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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
思いやり物語
65/135

黒き救世主と白き光

調子狂うな~

てっきり追いかけて来ると思ってここに魔方陣をいくつも仕掛け、隠れて待ち構えていれば誰も来ないんだもん。時間を無駄にしたぜ!と言っても辺りは暗くなり、ユニの背中でいるのも辛くなったので、

火をおこしてじっとしている。


「ドラゴンならこの煙を見て来るかも知れないけどこの季節の夜は底冷えするからな、食べ物は無いけど1日位我慢できる。明日のこの時間帯には着く予定」


ユニはそこら辺の草をかじり、適当に聞き流してるようだった。


「この季節昆虫型はいないし、地中の奴は木の根があるし、空からは木の枝で守られてるから大丈夫。

それでも柵くらい作っとくか、ユニもいるしどんなモンスターがいるかわからないしな」


枝で薪をつつきながら独り言のように呟く、そのたびにパチパチと火の粉が飛び交っては消えた。


「魔方陣だけで十分か…何か来ても囲まれる前にユニに飛び乗って逃げれば問題ないか」


薪はさっき木を折って綺麗に切り分けた。朝日が昇る前に出発するつもりだし、一晩中燃やすくらいの量は確保出来ていた。


「皮の鎧だけじゃ寒いな~、マントが欲しくなってきた。ユニの上は走ってたら風が容赦なく当たるからな!街に帰ったら買おう…覚えとかなきゃ」


身震いしていると心配してかは知らないがユニが側まで寄ってきてちょこんと寄り添ってくれた。あ、

温いな~


「ありがと、そう言うつもりで言ったんじゃないんだけどな」


ユニの優しさに浸りながら今後の予定について考えてみる。勇者を見つけ協力、難しい課題だ。向こうは魔王を殺すつもりでこの世界に来ている。協力は容易ではないと考える。魔王が戦う意志がないことをどうやって信じてもらうか…


「単純ならこんなに悩まなくてもいいのにね?」


ユニは俺を見て首を傾げた。


「お前に言ってもわかんないよな」


微笑みながら焚き火の方を見る。火を見るだけで落ち着く事が出来た。サラマンダーの息づかいを感じながらしみじみとしていた。


ヒュルルルルル~ポンッ!


「おう?照明弾!?」


俺が設置した魔方陣だ。魔方陣を踏めば花火のように打ち上がって赤色の火の玉が空を赤々と照らし出す。別に照明弾に驚いた訳じゃない。ドラゴンがいつ来るかなんてわからないが覚悟はしてたし、竜の国から随分人間界に近づいたからモンスターが現れても無理もない、俺が思ったことはドラゴンじゃないと言うこと、照明弾を仕掛けたのは竜の国の反対側、人間界の方角からだった。モンスターか?俺はそう判断した。


「ドラゴンのデカイ図体が来たなら…人間化も考えられるけど…」


敵は1人でその場に身を隠してる事を想像した。複数でも来てたらその場で屈んで状況を把握していると考えた。逃げたような雰囲気ではない、照明弾が上がっているその真下、正体不明の敵がいると!


「他のトラップには引っ掛かってない、動いてないか逃げたかだ…どうか逃げといてくれ…」


そう思いながらグラムをゆっくりと抜き放った。月も出ていない闇夜で炎の光だけを反射して刃に炎が写し出されゆらゆらと揺らいでいた。


向こうはこの焚き火の煙に向かって近寄って来たんだ。火を恐れない、夜行性ではないのか?


ふっ…


炎が突如消えた!!この感じサラマンダーが消された!?

妖精使い?なんでこんなところに!


ユニは俺の後ろで既に戦闘体制に入っていた。敵の姿を見れば突き殺してやると。前から漂う不気味な風、自然に起こってない、シルフだ…シルフの風に乗って誰か来る!!


