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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
いざ!勇者を訪ねて~
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最終戦局

「くっ…!」


この先から異様な空気が発せられている。肌を撫でるピリピリとした感触は幾度となく戦場で感じられた殺気と同じだった。素早くソナーを発動させ確認すると前方で待ち伏せしているのか、進行方向に丁度死角となる場所に待ち伏せしているのが読めた。


「敵さんも殺気むき出しで来ましたか…ディバインマークまでほんの数十メートルだと言うのに…」


強行突破してもいい距離だがあの城に潜入して脱出しているほどの実力者であるからそれは危ない、ここはテレポートでディバインマークに接近する方が安全策か、敵の動きに注意し、ディバインマークの側にテレポートする。


「よっと…案外邪魔もされず楽勝だったか♪」


油断ではない、攻撃してくるとは思ったが接近戦、もしくは遠距離魔法による攻撃だと思ったが自分の図上に火球が出現していた。ミティアスワーム、辺りを焦土と化すほどの威力を備えている魔法だ。動かなかったのはこの準備をしていたがため、罠に自らはまってしまった。


「間に合えー!!」


捨て身の構えでディバインマークがあるくぼみに向かって走った。隕石に匹敵する威力を持つミティアスワームにどこへ逃げようと同じだが俺には魔法がある、だから逃げても良かった。運よくテレポートで逃げかつディバインマークも衝撃で破損するかもしれないからだ。相手にとって重要なはずのディバインマークに魔法を撃ち込むとは…考える余裕はまだ頭に残されていた。


飛び込んだと同時に轟音を撒き散らし辺りは粉塵が舞った。その後もミティアスワームが直撃したせいで魔性の水は一瞬で蒸発、蒸気と粉塵が舞い視界は0になっていた。そんな中、光の矢が三つ現れソナーで正確な位置を割り出されたヴァンパイアに向かって順番に飛んでいった。間髪入れずの攻撃だが手応えは無い。


「男には戻れたな…まだこっちは粉塵のお陰で見えてないか…この隙にトラップだ…」


素早く魔方陣を展開させ自分の周囲、全てに罠を仕掛けた。ある一ヶ所を覗いて、来るとすればそこ…

もしくは仲間がこの爆発に気づき向かってくるかもしれない、安全な通り道を用意しておく必要があったからだ。ヴァンパイアも手を子招いて来ない…それはそれでも良いんだが自分は動けない。何故ならば…お荷物を一つ抱える事となったからだ。


「せ、説明出来る?」


「今のこの状況か?俺の中で見てなかったか…昨日はずいぶん俺の体で好き放題してくれたようだけどそれはまぁいい…お前にわからないことは俺にもわからないってことだ…言えることは病気じゃなかったかもってこと」


「記憶だってほら…ターナーと話してた時以外ないの…自分が何者なのかってことも…」


俺の背中から発せられる声にいちいちぎくしゃくしてしまう。戻ると思ってたがなんと分裂してしまったようだ…ユウナとユウ、二人に…


「敵が目の前にいるから手短に話すぞ…」


「あっ、知ってるんだ」


「お前のことは知らん…言えるのはお前は死人で審判を受ける途中俺に取り込まれ力の一部だった魂だけの魔力だったがどういうわけか俺から逆に力を奪ってこの世に現れた化け物ってことだ。それより作戦の話だよ!!」


「人のこと化け物ってひどくない…?取り込んでたくせに、そっちの方が人でなしだよ!!」


今危機的ピンチに訪れています。お荷物が増えたまでは良いとしよう。悲しいかな…力を奪われた。本人も気づいているが冥府の魔魂がユウナの方に受け継がれていると言うこと、魔力が足りないから魔法をそこまで使えないし使えても魔力回復に時間がかかると言うことだ。


「そうか、それよりかやけに落ち着いてるな。命を狙われてるのに…肝がすわってるな。俺なら間違いなく逃げ出すね」


ふふんと鼻で笑う声が聞こえた。何か可笑しな質問だっただろうか?落ち着いていられる秘密は何ですかなんて質問に笑っているなんてな。バカか?


