪が白くなったんだ。肌の色は白、真っ白で血の気を帯びていない。服装は礼服なのか貴族が着飾る豪華さはないが雰囲気が貴族らしく落ち着いているがどことなく

隣の男より恐ろしく感じた。


「少しは期待してたんだ。ガッカリだな」


先に口を開いたのはダークエルフの男、何がガッカリなのかは知らないがここは相手の出方を見るため口は挟まず無視しておくか。


「侮るなネクソン…とぼけた風を装っているが魔王様より抜け目のない男と言っておられた。油断を誘っておるのやもしれん…」


思慮深い、そう平然としている。魔王から聞いていると言うなら…もしや魔王の命令で俺を捕まえたっていうのか?事態が急変して魔王に余裕がなくなったことはどことなく感じられたが魔王が直接的に俺に関わってくるとは。


「だが疑いもせず罠に飛び込むなど…人間の心理はわからん!罠だと知ってるなら仲間など捨て置き逃げればいいではないか、俺の知る人間はこうだぞ?

お前の言うとおり向こうの策略か!?」


頭を抱えて悩んでも答えなんて出ねーよ。罠だと知っててわざとひっかかったんですもの。理由は…魔方陣の術者の正体を探るため、今知ったがあのヴァンパイアが仕掛けたもんだな、でもそれがなぜユニファーさんの座標を持ってたかだ。


「色々聞きたそうだな、夜はまだ長い。ゆっくり話でもしようか。ネクソン、オーガを下がらせろ」


「はいはい…お呼びになったら女のとこに来てくれそこにいる」


オーガを引き連れ俺の後方にある巨大な石の門をオーガに開かせて出ていった。オーガが歩くたびに地響きが…どうやらあのダークエルフ、名はネクソンとか言ってたな…オーガは奴の手下ようだ。

残された俺とヴァンパイアの二人、ヴァンパイアの男は檻の前まで来るとすっとその場に腰をゆっくり下ろした。本当に話し合いだけするようだ。


「ひとまず落ち着いてくれ、君に対しては敵意はない。身の安全は保証する、だから君には大戦が終わるまでこうやって囚われの身になっていてもらいたい。欲しいものがあれば持ってこさせようそれに…」


「おーい、勝手に話を進めるな!捕まっていろだと?なんで俺が大人しく檻でいなけりゃいけない」


「勇者と真正面から挑んでも勝機はない、魔王様は

知恵に長けたお方だ。こうすることで魔王軍はようやく人間に勝てる」


勝てる?魔王がそう言ったのか?和平…平和とは随分話が違うじゃないか。俺が騙された訳じゃない。あのときの魔王は本気だった。部下を騙して俺を手中にそこから人間と和平を?そうじゃないだろ。


「嘘だろ?」


「何がだい?」


「たぶん全部」


ヴァンパイアの顔に焦りはないが、魔力を見ると僅かにぶれた…俺の言葉が奴の核心を突いたのだがどこに奴は動揺したのか…


「身の安全は保証する?嘘だね、お前は俺からなんらかの情報を聞き出したいだけだ。魔王が俺を助けると思うか?こう言えば勇者はコロッと信じ込むって言われたか?魔王に」


「なんのことかな?」


もう違うんだな。俺の知っている魔王じゃなくなったんだな。いつからか、魔王が変わったような…俺の知っている魔王は戦争したくないだらだらニート野郎だったのに…どうしてだ。


「大人しく捕まってろだー?こう言われなかったか「勇者はお人好しで自分で優者なんて言ってしまう甘ちゃんで~す♪だからうまく騙して利用したらさっさと殺しなさーい」って。助ける?はっ、お前から微塵もそんな気は感じねーんだよ!!お前が魔王から任された命令は監視じゃなくて俺の(拷問)と(始末)だろーが!!」


顔色が変わるわけでもない、でも空気が変わった。場が凍りつくように冷たくなる。冷気が充満しているような…血も凍りつく殺気、魔力が高ぶっているのか瞳の輝きが増した、ように見えた。