「下に魔方陣が張り巡らされているのに気づいてるな…ご丁寧に炎まで消して…」


夜目が効かない、または寒さに弱いから火をつけたんだ。相手を不安、混乱させるのが目的でついでに

どこから来るかわからなくするためとも言える。

そしたら堂々と前から来る訳がない!!


「ソナー!!」


例え浮いていようとも遥か上空にいるわけがない、上には枝で遮られているからだ。空気中を俺の魔力が進み、跳ね返ってくる。そこで絶えず動いているのが敵だ。草木は動かないからな、どれ…


「ちっ…すでに真後ろか…」


先に反応していたのはユニだった。素早く反転、敵に突進した。並みの奴ならユニの角で串刺しになっているはずだ。


カキッン!!


「並みの奴じゃなかったかどーも!!」


敵は夜でも見えるのかだがこっちの土俵でやらせてもらうぜ?敵はどうやらユニの角と鍔迫り合いしているようだ。ユニの馬力と互角とは相当ゴリラみたいな敵を想像した。


「ライトッ!」


俺の前方、光の玉が現れ辺りを照らし出す。敵とユニはその光に一瞬たじろいだ。俺は敵が怯んだその一瞬を見逃さない。


「せやー!」


俺は敵に飛び込みグラムを水平に切り込んだ。敵と俺との間には風の層がある。シルフの風を纏って鎧のように機能させるとは…しかし俺はその風すらグラムで切り裂く。グラムが風を切り裂く音、敵は驚き後ろに飛び退く。


キィン!!


確かな手応え、硬い何かを砕き切った。それはライトの光に照らされキラキラと破片は宙を舞った。

細い刀身…レイピア、俺のグラムが命中し、中心部から真っ二つに切れ、刃先はくるくると回転し、やがてサクッと綺麗に地面に突き刺さった。


「大した腕だな俺の剣をかわして、退くなんて。剣が見えてるとしたらスゲーな敵わないよ。けどお前の得物は使い物にならないぜ?これ以上殺るってんならこちらも容赦はしない。次で切る!!」


意気込み剣を構える。ユニも体制を建て直しまた戦闘体制に入った。


「逃げておられたのですか…?」


レイピアの柄を手からとりおとしふるふると震えている。だっ誰だ?フードつきマントを被ってその上顔の半分を布で覆っているから顔が見えない。前にも見たなこんな怪しい集団をどこかで…あぁ、いたな…俺を拉致換金してドラゴンとデスマッチやらせた奴等が…


「助けにを求めに来た村のダークエルフの生き残りか…」


俺は危険はないと判断し、グラムを納めた。ユニもそんな俺の様子を見て敵じゃないとわかったのか俺の後ろで凛々しく立つ。


「私ですよ…!よかった…巧く逃げておられたのですね!!」


顔の布を外す…おお!お前は!


「大胆エルフ!!」


「リア・ル・ラーナです!」


「大丈夫だ、俺の中では同一人物だ」


ユニは首を傾げるのであった。


「(また女?何人知り合いがいるの!)」


「何人でもいいだろ別に…」


「(良くない!!)」


実に小うるさいユニコーンだ。お節介なツンデレ幼なじみ位うるさい。余計なお世話だ!


























「それで何でまた魔界に舞い戻ってきたのか、理由を聞かせてくれるな?」


「あなたの捜索です、てっきり拐われたとばかり思っていましたから。救助しなくてはと」


まじ勇者だなドラゴンに拐われた勇者を救いにダークエルフのリア・ル・ラーナは単身敵陣に乗り込みドラゴンを倒し勇者を救って世界の平和を守るだってー!?そこまで言ってないか。なんて美味しい役どころを…


「他の別動隊とは出会えたか?」


「はい、少数になってしまいましたが今はミカサ様に保護されてミカサ様の御父様の領地で住まわせてもらってます」


………え?ミカサってどこかの領主の娘?想像つくけど…えー!!やだー!!なんか腹立つー!!


