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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
いざ!勇者を訪ねて~
72/135

戦う男…誰だい?ユウだよ

「お怪我はありませんか?」


少女は心配そうに俺の顔を覗きこむ。不審者にこれほど優しくできるなんて…あれ?涙が(泣)


「泣いていらっしゃるのですか?こんなに汚れてしまって…本当にどこもお怪我はありませんか?」


最近の俺はここまで優しくされたことがあっただろうか?涙もでるよなそりゃ。その大部分がミカサによるストレス。


「~~~~~!!」


「?」


米粒みたいなのが近づいて来るよ?これはあれだ。

逃げたほうがいいやつ。お前もよっぽどめんどくさい男だな。段々と鬼の形相が近づいて…その後ろからぞろぞろとまぁ竜騎士引き連れてさー!


「伊丹ユウ~!!殿下に何をした!!」


いや、別になにもしてないんだけど。ほら、見たところ無傷そうだし…てか今なんと?


「クラウザー?今日は不思議なところから来てくださったのですね♪後ろの方々は…」


「殿下!危険です!そいつから離れて!」


「危険なのはお前じゃー!!ボケー!」


グラムは…ここは素手で止めるか。それにしても後ろの竜騎士どもはどうしようか?竜に乗ってる奴を引きずり下ろすのは…


「てかまずはお前だ!!」


「伊丹ユウ!!」


ドッカーン!!


二人の拳が交差する瞬間、クラウザーが加速した。

それに合わせられず呆気なく殴り飛ばされた。クラウザーは離れず俺の襟元を握りしめ更に攻撃の手を緩めようとはしなかった。されるがまま、奥の部屋にもつれながら転がりこんだ。クラウザーは倒れた俺に馬乗りになって殴り続ける。反撃するにも俺の立場を悪くするだけだな。殿下…この国の王女の前で聖騎士を殴り飛ばす姿なんて下手すれば聖騎士の行為が正当化される。


クラウザーが殴る、口内が切れて口いっぱいに鉄の味が広がった。瞼が腫れているのか、右目が開かない。体の力が抜ける、殴られる痛みが感じない。殴られる度に熱さが顔を巡る。


「クラウザー!やめてください!乱暴はダメですよ今すぐやめて!!」


「殿下…こいは…」


「クラウザー」


今にも泣きそうだった王女の顔…クラウザーも一瞬戸惑いの表情になったがすぐに引き締め強く言い放った。


「王家に忠誠を誓った身…姫殿下の侮辱は自分として耐えられません」


たいした忠誠心だこと…それで俺がぼこられてる訳だな…

そこへ騒ぎを聞きつけた使用人やら衛兵やらで部屋は多い尽くされた。完璧不法侵入した俺を聖騎士様が成敗したって構図になってしまった。荒れ果てた部屋、あちらこちらに瓦礫が山となって築かれる。

豪華絢爛であったであろう王女の部屋はまるでトロールが二頭暴れたようだった。


「これはどういうわけか説明してもらおうか?」


人ごみの中から聖騎士長が現れた。怒りも通り越し呆れとなったその顔は俺達に向けられた。


「反撃もできん相手にそこまでするのか?クラウザー、騎士のすることではないぞ」


「ですがこいつは!!」


「言い分は最もだが伊丹ユウ殿は「客人」として殿下のもとへお連れするはずだった…なんだこれは?

王女殿下の寝室に追突し…幸い殿下に怪我がなかったから良いものを…少しは加減をしれ」


「ではこの方が伊丹ユウ様なのですね?」


「はい殿下、我々の不手際です…何なりと罰を」


いや、さっさと退けてくれこいつを…(怒)


