新地到達
「このチート猫め…まだついて来る気か!!」
俺もぶちギレそう、ろくなことないんだよミカサがいると事態が余計ややこしくなる。戦力にはなるがそれ以外がやくにたたない。
「そんなつもりはありません。見送りです」
ミカサの手には聖人の遺骸…
「わざわざ持ってきてくれたのか?そのために?」
「私はここに残ることにしました。ラーナがいてくれるなら私も心配する必要もないでしょう。連れて帰ってくれるはずですから」
「信頼してんのね、俺の言うこと聞かんくせに」
そこでなぜか冷ややかな目が登場…やめてくれるかな?悪いことしたみたいで気が重くなる。
「貴方を救いに単身ドラゴンに挑むほどですよ?貴方より信頼はできます」
頭の血管がぷっちんときました。また猫耳をハゲにしてくれようか?
「はいはいそうですか!!」
俺はミカサから奪うように遺骸をとり、左腕にはめこんだ。するとミイラ化していた腕は俺の右腕と同じ太さに戻る。イライラした俺はユニに飛び乗ると
そっぽ向いて立ち去ろうとする。
「皆も待ってくれてるからもう行くぞ」
「はい、これで最後です」
パシッ…
何かを投げてきた。見覚えのあるこれは俺の世界のしろもんだぞ!?なんでミカサがこんなもの持ってんだよ!?
「お、お守りじゃないか!」
赤い巾着袋、真ん中にはお守りと確かにそう書かれていた。日本語だ、この国とは違う文字、存在すらしないはずなのに。
「知ってるのですか?」
「珍しい物…なのか?」
本来異世界にあってはならないものだろ。でもそうか刀もあるくらいだしお守りも珍しくないと思ったけどどうなんだ?
「我が家に代々伝わるものです…無事旅を終えて私の元へ戻ってきてください」
「ご利益あんの?」
「もともと勇者だったご先祖様のものですがこのお守りあって我が家が繁栄したと言っても過言ではありません」
「それを俺に?」
ミカサの先祖って勇者なの~!それだとミカサが化け物なのも納得できる。このラスボス並みのステータス。あり得ないだろ、魔王って案外ミカサみたいなやつを俺は想像してた。
「ぜひ受け取ってもらいたいのです」
「その刀も先祖の?」
ミカサは「今その話関係ねーだろ」って言ってきそうだが。
「あまり教えられません…」
勇者、何代前か知らないけど獣人族と結婚したのか~!そのせいで今ミカサという化け物が誕生したんだぞー!!
「貴方のいないこの国は私が守ります」
「ああ、頼むぜミカサ」
目の前からミカサがいきなり消えた。ミカサが消えて静けさが残りあんな奴でもいなくなるとどこか寂しくなった。手の中をみれば赤いお守りがあってそれが確かにここにミカサがいた証拠だった。ユニさんが馬に乗って俺の側まで来る。
「遅くなるわ、早く行こう?」
俺はうなずいて大胆エルフちゃん、ユニさんの後に続きユニさんの後を追った。
無事村に夜遅く到着、なかなか宿がなかったが民家の軒先を借り一晩過ごし朝方、空が白んできたころ
太陽が登るより早く村を出て馬を走らせた。
「まさかユニさんも一緒にくるなんて思っても見なかったよ。最初はラーナさんだけかと思ってたから
さ。でもご飯もう味気ない保存食から解放されるんだな!」
「私もそろそろ村に帰ろうと思ってたところなの」
「故郷?」
「そう」
ぺローはユニさんの故郷を想像していた。二頭の馬とユニは生えている草を夢中で食べている。この場にいるのはラーナとユニ、それにぺローだけ。倒木に腰を下ろし休憩していた。
「ユウの野郎遅いな~なにやってんだ?」
「見てきましょうか?」
ラーナが腰を少し浮かせると
「そうね、探しに行きましょうか。遠くには行ってないと思うんだけど」
「では手分けして探しましょう」
三人別れてユウを探すことになった。とうの俺はどこにいるかと言うと…
「こっちかな~?」
辺りをキョロキョロしながら目当ての物を探していた。少し浮かれながら。
「ここにいるのか蜂の巣く~ん?」
ちょっとしたごちそうにと蜂蜜を考えていたんだ。
ユニファーさん(紛らわしいからそう読んでと言われたからとユニが怒るからだ)せっかく料理の達人ユニファーさんがいるんだ。蜂蜜を使った甘ーいデザートを旅で食べたいのだ。
