蒼火の誘い
目の前に降り立ったのは神でも止められないだろう、
兵器なんて言葉では収まらない。兵器は人間が作ったものだがら。自然は凄い、ここにきて偉大さを感じることができた。壮大で荒々しく、まさしくドラゴンは
自然を体現した存在であると今ここで強く胸に響く。
思考停止せざるをえないこの状況誰だって運命と言うものがあるのなら呪いたくもなるだろう。もし、運命と言うのを神様が作ってるのならあの世に行って蹴りをいれたい、だってドラゴンがまた現れた。これは地震の後に火事が襲ってくる逃げられない逆らえない苦難を意味してるのと同じだ。
「ちょろちょろと…その左手は本物だろう?ならば用はない…恨みはないが、私は見られるのをが嫌いでな特に人間は」
今度の敵はヤバイ!脳に警鐘が鳴っている。当然だろう。今度の敵は殺気がほとばしってる。ベスティとか言うドラゴンは完全に油断していたから付け入る隙があったが、本気だ。戦う前から敗北を決定される。不様に負けてもいい、でも負けたらそれは死の予感。敗北=死に直結している。
なんでこうなった!?進んで数キロメートル歩いただけだぞ?冒険者と言われた時から覚悟はしていた。さっきだってへらへら笑える余裕があった、でもこれが…
ドラゴンってやつか…なるほど、これは勝てない…
「逃げるんだ…」
「加勢せねば!!」
「怪我人を守りながらでは勝負もないだろ?ここは逃げるんだ!正直どこまで戦えるかわからない…できるだけ遠くに逃げてくれ。別動隊だがミカサも命までとらないだろう、俺の居場所が聞きたいのだから」
ここで死ぬ気なんてない。でも逃げ延びるなんて出来ないことは一番わかる。背を向ければアウトだ、そこではい、人生終了。
「行け!」
ダークエルフ二人はその場から立ち去る。ここでの俺の役目はドラゴンの足止め又は撃退、討伐。どれも無理に感じる。
「さっきデカイ力のぶつかり合いがあったように思ったが…今は消えている。勝負はついた、一人はドラゴン、問題は戦っている相手だ。ドラゴンと殺り合えるのはドラゴン…のはずだが仲間通しでバカやってる暇はない。つまりドラゴンと同等の力を持った「生物」
がいたことになる」
魔力の変動…ドラゴンは空気中を漂う微量の魔力の小さな波を感じ取れるのか?力のぶつかり合い…すなわちデカイ魔力の集合体であるドラゴンが力を使った証拠だ。ブレスを放ったベスティのことを言ってるのだろう。
「誰かは知らんが七竜神の誰かだろ?色々状況が見えてきたな…おお!ベスティか!?ベスティと戦ったな?
お前がここに生きているところを見るとベスティの奴、殺られたのか!?ハハハハハハ♪」
なんで!なんでわかるんだ!見てた訳ではない。こいつ出会ったのは偶然、知るはずがない!
「不思議か?ドラゴンを見て驚かないから不思議な人間と解釈していたがなるほどな、ドラゴンにはさっき出会っていてそれを仕留めるほどの実力者とは…ダークエルフもいたが、たしかベスティが粛正中と聞いてたが合ってるか?」
「人間は嫌いなんだろ…」
「そうふて腐れるな、人間は弱いから嫌いだ。ドラゴンをも仕留める強い奴は大好きだ。強いことはいいことだ。ドラゴンだろうと人間だろうとそこは同じ、そうか…ベスティめ、油断しおったか…」
逃げるもんなら逃げ出したい…底知れぬ圧力にもうおかしくなりそうだ。殺気…とはまた違う存在感、スケールがまるで違う、別の生き物だ。違う次元の…
「なかなか耐えるな?その汗、冷や汗ではないぞ?ドラゴンの覇気は身が堪えるだろ?ブレスや魔法だけがドラゴンの能力、特権ではないぞ?全ては無限の広がりを持つ、ドラゴンのみ許された莫大な魔力…もう戦いは始まっているぞ」
今気づいた、存在感をより際立たせているのが何か?