「他に変わりはないか?」


「ギルドが大変ですね、王国最強の勇者のメンバー間違いなしと言われたミカサ様が入ったギルドですからね、しかもそのミカサ様を破ったユウ様がいるんですから、入りたいと言う人が殺到して…」


あーそうなるな、ディロンの夢が叶ったわけだ。癪だな。帰ったら何か言ってやろう。


「ペローは?」


「もうC級の冒険者になって勢いのある冒険者の1人となってます」


「ゴファー!!」


口から胃液が出た…え?俺より上?冗談じゃない!


「ミカサ様はですね…」


いい…聞きたくない…どうせろくなことはない。これ以上人生に絶望したくない。なんて残酷な世界なんだ!帰って飯食ってゲームして風呂入って寝ると

いう当たり前な生活さえあり得ない世界なんて…

くそくらえだ!


「戦闘街、魔界に向かって仁王立ちしてます」


「仁王立ち?どこにも行かず?」


「帰りを信じて待ってるそうです」


帰って早々見る景色がアイツの顔なんて…これこそ死に至る病…絶望ではないか?


「あーやだよー帰りたくねーよ、やだやだ(涙)」


「…」













「どうして待ってるのですか?」


「私は私が信じた男を待ってるだけだす。私が思った通りの男かどうか…必ず帰ると」


「ドラゴンですよ?そんな必ず帰る保証なんてどこにも…」


自分の責任だ、一緒に助けに行きましょうなんて到底言えない。でもユウ様が生きてるのならミカサ様の力なくして救出なんてあり得ないだろう。


「あなたは、私が上級種ドラゴン数体を相手に出来るとお考えのようですからハッキリと言います。私でも…ましてや勇者であったとしてもそれは不可能です。ユウがいるのはそんな場所です。私では正直役立たずでしかないでしょう」


「そんな!あんなに恐れられた王国最強のあなたがなんで…」


風が颯爽と吹くなか顔色ひとつ変えずただ魔界を見つめるミカサ様が私にはとても悲しそうに写った。


「それでもそれをやってのける…ユウにはその力があるのだと信じてここで待っているんです。必ず帰ると」


あの時のミカサ様の言葉は頼りなく、私は反発感を覚えて街を出た。見守るなんてなんの力にもなってない。私だけでも助けるとさっきまで思ってた。


でもユウ様は帰ってきた。王国最強も匙を投げたドラゴン達の巣穴から奇跡の生還を果たしたのだ。ユウ様がすごいと痛感させられたが同時にある思いが増えた。

(なぜユウ様が不可能と言われたドラゴン達から逃げ出せるのをミカサ様はわかったのか)

誰もが思うだろう、あの強大なドラゴンから帰ることなんて不可能だと。誰の手も借りずそんなことが可能なのか?多分ミカサ様以外脱出することなんて不可能だと言うはずだ。私もユウ様の実力は知ってる。目の前で七竜神の一人を倒しはしたが、全員揃えば負けると正直なところそう思う。しかし、ミカサ様はそれでも逃げ出せるとわかっていた。どこからでてきたのかその信頼は?

その一端が少し見えた気がする。ユウ様なら誰もが出来なかった事をやり遂げる。そんな気さえする。

わかっていたのだ。ユウが必ず帰る事を。ミカサ様の凄さ、それを見た気がした。
















帰りたくなくなったよー♪化け物~が住む~街へ♪

嫌~!!ユニさん拉致して幸せに暮らすんだい!!


危険な思想が頭を過った…あと少しで犯罪者の汚名を着るところだったぜ…


「ここまで徒歩で?なかなか距離があるよな?」


「野生馬を捕まえて途中までそれで」


「ほーなるほどね」


さて、少し早いけど行くか…戦闘街へ…泣きそう!

だってさー!だってさー!ミカサがいるんだ!もーどうせならユニさんに出迎えて欲しいもんだね!!