「罰より何より彼の治療を!お顔が酷く…」


聖騎士長がすぐ指示をだし人ごみの中から何人か走り去って行った。そんで捕まったのかぺローの首根っこを掴んだミカサが部屋の中へ入ってきた。


「なんだ…捕まりやがったのかぺロー?」


呑気そうにぺローは


「戦う事のほうが危険だろ?」


と言ってのけるミカサは俺を爪先から頭まで見渡すと大きくため息を漏らした。そんで


「何ですかその物乞いより劣った不様な姿は?敵は反撃する余地も与えてくれなかったんですか?」


「勝てる相手だったよ。少なくとも負けた気はしないね」


ミカサはぺローを衛兵に引き渡すとこっちに近づいて俺の前で方膝を折り俺の顔を上から覗きこむように見つめる。


「では何ですこの怪我は?慢心にも程がありますよ全く…こんな相手に負けたなんて…自己嫌悪になりますよ」


まるで道端でネズミをみかけた時のように近づきたくないあっちへ行けと言わんばかりの軽蔑する視線に俺はクラウザーを殴らなかったことに少し後悔の念を覚えた。少なくともミカサの心境などどうでもいいのに俺の頭はいちいち反応してイライラしてしまうのだ。


「俺はあんたみたいに喧嘩ふっかけて敵を作りたくないんだよ…少なくとも王女は…な」


ミカサはそれでも納得がいかない様子で「後は頼みます」と聖騎士長に告げると部屋の外へ出ていった。ミカサが出ていってすぐに救護班到着でヒーラーが傷を回復させてくれて立ち上がれるほどピンピンに治った。


「伊丹ユウ殿は少し話があります…暫くは出られないと覚悟してください」


「ぺローとユニが捕まってることだろーし…わかったよ。了承します」


そこへ騒ぎを傍観していた王女が俺の側へ駆け寄ってくる。


「貴方に色々とお話を聞きたかったのです♪」


人懐っこい笑みで子どものように無邪気にすりよってくる。


「王女殿下、代わりの部屋の準備が整いましたのでそちらへ、ユウ殿とのお話は明日にでも。ユウ殿とは先程の騒ぎのことがあるので」


王女はもう少し話していたいとごねたのだがしぶしぶそれに応じ、挨拶をしてくるりと方向転換すると部屋の出入り口に向かった。使用人達は両脇に避けるとその場でお辞儀して固まる…


「それではごきげんよう…」


再度出入り口で俺達にお辞儀をし、スカートの裾を少し上げる。王女の後ろ…影で暗闇になっているが

俺と聖騎士長はすぐさま反応した。確かに感じる殺気…その場が凍りつくような。


「ブリンク!」


女王の前に瞬間移動する。女王を抱き抱えその場から飛び退く。聖騎士長は素早く剣を抜き混乱する使用人達を無視し、暗闇を貫く。手応えはないようだった。しかし聖騎士長の横顔を何かが二つ通りすぎた。俺はそれを見てぞっとした。空気を裂き突き進む(それ)は二本の矢だ、ただの矢じゃない。その悪どい性質をもった矢を俺は知っていた。


グラムを抜くことをやめる。矢じりの破片がもし誰かに刺さりでもしたら惨事を招く。俺は身をよじり

王女に覆い被さる。背中に鈍い痛みの感触が二つどれも背中に突き刺さった。俺は久しぶりに死を覚悟した。何でこの矢がここにあるのか?考える余裕なんてなかった。ベルセルク化が使えない死が間近にある恐怖と似たものを感じていた。


慌てて聖騎士長が矢を引き抜く、役目を終えた矢は砂となり形が崩れて消えた。傷はベルセルク化をもってしても再生が遅い。聖騎士長も矢の事を知っていたのだろう渋い顔になった。


「なぜ人間界にこれが…神殺しの骨矢なんて代物…魔界の武器だぞ!?」


俺はギリギリのところ急所はずらしたらお陰で死にはしないだろう。ベルセルク化も回復が遅いだけで機能はしている。神殺しの骨矢、名のとおり神すら殺すと言われる矢だ。毒薬が塗られてるわけじゃない。矢そのものに呪いの類いがかかっていて射たれれば数日の後必ず死ぬ呪いの矢である。神の権能や回復魔法をもってしても治すことは不可能で当たれば確実に死ぬのだ。だがしかし呪いの効果を俺は打ち消す事ができた。


聖人の遺骸…聖ニコラウスの左手、呪いの魔力も威力が弱められている。体の呪いも左手のお陰で死ぬことはないだろう。左手が呪いを吸収してベルセルク化でゆっくりと治癒するのを待つか。


