時よ、凍れ
このままドラゴンと競争してもこっちが圧倒的不利になる。そもそも飛んでる敵からどうやって逃げることができようか?方法としては魔法を使うしかないか。
「戦闘だけは避けたい!大胆エルフちゃん!戦闘街の方角だけでいい、正確に!早く!」
俺に振り落とされまいと必死にしがみついている大胆エルフちゃんは早口に答えた。
「方向は…今の方向!あ!少し右…だと思います!
魔法なんて馬上で出来ないですよ!!」
俺はそこら辺にいる長ったらしい呪文を唱える魔法使いとは違うんだよ!揺れてる位で集中力がきれやしない。
「テレポート!」
光に包まれ一瞬で周りの景色が一変して険しい山道
から爽やかな風の吹く草原へと変わった。これにはユニも大胆エルフちゃんも驚いたようだ。ここには来たことのがある。まだ魔界だがここは人間界に近い始まりの草原だ。駆け出し冒険者が経験値を上げるのによく活用する狩猟場で、出現するモンスターもそこまで危険ではない。逃げ切れたか…
「魔法?逃げ切れたのですか?」
くそっ…体が…
「何ですか!?この大怪我は!早く治療しないと!!」
ユニも心配そうにその場で足踏みしている。何とか俺の様子を伺おうとして体を捻っているのだろう。
正確に距離を測ってないので体がズタボロになってしまった。3人分の傷をおってるんだ、死ななかっただけでもましなもんか…
「殺戮の凶刃…」
「ベルセルク!!」
頭は冷えている。傷はベルセルク化で難なく回復した。げー!死ぬかと思ったぞ!無理しすぎたな。
「傷が一瞬で治癒した!?」
「驚くのは後にしてくれないか…」
どうやらまだ終わってないようだ。しつこいね…だけどここまで来れば全力で戦える…勝てるとは言い切らないけど負けるなんてことはしないよ!
俺はユニから飛び降りる。グラムを引き抜き戦う準備に突入する。まさかまさかの展開だね誰もがこんなこと読めもしなかったろう。
空間に裂け目が出来てドラゴンか入ってくる。その数三体…よーく知ってるやつらさ…
「大胆エルフちゃん…逃げてくれ、出来れば援軍を連れて帰ってきてくれれば嬉しいかな…その時まで弱らせるか撃退させとくから…もし失敗したら後は頼んだ」
「何言ってるんですか!逃げますよ!早く乗って!
勝てませんよ!」
そんなことわかってる…でも殺すつもりもないし、向こうもそんな気はないだろう。
「行けっ!ユニ!」
ユニは駆けていった…よしいい子だ、帰ったらニンジンでもなんでも食わしてやるよ…
「あっ手綱握らせちゃったな…後で雷だなこれは」
軽く剣を振って体をほぐす。ドラゴンは逃げる素振りを見せない俺に確実に歩み寄ってきた。小さく見えた姿が近づくにつれて山のように見えて思わず見上げる。山が3つ迫ってくる。なかなか味わえない状況に今の俺は置かれている。
「よぉ…少しそっとしちゃーくれないかねクロア、
来るならベスティあたりかと思っていたけどな」
「別に、捕まえに来たんじゃない」
それは有り難いな…それで?なんでまだ追ってきやがったんだよお前ら!!
「それでビシャーズとテイムの用で俺んとこ来やがったのか?まだ殴り足りないかコラ」
二人はニヤニヤ笑うだけで何も言わない、殺気は見られない…殺すつもりはないようだ。
「散々な目に遭ったからな!飼い殺してやるよ!女王様にバレないよーにな!」
突如だった。二人の体が急に地面に沈んだように見えた。重力を発生させる能力だったわけじゃない…
クロアの能力は超高温の炎のブレスだったはずだ。
ゲートで一瞬で追い付いたのもそうだが魔法を使うなんて今さら驚きもしないけどな。裏切りか?
「どうしてこんなことするなの!」
「潰れるだろーが!!」
「黙れ」
ドン!!