「気が早いかもしれないが早く魔界から抜け出したいんだ。あってそうそう積もる話もあるんだがゆっくりしてられない」


「ですね、話は安全な人間界に帰ってからゆっくりとしましょうか」


二人は立ち上がり軽く鎧を叩くと俺はユニに飛び乗った。火はふっと一瞬で消えた。


「あ、大胆エルフちゃんは馬がないのか…ユニに乗ってくれ。俺は魔法でも何でも方法はいくらでもあるから」


「そっそんな!私は気にせずどーぞ!」


そんな訳にはいかないなよな、言い争いをしていると結局は二人で乗ろうってことになって話はついたんだが…


「(はぁ!?なんでダークエルフなんて乗せて走んなきゃ行けないわけ!?冗談じゃない!)」


ユニがもう反発!抗議してきやがった。腹立つ。


「俺は魔法使うからよ、大胆エルフちゃんだけ乗せてくれよ、それならいいだろ?俺より軽そうだし」


「(だからそう言う問題じゃないの!いい?誰でも乗せるような淫乱どビッチ雌馬と一緒にしないでくれる!!私はもっと高潔なの!!)」


「ふん、何をバカな事を。大胆エルフちゃんは女だぞ?レズビアンじゃないから安心しろ」


「(ドゲシャー!!だから乗せないって言ってんの!!聞こえてんの!?)」


こんの~意地悪小うるさいユニコーンめ!!大人しく大胆エルフちゃんだけでも乗せろってんだ!俺より軽そうだろ!何か文句あんのか!?


そっからまた討論して結局俺が前に乗って絶対手綱を持たせないことを条件で話はついた。


「(あー重い重い、もう疲れちゃったー。その女本当に重ーい。早く降りてくれないかなー?)」


「本当にやかましいな、あー早く帰ってユニさんに会いたーい」


「(目の前にいるじゃない?)」


「優しい方のユニ、ユニファーのユニだ。意地悪ユニサスのユニではない」


それでまたユニに火がついた。いっきにユニ火山が噴火したのである。機嫌が悪かったユニは沸点が異常に下がっていたので軽く激おこ状態に。


「(誰よユニファーって!新しいユニコーンの雌だったらぶっ殺すわよ!!)」


「何言ってんだ。俺がお世話になっている…」


「超絶美人で結婚したい女性でお前と違って優しいお姉さん系エルフだ」


「●%♀→※▲!!」


「ぎゃー!!暴れんなボケー!!」


二人揃って振り落とされそになる。いらんこと言ったかな?全部本当の事なんだけど。


「(はぁはぁ…いったいどんなお世話になってたのかしらね~?)」


「聞きたい?」


「(言わんでもいい!!)」


「夜のお世話(冗談)♪」


「(踏み潰してやる!!降りろー!!)」


ユニがどったんばったん大暴れ…とんだロデオマシーンだな。大胆エルフちゃんの胸が~俺に当たってウギャーーーー!やめてーーー平常心が~♪


「私が乗ったから機嫌が悪いんですか?」


「これは元々だから心配するな」


「(次は冗談でもこんなこと言ったらあの世まで蹴り飛ばすわよ!!)」


「へいへい、行こう」


ビュウーーーーーーン!!


羽が風を切り音、ドラゴンに乗ったからわかることだ。大きな黒い影が俺達の真上を通過、引き返してくるように聞こえた…


「ちっ!ついに見つかったか」


「ドラゴンですか!」


「割りとデカイな、ユニ!全速力だ!捕まんなよ!出来るな?」


「(誰に言ってんのよ!お荷物が少し増えた位でどうにかなると思ってんの!!)」


ユニを勢いよく走らせる。捕まるか、捕まるもんかこれから俺がすることは魔界と人間界、どちらにとっても一番重要な事なのだから。


「それでも皆が皆、わかってくれるとも思ってねーけどよ!!」


全速力で二人の男女を乗せた白きユニコーンは荒々しい崖っぷちをものともせずかけ降りる。これぞ光のように。


「うっぷ…ちょと手加減して…」


「(捕まるでしょ!!)」





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