「もう手遅れか…」


それでも激痛に耐えられずこの場で気を失った…またかよ…























「よう化け物、調子はどうだい?」


「ここは?檻の中のように見えるが?」


「ご名答、地下牢だ」


床の石が頭を冷やしている。真っ暗な中でも目がなれるわけでぺローが一緒にいるのがわかった。


「おう…帽子とかは?全部没収されたらただの野良猫みたいじゃねーか」


「牢屋は寒くて辛いわ~服くらいくれよな」


猫と俺、薄汚れた白いシャツと半パン…囚人の格好で閉じ込められている。


「今日中に目が覚めて良かったな、どうやら俺達な今日中には殺させるらしいぜ」


ぺローの衝撃的な言葉で頭がいっきに覚める!!何だって!!殺される!?


「殺されるって俺達が!?どういう事なんだ!!ミカサはどうなってる!?」


「1つずつ説明しても言いかな?」


公式には俺達は死んだことになっているそうだ。ミカサも俺とぺローが何者かによって神殺しの骨矢を受けて死んだと。俺とぺローは密かに処刑されることが評議員達がくだした決断だそうだ。なぜか?魔王側の魔物が俺達が暴れた日に城に紛れ込んだ。そいつが王女暗殺を企てているが誰が暗殺者かわからない。紛れた魔物は実は評議員の数人と入れ替わり

王女を守った俺達は邪魔物として排除するつもりなのだろう。評議員の判決は絶対。処刑は行われる俺とぺローは王女に剣を向けた犯罪者になっていた。


「あくまでも俺の予想だが魔法で化けるなんてお手のものだからな…スパイしてたころもそんな訓練してたやつ知ってるし」


「おかしいと気づくやつはいないのか!!」


「聖騎士長もお前がここに幽閉されてるのを知らないんだぜ?死んだと思ってる。お偉いさん達が治療するといってここに閉じ込めて皆にはダメでしたって情報流せば終わりよ。このまま放置して神殺しの骨矢で死ぬことを期待してたみたいだけど死なないところをみて直接首をぶった切るんだと」


神殺しの骨矢で死なない俺を警戒して事情を知ってる奴には死んだと嘘の情報を流し他のお偉いさん方には女王暗殺を企てた奴だと濡れ衣きせて俺達を殺し、もう暗殺者はいないと安心させ王族殺してずらかるのが今回の作戦ってところか。


「階段を下りる音…複数、どうやらお迎えが来たみたいだな」


兵士が数人、檻から俺達を出して裏門から人気のない河川敷まで俺達を連れ出した。真夜中の河に人はいないもんな。でもここで殺したら他の評議員に怪しまれるだろ「なんで広間の処刑台ではなく人気のない河川敷なのかと…」もしかして奴ら…


「まずはお前からだ、王に背いた非国民め!!」


何も知らない彼らにしては俺は暗殺者で魔物の仲間と思ってるらしい。恨みはないが悪く思うなよ…


「フン!」


首を木型にはめられはしたがそれで縛れる訳もなく難なく脱出し…


「悪く思うなよなー!!」


「うぎゃー!!」


「助けて!!」


「うがっ…」


数人いた兵士を絞め落とし…無力化させる。ぺローが重たそうなロング・ソードを身に付けてた兵士から引き剥がすが少し振ってやはり重たいのか河原の砂利に投げ捨てた。俺は首を跳ねるのに使おうとしたバトル・アックスを拾い上げて刃先をまじまじと見つめる。


「やめとけ、室内で振り回すなら邪魔になる」


ぺローは室内で戦闘になるのがわかってるように俺にそう言った。


「何で室内で振り回すことになるってわかるんだ?