ダメ出しの重力で二人とも気絶したようだ。ぐったりとして白目になっている。色々理解出来ないことが目の前で起こった。
「仲間割れか…?なんで?」
うんざりした顔で俺を見下ろした。ため息までついている。
「私一人が行くつもりがゴミ虫が邪魔なのについてきてな、面倒な連中だよ全く正直仲間なんて思ったこともないな」
「殺し合いをするつもりはないよな?」
「殺すつもりはないって?」
助けてくれたこともあるもんな、それで俺に何のようだって聞いてんだよお前…
「私を殺す強い男を待っていた!!」
軽く前足を振り上げ凪ぎ払う。地面がえぐれ、衝撃波がここまできた。
「こんなもので死んではいないだろ」
土煙に包まれていたが晴れてくる。地割れは俺の足元で止まり、俺の真横に地割れが逃げている。流してやったぞ。
「厄介な呪いだな」
俺は魔力の質を見極め、個人に合った魔力に変化させることができる。今の衝撃波の魔力、それはクロアの魔力ではなかった。
「魔法も使ってたのも所詮は付け焼き刃って感じだな、魔法使いなんでね、これでも」
「何を言って…」
「(気づいてくれ!!)」
ドラゴンに呪いをかけるなんて…何者だ…俺でもそんなことは不可能だぞ!?ドラゴン…
「ほう、ドラゴンにちょっかい出してる奴がいたよな、アスナを拐った奴な、同一人物か少なくとも同一勢力の仕業とみた」
敵に利用されるくらいなら死んでやると言うことか
この呪い、人には言えなくしてある。
「死ぬ必要なんてない、アスナのことで何か知ってるな?呪いは俺が解除してやるから話してくれるよな?」
沈黙するクロア…俺は寒気がいっきに走った。この殺気!!魔力が反転している、入れ替わるぞ!
「グアアアアア!!」
偽物アスナは昏睡状態になった。クロアの場合は…
「体内に流し込まれていた魔力を暴走させているのか?乗っ取られる!」
俺も体験した…混合モンスターに寄生された時、スライム型とイモムシ型のモンスターを合わせたものだったが…中枢神経を乗っ取られ操られるあの状態だ!!
「グアアアアア!!止めろ!!熱い!!体が焼ける!!」
「俺がいてよかったな、クロアの魔力に会わせてマジック・アタックで流し込んで異物を弾き出す!!」
冥府の魔魂から魔力が溢れ、体中を駆け巡る。魔力の質を変化させてクロアに合わせる。
「ウアアアッ!」
ふっ…
「くそ…」
コロン…
何されたか最初はわからなかった。胸から下が千切れ飛んでいく、ベルセルク化で即死はしないがすぐに回復しなければいずれ死ぬだろう。鱗の間から触手が現れ俺を二つに切ったのだろう
「回復が間に合わなければ、俺は…」
死ぬだろう。しかし魔力変換を今やめれば…
「進行が早い!一端回復する時間なんてない!」
上半身だけ、右手だけでクロアの元へ向かう。ズリズリとゆっくりだが着実に距離を積める。
「触れられれば…あと少しなんだ…」
「グアアアアア…」
精神悪化はまだ始まってない。もう少しで…
ふっ…
「ッ!」
メシャ!!
「ユウ様!!」
目の前に巨体が見えた…。黒い立派なドラゴンの姿を…
「来たのかよ…」
「喋ったらダメですユウ様!!エルビスに治療させますから死なないでください!」
「どうしたと言うんだクロア!!この触手はユウ様の時と同じ…アスナについて何か知ってるな?言えっ!
