絶望からの逃避行
「殺るぞ…ここで奴と戦う。わかってるだろ」
これはぺローの意見であって俺の意見ではない。
ノームの技で穴をほってその上に枝を被せて木の葉を撒き散らす。わかるだろ、無意味なのは…
「いつまでも逃げれないだろが!!きっとひっかかるはずさ!!」
「穴に落ちたらユニに乗って全力疾走する…はぁ…ほんと予定をことごとく邪魔してくるなあの女!!」
ミカサの接近にいち早く気付き落とし穴を掘って待ち構える…このスピードはミカサとみて間違いないだろう。
「そもそもこんな罠ひっかかるわけ…」
ドッコーン!!
「えー!?嘘ー!?」
なんか落ちた!!ミカサがか!!間抜け過ぎるだろ!?王国最強が聞いてあきれるわ!!
「今だ!埋めろ埋めろ!!」
おい…仲間でしょ?止めとばかりに穴に土をかけるぺロー…おそらくだがな無駄…だと思うぞ。
「こんな姑息な真似しか出来ないのですか?」
「フギャー!!」
ぺローが飛び上がった!それはもう俺の身長より高く…声は俺の後ろからかけられたものだった。はまってすぐに脱出したようだ。ゆっくり振り替えるとまぁ…ご想像通り…
「ミカサ~(涙)」
「会えて嬉しいですか?」
何言ってんだよお前~!ついてくるなよー!!くーるーなーよー(涙)
「お前がいなくて魔物が攻めてきたらどうする!戦闘街を通過せずに聖都に攻めてくる方法だって敵は持ってるのを知ってるだろ!?」
人類にとってミカサはどれほどの戦力か、魔法がなければ俺が瞬殺されるレベルだ。今ミカサがセレーネ王国を離れることがどれほど危険なことか…
「知りません、私は自由です。ですが貴方は私より強い、命令したらどうです?力でねじ伏せれば」
ひがむな~!また俺を悪者扱いかよ!!
「お前は自分の立場をわかってない!」
「そんなもの気にしたことなんてありません」
「だからーわからない?旅のお供は俺だけで間に合ってるんで(むぎゅ)」
ぺローは顔面鷲掴みされてジタバタ暴れているがぺローのにくきゅうはミカサに当たることはなかった
。そしてぺローを掴んだままずんずんと間の距離を詰めてくる。怖い!
一歩迫ると二歩下がる…それの繰り返しでとうとう背中に木が当たり、逃げ場を完全に失った。
「アワワワワ…」
てんぱってまいりましたよー!!魔法使えば動けなくすることも可能だが二度も同じ手が通じるか?俺が魔法をかける素振りでもみせれば簡単に見破られ接近されるに違いない…
トンッ…
ミカサの胸が当たる…顔が間近にある。視野の端ではぺローが暴れているが俺はミカサから目が離せられないでいた。目を離したらなにかされそう…その「なにか」はおぞましくて想像したくない。
ふっ…震えが止まらん!冷や汗やべー!ど、どないしよう!こっこのままでは!
「ナンデショウカ?」
あかん!片言になってきた!動揺してるのがまるわかりではないか!ミカサは俺の手を取ると自分の頬に置いた…あ、暖かい♪じゃないわボケ!!
「私の肌に触れることが出来るのも…勿論貴方だけなんです。暖かいですか?私も血が通った獣人なんです。心配なんです、これ以上勝手されると」
顔色一つ変えず淡々と話を続ける。恐ろしい!何が恐ろしいかって?握ってるぺローがもう動かなくなっていることにだ…
「あのーぺローがさ、ヤバイぞ」
ぽいッ!
「おい」
完全に気を失ったぺローは綺麗な放物線を描いてミカサをはめる落とし穴に落下した。
「えーと…ミカサさん?あの…」
ミカサが俺の腰に手をまわしてるよ?そのままぐいっと密着するように引き寄せられる。おいおい何始める気なんだい!?止めてくれー!!後ろは木が!目の前には天敵ミカサが!絶対絶命ではないか!
「俺にそんな気はない!」
「何を期待してるんですか?」
顔がね、肉食獣の目をしてらっしゃるのね、これは滅多に体験できるものではないけど出来ればしたくない方に入るんじゃないかね?