「一つ言っておくぞ、お前は言わば魔力回復させるだけが取り柄のお荷物だ。二人とも裸…コホン!!サラマンダーの焔鎧とウィンディーネの流鎧だけで身を守ってるだけなんだぞ?グラムは忘れるし俺の魔力はさっきのトラップでもうない、鎧の分で精霊は出せないんだぞ?」


二人はミティアスワームの衝突で抉れたくぼみの中に隠れているがじきに粉塵も晴れ、敵はまた遠距離魔法で攻撃してくるはずだ。その時どうするか?魔力があっても使い方の知らないユウナは死ぬ、もちろん打つ手なしの俺は攻撃をモロに受ければ死ぬ。さらに援軍もまだ見込めないこの戦況…白旗振っても許してくれるはずがない。


「さてさて、どうするか。この粉塵がある内だけが色々行動できる時間だが晴れれば二人ともここで死ぬ…何か良い案があるなら何でも言ってくれ。死んでから実はあったなんてことになったら意味無いだろ?」


「だーい丈夫、助けてくれるもん」


「俺は無理だぞ」


「ずいぶん弱気ね…でもターナーとジャック、それにぺローにユニファーさんとラーナさん。皆来てくれる。それに…まだ反撃してやるって顔してる」


「背中から見えるか!?」


「見えなくても書いてあるよ?」


言わなくても顔に…いや、頭に書いてますか…では援軍到着までの間、派手に暴れまわりますか。

自分の頬を叩き、無心に帰る。これから先は己の直感が便りだ。ディナメスとの貞操を賭けたあの戦いのようなチャンスなんて一瞬一度の大勝負、負ければ即死、冥府の魔魂から救われた今、初めて向こうの世界と同じポテンシャルで敵と戦うわけだ。


「ここから帰ったら…」


「遺言なら必要ないでしょ!!生きて戻るんだからー!!早く行け!もう晴れてきてる!!」


焦る気持ちもわかる、でもここであえて自分に十字架を背負う。ここで死んだら勇者として俺は不出来だったってこと。行くぞ!!


「ここから帰ったら俺…ユニファーさんに告白するんだー!!」


雄叫びを上げてソナーで最後に確認した場所に突っ込む。粉塵を払いのけてただひたすら前進、また前進していく。


「それ死亡フラグ!?」


「よく知ってるな!!俺の戒めだ!」


「はぁ!?意味わかんない!?」


不吉だが昔から俺は朝のニュースの星座占いなんかで1位だと逆にその日運が悪いことが重なるので逆に中途半端な順位の方が運勢が良いという不思議体質なのだ。だからわざと死に急いでるの、最近までわ。でもそうするとマジで死ぬことになるので死亡フラグ立てました。さぁ失うものはありません。かかってきなさい。軽く捻り潰してくれるわ!!伊丹流背水の陣をとくと見よ~!!


「ぽちっとな♪」


「それってトラップ!!」


ご忠告どうも、でもわざとですかれご心配なく。俺がふんずけた魔方陣は効果を発揮させるがそれは俺の前方に向かって攻撃をする。


「え?それって罠でしょ?」


「元俺の体の一部だったくせにそんなことも読めなかったか。これは侵入者避けの魔方陣で踏んでも敵の進行方向に向かってしか攻撃しない。ゆえに攻撃になるのだこれが!!」


茂みに向かいレーザーが飛び出し敵も後退していくのが殺気でわかった。地面に耳をつけて確認すると数人の重さがバラバラの足音が聞こえた。やっとか俺は声だけでなんとか罠のない場所まで誘導していく。


「戻ったのか!?」


「その話は後、もう少し右だー」


「誰から見て右ですか?」


「全員右だ!!」


俺の怒号が飛び交うなかぺローのせせら笑いが聞こえるのが腹立つ。姿が見えないから余計腹立つ。


「もう~ちゃんと誘導してくれよ~」


「やかましい…」


「ぐぉ…」


ぺローの頭を鷲掴みにする。久しぶりにしたなじたばたと暴れまわるぺロー。実によいきみだ。ターナーは辺りを見渡しユウナの姿を見つけると一目散に走っていった。いいなー青春、俺もしてみたい。