「むむ?」
木のうろの下、大量の蜜蜂が死んでいる。雀蜂にでも襲われたのかと思えばそうではない。試しに取り出せば中には大量の蜜蜂はいるし(死んでいるが)卵や幼虫、サナギそして女王蜂もいる。
「全滅してるな…」
蜜は残ってるが下手に手はだせない。集団で病気にでもかかったのか?何でもいいけど気持ち悪いから
食べてみようとは思わなかった。諦めはつかないが皆の元へ帰ることにする。
帰る途中大胆エルフちゃんに出会い俺を探してらしく今度は皆を探すはめになる。ぺローがなかなか見つからなかったが…
「蜂蜜なんか取りに行ってたのか?」
俺の後ろでいるぺローが聞いてきた。ぺローは最初はユニファーさんの後ろに乗りたがったが俺が引き剥がして後ろに乗せている。
「砂糖がないからな…当分甘い物とは無縁だったから恋しくなるときもあるのさ…」
ぺローからは「熊みてぇだな」と言われた。こいつはまぁ後でぶっ飛ばすとして俺は蜂の巣が全滅していて蜜はあったけど置いてきたことを打ち明けた。
「もったいないなー取ってこいよ~」
「えー?だって毒とか病気あったらやだしー」
「蜂が毒とってくるかよ毒持ってるのに」
こいつの笑えん冗談には正直ミカサに似たイライラ感を募らせる…
俺はぺローを無視し、地面に目をやった。段々人通りが多い道なのか馬車が何回も通り溝になってた道が見えていたがそこから脇にそれ消えてあまり整備のされていない林道に入った。
「あのまま行けば領地か都市に行きそうだったけどいいの?だってほら道も狭いし間違えたんじゃ…」
最後の方は口を籠らせながらユニファーさんに聞いてみた。するとユニファーさんはうなずく。
「あのまま行けば領地よ、だけどその前に久しぶりに来る場所だから領地全体が見渡せる場所があるんだけどそこから私が来ない間にどういう変化があったのか、見てみたいの。ごめんね、私のわがままに付き合っちゃって…」
「急ぐ用があるのですか?」
「いや、別にないけど…前に来たっていつぐらいの時だったんですか?」
「私がギルドに入る2年前だから…50年ほど前かな確かそれくらい」
……50年?エルフは長命だからそんな年月になるんだろーけど…ユニファーさんって何歳なの?
「ま、ベッドが恋しくなる前につけるからそれでいいんじゃん別に~だろ?」
「そうだな」
しばらく進むと開けて自分達は小高い丘の上に立っていた。そこから領地が見える。ちなみにこの世界に来て覚えた都市と領地の違い。聞くと実に単純、
それは領主の邸宅があるかないか?だそうです。
眼前は畑や果樹園でその奥に広大な小麦畑が広がっていた。大胆エルフちゃんとユニファーさんにはさらにその奥の住民の家、そして領主の邸宅が見えるらしく大胆エルフちゃんが色々説明してくれた。
「あそこの突き当たりの角に立派な建物がありますからあれが領主の邸宅でしょうね」
「大胆エルフちゃん?そんなこと言われたってね見えないんだよ俺はね」
「かなり力のある方なんでしょう…領主の邸宅としては立派過ぎます…城と言ってもさしつかえないほどです」
「えー見たいなー」
ぺローが俺の頭によじ登ってしきりに目を細めている。あのな、見えるか!!エルフだからこれは見えるのだ!!それがわからんのか?
「これから行くんだから無理に見る必要ないんじゃないの?」
「それもそっか」
おとなしく俺の頭から降りる…やれやれ。
俺はしばらく領地を眺めていた。空は今にも降りだしそうな雨雲がかかっていてそれほどいいシチュエーションでもないがユニファーさんにとっては懐かしい場所だ。ユニファーさんに感想を聞いてみる。
「どうですか久しぶりに訪れて」
「おかしい…」
俺が考えてた答え全てに当てはまらない答えだったので返答するのに少し時間に間があった。
「同感です…さっきから人の姿が一人も見えませんまるで…無人のようです…」
大胆エルフちゃんに言われてユニファーさんのおかしいと言った意味がわかった。景観が変化したのではない。人が一人も外にいないのが不自然と言う意味だったのだ。
「雨も降りだしそうだしさ、皆家の中じゃないか?