「おかしな真似はするな、怪我するぞ」
「勝手はだから困りますね」
こうなれば逃げるしかないがユニは?その時ユニが落とし穴に飛び込むのが見えた。そうか、あとは俺だけか…
「のらりくらりと暴れて逃げ回るのが俺なのさ!お前と同じで束縛なんて大嫌いなのさ!!」
困惑するミカサにニヤリと笑うと魔法を発動させた。悪いがお前は連れていけない。
「ブリンク!」
いったが最後、ミカサの前には何もなく空間だけが残っていた。
「魔法、ですか?こんな奥の手を隠し持ってたなんて…そう遠くは行ってないはず。追いかけますか」
ぶつぶつ呟いて颯爽とその場から消え去った。ほぼ瞬間移動だろあれ…
「もう土を退けてくれていいぞ?」
「もういいだろ」
穴の底からユニとぺロー、そして俺が飛び出す。
「ノームで土被って待ってたのに覗きもしなかったな?まぁ見てもばれなかったからいいんだけど」
「この先にまだミカサがいるんだよな?」
「あいつも出会わないなーと思いつつもそのまま聖都まで行くさ」
俺の行動があいつによって制限されるとは…仕方ないか。
「聖都まで割と距離があるからゆっくり行こうか」
「ここで今日は寝るのか?」
「そうしよう、寒いけど火は煙が出るから却下だな寒いけど我慢しよう」
そう言って道の端でぺローと寝転がるとユニがやって来て俺達の上にちょこんと座った。暖かい…
「俺、こいつ好きだ」
「ん?まぁ女がらみでなかったら基本こいつは良い奴なんだ」
ユニは何も言わずそのまま眠った。俺は魔方陣を仕掛けると軽く眠ることにした。
聖都を目指して3日、途中小さな村をいくつか通ってきた。見えてきた光あれか…
「あれが聖都だ。元スパイが言うんだから間違いないだろ?」
地平線の先、明るい光がいくつも見えた。見るからに大都市そうだ。
「おー凄いな」
都を囲むように大きな河が流れている。船を使った貿易も盛んなようで大きな商船が沢山停泊していた
。近づくと大きな橋が見えた聖都に入るためにはこの大きな橋を渡るらしい。大きなアーチ型の石橋だ横幅は十人がいっぺんに渡れるほど大きかった。
その両脇に哨所が建っていて、哨所の上には光球がふよふよと浮かんでいた。
「ライト系統の魔法だな。この街にはいたるところにあれがあるのか?」
「そうだよ?魔法使いギルドもあるからそこの人たちがかけた魔法じゃないか?」
余程の数が聖都にはいるらしいな、他の街では珍しい職業なのに。哨所の警備兵はみんな立派な武装で
俺の皮の鎧を見てちょっぴり恥ずかしくなった。
いいもん、お金あるけど気に入ってるからこれでいいもん。欲しくないもん。剣はいいの使ってるもんだから羨ましくないもん!
彼らの装備はハーフプレートメイルをフル装備、胸には聖都の王家の紋章か、何やら絵がついてるがよく見えなかった。頭には優雅な羽飾りの兜、腰には立派なロングソードをさして近づいてくる俺達はそこで俺達の足を止めた。
「聖都に入られますか?」
勿論そのつもりで来たんだが…
「そうだけど、何か問題があるんでしょうか?」
俺達が緊張してるのを察してか丁寧にわかりやすく説明してくれた。
「もう夜ふけですからね、調査が必要になります。
身分を証明するものをお持ちですか?」
そう言うことね、てっ言っても証明するものは…
「これでどうですか?」
腕をつき出す。警備兵の人はぺローと俺の腕輪を見て色々カチカチ押してなんか見てる。
「冒険者の方ですね…えっ、ユウさんですか?」
「そうだけど、名前の確認か何かですか?」
「話はかねがねうかがってます。商人の行方不明事件の解決、そして魔王軍の追撃作戦の功労者。ミカサ・アオイも一目置くほどの人物!」
妙に熱が入ってまいりましたね~、そこまで聖都で有名になってたとは知らなかったじぇー
「お連れのかたは…少し変わってますね?ユニコーンの場合生きた魔物は聖都には入れないのですが」
本来ユニコーンは危険な魔物だからな…でもここで
野生に放ったら狩られることになるだろう…
「ユニコーンじゃないんですよ、実は!!角に見えるのは戦闘用に作られた角型装甲なんです!魔物にも怖がらず勇敢に立ち向かうんですよ!!ハハハ、ハハハ…
偽物です!」
俺が無理やり言いくるめて入れることとなった。ユニめ、感謝しろよ?
「あーかっこよかったなー」
「あの格好がか?」
俺は何回も頷く。
「お前にはわかんねーだろうなー、あれだけの装甲が厚い鎧を着て機敏に動くのは大変なんだぞ?」
ぺローはニコニコしながら答える。
「そんなことないぜ、ユウのほうがよっぽど強い。
あの鎧にはね、軽量化の魔法がかけられてて、軽いんだ」
「それでもさ、カッコいいじゃん羨ましいよ」
この橋には欄干にすら光球があってキラキラと輝いている。それにしても長いなこの橋…それほど大きな河ってことか。正面、山のようにそびえ立つ城門が近づく。夜だからか城門は閉まっているがそのとなりの小さな扉は開いている。城門にいる警備兵は
何も言わず、俺達を通過させた。
「おっあれは!街灯じゃないのか?」
広い大通りの両脇に長い棒が立てられその先端にあの光球が光っていた。俺がいた世界を思い出す。
大通りには大勢の人が行き交っている。こんな夜中に外に出れるなんてな。治安がいいんだな。
「お腹すいたー」
丁度その時俺のお腹も鳴った。恥ずかしいー!