声を荒げて激昂しているようにみせかける。そんな必要もないのだけれど相手に俺は皆がよく持つ熱血勇者であるように見せたかった。ただそれだけ。心は至って冷静だ。頭も冴えてる、魔王の新境を考えてみたりとか。考えたところで無駄なんだけど。俺が考えたこと、たぶん間違ってるだろうし。


「まだ騙せていると魔王様は言っておられたが…勇者もそこまでお人好しのマヌケではなかったようだな。だが訂正すれば殺すつもりはない」


「ほーう…ならどうするともりだった?」


「まず記憶はお前のよく知るリッチの元へ、勇者の未知の魔法は我々魔族にとって有益な武器となるからな。そして抜け殻となった体はそうだな…そのままグールとして眷属とするかそうだな…新しく研究しているキメラの材料か種馬として使われることになるだろう」


でたよこの世界のこのノリ!!嫌いなんだよねそう言う人権無視したその発想!だから人間と仲悪いんだろうがよ。いい加減気づけよ!!偉そぶるならそれくらいのことぐらい頭が回るだろ!


ここで毒づいてもしょうがない…この檻を破壊するのが先決だが魔法は弾かれるようだ。精霊とも通信できなくしてある。弾かれるより強力なのになるとここら辺が丸ごと蒸発する威力が必要となるのでユニファーさんやリヴァたちもいると思うしそれはできない。


「黙ってないで抵抗する素振りくらい見せたらどうだろうか?諦めてるようではないが…」


その時だった。ダークエルフが帰ってきた。さっきとは違い上を脱いでいるので鎧の下の鍛えられた体が目に入る…へっ!ベルセルク化した俺のほうがもっといい体してるもんねーだ!そのあとから女たちがわらわらと…裸だ、裸の女を大量にはべらしている。ハーレムか、羨ましいご身分で。大量の若いエルフの女、中には知った顔が…一人だけ肌が黒いから目立ったってこともあるけど裸の大胆エルフちゃんとユニファーさん、裸にされ、いたるとこに痣が出来ていた。乱暴にされたのは間違いない目は生気を失い(全員そんな顔になってしまってるが)首輪で繋がれ、そこから延びた鎖の端はダークエルフの男が持っている。にゃるほど愛玩奴隷ですか。俺を追ってきた敵はまずユニファーさんを捕らえそこから俺達の居場所をどうやって特定したかだな。それも敵がユニファーさんを捕らえたならどっちの方向に進んだか聞き出して俺がぶらぶら道草してる間に追い付かれただけの話か、追っ手がシュラ以外に迫ってたとは。


「どうだータイバーン?協力してくれるってかー?

てかまだ話の最中だったか?」


「だらしない格好だなネクソン、話はもう十分だ。思った通り中々の切れ者だったよ。失敗だ、地下の牢屋に移し替えといてくれ…昼の間はお前に任せるだがくれぐれも殺すなよ」


「まだなんか聞くことあんのかよ…」


「休憩なしだ、お前が大人しくなるか壊れるのが先か賭けてみないか?」


殺気、檻が揺れている。地震が起こり月明かりが見えた窓から悲鳴があがりこの場にいる俺とヴァンパイア以外揺れで立ってられずその場にうずくまる。


「畜生!なんだって地面が揺れてんだよおい!」


狼狽えるダークエルフ、わめき散らしているがヴァンパイアの方は立ち上がりユウを見下ろしていた。

タイバーンの中で思ったことは勇者の奥底から沸き上がる怒り、魔力ではなく怒りがこうやって具現化するなんてと驚いていた。自然すらこの男の支配下に置いているのか!?本当は俺の怒りにあてられたノームとシルフが大気と地面を揺らしているだけなんだがな、共鳴している、俺の怒りに同調して揺れている。


