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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
死地帰えりの男
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麗しき隣人

「今だ!走れ走れ走れ!」


「振り返るな!止まったら死ぬぞ!」


貧民街で人知れず戦いは始まっていた。化け物相手にマタタビで応戦しつつ、遠回りして酒場までの道を走っていた。細く汚い裏路地を蛇のようにぬって走り、この国最強の猫女から逃げていたのだ。


シュシュッ!


「つ、ついてくるぞ!?」


「振り向くな!前見て走れ!」


俺達は追われている、理由はよくわかっていない。怒らせたのは事実だがそれで恨みを持たれたのならそれは俺達も言い分はあるぞ?理不尽じゃないか…捕まれば八つ裂きにされて魚の餌にされて育った魚をあの女が食う…なんてことになればこっちとしてはたまったもんじゃないよ?女の血となり肉となるとか死んでも死にきれないね。それならオークに首を切られた方がずっといい。


「嫌だ!死にたくないよー!」


「諦めるな!生きてユニさんに会うんだ!」


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」




































気がつけば朝になっていた。しかも酒場まで帰ってきている。どうやって帰ったか記憶がない。死ぬほど走ったことだけはよく覚えているんだがな。ぺローも死んだようにすやすやと眠っている。


「おらくそ猫…起きろよ…」


「う…うう…ここは?」


「酒場みたいだな、無事帰ってきたようだ」


「ん…うーん…」


「疲れてんのにこんなに早起きするとはな…取り合えず下に降りるか…」


タッタッタッ…


ゆっくりと目を擦りながら気だるそうに階段を降りていくとそこにはどう考えてもいつもと違う風景が…店の内装が変わったとかそうじゃない…明らかに場違いな奴が紛れ込んでいる…

ぺローもさぞや心臓に負担がかかっていることでしょう…俺もポックリと行きそうだ。


「この酒場のモーニングは実に素晴らしい…今までここを知らずに生きてたなんて…損していましたね」


デデ~ン!!何故かミカサ・アオイが酒場でモーニング食い終わりカップ片手に悦に浸ってるんですけど~!?


「あら、起きたのですか?お疲れでしょう?もう少し休んではどうですか?」


ぺローも俺も思考停止…端のほうではラミアと幼いサキュバスコンビがカタカタと震えているがユニさんは全く動じずせっせと仕込みをしているようだった。そして俺達の脳は瞬間、覚醒常態となった!


「総員戦闘配置!」


円いテーブルをこかしてバリケードを作り、ぺローと俺はそこに飛び込んだ。あいにく剣は自分の部屋に忘れてしまったので丸腰…てか剣があったとして、奴には絶対に勝てないんだけどねー!


「な、何が狙いだー!」


テーブルからひょっこりと顔出しぺローが歯を剥き出して威嚇しながら問い詰めた。


「一つずつ説明すらさせてもらえないのですか?私も随分嫌われました」


「嫌われるようなことするからでしょー」


「まずはお返しものを」


俺の特等席だった席に座りながら組んでる足を俺達の方へ向ける…


ヒユッ


「え?俺のマタタビ?」


「私を惑わせるならもう少し考えて使うべきですね、マタタビ程度で我を失う私ではありませんので」


ヒユッ


「ん?」


なーんでかな?俺が投げたマタタビは沢山の唾液らしきものが付着してるのだが?端も少しかじった後が見えるのだが…


「で?これを親切に返してきた訳じゃないんだろ?そろそろ本題を言ったらどうなんだ」


「それなら昨日の夜の出来事を先にお話する必要がありますね」


ここから何故ミカサが酒場にいるのか?じょじょにその謎が解き明かされる…


「殺るなら殺れよちきしょうめ!」


俺は疲れて倒れそのまま気絶し、ぺローが俺を引きずってるところをミカサが追いついた。ミカサ自身は殺すつもりなどはさらさらなく、ただ俺に(大切なお話)があったのだが二人きりで話したかったらしく、ぺローが俺と別れる時をつけながら探ってたようだ。


「ぺローがいたなら駄目な話なのか?そもそも

それは話、なんだろうな?」


「はい、あくまでもとても重要で邪魔の入らない場所で二人きりでお話することでしたので」


「そんで?ずっとストーキングしてたと?」


「そんなところです」


マタタビを投げられた時は理解出来ませんでしたが取り合えず拾っておき…


「拾ったのね?」


「はい」


「使ってないね?」


「…」


「オイ」


「そのあとは逃げる貴方達を河まで追い詰めた時です」


俺は疲労で倒れ、ぺローは俺を庇おうと必死だったのか…


「まずは俺から殺れ!あっ!ちょっと待ってくれ!ユニさんのサイコロステーキを食うまで死んでも死にきれない!それまで待って!」


「ユニさん?」


「俺達が泊まってる酒場の店主だよ…」


にゃるほど、それでか。それで奴がこの酒場へとやって来たのか。


「モグモグモグモグ…」


「食べ終わりましたか?」


この時点でもミカサは律儀にしょうしょう勘違いしてるぺローの食事をあきれながら見届けていたのだ。あきれすぎて途中何度もため息が出てしまった。


「ゴク…」


「おかわり!」


「へー…楽しそうなことしてたんじゃないかぺロー…お前が案内したのか?」


「し、知らねぇ!でたらめ言うな!」


この焦り具合から察するに事実のようだな…後で裏手に読んでシバくか…


ぺローは覚悟を決め、レイピアを床に突き刺すと目をつぶり座禅を組んで時を待った…ミカサとしてはめんどくさいのでユニさんに頼んで手頃な薪を一つ貸してもらい、ぺローの後頭部を殴り付けて気絶させ、部屋まで運び寝かした。


「どうもぺローが迷惑かけてすみませんね~」


「しょうがなく付き合っただけです」


その後俺をなんとか運び込み、子守唄を歌いながら添い寝をしてあげたそうだ…


「色々問題発覚だね♪」


「ぺロー?お前もたいがいだぞ」


添い寝中俺がミカサの胸を鷲掴みにして放さないという事件が深夜発生し、ロリサキュバスも動員して一騒動あったのだが


「私が母親に似ているのでしょうか?」


という慈母の心で人知れず許されていたのだった。


「誠に申し訳なく思います…はい、大変遺憾に思います。はい…」


「あのときの貴方は夢の中、誰も責めたりはしませんよ」


う~敵に貸しを作るとは…


「運んでくれたのは礼を言いますがどういう風の吹き回しだミカサ・アオイ?」


「運ぶ時に貴方の体に触れ、なで回したのは問題ではありません。重要なのは貴方の宿泊場所が判明したこと、そこが重要です」


充分それも問題と思うよぼかぁーね、でもね、それより重要なことが俺の住みかとは何事かね?またトントンダッシュでもするかね?確かに君のスピードならバレずにできるね。


「この酒場、貴方のとなりの部屋が空いている

ということ。それさえわかったのなら大丈夫です。もしいたのなら少々厄介でした。大金渡して違うところに越させるか脅す必要性がなかったのですからそれに関しては運が良かったと言うことでしょうか?」


「なんのことやらさっぱりですな…」


その時大量の人が雪崩れ込んでくる…沢山の荷物を持って…


「その荷物は全て二階の部屋へ」


「え?ユニさん!?」


「しょうがないでしょ…これからはまた大事なお客さまが一人増えたということ、しかも超有名人…相手が相手だから断るにも断れなくて…ごめんなさいユウくん…」


「そう言うわけだ…隣に越してきたミカサ・アオイだ。改めてよろしくお願いいたします♪」


「う…うう…」


人生はなんて残酷だ。こんな試練を与えてくださるのだから…

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