ドラゴンスイカは甘い香り~
武器も無限ポーチも防具も取り上げられ、恐らくはあの檻のある洞窟のどこかにあるはずだ。見張り?ああ何故か女が一人、傍らに寝ていたからこれは問題ないとして、いきなり入ってきたメイドはドラゴンが人間に変身した姿の時と似ていたのでドラゴンあるいはその眷属と判断、即座に気絶させ無力化。油断した敵を倒すのは朝飯前だぜ。
部屋から出て辺りを見渡すとメイドが忙しく走り回っている。ここからは脱出は不可能か、ならば窓からしかないか…幸い鍵がなくなんなく外には出られるがなんたってねー高い。落ちたら全身複雑骨折で死んじゃいます。
「行くしかないか!捕まればまた拷問、暴行そして強姦で飽きれば殺される~!」
ああ、恐ろしや考えただけで禿げそうだ。この豪華でながーいカーテン。これは使える。これを巧いこと剥がして繋げれば少し地面に近くなる。
寝ているドラゴン(と思うけど実際は知らん)を起こさずに事を運ぶ。頼むから千切れるな…そして誰も気がつくな…念を込めながら丹念に結ぶ。俺は生きて帰るんだ。そして暖かいあの仲間が待つ酒場へ…
「よし、でけた。後はベッドの足にくくりつけて垂直降下!俺もドラゴンみたいに羽があればなー」
愚痴りながら降りていく。案の定足りない。全然足りない。どうすっかな…考える内にカーテンが我慢できずぶちギレる…
「あ~れ~(涙)」
あれよあれよと落下し疲労たっぷり、怪我を満載した体はシルフのクッションの上に静かに落ちた。初めからこうしろ、とかい言われそうだが正直どれくらいの
落下エネルギーを吸収出来るかわからなかったから。
俺はそこまで無謀な冒険したくない。
こそこそと泥棒の真似事のように影に隠れながら進んでいく。
「月は隠れている…暗いな~」
ぼやいてもしょうがない、ここは慎重に逃げるしかない…
30分ほどでいよいよ街の中心部、裏通りを進み途中トカゲ人間が現れれば端に隠れてやり過ごし、着々と進んでいる。
「ここは地下なのか、月ないはずだ」
視線の先には月明かりが降り注ぐ外の世界が見えた。
心臓のドキドキは止まらなかった。なにしろ意思を投げれば化け物に当たる魔界である。昔は酒場の外でさえ遠い外国に感じる俺はこの国が正真正銘の筋金入りの外国である。違い封建ってやつなのかな?
一応見たところ戦闘街と変わらない街並みだがしかしいくら似ているからと言ってもその中身が戦国時代と少年時代くらい似て非なるものである。
なんと言っても貞子より100万倍恐ろしいドラゴンが群れている国…今、影から見ていると道を歩いているトカゲ人間が全員性犯罪者に見える。
「いや、まあ必要以上にビクビクするのはやめよう。
「疑心暗鬼を生ず」と言う。いくらトカゲが多いからって悪者とも限らないしな?凶暴なのも数なんて少ないに決まっているのだ。せいぜい普通のトカゲ人間が5人に対して人間を見れば即殺してくるトカゲ人間が1人くらいの割合だろう」
「そう考えると気分が楽にならねー!あぁ、疑いすぎてそこにも暗鬼!ここにも暗鬼!もー暗鬼ばっかり」
何とか街の端までたどり着くも魔方陣が仕掛けてあり下手すれば死ぬ危険性もあるので抜け穴…はなく堂々と正面から出るしかない。ラッキーなことに見張りが一人だけになったので一人を絞めて門に立つ。
門は閉まっておりどう開けるかわからない。こんなの体が自由に溶けるスライムみたいな人以外は絶対に出入りできないようになっている。
でもここは俺、疲労困憊ながらもサラマンダーを呼び出し門に穴を開ける。これで城を抜け出して外にすでに出たことが追っ手にわかってしまうが、このまま捕まる訳にもいかず何とか脱出して見せた。敵陣からの大脱出である。さて、帰るか。
「お家はどっち?どこなの?皆~!!」
そりゃー迷子になるわな、うろうろ人気のない森をさ迷い続ける。体はボロボロ、装備もなし、いったい何がしたいんだーて話…言わないで、そんな余裕なかったの。逃げてからそんなことは考えるよーと思ってたとこなの。他に野生モンスターの気配もないしなんか
植物…そう腹ごしらえしたいな。腹が減ってはなんとやら疲れた体に飯をくれ。
大きな木が多くて食べれそうな草もない。暗くて木の実なんかも見えない…ひもじいな~…
ガサガサ!!
「どわー!!」
ま、魔物が!?無理!死んじゃいますって!これはあかんよ君!俺丸腰ですがな!!戦闘できませんよ?