こんな天気、外にいるのは俺達ぐらいだぜ」
ぺローが後ろでやれやれと言った風で答える。それは確かにそうだが…この時ふと頭にさっきの蜂の巣のことが頭を過った。原因がわからず放置したが全滅していたあの蜂の巣のことを。
「どうも嫌な予感がする…」
俺の顔つきが鋭くなったのを見てここにいる全員が緊張した空気に包まれる。俺は届くかわからないが
ソナーを発動する。
「なんだこれは!」
それを確かめた瞬間、恐怖した。そんなことありえない!起こるはずがない!だってこれは…それよりよく考えたら休憩していたあの地点まで確かにあった。おいおいこりゃ…
「跳ね返ってきたのは魔力の反応じゃない!こんな広域に神力が広がってる!それにだ、でかい半径調べてあれほど家があって人の反応が1つしかないわけがない!!」
俺の魔力は家の形、材質は元より色んな情報が入るが人の反応が1つしかないのは異常だ。家の数も確かにこの領地は大きいのか多く建っていた。なのに人の反応1つしかないのだ。しかも魔力の反応がもう1つ…
「神力だ~?教会でもあるんだろ?高位なプリーストにかかれば街全体なんて簡単なことだろう?それより1つしかいないってのは確かにおかしな話だなてかどうするよ?入るか?」
「上と下、上の雨雲から感じるのは無害だ…優しい感じがする…下のが、誰だ…酷い」
ぶつぶつと独り言が出てくる。沢山の情報が届いて頭を支配する。この領地で起きてることは異常だ。
できれば入るべきではない。
「いや、反応がまた帰ってきた。デカイ建物だ…うんそこから大勢の人の反応がする。奥の方だ、神力も感じるぞ…たぶん教会だ。手前の民家の間、井戸の近くだ…子供だと思う…一人いる」
「ユウ、なにビビってる?」
「早めに向かったほうがよさそうね!!」
ユニファーさんも見えてるようだ。馬を走らせる。
子供に近づいてる…この魔力の反応…こちらに気づいたのか動いている…こちらに来る…
「やった!人がいますよ!あそこ!」
大胆エルフちゃんが示した方向、確かに人間の姿が見えた。大通りの真ん中にいてこちらをじっと見つめている。それはたぶん人じゃない、あの目だ…赤い目。後ろのぺローが密かに言った。
「いくら探しても死体が出てこないわけだ…日光で蒸発してたとばかり思ってた…」
俺は首筋を冷たい汗が流れるのを感じた。昼間出会うことなんてない、今は俺達の時間のはずだ!?
「精霊が人里に下りてきたか…人間といても失わんとは、よく汚れないものだ」
ユニファーさんは何回も瞬きをしている。驚いているんだ。そのまま馬をもと来た方向へ向きを変えたのだ。
「ユニファーさん!どこへ!?」
この状況がいまいち掴めてないラーナがおろおろと訪ねるもそんなラーナを無視してどんどん遠ざかるって行く。
「大胆エルフちゃん…ここは従うべきか…」
気になるのは一人いた子ども…俺達に気づく前は子どもの方向に向かってた。俺達がいなくなるとまた子どもに近づくかもしれない…
「侵入者か、計画の邪魔だな」
「やーん、あの男は壊さないでよね?」
「知るか」
「新手!!」
何もない空間から突如もう一人女が現れた。赤い目で青白い肌色。ヴァンパイアだ、仲間を呼ぶ素振りはなかったが。戦闘の予感…勘弁しろよ、まだ昼間だってのに出てくるなんて…
「ここでは…止そう、退くぞ」
「子どものは?」
「エルフがいただろ?」
「ええ、いたわ」
「そいつを何とかしてからだ。邪魔者を消してからでないとな。不穏な影は絶つ…」
二人で話していたが唐突にこっちを向く、目が合うが殺気を出して睨むと少し目が大きくなってふてきな笑みを見せると俺達に背を向ける。どうやらここで戦う気ではないようだ。
「お前が前に話してた男か」
「そうだけど?」
「確かにいい男だ」
「ちょっと!!手出さないでよ!?」
全ては杞憂に終わる。ヴァンパイア二人はまたもや何もない空間に消えた。
「ひやひやしましたな…」
「また来るぞ…子どもが気になるがソナーで見たら無事教会前まで移動している」
「そのソナーで敵の位置はどうなったんだ!」
ありえないが瞬間移動系の魔法を使っているのかソナーでは探知できない距離まで移動している可能性がある。
「行こう、ユニファーさんに追い付かないと」
こっちも引き返し領地を後にした。