このまま逃げるってこともあるだろ?」


「ふん…お前のことだ。誤解を解くまでどこにもいかないさ、それに何も終わってない。どいつが評議員に化けたか知らないがきっと今頃は王の寝室にナイフを口に加えて向かってるだろーぜ」


ぺローは兵士の懐を探りダガーを見つけて取り出すとそれを宙に軽くポーンと投げた。


「お前の言うとおりこんな人気のないところで殺すのはたんに邪魔物は兵士に始末させといて王族をその間に殺して脱出して「結局自分達は騙されてたんだ」で締めくくるためだろうな。王女が危ない!」


俺達が厄介なんだ。公で殺さないと他の評議員は怪しむし、それだとミカサや聖騎士に俺が生きてたってバレるし何で殺そうとしたか評議員を問い詰めるだろう。そうすれば暗殺の機会がなくなる。最悪正体がバレることもあるかもしれない。それで影で殺すことにした。他の評議員には俺の死体が見つかった頃には王女も殺され暗殺者も逃げてる。


俺はロング・ソードを拾い上げると真っ直ぐ城に向かって走り出した。城までの道のりは真夜中が幸いして誰にもバレずうまく城までたどり着いた。


「城門には当直の衛兵が二名…魔法や魔力を発する物で侵入しようとしたらブザーって魔法が発動する仕組みだったはずだ」


「なら衛兵二人をどうにかして正面から入りますかどうやらそれが確実みたいだし?」


「俺は左をやる。ユウは右を」


「了解、うめき声あげさせずスピーディーにな」


俺達は影に隠れ、闇となって衛兵に襲いかかった。


「ピンポイントショット(蜂の一刺し)」


ぺローは瞬時に衛兵に的確な一撃を食らわせ無力化した。俺は…


「なかなかキツいだろ…な?」


締め上げてそのまま泡吹いて衛兵は倒れこんだ。うまくいったな!このままなかまで直行だ!


ぺローの案内ですぐさま王様と妃様の寝室にたどり着く。通路を向かう途中誰とも出会わなかったのがラッキーだった。


「ソナー」


魔力の反応は二つ…二人ともベッドで寝ているようで魔力を感じる。無事のようだ。


「王女のほうへ向かうぞ!」


ぺローが弾かれたように走り出し俺もその後に続く何度も角を曲がり階段を下がったり上ったり…王女の寝室まで続く廊下に出た。


「ここから先は誰に会ってもまずは切りかかれ…敵は変身に長けてる奴だろうから…」


「そうだな、魔力の反応がいくつかある…多分ビンゴだな。慎重に進んでるようだ」


この暗い廊下の先、いるんだ。恐らく、暗殺者が。

俺達は突っ走る。


「キャー!」


「しまった!」


廊下にいたのはメイドが1名、剣を持った俺達に出くわして腰が抜けたのか座り込んでガクガクと震えている。真夜中にこんな武装した怪しい男と魔物がいたら誰だってこうなるよな。


「あの~大丈夫ですか?怪しい人じゃないですよ…はい…」


そう言って手を差し出すが…


「ユウ!このバカ!」


先にぺローが跳ねてダガーを深々とメイドの胸に突き刺した。素早くもう片方の手でメイドの断末魔を口に手を置いて塞ぐ。ガクガク震えていたメイドはやがて床に赤い染みを作って息絶えた。


「ぺロー!何しやがるんだ!人間の可能性だってあるんだぞ!」


ぺローはため息1つ上げて説明し始めた。


「いいかよく聞け、照明器具が付いてない廊下に!

これまたランタンも蝋燭も持たずメイドがうろちょろしてるわけないだろ!」


そう言ってぺローはメイドの死体のスカートをめくり上げ、履いていたパンツをずるずると脱がした。


「だからなにやってんだ!」


「人間って尻尾あったっけ?」


確かに悪魔を連想させる先端がハートをマークの尻尾がつていた。それからぺローは服をダガーで切り裂いていくと背中にはコウモリのような羽が小さいが確かについていた。


「人間に羽ってあったっけ?」


「う…」


「いいか、廊下で出会ったやつは誰であろうが切りつけろ!!いいな?」


「了解しました…」


それから廊下をさらに進むと入口が見えてきた。音はしないが…かすかに扉が開いている!?


「王女様!?」


部屋の端に警備をしていた衛兵だろうか?首筋から血を流し倒れている。ベッドの方に目をやる。謎の二人組の男が女王の指先を矢で傷をつけていた。間違いない神殺しの骨矢だ。矢が刺さった状態より意識不明のほうが逃げる時間を稼げるからか?