「仲間を辱しめられて黙ってる訳にはいかない、何がなんでもお前らに八つ当たりしたい気分だ!」


ゆっくりと顔を上げる、目を合わせた瞬間殺気を放った。ヴァンパイアは驚いてその場から飛び退きそのままダークエルフの横まで下がった。俺の目はヴァンパイアより恐ろしく見えただろう。ヴァンパイアが冷や汗出して肩で息をしているのが遠目で見えた。ベルセルク化を発動、魔力は反射するから檻に触れた時点で電撃のようなものが走った。指が飛んでいく、血飛沫が辺りを染め、肉片が散った。それでも構わない、自分の骨格を砕き檻の隙間にねじ込む、体が少しずつ細切れになって背後に飛び散る。

俺の表情はどうなってただろうか、わかるわけないか、顔の肉が削げ落ち骨格が露出する。目蓋が弾かれて目が乾く、ゾンビなんて見慣れたヴァンパイアのタイバーンですら恐怖した、細切れがやがて集まってくる。勇者を間近にみたことはなかったが見たことに後悔した。


「あれってなんだ、お前と同じ吸血鬼だよな!?そうだろ!?でなけりゃ人間がどうやったらああなるんだよ!?」


「ベルセルク化、話には聞いてたが…凄まじいな…戦闘に陶酔した化け物、なんだ人の生き血を啜るより奴の方がよっぽど化け物じゃないか!!」


半壊した体を引きずり距離を詰める。ダークエルフの方は人質を殺すぞと叫びユニファーさんの首筋にレイピアを突き立てるという浅ましい行動に出たがそれでもゆっくりとでも確実に近づく。ヴァンパイアのタイバーンだけが何かを期待した眼差しで俺が来るのを待ってようだ。何を期待してるか知らないが想像通りのことはしないと思うよ?


「ユウくん…もう…もう大丈夫だから…」


いつの間にかユニファーさんの前まで来ていた。再生が遅い…魔力がないのか?眠い…

立つのもままならない俺の体、俺は圧倒的不利なんだ戦う気も起きねーよ。場を圧倒していた俺だがダークエルフの男、ネクソンの前に屈したように膝を折り、額を床につける。石床のひんやりとした温度が妙に心地よく感じた。


「俺はどうなってもいいです…だから、皆を…解放してください…」


この土下座が意味を成さないのは知っていた。せっかく相手を怯ませていたのに主導権を渡してしまうことになる。でもそれでも…どうか…



























バキッ!!


何度目だろうか、メイスが頭蓋骨を砕く音を聞くのは…殴られるたびにロープに吊るされて逃げ場のない衝撃で体を揺さぶられるのは。風に揺れるミノムシのごとく何もできずただ、風に流されていた。


「○☆△◆#←♀◎!!」


何を言ってるのかさえも聞こえてなかった。ヴァンパイアの男は朝になったから姿をくらましたが。ダークエルフの男の恐怖から来る暴力にただひたすら

身を委ねていた。オーガのメイスや他のボンテージの鎧のダークエルフの女が鞭で背中の皮がぺろりと剥けたりするも回復していくのでとうとう加減もなくなり殺す気でオーガは石斧を叩きつける。凄まじい回復力だろ?臓物ぶちまけてもそれが元に戻って行くんだぜ?自分でも不気味と思うよ。抵抗する意志のない俺はいいように殴られ不気味がられやがて地下の牢屋の一角に放り込まれた。回復が間に合わず血の泡を吹き出す。肋骨の一部が肺に突き刺さったまま放置されている。即死する傷はベルセルク化が発動していて無事なようだ。魔力なんてとっくに底をついた。寿命を削りそれでもなお生き永らえる俺、苦しむだけだとわかっているのになぜだろう?


「ユウか!?」


顔を上げることすら今の俺には不可能だ。だから短く呻き声を発することしかできなかった。


「やっぱりユウか!?どうしたんだその傷!?いったい上で何があった!!」


声の方から察するに背中からつまり後ろから声が聞こえてくる。懐かしい友の声にほっと一息やっとつくことができた。ぺローの声だ、しかしその気持ちを喜んで口に出すことも走りより互いに抱き合うことも叶わなかった。