「そうだな、どこか飲食店探すか」
この騒がしさで昼間と勘違いしそうだ。沢山の馬車は行き交ってるものの、馬に乗ってる人はそれほどいない。この大通りは歩行者のための道のようだ。
俺とぺローはこの場の雰囲気に着いていけずすっかりしおらしくなりながら人の間をユニを進める。
よく派手なドレスを着てる女性や見るからに戦闘用ではない色や装飾が施されたド派手な鎧を着た男性が照明の明かりでよく映えている。洗濯大変だろうなー…
「今日はお祭りみたいだね」
ぺローは俺の背中にへばりつきながら下を興味深そうに見つめている。祭り?だからか、大勢の若者や娘が、夜中に仲良く街を歩いているのか。別に祭りなんて俺達には関係ないか、他所から来たんだし。
聖都の娘達の髪の毛は金髪か褐色の髪らしい。髪の毛を結い上げたり巻いたりして精一杯のおしゃれをしているんだろう。だがおしゃれがわからん男、伊丹ユウはよさがわからない。着てるドレスだって脱衣場のかごに山積みになった服にしか見えん。布を適当に巻き付けたら出来上がりそうだ。
「ねぇねぇ!前方になんだか人だかりが出来てるよきっと何かの屋台だよ!!行こーぜ!!」
俺の背中ではしゃぐぺロー、周りの人達も続々と集合して何やら歓声が上がってる。気になった俺はソナーを出して人だかりの中心に何があるのか調べた。結果…
「違う道を行きましょうか」
「ん?どうしてだ」
見れば大通りの中心にあるデカイ噴水のある付近で人だかりが出来ている。そして人だかりの中心に一際知った魔力を感じたからである。
「俺の顔見てわからないか?」
ぺローは「あー…」て顔をすると横に外れる道を提案した。前方の噴水の人だかりの隙間から猫耳だけがぴょこんと覗いていた。
俺達も基本どこにいっても目立つことに気づいた。
「おい、あそこの男…」
「ああ、ユニコーンに乗ってるぜ!そんな芸当勇者でも無理だろ!?」
「それにあの後ろの…ケットシーじゃないのか?」
まぁー目立つわな、しょうがない。それが定めみたいなもんだろ。
看板を見ながら適当な宿に入った。物価が高いんだろうなーと腹をくくったが、予想に反して物価はそれほど高くない。宿代もそうだ、旅人が沢山やって来るから物は溢れかえり安い。凄く立派な宿でも手頃な価格で泊まれちゃう。ぺローは場所をとらないので個室にした。なんとこの宿、地下に浴場があるとのこと。俺は歓喜した。
「風呂とかバカじゃねーの!!毛繕いしろよ(笑)」
それが出来たら人間苦労しないの臭くないの。風呂に入るのを俺は飯食ってからにすることにした。ユニはさー勿論…
「(ここにきて仲間外れかー!!)」
「いや無理でしょ」
連れてけと暴れるがこんな目立つ輩は馬小屋に幽閉しとくことにした。ろくなことにならないからなこんな大都会で危険な魔物がうろちょろうろちょろとか悪い意味で目立つ。
それから俺達は飯屋を探すのに鼻を使った。良い店は鼻でわかる。ふらふらと光に集まる虫のようにある一軒の店に吸い込まれた。
賑やかで肉の油の匂いが立ち込めて…ジョッキのぶつかる音、祭りだからか沢山の人の笑い声。運良くカウンター席が2つ空いていたのでそこに滑り込むことに成功した。
「おっさん!!注文だ!!肉!!」
「俺も肉だ!!」
猫と若手冒険者の俺達を見て太陽より明るい笑みで答えながら
「運が良いなあんちゃんたち!今日は良い肉が入ってるよ!!ちょっくら待ってな!!」
「待つ待つ!!待ちまーす♪」
ふふ…俺達の鼻に狂いはなかった…
「では私は新鮮な魚料理で…」
俺達は右の席をそれはもう風よりも早く振り向いたのだ。聞き覚えのありすぎる声に体が反応した。俺達二人の顔はさぞ絶望に瀕した顔だった事だろう。
確か俺達が座るときには中年おっさんが座って酒のんでたはずだが!?なぜだ!!
「なんでミカサがいるんだよー!!」
ぺローの叫びだった。そうだ、その通りだ。なぜお前がここにいる。いつからおっさんがお前に化けたんだ!
ミカサはできるだけ笑顔で…
「いつでも私はユウの隣に…」
その一言で俺達は発狂した。