ベスティの時も感じたより大きく見えたのは錯覚だと
(周りの暑さ)気温が尋常だ、おかしい。この汗の量はまずい、これは脱水症状。ドラゴンの周りから出ているあれは熱気、陽炎だ。ゆらゆら揺れて幻覚のように見えてきた。ドラゴンに意識が向かって周りが見えてなかった。俺らしくない、「ミス」をここでおかしていた。
「段々弱らしくなっていく。それがたまらない、ドラゴンは誰にも脅かされない。故に最強」
ドデカイトカゲに負けるはずないと踏んでいた俺がバカだったな~と後悔できる。追い詰められたネズミよりこの状況は酷しい。打開できる作戦なんて有りはしなかった。全ては灰塵に埋もれる。
「蒼火の終何もかもが焼け尽く超高温の領域だ。耐火性もない人間に百に一つも勝利の道はない」
あ…周りが蒼白い炎で埋め尽くされる…どこかで見たな…ジジイもうすぐ俺もあんたのとこに行きそうだぜ
やれやれだよな?あの炎吐く鳥男殴ってねーのにこのままじゃぁこの世とお別れだな…
「ウィンディーネ…」
頭に水かけて…これで少しは動けるぜ?まだ俺を焼くには早いんじゃ~ねぇの?慌てるんじゃねーぜ!
「ふん、だいぶと弱ってたと思ったが随分元気だな。これなら燃やすより殴りあいで潰すか。よっぽど
確実に即死ねるぞ」
「切り身にして焼肉だー!!」
図体がデカイだけで動きは散漫…小回りが利く地上ではこちらが有利。周りが炎だから動く範囲は決められるが敵の反応速度より素早くこちらは動ける…狙うは鱗の防御の薄い首もと!当たれば流れを持っていける
し、もしかしたらそれが致命傷で仕留めれる!!グラムならあの装甲のような鱗、問題なく切れるはずだ!
「ウィンディーネ?精霊を使役するか、ダークエルフの入れ知恵か。それより感心するはその身のこなし、
やはりただ者ではなかったか」
「感心してる場合じゃないぜ!なに余裕ぶっこいてんだ!殺すぞ!!」
「そのつもりで来い、でないとつまらん」
俺が打った会心の一撃も読まれていた。わざと攻撃を誘ったな?グラムは受け止められ膠着する。抜こうにも抜けない。流石ドラゴン、なんて握力だ。
「終わりか…ん?」
ドラゴンの手から剣筋に血が滴り落ちる。間違いなく俺の刃はこいつに届く。弾かれず当たれば勝てるのだ
だがこれでドラゴンも危機感を持ち始める。
「なるほど、ベスティも殺られるか…その訳も理解できた。腕力、剣の鋭さ、体捌き全ていい。でもな、それでは最初からあるドラゴンと人間の「差」は埋まらんぞ」
「な…!?」
投げられた、体重は決して重くはないが手首を軽く振っただけで吹っ飛ばされるほどではない。ましてやこっちは全力で押さえつけてたのに…一瞬だ。ほんの少し力を入れてこれだ…
「ぐっ!」
地面に激突したが痛い!と少し感じるだけでたいして体にダメージはない、体には。今頭では情報が処理しきれていない、とぐろ巻いている状態だ。
「剣を離すな、武器は人間の命なんだろ?奪われないように持ってなくてどうする?」
「まだまだだ…!!」
「いや、終わりだ」
「!?」
い、息が!?息が出来ない!!蒼白い炎…高温の炎…そうか
これを待ってたんだ。暑さで弱らせるだけじゃない…
周りの酸素がもうない。クラクラする…一酸化炭素中毒…これじゃぁ戦いどころの騒ぎじゃない…殺られる
間違いなく!!
「耐火性はないもんな人間」
「ウィンディーネ!」
「無駄だ、そんな少しの量の水で何ができる?この炎だ。消えやせん」
ジュ~~と音をたて、水は一瞬で気化する…でもいい、それがいい。気化した水は水蒸気になる。そして
辺りは霧に覆われた。いい目隠しになるこれも長くは続かないだろう。
「人間にしては悪くないアイディアだ…だが」
ビュッ!