「ブリンク!!」


突然部屋にケットシーと男が入ってきて動揺してかそれとも目の前にいきなり現れたからか。二人組は反応出来ずに俺が力いっぱい振り上げた剣で首と胴体がキレイにお別れするはめになった。


「王女様!?聞こえますか!!」


返事はない、ただうめき声が苦しそうに漏れていただけ、顔色も随分悪い…もしかしたら…


「ユウ!上だ!」


ぺローが素早くそう叫ぶと同時に俺の真上、天井に向かってダガーを投げた。天井には確かに(何か)

がいてぺローのダガーを避けて襲いかかって来る。

ダガーはコンッ!という軽い音をたて突き刺さり、

黒い影が覆い被さるように落ちてくる。俺の上、真上。赤い瞳…それだけが見える、光って見える。


俺はロング・ソードを赤い瞳に向かって投げる。それは当然避けられる。そこまでは俺も読んでいた。


「ブリンク!!」


俺は赤い瞳の後ろに現れる。右手でロング・ソードを左手で天井に刺さったダガーを引き抜くと体をねじり、回転して右手のロング・ソードは赤い瞳の何かを確かに捉えた。暗い空間に鮮血が舞う。


「ぐっ…!!」


くぐもった声、俺は追撃を止めない。魔力をダガーに込めた。魔力を帯びたダガーを赤い瞳に投げた。

しかしそいつは易々とかわす。標的を失ったダガーは窓ガラスに当たり貫通し、破片を外に撒き散らした。その時魔法が発動する。


ビービービービーッ!


窓にかかっていたブザーの魔法が城中に侵入者を報せる。けたたましい音が静粛に包まれていた闇を貫いた。


「もう少しすれば応援が到着する…もう終わりだ」


素早くライトの魔法を発動させる。相手は急な光に手で光を遮り辺りを伺う。寝室に一陣の風が吹いた

俺には…まぁ猫耳しか見えなかったが。


ガギン!!


火花が散る、赤い瞳はエストックで駆けつけたミカサの刀を受け止める。赤い瞳はフードで全身をスッポリと被っており姿は見えずフードの隙間から腕を出しているだけだ。その手は以上なほどに白かったまるで血が流れていないような。


「何者ですか?」


「知りたい?」


「黙ってな!!」


ぺローが死角から現れ、フードを殴り付ける。


「ピンポイントショット(蜂のー刺し)」


殴り付けるとフードが異様な角度にぐにゃりと曲がりやがて重力に従って床に部屋のフードが落ちた。

本体がいない!


「うっ!」


左手に氷を置かれたかと思ったらやけに青白い手が腕をガッチリと掴んでいる。握力もか細い腕の割に力強い…


「変ね?血が奪えない」


軸足を回転させ右手を手刀、シルフの鋭い風を纏い敵の喉元を切り裂く。よろよろと数歩後ろに下がると傷口を抑え笑う。人間じゃないのはわかる、二本の牙を覗かせやけに青白い肌、髪は肌より更に白く目は切れ目、赤い瞳…