心配するぺローにしてやることは何もない、俺は傷の回復を待たず魔力を回復より溜めることにした。

苦しい、体がおかしいんだ。骨が何本も折れ内蔵は潰れ皮膚は裂け…それでも仲間を救うことは諦めない。


「ぺローか?」


自分の声に初めて驚いた。こんな声だったか?断末魔の声とはこんな感じなのかな。


「ひでーざまだな俺たち…それよりまず始めに謝ってかなけりゃならねぇな…すまない」


「どうして…謝る?巻き込んだ俺が悪かったんだ…お前らを…連れてくるべきじゃなかった。嫌な思いは…全部俺が背負うべきだったんだ」


途切れ途切れになりながらも何とか思いの丈を伝えることができた。俺はむせかえりながらも喋りきったぞー!そこから黙り続けた。そんな俺に気を利かしてか俺には質問せず捕まったときのことを話してくれた。途中で寝落ちしてしまったものの起きるてもまだ話は続いていた。


「ということになったんだ」


返事もしてやれない。でも向こうは俺が静かに聞いているんだと思ってか何もそれ以上言ってこない。


その時だ石段の上から足音が、現れたのはダークエルフの使いかオーガが、俺の首をまるで小枝でも持つように軽々しく持ち上げるとそのままずるずると引きずっていく。運ばれていくなか、檻を何とか開けようと鉄格子を蹴っては殴って苦戦するぺローが見えた。ああ…もういい、もういいんだ。ぺロー、どうか俺のことはいいから生き延びてくれ。


「ユウ!!くそ!ユウ!ユウー!」


格子の隙間から手を伸ばすぺロー、必死になって助けようとしてくれていた仲間がこうしていたことを最期に実感でき、俺は満足げに下を向いた。




























目を開ければ迷宮ではなくどうやら外にいるようで霧の湿気で耳がベタつくのが気になって夢うつつから覚醒した。辺りを白い霧で包まれた中に自分がポツンと取り残されていた。なぜここにいるのか考えていた。最後の記憶は罠にひっかかったところだ。

急にはっとなって体の傷を確認すると傷がない。治療を受けた後のようだ。こんなことをするのはあの男しかいない。


「伊丹ユウ…!」


自分が眠ってる間に体を触られたことに怒りを感じたがそれは自分を助けたからだと思うとすーっと怒りが退いていった。キョロキョロと猫耳を世話しなく動かしてみるが辺りに人の気配はない。立ち上がり確認する、足元の魔方陣は自分に仕掛けられたものではないと。罠ではないとわかると特に気にせず歩きだす。


武器そのまま、腰の巾着を確認し荷物は減っていない何も盗っていかなかったのか確認する。何も変わっていなかった。一つ違和感が…自分の片目に手をやると違和感が…物がよく見えることがいいことだがなぜ急にこうなったのか気になった。


「そう言えば遺骸持ちがいたな…どうしてこれを私に?」


とぼとぼと歩き出す、一つ気がかりだったのが自分はどれくらい寝てたのか、どうでもいいと言えばどうでもいいのだが気になる問題ではあるのは確かだから気にせずにはいられなかった。腕を組み、難しそうな顔をして歩いていると魔方陣を発見した。たまたま、偶然だがどうしてかこの先に伊丹ユウがいる気がしてならないのだ。無視してもいいのたが自分の配偶者の件もあるしどうしても気になって危険に片足を突っ込んでしまう。


軽く小石を投げる、消える、これは転送魔法だと理解する。そこへシュラは突撃した。

移動先、どうもここは檻の中のようだ。目の前にシュラが転送されたことも気づかず見張りをしているオーガが二匹、立っている。背中から襲うのも…と思わないのがシュラ、刀を引き抜くと同時にオーガの首が一つ飛んだ。


「!?」


混乱するオーガ、隣にいた仲間の首が飛んでいけばそうなるだろうだが敵を見つけれずに辺りを伺っている。片手楽々と檻を破壊する。やっと自分に気がついたようだ。もう遅いのだが。


「餌さとして魅力にかけるな、まぁそれでも腹が膨れるなら豚の餌でも構わないがな」


そしてシュラは目の前の餌を食い散らす…


さて、シュラはとりあえず腹が膨れたので伊丹ユウを探すことにした。こんなところにオーガがいるのだ。殺してないところをみると潜入しているか捕まっているか殺されているか。最後はあり得ないとして捕まってる方に重点を置き、地下牢を探してみることにした。