答えろ!!」
言っても無駄なんだ…操られていてとてもじゃないが何か言える状態じゃない…俺をクロアまで運んでくれ…魔力を流すから…
「あがぁ…ぐ…」
言葉にならない。魔力は溜まっている、後は流し込むだけなんだ。
「エルビスはまだか!?テイムとビシャーズのバカよりユウ様だろう…コクテン!手伝え!ベスティはエルビスを読んでこい!ジュロンはユウ様の側についてろ!指一本触れさせるんじゃないぞ!!」
「ユウ…様、なぜクロアはああなってしまったのでしょうか?」
今答えないと駄目か?死にかけてる俺に…まぁいい
ジュロン…お前に託すぜ…
左腕をジュロンに向けた。風を纏って宙に浮いている巨体に向かって狙いを定めた。丁度その時クロアの体に異変が起きた。
「グオアアアアアアア!!」
鱗を突き破り一際大きな触手が出現してグロリアを絡めとる。
「コクテン避けるんだ!!」
ブラックドラゴンのブレスは酸のブレスを吐き出す
のだが下手をすれば触手だけでなく、クロアも溶かしてしまうほどの威力を有していた。
黒双竜コクテン・ディアブロ、しかし体色は土色で黒色ではない、普段は無口な彼女。しかし怒りで我を忘れると黒色に変色し、凶暴化する。特殊な効果を持ったブレスなんてなくただ強い、全てを砕く突進こそ七竜神の中で一目置かれ最強とも名高いコクテン・ディアブロである。
「ふぅー…はぁー!!」
一息吸い込み吐き出す…吐き出す息は黒い…体もみるみるうちに漆黒に染め上げられる。
迫る触手も凪ぎ払い突進、クロアを組伏せる。
頑張ってくれているんだ…俺も貢献しないとな!!
喉が潰れんばからに声を張り上げる。
「コクテンさん!!押さえといてください!ジュロン!
これを風の力で撃ち込んでくれ!!」
叫ぶないなや左腕をジュロンに聖人の遺骸を撃ち込んだ。左腕がまた無くなって寂しいぜ…
ジュロンは爆風を起こし俺の左腕はクロアの胸に深く突き刺さった。
「グアアアアア!?」
触手が抜け出して地面にのたうち回る。巨大ミミズのような触手型モンスターがうねうねと動き回る。
「うううう…どうなったんだ?」
「クロア!!戻ったのか!?」
抜け出しただけでまだ生きている今度はグロリアに向かって走っていった。俺はすぐさま傷を回復させジュロンと援護に向かう。
「大丈夫ですよこんなもの溶かしますので」
グロリアのブレスを浴びて触手は一瞬で悪臭を放ちながら蒸気となって消え失せた。
「クロア、色々話して貰うことがあるが竜の国でだ。ここは人間界に近い、エルビスのゲートが向こうにある。早く行くぞ」
「グロリア様?勘違いしないでもらいたい」
そう言いながらマジック・ミサイルを次々とグロリアに放った。最初の数発が命中しグロリアは動かなくなった。
「グロリアー!!」
「クソー!!」
「止めろジュロン!!避けるんだ!!」
俺の言葉で正気に戻るのが遅すぎた…浮いていた真下の地点から青白い炎が吹き荒れジュロンの体を焦がす。ドラゴンには火耐性だけでなく色んな属性に耐性を持っている。それでも防げないほどクロアの
炎は火力が高かった。コクテンもその炎の餌食となるが耐久力も他のドラゴンの比ではなかった。
「何とか耐えたか流石だがここで終わりだ」
渾身の突進、大地を揺るがす恐らく今コクテンが出せるであろう最大の一撃を易々と受ける。
「軽い!!こんなものなのか!?」
投げる!!そのまま巨体な漆黒の体は宙を舞い地響きをたてて地面に落下した。
「さてこれで動ける者は誰もおらん」
「何のつもりだ」
完全に回復した俺はたたずみながら真っ直ぐにクロアを見つめ問いかける。期待した答えなんか帰ってこなかったが。
「勝負の途中であったろ?殺し合いの螺旋の始まり始まり~♪」
ふざけてやがんのか?この状況で?イカれやがってゲンコツで終わると思うなよ…
「自分が何したかわかってるのか?」
「そうそうわかったうえでの今だ、存分に楽しもうじゃないか?」
息巻いて興奮するクロア、呪いが発動したんじゃない。クロアもタマと同じ失敗作、クロアをベースに魔法、能力の底上げを施しさらに寄生体で暴走させることができる。その結果不安定なドラゴンに変貌してしまった。
「誰にされた」
「誰だろうといいだろう?力を手にいれた…それからうんざりする毎日だ。お前と言う起爆剤がなければいつ暴れだすかわからなかったよ」
人格も多少なりといじられてるな。罪悪感がなく、
正常な判断がまるでつかない。とんだサイコ野郎に
成り下がったのか。
「アスナはどこだ」
「アスナね~いたかなそんなやつ?あー大量生産の
モデルになったやつか、いたね~死んだよ」
「お?死んだのがそんなにも悲しいか?お前の捕獲が目的だったがバカ二人とこんなにドラゴンの材料が集まったよ。礼を言わせてもらう」
「いい具合に分散してくれてな、やり易かったよ。
問題のお前は動けない、計画の邪魔になるからな~
勇者ってやつはつくずく扱い難い。だがこうして捕まえることが出来るわけだ。エルビスが来ない理由を教えようか?ベスティが呼びに向かったまま来ないのはなぜか?知りたいだろそっちの方が」
ま…さか…
「もう転送し終わったかな?重力で押さえてる間に魔方陣のマーキングをね、仲間が運び出した頃だと思う。さぁ人間界から余計な奴が入ってくる前に勝負をつけるか」
「今人間が介入してくるのはまずいからな、水面下で着々と進んでいるがな」
もう許さん…許さないぞ…!!