「この魔物を恐れずいきなり決定打をあたえる冷酷さ、私も凍りつくその眼光…素敵♪」


その時ぞろぞろと騎士が集まりその中にクラウザーと聖騎士長の姿もあった。


「女…王女殿下に何をした!」


激昂したクラウザーの一言、握る剣はわなわなと震えてクラウザーの怒りをよく伝えていた。


「お前…ヴァンパイアがなぜ人間界にいる」


「聖騎士長さん?今は貴方とお話しする気分じゃないの」


「王女殿下に何をしたと聞いてるんだ!!」


「うるさい坊や…神殺しの骨矢で指先をちょっとちくっとしただけ。騒がないの!」


うんざりしたように説明したあと俺の左腕を見直すと少し驚いた表情を見せた。


「マーキングが消えかかってる?」


「はぁ?」


左腕を見ると確かに痣のようなものがあって段々と治癒していた。


「どうしよっかなー同族にして連れて帰るのもありだし…でも仕事山積みでにゃんにゃんしてる暇もない訳だし…ここは諦めるけど印も付かない…こうなればあれか…」


突如体がコウモリとなりそれが俺に向かって取り囲む。ミカサは何とか救おうと飛んでるコウモリを片っ端から切り落としていく。それでも数は多く意味を成さない。


闇の中、俺は見た。あり得ない事だが目の前に確かにいるのだ。会いたかった。会えるはずのない人物が闇に際立つ白い羽が…


「ユウ!戻ってこいや!」


ぺローの叫びもただただ空しく響かない。

















「ここは?」


「ユウさん…」


闇の中に体の周りは不思議と光ってるように目立っていた。赤い瞳の女とは違い温かみのある白い素肌そして羽毛はふわふわと雲のよう、笑顔は正しく天使…


「ユリネル?」


闇の中、佇むユリネル。両手を広げ俺を迎え入れる

でも俺は抵抗する。いるはずのないユリネル、恐怖心が俺を踏み止まらせる。


「来て」


甘い一言、光に誘われる蛾のごとくふらふらと近づき指先が触れるか否かギリギリのところでまた立ち止まる。


「さぁ、抱いて」


俺の中で何かが崩れた。気を付けるべき何かが。それが何であったか忘れた。もうどうでもいい、ユリネルがいればそれで…思考がユリネルに支配されていく。


いつの間にか俺はユリネルを抱き締めていた。ぎゅっともう離れないように。


「ふふ♪痛い…かな?」


夢中だった。指先で体を撫で確かめるようにして抱く。ユリネル以外に他、何も入ってこない。


「ねぇ…キスして」


俺はユリネルの顔を見る。笑顔はよりいっそう輝き闇がユリネルを太陽のように中心に光が広がる。

艶かしい、いつものユリネルにはない危険な色気に完全に当てられてしまった。


「したいんでしょ?早く…」


戸惑う…ここに来て大事な何かを思い出そうと必死になる。何だったか…大事な何かを…


「キス…」


ユリネルは目を閉じ、俺に顔を向けて待つ。欲しいユリネルが…大事な…大事な…大事な…


「ユウ!出てきてください!!ユウ!!」


コウモリはやがて黒い球体となりユウを完全に取り込む。球体は固く決して砕けない。ミカサは何度も殴り付ける拳も血が滲み雫がポタポタと落ちる。


「王女殿下…まずい、みるみるうちに衰弱していくこのままでは…救えるのは恐らくユウ殿だけ」


神殺しの骨矢を受けて生き残ったのは歴史上彼だけ救えるとしたらそれも…


「くっ…!」




















目と鼻の先にユリネルの顔がある。ここでまた一言言われれば簡単に堕ちるだろう。少し背中を後押ししてくれれば脆く崩れ去るだろう。


「クソ!」


「ユウ?」


ああ、目が覚めたぜ…ミカサ!!


「ユウ?何を…!!」


俺の後ろ、見えないが…黒い空間が砕けている。そこから手が延びていて俺の背中に血だらけで固く握りしめた拳が確かに届いたのだ。


「心配…何ですよ…貴方は…!!」


ミカサは下を向いてはぁはぁと肩で息をしている。

ただ倒れそうなミカサを俺の後ろに置かれた固く握りしめた拳が支える。それに俺も支えられる。


「ああ、そうだな…」


「隣にいないと…すぐ私を置いていく…!!」


なおも下を向き続けるミカサ、前髪が垂れ下がりその隙間から血とは違う…雫が落ちていく。


「うん、ごめん…」


「側にいて欲しいとき…貴方が!!いない!!でも…泣きそうになるといつも来てくれる…」


ミカサがどんな顔なのか見えないけど俺にはわかる

ミカサがあけた穴から光が漏れる。


「そう…だったのかな」


「ユウっ!しかりして!!私を見て!!」


ユリネルは両手で俺の顔を挟み込む。何かを懇願するような。捨てられた子猫のような。


「今度は…私が…!!私が支える!!だから行けー!!ユウ!!