「お、おおおお?」
「ニャー」
ひ、人だ。良かった。さ迷っている間に人間界の近くに運よく帰ってこれたのか?随分近かったな。
「あの~…どうやら道に迷ったのですが良かったら街まで送ってもらえませんか?」
「ニャー」
いいよって意味かな?ここは従わせてもらいますよ。
にしても様子が変だよなー?なんか可愛いのは可愛いんだけど…なんかな、頭が足らんと言うかなんと言うか…ちょっと変わった子なんだね。
「あの~ちょっといいですか?お名前をお聞きしてもよろしでしょうか?」
「ニャー」
「ニャーさんですか?」
「ニャー」
「そうですか…」
おかしい…絶対おかしい…頭がおかしい。ちょっと痛い子なんだね君は。ニャーしか言えないのは末期ですな。本来なら関わりたくない。
「ニャー」
「あ、ここですか?ありがとうございま…」
「ん?」
黒髪甲冑美女がなぜに目の前に?お仲間?君の冒険者仲間なの!?
「ユウ様!!探しましたぞ~!いきなり部屋から飛び出すとは…さぁ、城に戻りますよ」
「城に?」
「さぁ、お早く!まだ怪我も治ってはいませのでしょう?出歩いては危険です。帰りますよ!」
て、敵!しかも人間じゃないってことだろ!?ドラゴンなんでしょこれ!?クオリティが上がりましたなー!!人間と見分けがつかないぞ!!
「だ、誰だよお前~?なんで俺を知ってるんだよ~!
はっ!ストカー!?ストカーなのね!?警察呼びますよ!?」
「バカなことしてないで帰りますよ…」
俺のこと知っている=ドラゴン。
ドラゴン=敵。この二人は敵、ニゲロ。
「ハイヨー!!シルバー!!」
「あ!?こら!ユウ様ー!?」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!もう追っ手がここまで迫ってたか!(迷ってたから)クソッ!でもなー!俺は逃げきってやるぜ!!
ボイン!
「ムホッ…」
あ~嗅ぐわしや雌の香り…この優しく包んでくれる大きなスイカはきっと…
「前までだったら八つ裂きにしてやるところだ!」
顔を上げれば七竜神ーん♪それもジュロンさん。さぁ大変。殺されるわ!!なにがさぁ大変だ!!にげらんかい!!
「逃がさんぞ」
そりゃもうガッシリと捕まれた。ドラゴンの握力だ。
逃げられるわけない。ここはね、発想の転換。俺は逆にジュロン目掛けて突っ込んでいく!
「お、お前!!」
「クンクンクン…いい香り~♪エッチな大人の匂いがする~。ここか?ここなのか?」
「うわっ!?」
服の下からめくって侵入…セクハラやー!セクハラやでー!!ゲースゲスゲス♪どれどれもっと上の方か?おっきくて服もピッチピチやー!はぁー!!誘ってくれるの~!我慢できないぜー!
「いい加減にしろー!」
ドラゴン化…あーあさっきのほうが良かったのに…でも逃げよ!!あれは話にならん!!洒落にならんぞ!!
でも両手を離してくれたお陰で動き回れるけどな。
ニャーさん達もやってきたし、そろそろ本気で逃げ出すか~!
「ふん!!」
「わわわー!!」
あれだ、風…空気を操ってる。でもな前みたいに封じられてる訳じゃない!
「シールーフー!!」
そのまま風に乗って空高く舞い上がる。これほどの風があればそれを操り滑空できる。風を掴めば俺は空を飛べるのだ。はーはっはっ!ほれみろ!人間は翼は無くでも空を飛べるんだよ!悔しいか!?ざまーみろ!!
「ん…あれは…」
保護色の黒、闇に紛れていたがはっきりと近づくにつれ見えてくる。漆黒の竜、黒双竜コクテン・ディアブロ。大きな巨体を大きな翼をはためかせ空中で停止している。ドラゴンの姿で見るのは初めてだがあれがコクテンさんだとすぐにわかった。にしてもあの巨体、
勝てるか…ドラゴン相手に空中戦は無謀ですわ。
ぐるんと一回転!!
「うわー!?」
尻尾ではたかれ真下に落下…下には檻の扉を開けて待ち構えるテイムとビシャーズの姿が…
ドッコーンッ!
「よっしゃー!ほら見たか!?ざまーみろ!ドラゴン様にたてつくからこうなるだぞチクショウめ!」
「駄目なの…そんなこと言ったら…」
「何がだよ!急に弱気になりやがっ…て…」
無言でたたずむグロリア…タマはその場でしゃがみ、
一心不乱に毛繕いに没頭している。ぷるぷる震えるその顔には最早救いの術はなかった。
「ユウ様になにしたんだ!!檻に入るのは貴様らだ!!」
「ヒェー!(涙)」
檻の中で目を回す。怪我の体にトドメを射した形となってしまった。城に帰還後、これを聞いた女王は本当に失神して寝込んでしまったそうだ。