「発情の火照った体を鎮めるためだ。うん、私が助けるのもシャクだが(捕まったと決まってないが)

傷の治療の恩返しだ。助け出してついでに私の体も付けてやる。感謝するんだな」


こうやって地下牢の捜査に乗り出す。
























ぺローは自分の直感を信じた。ユウは死なない。そして皆ここを脱出できると。絶望ではない、望みは絶たれていない、希にだが望みは叶う。そう信じ希望を抱いていた。絶望なんかせず希望を持って死んでやる。イライラしながら一人牢の中で尻尾をいじっていた。すると石段の上から足音が聞こえた。最初はオーガ、ユウを引きずっていると思った。だが音が近づくにつれそれは違うとわかった。軽いと言うか軽快なのだ。オーガじゃない。ならダークエルフかヴァンパイアなのか?ありえる。


息を殺して石段を仰視していると現れたのはミカサだった。桜色の着物のミカサ。


「ミカサ!ここだよ!出してくれ!ユウが!ユウが大変なんだ!!」


シュラは最初自分の顔を見てミカサなんて言うこのケットシーを無視して牢屋を見渡すも伊丹ユウがいないのでこの場を後にしようとしていた。そこへ伊丹ユウと言う言葉が自分の猫耳に飛び込んで来たのでぺローの牢屋へ詰め寄る。


「口があるなら言え、どこだ?どこに伊丹ユウがいるんだ」


ぺローは胸元の傷痕と額から頬まで延びる傷痕からこの獣人がミカサでないと理解した。だが助けに来たことはどことなくわかった。


「早くここから出せ!案内する、ミカサじゃないけど強いんだろ!?頼むよ!ユウを助けて!」


シュラはとりあえず間違いを正すことにした。ことあるごとにミカサの名前が出るので不機嫌になっていた。


「私の名前はシュラだ、ミカサではない!!今度あの女の名前を口にしたら命はないと思え!!」


「シュラもミカサ嫌いか?」


「なんだと?」


額の血管が切れそうになる。さっさとこのケットシーを切り捨ててユウを探しにいこうかと考え始める。


「俺もユウもミカサ嫌いだから気が合うな、仲間になるか?」


「ん?少し待て。伊丹ユウはミカサが嫌いなのか?恋人なのだろう?」


「どこ情報だそれ?ミカサはユウの天敵だぞ?」


肩と猫耳をワナワナ震わせる。ぺローもこれにはなにっ?て表情になるもシュラの機嫌は一気に直る。

鉄格子を手で広げてぺローを掴むと肩に乗せる。


「確り掴まっておけ、落ちるなよ」


「ちょっ!?待てうおおおおおおおおお!?」


猛スピードでかけ上がる。ぺローは振り落とされまいと必死で掴む、シュラの着物の布地は少ないのでぺローはなびく長い黒髪を掴むことでなんとか持ちこたえていた。

























「残す言葉は?」


「伊丹ユウ万歳」


その時ドアを蹴破る音、シュラは刀を真っ先にタイバーンへ向け切り裂く、突然のことで対応できなかったタイバーンは姿を無数のコウモリに変え、この場から逃げ去った。シュラはゆっくりとした動作で刀を鞘に納める。ぺローとシュラはすかさず部屋を散策する。


「確かに声を聞いた!」


シュラがいら立ちを隠せず何もない石畳の個室を見渡す。ただの小部屋、家具も道具も何一つない。シュラが壁を叩いて隠しドアがないか疑うなかぺローが床に落ちている小汚ない人形を拾い上げる。


「なんだこれ…」


何か見つけたのかとシュラがぺローの手元を除き込むとそこにはなぜか血塗られた小汚ない人形が。

最初は「何してんだこのくそ猫は…」と思ったシュラだったがやがてぺローと考えが一致していく。


「間違いない…声の主はこれだ。これだよ、これがユウだ!?」


魂を抜かれ人形にされていた。

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