「おっ?殺す?殺すのか?私はお前を殺さずに置いてやったのに牙をむくか」
「助けて貰ったのはお前じゃない!!クロアだ!」
一瞬驚いた顔をしてそのあと嬉しそうな顔になりついに笑い始めた。どこまでも遠くにいても聞こえるほどに。
「色々わかってるねー君♪厄介だよー?実に厄介!!
魔王以上に頭が切れるね~作戦に支障がでたらどうすんだよねー?捕まえるべきか今すぐ殺すか」
ごたごた抜かしやがって…魔力はまんまクロアだ。
だがしかし操られてるわけではないとしたらそれは奴自信!!
「ご名答、記憶をいじった位にしか思ってなかったかな?残念!!クロアという人格は存在しませーん!!
残留思念も…驚くほどしぶとかったけど。消したと思えばひょっこり出てきて勝手に喋ろーとするんだもん。魔法を舌にかけといてよかったよーうん」
「お前が黒幕か!」
「黒幕その1ってところかな、まだまだいるよーん
私はほんの一部に過ぎない」
機嫌良さげにニコニコしている。クロアの顔で…
「何事もなく竜の国も手中に納めることも出来るわけだ!!よく考えられた世界征服のシナリオだろ?いつも勇者と魔王が喧嘩してるおかげでやり易かったけど今回はややこしいね、勇者も魔王も」
「仲良くしちゃってさー!!嫉妬しちゃうじゃん?もう一人の勇者には存分に働いてもらおうかな?」
な!!なんでその事を!!勇者が二人いる事実なんて俺以外に知っているなんて!
「驚くなよ~さて気絶するか死体となるか…判決、
この攻撃で生きてたらサンプルだ!!」
青い炎…俺は一瞬で包まれた…皮が焼けては焦げ臭い匂いが、黒い煙が上がる。
「知ってるよ~?ベルセルク化…その回復スピードもさー!!それを上回る火力だ!塵ものこらねー!!」
やれやれ…下品な奴だ…
「ブリンク!!」
上空に俺が現れる。そのまま自由落下で真下に加速しながら落ちる。
「炎を逃れるために一瞬だけ浮いただけだろ?なにも変わんないよそれ」
「周りをよく見なデク」
「ああん?」
グロリア、コクテン、ビシャーズの体が浮いている
のである。気絶しているか動けないはずが。
「精霊…シルフを使って浮かせたか、戦いの邪魔だったからか?それなら私に言えばいいのに~そういう自分は魔法でそうやって逃げたわけか、シルフを使えないからか…けどそれが…」
「どうした!?」
青白い炎、クロアの口から覗かせる俺を焼こうとする炎。でも終わりだ。知ってるか?その自慢の炎でも決して溶かすことが出来ない氷があることを…
「知らないだろ?俺が禁術をある程度使うことがあるってことを。グロリア達を浮かせたのはこの魔法に巻き込ませないためだったってことだ」
冥府の魔魂がざわめき発動する。全てが凍る最強絶対冷気を召喚する魔法…
「どうか静かに眠ってくれ…記憶は俺がクロア、
絶対にだ、救ってみせる!」
「勇者を嘗めんな!!」
火柱が迫ってくる。そこへ突っ込む俺。間に合う、
一瞬で草原は氷の大地に包まれる。
「ヘルアイスプリズム!!」
何者も動くことの許されない時の止まった空間…異世界の気象を召喚する。