「怪我はない?汚れてるけ…ど」


「心配ご無用♪ごめんねそれよりいきなり逃げたりして…こっちも色々と深刻だったから…」


顔をそらすターナー、顔が赤くなってるのに気がついたようで自分の姿を確認してようやくわかったのか…


「いつからウィンディーネの流鎧消してたのよ!!ターナーのエッチ!!」


「ぐはぁー!!」


ユウナの強烈ビンタ、それが綺麗に入ってターナーの体は宙を舞い静かに地面に落下した。1発K.O.でピクピク痙攣している。ラッキースケベめ、俺に感謝しろよ?


「早く何か着るもの~!!」


ユニが俺達男組の前に立ちはだかりユニファーさんと大胆エルフちゃんがあたふたと自分達の服からユウナに着せていった。どれもユウナよりサイズが大きめだったので苦労していた。


「おいユウ!!」


「うっせぇクソ猫」


「ユウナがユウじゃないってどういうことだ!?」


「いつからユウナが俺であると錯覚していた?」


「な、なに!?」


ぺローをおちょくるのは実に楽しい。ジャックにだけは耳打ちをして事情を話した。半分は信じてなさそうだったけど。まぁ初対面だしな男の俺と会うのは。ユウナもブカブカなユニファーさんの服にぶーたれながらもこっちに来た。さすがに大胆エルフちゃんのボンテージは大和撫子には重いようだった。


「で?どうする」


「いったん神殿に戻りましょうか?ディバインマークはユウさんが?」


「さっき罠に放り込んで破壊してたからもう雲を退けても大丈夫っておじさんに言わないとね?」


「その必要はなさそうよ、雲が薄くなってる。もうじき太陽が顔を出すわ」


そう言うユニファーさんの声に全員が空を見上げていた。分厚かった雲は薄くなりぼんやりと白い光が差し込んでいた。


「これでヴァンパイアの心配もなくなったわけだ」


「いったん神殿に帰って子ども達の捜索を開始しましょう」


「そうしましょう」


皆が一段落しているときユニが俺達の間に滑り込んできた。罠は全て解除してあったから良かったよほんと…


「どうしたユニ?」


ユニが慌てた様子で話始めた…最初は何て言ってるかわからなかったが単語を繋ぎ会わせて気づいた。


「神殿にヴァンパイアが現れてメルが拐われた!?」


「何だって!?」


不意を突かれた…一人は時間稼ぎか、護符だって外してなかったはすだ。何らかの解除方法を見つけ出して拐ったか…まだ間に合うか!!


「急いで戻るぞ!!」


全員放たれた矢のごとく神殿に向かって獣道を一列になって駆け下りる。先頭はそんな獣道でも俺達が平坦な道を走るより速く走るエルフのユニファーさんとその後ろに大胆エルフちゃん。そしてユニと俺達が続いていた。この領地最後の子ども、最後まで根こそぎ子ども達を奪っていくヴァンパイア達の狙いはなんだ?


神殿まで走りよると異様な匂いを感じとりユニファーさんが全員を制止させた。この場の全員がわかるこの匂い、血生臭い匂いにユウナがえずいているが

俺とジャックが礼拝堂まで先頭に立ち辺りを伺う。

ついた先には…ジャックが先に声を出した。


「ひでぇことしやがる…」


辺り一面真っ赤だった。皆殺し、ヴァンパイアは生きるために生き血を啜る。だがしかし噛みつかれたわけでもなくただいたずらに惨殺したといった感じだ。生きるためにではなくまるで証拠隠滅のように見えた。


「雲が晴れてきた理由がわかったな、クソ!!」


ジャックが端のぼろぼろになった長椅子を蹴飛ばした。ぺローは帽子を取って黙祷。大胆エルフちゃんとユニファーさんもそれぞれ信仰する神に祈りを捧げていた。ターナーは必死になってユウナを抱き締めるがユウナはぼろぼろ涙を溢している。そんな中俺は外へ飛び出した。じじい以来か、こんなにまじまじと人を救えなかったのを見せつけられるのは。八つ当たりもしないし自分を責めたい気持ちだったが外に出てそんな気持ちも吹っ飛んだ。