「!」
「詰めが甘い」
いきなり現れた巨大なドラゴンの右手、その大きな手が俺を吹き飛ばした。
「ぐっ!…くそが…」
起き上がれない…重度の脱水症状、軽度の火傷。それに一酸化炭素中毒、気管も少しやられている。トドメに鳩尾に強烈なアタリ。それでも気絶しなかったのは日頃の鍛錬の賜物だろう。でも長くは続かず。
「遊び過ぎだ」
新手の敵が空から降りてくる。それが天使のお迎えにも見えた。実際は命を刈り取る死神であるが神々しく見えた。ドラゴンだったのはゆっくりと光に包まれ人間の姿になる。それは女神と見間違える容姿であった。次々と空の上で待機していたドラゴンが人間の女性に翼や尻尾が生えた姿になって降りてくる。それは
ベスティの人間に化ける能力と同じなんだろうと理解した。数は五人、これは百どころか万に一つも助からないぞ。
「五人集合か…ベスティだが」
「知ってる、人間にやられた。死んではいない。そこに落ちてるボロきれみたいなのがそうだ。そいつにやられた。仇は返したな」
「それくらい教えてくれなくても匂いでわかってたさ
体からベスティの血の匂いがぷんぷんした。そうか死んでなかったか」
「角をへし折られ、尻尾も切られ満足に歩けない。ボコボコにされて見るに耐えない姿だぞ?全く不様なもんだ。高貴なる七竜神の面汚しだ」
これはそろそろ覚悟した方がいいかな?ふっ…戦闘街指折りの俺が弱くなったもんだ。世間はまだまだ広いな…それを知ったが最後、死ぬなんて…
「その人間、まだ息があるな。トドメをさすんだ」
「…」
ゆっくり近づいてくる…ははっ…出来ることなら逃がしちゃくれねーかな?なんてな…これで終わりかと思ったら涙が出るぜ…出てないけど。
そしてみるみるうちに人間の姿になる。そうか七竜神
は皆女なのか…女…そうかまだ童貞だったな。記憶ないから昔は知らんけど失ってからはしてないよ。女を知らずに死ぬのか…
どんどん近づいてくる。こんな美人に殺されるなら本望とか思う奴はいるのかな?あ~出来ればもっと生きたかったな。記憶なくしてとんだ人生だな俺。
だが想像していた傷みは来なかった。それどころか冷たくなる体が急に暖かくなる。この柔らかい感覚は?
抱き寄せられてる。飴と鞭か?やめてくれそれは敵にするもんじゃないぞ?
「なんのつもりだ…」
「この人間を助ける」
「殴って弱らせ助けるか…なかなか酷なことをする…
そいつの為だ楽にしてやれ」
「私が鍛える、この人間にはドラゴンを超える資質がある」
「あったとしてだからなんだ。気でも狂ったか、ベスティの無念もある。早くしろ」
「私は貴様らと仲良くするつもりはない。人間を助ける、いちいちお前らの許可なんてとるか」
「裏切る気か?」
さっきまで喋ってた奴とは別の声だ…こいつも声に深みがある。ドスがきいてるわけじゃない。
「子を育てるのと同じように人間を育てるのに理由が必要かジュロン」
「ふん…自分にふさわしい「理想の男」にするつもりか?育てて夫にするか、人間だぞ」
「私の未来は誰かに左右されるものではない」
「クロア、お前の荷物だぞ。何か問題があれば即座に殺す。守るなら守ってみせろ」
ジュロンは次々と飛び立つ仲間の背中を見送る。女王から召集がかかったのだ。ジュロンはユウを抱いてドラゴン化する。宝以外にこれほど愛着が湧いたのは初めてだった。そのせいで他の七竜神との仲もギスギスしてしまった。でもこの名も知らぬ男を守れて自然とそんなことも気にならなくなった。
「風邪かな…たしかに「らしく」はなかったな」
大きく翼をはためかせ後に続いて空をあおぐ。
またしても主人公は拉致られる…