そんな過去にとりつく亡霊…振り払って!!」


「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」


一閃…一瞬、まとわりつく闇を切り裂くようにロング・ソードでユリネルを切り裂いた。いや、ユリネルの姿で語るペテン師か…


「何でー!!どうしてー!!」


闇が砕け光が広がる。ヴァンパイアはのたうち回りながら窓際まで転がる。


「一番愛しい女が!お前の望む形で出てきたはず!

なぜだ!!」


球体をミカサが砕いたときに術として成立しなかったんじゃないのか?


「わかってないですね、私が球体を砕くことが出来たのはなぜか…」


愛の力だーとかほざくのかな?人前で恥ずかしい人ですねほんと。


「それは私がユウの一番愛しい人と言うことですね理解しましたか?」


訳のわからん張り合いを見せてきましたね~俺の中ではなミカサ、お前は10割嫌い♪


「ぐっ…いつか必ず奪うわ…この聖都が魔王様の手に堕ちたとき…それまで預けといてあげるわ!」


ヴァンパイアは無数のコウモリとなり夜明け前の空に消えていった。それより事を急ぐのは…


「ユウ殿!脅威はまだ残っているんです!王女殿下をどうか!」


俺の見立てでは数日の命、俺の命を使って救って見せるさ。大分と危ない賭けだけど。


「どうすれば?」





















まず、俺の聖人の遺骸を王女様に取り込ませる。体の中の呪いは自然と薄まる。だが完全に消え去る前に王女様の体が持たない。そこで、冥府の魔魂とベルセルク化がある俺が王女様の呪いを取り込む。


「そんなことをすれば君は!!」


王様とお妃様も来て俺が王女様の治療にあたる。

自分ができるであろう最大限の努力を…


「王様…大丈夫です、これでも冒険者。危ない橋は何度も渡っております。それにこれで死ぬとしても王女様の命をお救いして死ねるのなら本望、これより名誉なことはございません」


この場の皆から散々誉めちぎられる。俺としては死ぬ気なんてこれっぽっちもございませんのにねー!!


呪いを体に取り込む…体から力を吸いとられているような気がする…


「娘は大丈夫なのか!?」


「はい、心配いりません。よくなります」


「それはユウ、貴方もですか?」


ミカサの胸を刺す一撃…俺は笑顔を崩さず


「おう!!バッチリよ」


と思わず答えた。その時王女様の意識が戻った。


「お父様?お母様?それに皆様集まってどうなされたの?」


その場にいた皆が喜びを分かち合う。お互い抱き上がって喜んだり今年の笑いを全て使いきる勢いだった。俺は王女様が無事であることを確認するとこの部屋から立ち去った。


長い廊下を歩き階段を下り、長い通路を曲がり人目を避けて裏庭だろうか?花が一面に咲き乱れる綺麗な庭園に出た。ふらつき石畳の床に倒れこみそうになった。


「あらよっと」


囚人服の裾をぺローが引っ張ったお陰で一瞬止まったがそれでもぺローの体重の前では無駄だった。


「おっとっとっとっと…あ…」


今度はミカサが支えてくれた。情けない、今度は俺が支えると言った手前これだからな。


「へっへっ…悪い」


「悪いって言う内に入らないですよ」


「旦那さーん!!」


通路の奥からニーナが手を振ってやって来た。もう俺、ダメかもしれない…やせ我慢が頂点に達した。


「ごほっ!」


その場で血を吐き出しうずくまる。呪いが俺の体を蝕み始めた。聖人の遺骸がなければ俺の体は二日で死ぬって計算だった。それを越えるとベルセルク化でも生命が維持できず死ぬ。


「「「ユウ!」」」


皆駆け寄って来るが俺は出来るだけ心配させまいと

笑顔を崩さず笑いかけた。


「大丈夫だって言ったろ?悪いけどさ、二日間ほどここは立ち入り禁止にしてくれ…飯も何にもいらない。使用人から王様まで全員だ。頼んだぞ…」


「ユウ…」


「ごほっ!ごほっごほっ!」


三人は何度も振り返りながら苦しむユウを置いて立ち去る。


「何で一人がいいなんて…」


「ぺロー、彼を見て思いませんか?」


ぺローは不思議とミカサの顔を見るミカサは真っ直ぐ正面を見据える。


「彼は決して人前で余り弱さを見せない。私達があそこに居続ける限りユウは強がりを止めない…ユウから言い出すなんてよほど追い詰められてるとしか…今回はそっとしておくべきです…」