「お前らか…」


宙に羽を広げてヴァンパイアが二人、そこにメルの姿はなかった。いつもの俺なら間違いなく切りかかってるだろうがやけに落ち着いていた。そんな俺の態度にヴァンパイアの一人、暗殺者の方は身をよじってくねくねしている。


「ひっどーい!あの魔法の攻撃!!ちょっと当たったんだから!!死なないにしても痛いんだから!!」


ただイラつかせるだけの抗議にもまだ冷静でいられた。しかし俺の殺気は隠せないもの…何事かと神殿から次々と仲間がやって来た。俺より皆の方が怒気を感じる。それで俺はまた頭が冷えていた。


「楽に死ねると思うなよ!!」


大胆エルフちゃんがレイピアの切っ先をヴァンパイアに向けた。それが合図となって各々武器を構えた。俺の真後ろにあるユニの鼻息がやけに荒い。俺は大きくため息を吐き捨てた。グラムは抜かない、余裕ぶっこいてるヴァンパイアと同じように俺もただヴァンパイアを眺めていた。


「子ども達はどこにいる?」


「会いたい?なら一緒に来る?」


ヴァンパイアの態度に全員が怒り心頭だ。俺は特に興味もないといった表情を見せると傍観していたヴァンパイアの一人がその閉ざしていた口を開いた。


「大戦は始まる…その礎だ」


「魔王の命令か?」


ニヤリと牙を覗かせて笑うそこには肯定の意味が込められていた。魔王が?戦争?どうも約束と違うことが起こっている。もう待てないのか、それとも他になにか理由があるのか。あんなに平和を望んでいた魔王が。国王暗殺を企てたのも魔王、お前なのか?何があったってんだ!?


「じきにわかるさ…最後はお前らも消えてもらう…お前らが倒した狼、もう朽ちているだろう?」


全員が振り替える。そう、腐っていた。死んでるんだから当たり前なのだが夏でもあそこまで腐敗は進まない…どうしてなのか…俺は一つの疑念が頭の中で架設をたて、晴らした。その答えに血が凍ったかと思った。冷たい水をかけられたような…


「お前達が力尽きるそれまで存分に楽しむといい」


「これで生きてたら向かえに来てあげるね♪バイバイ未来のお婿さん♪」


そう言い残して二人のヴァンパイアは姿を消した。瞬間移動か、もう遠い距離だろう。それより俺は神殿の方へ向き直った。入り口誰か立っている。俺の視線に気づいたぺローがその人に近づいていく。


「よせ!止めろ!!」


「へ?」


俺が大声を叫んだ、それに呼応されてか奥から一人、また一人と現れる。血まみれで丘の下から土がついてる遺体が蠢いている。全員生唾を飲み込んだ。

ありえない、自然の法則に反している。


「ジャック…ターナー?」


全員が固まってしまっている。俺は聞いてるかわからないが話を進めた。


「この領地にこの患者の数が合わないっていったの覚えてるか?一世帯何人とか食器とかの数でわからなかったか?この地域が土葬してるなんてな。数が多いからまとめて火葬にするべきだろう。伝染病の拡大を防ぐとかならさ」


ターナーとジャックは病気になる前わざわざこの土地の風習に合わせ土葬にしたらしい。それを利用された。死人のヴァンパイアに心なんてない。だから死体をもてあそぶのも何とも思わない。


「一度じゃなく二度も殺すのか!!」


ジャックがわめき散らす。やっかましい、こちとら何度も死んでんだよ。それよりこの数だね、どうしようか?周りを完全に囲まれた。逃げることは不可能だ。全員をテレポートさせる魔力は持っていないのだから。


「戦うしかないか…来な、ゾンビども…俺は今腹の虫が悪い…」


「ギル!ギルルルルル!!」


異形が、異様な鳴き声と共に迫ってきた。

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