「それがどんな結果でもかにゃ…?」


ミカサは答えない、少ししてから一言だけ。

「信じるしかない」と…


















一日目、

苦しみ続けた。痛みなんてもんじゃない。もう訳がわからなくなってくる。夜は随分寒く感じられた。

そんな中、花を見れば救われる気がした。王女様の容態はよくなっただろうか?そこが気がかりだ。


















二日目、

今日は朝から雨だ小雨が朝方から降り始め容赦なく降り始めたのは辺りの空がより一層暗くなったときだ。俺の周りの水溜まりだけやけに赤い。体の半分の血は流したんじゃないかと思うぐらい。痛みはなくなり体の感覚が奪われる。次第に目も見えなくなり、音も聞こえない。花は雨に打たれ散っていく。

哀しかった。ついには舌が痺れる喉がいたい。声が出なくなっていく…俺は最後に口を開いてみる。口パクでまるで釣られた魚のように動かした。ただ一言だけ…この世に残していくことにする。


























三日目の朝、雨は止んだ。ミカサはあてがわれた城の一室から飛び出して階段を下りる。太陽はまだ昇っていないが空は明るい。鳥のさえずりが聞こえてくる。長い通路を曲がりやがて裏庭が見えた。一人の男が横たわっている。急いで駆け寄る。


「ユウ?」


返事はない


「ユウ?」


ユウの側にしゃがみ、顔を覗きこむ。やけに青白いヴァンパイアの女のような肌。まるで精気を感じない。呼吸音も聞こえない。返事もまたない。


「ユウ?」


揺すってみる。力なく揺れるだけ、左腕はないし、右腕がぶらぶらとまるで風に揺れるブランコのようにミカサに任せて揺れる。返事はない。


「ユウ?」


今度は力強く揺さぶる今度は頭も首がしっかりしてないのか、かくかくと操り人形のように揺れる。

返事はない。


「…」


地べたに頭を直接つけてるのが痛そうなので膝枕をしてやる。いつもは文句を言って飛び退くはずが大人しくピクリとも暴れない。瞼は閉じ、眠っているようだ。


「……」


髪を撫でてみる。雨に濡れてまだ乾ききっていない

朝露のように水滴が赤い水溜まりに堕ちる。太陽の光が照らし出しクリスタルのように輝いていた。


「………」


子守り歌を口ずさむ、母親がよく眠れるように毎晩歌ってくれたものだ。曲名は忘れてしまった。歌詞は少ない。聞くと落ち着けて毎晩母親にせがんで困らせたものだ。自然と耳に残り今でもふとしたときに口から出てしまう。


「…………」


自然と涙が溢れたユウの顔を見れない。1つまた1つとユウの顔に当たってはこぼれ落ちていく。視線は何を見るわけでもなくボーとしていた。何も考えたくないと言うより何も考えられなかった。


「~~~~~♪」


何も考えられなかったが口は自然と動く、歌い続ける。鳥のさえずりと子守り歌以外に音はなくそれが

嫌だ。こんなに近くにいるのに息の吐く音もしない恐怖。


「……」


歌が終わると恐怖心にかられる。


「ユウ?」


音がない恐怖に負けてまた声をかける。力強い心臓の脈打つ音がいとおしく、また祈りは届かず。


ニーナとぺローがそっと駆けつける…恐ろしいほど静かな庭で二人だけ。なんの会話もない二人きり。


二人も駆け寄り横たわるユウを囲む。誰も声を上げなかった。泣き声1つあげなかった。弱りきった男をただ「おはよう」と言ってくれることを待っていた。大きくあくびをし、立ち上がって振り向いてそして笑ってくれることを待っていた。しかしユウは動かない。



















ここで沈黙を破ったのは…誰でもない。この世界で恐らく唯一空気を読みたがらない…そんな男。


「皆の鼻息かかるから覗きこむなや(怒)」


ここにいる猫三匹は斜め後方、二メートルほど飛び上がった。

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